スレイヤーズパロ
手の中で踊る炎。風を纏って空を飛ぶ気持ちよさ。自由に水を操る楽しさ。出久は小さい頃から魔法に魅せられていた。最初に教えてもらったのは淡い光を放つ魔法だった。その神秘的な光の揺らめきに心を奪われたのが最初だった。4歳になる頃には母にねだって本が読めるように文字を教えてもらった。
そして、文字が読めるようになるとあっという間に家中の本を読みつくした。その知識で簡単な魔法を使えるようになるともっと自由に魔法が使ってみたいと思い、村にある魔法協会へ足を運んだ。この村の魔法協会は王都で宮廷魔導士をやっていた人が理事を務めているらしく。
他の場所とは比べ物にならないほどの蔵書を抱えていた。出久は足しげくそこに通い、世界を、魔法を、人ならざる者のことを学んだ。
魔法を使うには混沌の言葉(カオスワーズ)を使い、力持つものに力を貸して欲しいと願い、己の魔力を対価に魔法を発動する。魔法協会で教えてくれる混沌の言葉はほんの少し。魔法はイメージ。混沌の言葉はそのイメージをより明確にするための言葉。きちんと理解していればアレンジして使うことが可能だ。そのために知識はあればあるほどいい。
出久は他の遊びなどわき目も振らず魔法協会に入り浸った。
同じ年の子供たちと遊ぶこともせず魔法に没頭する出久を魔法オタクとからかったけど、そんなことも気にならなかった。 村から少し外れた海岸で何度も魔法を試した。自分だけの魔法もいくつも生み出した。増える知識が、使える魔法が増えることが、操る魔法が思い通りに仕えることが楽しかった。
そして8歳の時。
「黄昏よりも昏きもの……」
書物を読むうちに知った。この世界の魔王の存在。文献や魔法協会では教えてくれない。自分で辿り着くしかない魔法に到達した。
血の流れより赤きもの。
時間の流れに埋もれし偉大なる汝の名において
我ここに闇に誓わん、我らが前に立ち塞がりし
全ての愚かなるものに、我と汝が力もて、等しく滅びを与えんことを
「竜破斬(ドラグ・スレイブ)!」
力ある言葉に応え、出久から伸びた赤光が目標とした小島を破壊し巨大な水飛沫が上がった。
「出た。魔王はいるんだ! なら、あの呪文も、あの魔王の力を借りた魔法もあるかもしれない! うわぁぁぁ!!」
出久はさらに魔法に没頭した。
この海岸に村人は来ない。出久はここでしか魔法を使ったことがなく、村では知識はあるのに魔法を使えない木偶の坊だとバカにされていた。
でも、そんなことはどうでもよかった。新しく魔法に触れられることが。新たな世界の真理を知るのが楽しかった。
そして10歳の時。魔王の中の魔王の存在を知った。その魔王について知られていることは多くなく、知識は虫食い状態ではあったけれど。
出久には根拠のない自信があった。
自分ならばこの魔法を唱えられると。
「あ……僕……」
目の前に広がる光景に体が震える。それは驕りであったことを叩きつけた。
美しく広く広がっていた海岸は今は大きく抉れ、生きとし生けるものを拒むように瘴気が立ち上っている。 そこに住んでいた生物は全ていなくなり、また新たな生物がそこにやってくることもない。
死の入江が誕生してしまった。
出久は怖くなり逃げた。巨大な死の入江が出来たことは翌日漁に出かけた村人が見つけ話題になったが、出久は部屋に閉じこもったまま口を噤んだ。
それから魔法と関わるのをやめた。
魔法オタクと呼ばれていた影など今はない。
ただ、平和に時を過ごす村人として平凡に暮らしていた。
あれから5年の月日が流れた。少しばかり剣を習っては見たがあまり上達しなかった。根本的に筋肉が付きにくい体は剣を扱うのに不向きだったようだ。
同じ年の子たちが、世界を見たいと村を旅立っていく中。出久は堅実に村に根を張るように過ごしていた。 あの旅人が来るまで……。
遠くで剣を交える音がする。
「こんなところで? 何で?」
薬草を採っていた出久の手が止まる。随分森の奥まできたけれど、こんな場所で戦闘なんて。出久は薬草を入れたリュックサックをしっかり閉めて音の方へと走り出した。
戦っているのは赤いマントを翻して大振りのバスターソードを振り回す金髪の冒険者と、いかにも野盗ですといった出で立ちの男数人。奥の方には倒された何人かが点々と倒れていた。
「テメェら! いい加減しつけぇな!」
「お前が俺らのお宝を奪ったんだろうが!」
「返しやがれ!」
「くっそお! 俺たちの稼ぎ根こそぎ奪いやがって! 血も涙もないのか!」
「ハッ! 悪人に人権はねぇんだよ!」
言いながらバスターソードを振り下ろすと、二人同時に吹き飛んだ。
「うわぁ、凄い」
まるで重さなど感じさせない剣捌きに一瞬見惚れた。赤いマントを翻して戦う様は、まるで本で読んだ英雄譚のヒーローのようだった。
華麗に舞う様に剣を振るう姿にしばし見惚れていると、きらりと木の上に光る影をみた。
「危ない!」
出久は咄嗟に魔力を集中させた。
「魔風(ディム・ウィン)」
冒険者を狙っていた男に空気が圧縮された塊が当たり、
「うわぁぁ!」
バランスを崩した男が木から落ちた。
「ンなとこにも居やがったのか」
冒険者は逃げようとする野盗に剣を振り下ろし戦闘は終了した。
「ぼく、魔法を……」
咄嗟の事とはいえ、五年間一度も使うことのなかった魔法。あの冒険者を助けなければと思った瞬間、躊躇いもなく呪文が口にのぼった。
それと同時にあの死の入江を作り出した
恐怖を思い出させ出久は自分の体を強く抱きしめ、その場から逃げ出した。
少し離れた場所からあの冒険者がこちらを見ていたことに気付くことはなかった。
「チッ、しつけぇやつらだったな」
汚れてしまったマントを払いながら背丈ほどの剣を背中の鞘にしまう。降ろしていたバッグを肩にかけ、自分を助け逃げて行った相手が消えた方向へ足を向ける。
「借りっぱなしは性に合わねぇ」
普段なら放っておくのに、なぜか気になって仕方がない後ろ姿を追いかけた。しばらく歩くと小さな村が見えて来た。この小ささならすぐ見つかるだろう。次の街までどのくらいかわからないがしばらく野宿が続いていた。
そろそろベッドで寝たい。
幸いすぐ宿屋は見つかった。
「いらっしゃい」
「部屋空いてるか?」
「どのくらい滞在なさいます?」
「んーあー……とりあえず三日」
「はい。銀貨10枚先払いです」
言われた通りの金額を若主人に渡せば部屋の鍵を渡された。
「この村で緑の髪のもさもさしたやつはいるか?」
「緑の髪……ああ、木偶の坊……じゃなかった。緑谷のことかな?」
「木偶の……?」
「ああ、いえ」
何でもありませんと口を濁した若主人。
「それならこの通りを真っ直ぐ行って奥の通りを右に入ったところにある薬屋の店主だと思います」
「薬屋……ついでに魔法道具(マジックアイテム)の鑑定をしてくれるところも教えてくれ」
「それもそこの薬屋でしてくれますよ」
「武器や道具屋じゃなくてか?」
「そっちでもやりますが、薬屋の店主の方が詳しいですよ。魔法オタクですからね。知識だけは山ほどあるんです」
尊敬ではなくどこか嘲りを含んだその言い回しに不快感を覚えた。
けれどその店主を庇うほどの何かを自分が持っているわけではなく。
「どうも」
礼を言うに留め、一旦部屋へと向かった。
男は爆豪勝己という冒険者だった。世界を見たい。そんな理由で家を飛び出し今は気ままな冒険者だ。路銀が心もとなくなれば盗賊をぶちのめし金を巻き上げ、宝があると聞けば探しに行きそれを手に入れた。魔法は使えず、剣の腕一本で勝ち取ってきたそれらは大きな街につくたび現金化して銀行に預けてある。
まずはベッドに座って剣の手入れをする。野宿では最低限の整備しか出来ない。部品を全部バラして汚れや血糊を拭っていく。そして入念に刃毀れがないかチェックして再び組み上げ鞘に納めた。
次にバッグを取り出して荷物を金貨と魔法道具(マジックアイテム)にわけ、金貨は皮袋に仕舞い魔法道具だけを別の袋に入れた。
「腹減った」
とりあえず、薬屋に行って店主とやらを確認して来ようと思い部屋を出た。
宿を出て村の大通りを歩きつき当りを右へ。少し細い路地の奥にその店は合った。あまり繁盛しているとは言い難いこじんまりとした店だ。
ドアを開くと澄んだドアベルが鳴り薬草の匂いが鼻に飛び込んできた。
新鮮な薬草でいい薬を作る店だ。勝己は漂う香りからそう判断した。
「いらっしゃいませ、どんな薬をお求めですか」
現れたのは自分と同じ年、いやそれ以下かもしれない少年だ。
じっとその顔を見つめる。ふっくりとした頬に雀斑、大きな零れ落ちそうな目に柔らかそうな髪。おそらく自分がみたあの後ろ姿の人物に間違いないだろう。
「あの……」
「店主ってのはお前か?」
「あ、はい。うちの両親は王都で店を出しているので」
「一人か?」
「はい、僕はこの村を離れる気がないので。冒険者の方ですよね? 出したらこの辺りの薬がお勧めです」
言いながら指さされた棚には傷薬や飲み薬などが置かれていた。
「その辺は今はいい。ここで魔法道具(マジックアイテム)の鑑定をやってくれるって聞いたんだが」
「あ、はい。できますよ。あくまで鑑定だけです。解除や封印などは魔導士協会や教会に行ってください」
「何でだ? お前魔法使えるだろ?」
勝己はスンと鼻を鳴らす。
勝己は魔法は使えないが魔力を匂いで感じ取ることができる。良くない魔法は悪臭として、強い魔力は甘い香りとして。出久の体からは爽やかで極上な香りが漂っていた。
「……冒険者でその軽装ってことは宿屋に行きましたよね?」
「ああ」
「僕のこと、そこの主人は木偶の坊って言いませんでした?」
「ああ」
「そういうことです。僕は魔法が使えないただの魔法オタクですよ。鑑定する品を見せてください」
業務用の笑顔に隠れる拒絶と嘘と恐怖の匂い。
カウンターに近づき間近に店主をみる。近くによるとより鮮明に魔力の匂いを感じた。
ぐい、と腕を引っ張ってその首筋に顔を埋め匂いを確かめる。
「な!?」
あまりに好みの匂いをさせる首筋をぺろりと舐めた。
「悪くねぇな」
「な、なんなの!? 君!」
「俺か? 俺は冒険者の爆豪勝己。テメェは?」
「緑谷出久……」
「出久……こんなところもデクって読めるんかよ」
「ほっとけよ」
ようやく年相応の言葉遣いを引っ張り出した。
「なぁ、俺と一緒に来いよ」
何となく、こいつとの旅は楽しそうだと思った。今まで誰ともつるみたいと思わなかったけれど。
こいつとなら一緒に行ってもいいと思った。
「……この店もあるし無理だよ」
出久は腕を掴む勝己の腕をそのまま。鑑定に出された品物を丁寧に鑑定した。
「これとこの宝石には守護の魔法がかかってる。このままアクセサリーなんかに加工するのがお勧め。こっちの青いのは武器に魔力を与えるから剣にエンチャントがお勧めかな。結構いいものだよ。こっちの短剣は装飾は綺麗だけど質の良くない魔法が掛かってる。解呪するまで鞘は抜かないで。後の宝石は魔力は感じるけど特に何もないよ。あと……これ……」
指さす先には古い本。
「これはちょっと僕にもよく判らない。ごめんね。もっと大きな街の鑑定士に見せてくれないかな」
「中身も見ねぇでか?」
「ちょっとね、僕が見たことない魔力だ」
怖がるような、それでいて正体を探りたいような好奇心たっぷりの顔でその本を見ていた。
これはチャンスだと思った。
「なぁ、この本の正体知りたくねぇか?」
「……え?」
「俺はこの村を離れたらもうここに戻ってくることはねぇ。それにこの本を二束三文で売り払っちまうかもしれねぇ」
「……だったらそれを僕に売ってよ」
「駄目だね」
「……何でだよ!」
「それじゃ一緒に旅をする口実がなくなっちまうだろ」
「……隠す気ないんだ」
「俺はテメェと旅ができるならそれでいい」
「僕はただの足手纏いだよ」
「いいや、テメェは使えるはずだ。魔法を」
「……」
「昼間俺を助けただろ?」
「……」
「俺は諦めが悪ぃんだ。ここを立つ間にテメェを口説き落とす」
自信たっぷりに言い切って鑑定品を回収し店を出た。
久々に広い風呂に入り、温かいベッドにありつけたっていうのに。
「チッ……」
勝己は体を起こし剣を手にとる。バスターソードの方ではなく、室内用のいつも腰に佩いているショートソードだ。
窓の外にはビリビリと伝わる殺気。これはプロの類だろう。
息を殺ししていると静かに窓が開いた。
「何モンだ?」
「……」
勝己が相手の首元に剣を当てるのと、相手が勝己の喉元にナイフを突きつけたのは同時だった。
「「……」」
互いににらみ合い、同時に剣を引いた。
「何の用事だ」
「お前が盗んだもの、返して貰いたい」
「盗んだとは、人聞き悪ぃな」
「野盗から盗んだだろう!」
「あれは盗んだんじゃねぇ。世の中に還元したんだ」
「屁理屈はいい! ただとは言わない。金貨30枚出そう」
「30……」
中々の金額だ。冒険者として生活するなら贅沢さえしなきゃ半年は暮らせる金額。
「物は何だ?」
「それを言ったら惜しくなるかもしれん。お前が心当たりのあるものを3つ置いて部屋を出ろ。そしたら金貨と交換で去る」
「それだとブツだけ持って金を払わねぇ可能性がある。金が先だ」
「……いいだろう」
ぽいと皮袋が投げられた。
「ところで、ブツに心当たりがありすぎてどれだかわからねぇ」
「野盗から盗んだのは一回じゃないのか!」
「今週2つ、一月前まで遡りゃあ5個以上潰したわ」
指折り数える勝己に相手が若干怯んだ。心なしか汗が浮いているように見える。
「一番新しい場所の……魔力が籠った品だ」
「そうか」
それなら今日鑑定したばかり。
おそらく強い魔力を持ったものから3つ選べばどれかが当たりだろう。
質の悪い魔法のかかった剣、一番強い魔法が掛かっていると言われた宝石。そして本。
「思い当たるものがあるようだな」
「……まぁな」
「金は渡した。さぁ……!」
焦るような迫るような気配。余程目的のブツが欲しいと見える。皮袋の中身を確認した。きっちり金貨30枚。偽物などではないようだ。
「おーけぃ、じゃ置いて部屋を出る。少し外に出てろ」
そう言えば男は素直にベランダに出た。
その様子に勝己は小さく舌を出し荷物を纏めてドアから出て走り出した。
「バカが何かも分からないものに金貨30枚も出すならもっと高く売れんだろ。誰がはした金で売るか!」
静かに宿屋から飛び出した。向かうのはあの雑貨屋だ。
「ハッ、何だかおもしれぇことになってきやがった! 巻き込んでやらぁ!」
気づいてすぐに追いかけてくる気配が5つ。
どれも手練れだ。
「おっと……!」
足元に刺さるナイフを避け、飛んでくる魔法を叩き落とし、町外れの道具屋へと向かう。
営業時間外。当然扉は閉まっている、けれど。
「いらっしゃいませ!」
自分で言いながらドアをバスターソードで切り裂いて道具屋の中に滑り込んだ。
「わぁぁぁぁ!? な、なに!? 何事!?」
「よぅ、いい夜だな」
「何してんのぉぉぉ!」
「旅に出る支度しろや。薬はこの辺にあるのでいいか?」
「は? え?」
戸惑う出久の返事を聞かないまま適当な革ザックに手あたり次第薬を突っ込んで放り投げる。
「あ、うわわっ」
「早くしねぇと……」
勝己はバスターソードに手をかけて。
「死ぬぞ!」
窓を割って入って来た火矢を叩き落とす。
「もぉぉ、何!? 何なの!?」
出久は割れた窓から入り込んできた相手に何とかショートソードで相手をする。
「悪くねぇ。けど、ヘタクソ」
「もう! 知るか! 僕は剣が上手くないんだよ!」
文句を言いつつも綺麗に捌き切っている。
「魔法使えや」
「……」
「じゃねぇと、二人とも死ぬぞ」
手練れは5人。こちらは2人。そして出久にもう一人。勝己にさらに二人飛びかかっていくのが見えて。
「もぉぉぉ! ほんっっと、君何なの!!」
叫んで出久は眉間に力を集中させる。
「魔風(ディム・ウィン)」
目の前の二人が突風で吹き飛ぶ。そして続けざまに。
「封気結界呪(ウィンディ・シールド)」
勝己を狙っていたナイフが風の盾で防がれる。
「ハッ、やればできんじゃねぇか」
喜びながら剣を振るう勝己を一睨みしてもう一つ。
「翔封界(レイ・ウィング)」
風の結界が傍にいた手練れを吹き飛ばし、宙に浮いた出久が突進するように勝己に向かう。
その体を抱きかかえ壊された扉から外へ飛び出した。
「おい、低いぞ」
「うるさいなっ、重いと高度が下がるんだよっ! スピード落とすわけにはいかないんだから諦めてっ!」
昼間見せた気弱な表情は今はない。
勝己を抱え飛ぶ出久は手練れたちをどんどん引き離す。あっという間に山を一つ越え、開けた森の中へ降りた。
「こ、これくらい離れたら……」
「おう、お疲れ」
「こ……のっ」
地面に降りた出久は上手く立てずくらりと視界が揺らいだ。
「おっと、あぶねぇな」
「……魔法、使っちゃった……」
「お前……」
腕の中の出久は震えていた。
使ってしまった。
魔法を。
同時に思い出される死の入江と化してしまったあの惨事を。あの入江は未だに瘴気を放ち続けて生き物の侵入を拒んでいる。
あの入江を見に行くたびに深淵に触れた恐ろしさを何度でも味わう。
怖い、怖い、怖い。
でも、それ以上に怖いのは。
あの深淵をもっと知りたいと思ってしまう自分自身だ。旅に出ればもっとたくさんの魔法やそれに関するとを知るだろう。あの未完成な呪文を完成させる知識が手に入るかもしれない。
そうなってしまったら。おそらく自分は止まれない。
調べて確かめて試して。またあの死の入江を作り出してしまうかもしれない。恐ろしいと思っていてもやめられない。自分の危うさを自分が一番判っている。
「何躊躇ってんのか知らねぇけど、ある力使わねぇのは勿体ねぇ」
「……」
「自分の為に使うのが怖ぇなら俺の為に使え」
そう言ってから勝己はふといいことを思いつく。
「そうだ! 今日からテメェは俺の子分だ! テメェの力は俺の物! だから俺の為に力を寄越せ!」
バスターソードを肩に担いで月を背負って偉そうに笑う勝己の様子に、出久は思わず笑いがこみ上げた。
「なんて偉そうなの!?」
「テメェの親分なんだから偉えだろ! 俺はすげぇ!」
ふんぞり返る姿がまるでガキ大将のようで。
「いいよ、僕の力。君が使ってよ。ただし……」
「何だ?」
「僕が暴走したら、君が止めてよ? 例え、命を奪うことになっても……」
穏やかではない出久の言葉。けれど勝己はにやりと笑って。
「ああ、いいぜ。たった今からテメェは俺のモンだ」
しゃがみ込んでいた出久を立たせて宣言した。