夜明けの海の君とピアスとある日のレイシフトで問題が起きた。レイシフトで現地に到着した直後に敵正反応。近くには現地の人々が住む村もありここでひと暴れしては迷惑がかかるのでとりあえずその場から離れるということになったがその逃走中に気が付いたらバラバラになっていた。村との距離、敵正反応と暴れても平気そうな場所までの誘導、とそれぞれが考えて走った結果だった。人理修復最中で鍛えられた脚力を生かしてカルデアのマスターこと藤丸立香は自分のサーヴァントたちも予想のつかないところまで走り抜け、気が付いたら一人で立ち尽くすんだ。立香の魔力は一般人よりはあるかな、程度の微弱なものだ。予想もつかないところまで走り抜けられたら魔力を追うこともできない。血相を変えたカルデアの総力を持ってして居場所の特定、確保に至ったのだがこんなことが度々起きては人理修復に問題が出る。
そこで本人の魔力では微弱で追えないならサーヴァントの魔力を身につけさせたら簡単に追跡させることができるだろう。ならサーヴァントの魔力を込めた装身具を持たせるのが一番手っ取り早い、とい
う結論に落ち着いた。
「あれ、ダヴィンチちゃんなにか用事ですか?」
「実はそうなんだ、リッカちゃん。君にプレゼントしたいものがあるんだ。突然だけど質問に答えてくれるかい?」
「わ、私に答えらることならなんでも」
立香はプレゼントをくれるのに質問するってことは好みを聞いてくるのだろうと好きな色や好みの味付けなんてことを脳内リストにあげていた。のだが。
「君の耳、ピアスしてるだろう?片耳に三つも。何か意味があるのかと思ってね」
好みではなくピアスの意味を聞かれるとは予想をしておらず、伺うようにダヴィンチ女史の瞳を見つめた。しかしその瞳はただ立香の返答を待つばかりで追加の説明をしてくれる様子はない。ピアスを着けてる方の耳、左耳の方を触りながら口を開いた。
「結構、恥ずかしいからあんまり言いふらしてなかったんですけど。この三つのピアスは願掛けみたいな、まあそうなったら素敵なのになー程度なやつなんですけど。見つけてほしかったんです。誰かに。平凡でありふれた私を王子様みたいな人が見つけ出してくれたら、っていう」
「これは君に会った時から予想していたが星型のピアスを三連ということは、それオリオン座なんだろう?」
立香本人が誰にも喋ってない三星の正体がバレていたことに恥ずかしさから女史から目線を外し、床をなんとなく見つめはじめる。
「そうです。よくわかりましたね、って三連の星だったらわかっちゃうか。」
ちょっと夢見がちだったかなと反省しながら口をまごまごさせたあともう一度開く。
「星座のことなんてまったくわからない私にだって見つけられる星だから。みんなが一目で見つけらる星だから。その誰かが私を見つけやすいように目印、みたいな。その程度しか意味ないんですよ。現状打破とか誓いを建てて開けたとかそんなんじゃなくて。」
オリオン座である説明をしているうちにもっと恥ずかしくなってきていじっていた耳をぎゅっとつまんだ、その瞬間高笑いが聞こえた。もちろん立香が出したものではない。あまりの声量に驚いて顔を上げると瞳をらんらんと輝かせた女史がそこにいた。
「いや失礼。君にプレゼントをしたい理由はこの間のレイシフトの件だ。君の微量な魔力では追いきれなくて四苦八苦しただろう?君を責めるつもりじゃないんだ。何も対策を講じてなかった私たちの失敗だ。そこで誰か、サーヴァントの魔力を身に着けたらバラバラになってしまっても追うことできる、という結論になってね。装身具を身に着けてもらうことにしたんだ」
女史が一息置くと、今度は眠れない夜にミルクを飲もうとして入れるとろとろのはちみつのような優しい瞳で立香を見つめ返した。
「候補はあったんだ。ブレスレット、ネックレス、チョーカー、アンクレット、指輪。でも私はピアスがいいだろうって提案したんだ。片耳に三つも着けているんならきっとそこには"願い"か"呪い"が込められているだろう、ってね。私の勘があたった。しかも最高に良い方向に、だ!魔力を込めたものを身に着けるなら"願い"や"呪い"が込めてある方が増大するからね。でも君の"願い"は誰かに"見つけてほしい"だ!これほどまでに魔力をGPSに探知させる装身具の威力を増大にさせる"願い"はないよ!決まりだ、君へのプレゼントはピアスだ。ピアス自体は私が造るから嵌める石は好きなの選んでいいよ。何がいい?」
ニッコリ笑顔になった女史へ、直接暴露したことのない想いを暴露するべきが逡巡したあと思い切って言うことにした。レイシフト中はずっと身につけなければならないであろうアクセサリー。そして誰の魔力を込めてもらうか、なんて考えたら答えは一つだけだ。大きく息を吐く。
「紫色の石、何があったかな。アメジスト?・・・アメジストがいいです。夜明けの海の色だから。もうダヴィンチちゃんにはバレてるみたいだから言いますけど以蔵さんって夜明けの海みたいじゃないですか?太陽がなければただの暗闇の海。誰か輝ける人、それこそ龍馬さんみたいな人がそばにいてこそ本来の姿でいられるんだろうなって、それってのぼり始めた太陽の輝きがなければ"夜明けの海"にはなれない、暗い海みたいだなって」
ダヴィンチ女史はうんうん、と頷きながらタブレット端末をいじっている。
「愛する心は良きかな良きかな。じゃあ魔力を込めるサーヴァントも決まったようなもんだね。君の直感はやっぱり素晴らしいね。魔術師のセンスが身についてきたのかな?グレゴリオ暦の以蔵の誕生石はなんとアメジストだ!相性の良い石だからもっと、探知力があがるよ。ま、聞く前から分かったてたから以蔵にはお伺いしたんだけどピアスって単語聞いただけで顔を真っ青にさせるもんだから困っ
たよ。」
そう言う女史は大げさに肩をくすめた。それを見た立香は思わずフフッという笑い声を漏らした。以前以蔵にその耳飾りがどうなっているか聞かれ、立香が答えたら顔を真っ青にしてそれ以来ピアスに関するものはすべてダメになったからわざわざ自分の魔力を込めてピアスをプレゼントするなんて言語道断なはずだろう。一体どうやって宥めすかしたのか。ロマンだったらもうこの話はなかったことになっていただろう。でもそこは女史のことだ。うまいことノせたのだろう。どんな言葉を使って?気になって立香は続きを瞳を見つめ返して求めた。
「彼にはこう言ったよ。"顔の横っていう目のつきやすい場所に自分の魔力を込めた耳飾り"をつけさせたら"最高の威嚇"になると思わないかい?って聞いたら了承してくれた。彼もわかりやすいから助かるよ。出来上がったら常に身につけておいてくれよ?以蔵の魔力がGPSの役割を担うから。あともし君が魔力切れを起こしたとしても一時的にピアスの魔力で土壇場は凌げるからね。まあそんな最悪な事態は避けたいが万が一ってことがある。用心することに越したことはない」
以蔵をイメージする色のピアスを以蔵の魔力を込めたピアスを着けられる喜びでニコニコと聞いていた立香がふと、大問題な点に気が付く。探知のため以蔵の魔力を込めたピアス。四六時中つけ無ければならないピアス。思わず立香が声を荒げる。
「以蔵さんの魔力を身に着ける・・・ってことは身に着けた日から他のサーヴァントにピアスのことバレバレじゃないですか!」
「でもカルデアにいる時は護衛と称してくっつき周ってるじゃないか。常に本体がいるんだからバレる時期は多少遅れるんじゃないかな」
女史の多少という言葉が慰めになるわけがなく思わず立香は両手で顔を覆う。手のひらから漏れ出すがそれは弱弱しいものだった。
「多少じゃなくて一生バレないでいてほしい」
「ま、バレないと"最高の威嚇"の意味ないじゃないか。バレるまでに心の整理つけておいた方がいい。というかレイシフトするサーヴァントには君の微力な魔力で追跡ができないときは以蔵の三つに小分けされた魔力を追うようにって説明しなきゃならないんだからあっという間にバレると思うけどね。特にナーサリーライム当たりが"素敵だわ!愛する人の想いが込められら耳飾りがマスターを守るなんておとぎ話のよう!"ってカルデア内を言って周るだろうし」
あまりにも想像が簡単すぎる光景で立香は怪訝な表情になる。彼女の素直でまっすぐなところは取り柄だが、ここは悪手にもほどがある。
「簡単に想像がついて困る・・・バニヤンだって何言うかわからないし、ネロだって愛はかくも素晴らしい!ってみんなに言って周りそうだし・・・今から覚悟しておかないと」
うなだれる立香を余所目にダヴィンチ女史は微笑む。もう少しでこの人理修復も終わるだろう。なんせ次の特異点は七つ目なのだから。しかし人理修復が終わったとしても彼女はきっと魔術協会に目を付けられるだろう。きっと彼女はこのカルデアの外に出られる日はない。そんな彼女の心の支えになれば良い、なんてことを考えながら女史は立香の前から颯爽と去る。
彼女の"夜明けの海"だと言う色を持つピアスが最高傑作でなければならない。あの手この手と尽くして良い石を見つけなければならない。
そしてそのピアスは彼女と彼の架け橋になれば良い、なんて思うのだ。