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    いとなみ二人っきりで蛍を見に行ったのは、日頃のお礼のつもりだった。
    教育実習を経て教師になり、一堂零率いる、奇面組の副担任となった。
    ぎこちなく稚拙ながらも、俺はなんとか教師を続けている。続けていられたのは、中学留年を三回も繰り返し、その分クラスメイトよりも三歳歳を重ねた、一堂零がいるおかげだった。トラブルメーカーの面が強いものの、クラスのいやな空気を一掃させてしまうほどに明るい。俺のように力みがちな教師や、自分よりベテランだけれど今ひとつやる気なく陰気な教師に、ふっと気を緩ませる言葉を一つ二つかける。居場所がなくて浮きがちな生徒や、斜に構える生徒にも、長縄跳びのお入んなさいをやるかのごとく、クラスの輪に包むのだ。お騒がせ部隊、もとい、名物集団は、もう一つの副担任と言われている所以だ。腕組や番組、色男組ほどに華がなく、うちは奇面組だもんイロモノよねと言われているが、そういうことを言う女子ほど「零くーん、アホやって」と黄色い声をあげている。

    「まさか、蛍を見ていて、ザッと雨に降られるなんて思いもしませんでした」
    「風のない蒸し暑い夜に蛍は飛ぶからな。考えようによっちゃ、雨も降りやすいだろ」
    親から車を借り、郊外に走らせて蛍を見に行った。こいつの誕生日をそれとなくリサーチして、サプライズをするつもりだったが、五月だったか六月だったか忘れたと言うものだから、蛍の飛ぶ季節までお預けになってしまった。
    「まんまと先生の術にハマってしまいましたね、私」
    いま、俺たちがいるのはラブホテルだ。風呂でも浴びないかと言って、車であることをいいことに、安宿に連れ込んだ。
    「お前がご褒美くださいよと言ったからだろ」
    「そりゃまあ………、キスをねだりましたがね」
    俺も恋人も風呂の中だ。一堂零を恋人したのはつい最近の出来事で、普段は俺の住むアパートで逢瀬を重ねている。男の子は気楽なもんだ。インスタントラーメンにコロッケでも乗っけたら喜ぶし、六歳しか離れていないから、世代の差も感じないし、話す内容も、プロ野球からクラスの込み入った話まで、面倒な方向に行かないくらいのさじ加減で話せるから有難い。その有り難さに乗っかって、気安くズルズルと身体の関係だけを重ねている。
    「お前からキスをねだるなんて、珍しいな」
    「蛍はね、夜に三回光るんですよ。夜八時と零時と、明け方近く。零時で二度目の蛍を見たあたりで、……あなた、帰ろうなんていうから」
    俺の安アパートでは、二人で風呂など入れない。一緒に風呂に入るなんて無かったことだ。
    「こうなれば明け方まで見ませんかって、バカかお前」
    「もったいないでしょ。四時くらいには明るくなるんですよ、今の時期。蚊もひっきりなしに噛むなんてこともないし、うんざりするほど暑苦しくないし。最初の蛍が出てくるまで、七時過ぎでも、懐中電灯なしで茂みの部分を歩けましたもん。せっかく夜に一緒にいるんだから、一晩いないともったいないって思いません?」
    言わんとすることはわかる。若いのだ、俺たちは。眠らなくても身体には対して堪えないし、一晩中馬鹿話にも興じられるし、川口浩探検隊の真似事だって、余裕で出来る。差し迫って心配なことも何もない、盛夏の前の一年で一番いい季節と、人生で一番いい季節だ。
    「ありがとうな、俺と過ごしてくれて」
    「それだけですか?」
    「それと、いつも俺を助けてくれて」
    湯船の中に、男が二人。ざばあっと湯を掻き分けながら、俺は一堂の腰を抱く。
    「当たってますよ」
    「当ててるんだ、わからんか」
    「わかりすぎてるから、言ってるんですよっ」
    人生で今が一番いい時期で、一番なんでもできて、欲望なんかいっぱいあって。行きたいところもたくさんあって。それを確かめて何が悪い。
    「……先生、唇……」
    俺は一堂の鎖骨を軽く噛んでいる。水泳の授業があるから、キスマークなんてつけられないけれど、この夜の証を、一堂の体に痛みとして残したかった。
    「唇がなんだって?」
    「さっきから、キスをしてくれって言ってるのに、なんでしないかな、あんたっ」
    蛍を二人で眺めていた時に、一堂は俺にそっと寄り添い、キスしませんかと言ってきた。普段は腹が減っただの、プロ野球チップスを買えだの、子供じみたことしか言わないくせに。
    「あとでな」
    そう言って、俺は一堂の腰の十センチほど下の方を、指の先で撫で回す。
    「んっ……!」
    犬だったら、しっぽの部分だ。
    「ぞわぞわ来ます。先生ったら、胸毛とか腕毛とかすごいから、……前の方の毛も凄いから、くすぐったくて変な感じ……」
    風呂の湯の熱だか、快感を得て体を火照らしているのか、俺の腕の中の一堂が熱い。俺にとって、ちゃんとした恋は一堂が初めてだ。昼間の、教師や生徒を沸かせる一堂と、蛍を子供のように真顔になって眺めては、俺に寄りかかってキスしませんかという一堂。アパートで抱いている時、俺の指や舌に震わせながらも、強がる一堂。たくさんの一堂を見ておきながらも、どの一堂にも俺は、恋人として、好きだとも愛しているとも言っていない。
    「キスよりもいいご褒美だと思わないか?」
    「あんた、サッパリわかってないなっ!」
    いらただしげに一堂は、俺の腕の中で言った。
    「わかってないって……」
    俺は、いつ好きだと言えばいいか、愛していると告げたらいいかわからない。飯を奢った、車で連れ出した、一晩中何もせずに馬鹿話をしたこともある。……わかってくれているだろう、それで。
    「セックスで気持ちよくなるのって、なんだかすぐ無くなっちゃうじゃないですかっ」
    「お前、ひょっとして気持ちよくなかったのか?」
    「そんなもん、やってたらわかるでしょうが」
    「……下手だったのか、俺」
    「逆ですっ!こっちのアタマが吹っ飛ぶまで攻めるから、腹が立ってるんですよ」
    気持ち良かったらそれでいいと思っていたのにな。違ったのか。
    「私、アホですけどね。僅かながらに理性くらいあるんですよ。それを吹っ飛ぶくらいに気持ち良くさせられたら………先生のそばにいたり、顔を見て甘い気持ちになっていたのが、すぐ無くなっちゃいそうで」
    言ったことに照れたのか、一堂は、ざばあっと、湯船の中に潜り込んだ。俺は一堂を抱きしめて、顔を湯の上に持ち上げた。
    「もっと、顔を見せろよ」
    「いやだ、なにを私一人に、あんたのこと好きだと言わせてるんですかっ」
    好きだも愛してるも、いつか言おうと思っていた。行為の前、行為の最中、それとも、後?そんなことをしたら、行為に酔ってるだけだと思っては、言いそびれていたんだ。
    「お前、俺のこと好きだって言ってないじゃないか」
    「言ってるようなもんですよ、今の!先生が笑ってたり楽しく出来るように、こっちは頑張ってるんですよ。キスして労ってくれたっていいじゃないですか」
    「ごめんな……」
    クラスでの振る舞いは、一堂の元々の気性によるものだと思っていた。
    「こう見えて、暗いところあるんですからね、私」
    一堂は苦笑いをした。俺は言われずとも唇を重ねた。
    好きだという言葉を一堂だって言っていない。儚く消える蛍の光と同じように、初夏の通り雨と同じように、言葉に出したら、そこで気持ちが落ち着いてしまうと思っているのだろうか。セックスをしたら、後でゆっくり覚めていくのを、怖がって、ずっと夏休みをはしゃぎ続ける子供の気持ちでいたかったのか。営む相手を探している蛍の乱舞を見るときの一堂は、性のことなど何もわからない子供のようだった。
    「先生に求められているとね、いやなことも、自分のことも、全部許せる気分になれちゃうんですよ」
    「そういうことを言われたら、やりづらくなってきたな」
    時間的に、蛍は三度目の乱舞をしているころなのだろうか?俺たちも営みを始めようと、ベッドの方に零を誘った。
    車を両親から借りる時、いい人がいたら紹介しろと言われたことを、俺は思いだし、恋人の体を拭いてやった。
    こまつ Link Message Mute
    2019/06/22 4:48:01

    いとなみ

    #腐向け #奇面組
    #事零
    事代先生と一堂零がいちゃついてる話
    性描写ぬるめですがあります。

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