星空で思い出すのは夜空を見上げたら、いつも過ごしている都内の空以上に無数の星が輝いていた。アイツの瞳もこんなに綺麗だ、と想いを馳せる。
たった数日会わないだけなのに、こんなにも寂しく苦しい思いをするのは自分らしくないなと思うが、中学時代のことを考えると致し方ない。
そのまま暫く星空を見上げていると、今回のロケの相棒から声がかかる。
「…ねえ陽。今、夜のこと考えてたでしょ?」
「あー……、もしかして顔に書いてあった?」
「ふふ、陽は夜のことになると途端に分かりやすくなるからね」
そう言う葵も恋人である新のこと考えているんだろうなという顔をしていた。想い人を浮かべ、心から愛おしいと思っている顔。葵もなかなかに分かりやすいと指摘しようと思ったが、自分もそんな顔をしているのかと我に帰ると、その指摘が自分に返ってきそうで言えなかった。
今回のロケは全国の特産物や穴場の観光スポットを紹介する番組で、すぐに東京へは戻れないような離れた地方に来ている。雨だった場合を考えての予備日も含め、数日で終わる予定だ。
「早く帰りてぇな…」
「…そうだね。それと、この辺りの地域は星が綺麗に見えるって有名だから、新達とも一緒に見たかったなぁ…」
そう。星空を観光に取り入れてアピールする程、ここの地域は綺麗に星が眺められる。地方ということもあり、都会のように街灯が多くないことも幸いしていた。
「それな。夜のヤツ、天体観測好きだから羨ましがってた。あと、俺と葵ちゃんが一緒にロケっていうのもな」
「俺とのロケ?」
「そう。最初はヤキモチ焼いてくれてんのかなって思ってたんだけど、よくよく聞くと『葵とロケできるなんて羨ましい』なんて言われたんだよ…さすが葵ちゃんのファンだわ…」
「あ、あはは…それは申し訳ないことをしたね…」
陽も葵もひとりの男。恋仲にある相手からのヤキモチは焼いてほしいものだ。それが向けられていると思っていたら見当違いだった時の居たたまれなさに葵は苦笑するしかないようだった。
きめ細やかな星が散りばめられているこの場所も、月明かりと並んで輝いている。そうは言っても、暗闇を二人で歩いている為、面と向かってだと話しにくいことも、するすると声に出てしまう。
「新は?今日のことでなんか言ってたりした?」
「う〜ん…そんな感じのことはなかったかな。よく知ってる陽とだから何も言ってこなかったのかも。俺が他の事務所の共演者さんと一緒にロケするってなった時は大変なんだけどね…」
「そうなの?新、俺にはめちゃくちゃ言ってきたけど?」
「え?なんかまた失礼なことしてた?!」
「ふっ、ふふ…葵ちゃん焦りすぎっ…」
自分の知らないところで、陽にまで何か言っていたと思わなかった。夜の暗さで顔色まではっきりとは分からないが、ここの場に合わない大きめな声が出てしまって恥ずかしさで顔を赤らめているだろう。
「なんてね。ちょっと盛っちゃったけど、『俺の葵をよろしくお願いします』って言われた。恋人を信用し切ってる感じでさ、さすが幼馴染兼恋人だな〜って」
まぁお小言もちょいちょい言われたけど、と付け加えたが、葵の耳には入っていないようだ。『俺の葵』と他の人に言っているなんて想像していなかったのだろう。「新ってば…」と左手で顔を覆っているのは分かった。少し可愛いと思ってしまったことは、俺だけの秘密。じゃなきゃ新に殺される。
すると、上着のポケットに入れていたスマホが小さく震えた。ちょっとごめんと葵に断りを入れてから確認すると、自身の恋人からメッセージが入っていた。新との仲良さそうなツーショット付きで、何でも深夜のお茶会を開催しているらしい。嫉妬心が芽生えるものの、自分ばかり嫉妬してしまっているようで何とも言えないモヤモヤが募ってしまう。
二人でお茶会してるらしいよ、と葵に声を掛けると、自分もメッセージが来ていたと言われた。
「新からだけど、夜からも来てたよ。…これは陽に伝えたことを夜には内緒にしていて欲しいんだけど…」
そう前置きをしてから紡いだ葵の言葉は予想外の言葉だった。
「素直にね、『陽が居なくて寂しい』って。直接陽に言えばいいのにっていつも言ってるんだけど、言えないところが夜らしいよね」
夜から実際に来たメッセージを見せながら伝えてきたそれは、寂しさは消えないものの、モヤモヤはなくなってしまった。
「え…まじか……っあー、早く帰りてえ!」
「ふふ、明日が楽しみだね」
そう小さくも大きい声で叫び見上げた空は想い人を連想させ、一層会いたい気持ちを募らせるのであった。