「オレを酔わせるとはよい度胸だな」「オレを酔わせるとはよい度胸だな。成歩堂龍ノ介」
開け放した窓から差し込む月明かりを背にして亜双義は不敵に微笑む。
酔わせるとは、とは言うけれども自分でお酒を飲んで酔ったのはお前じゃないか、亜双義。
いいお酒が手に入ったんだ、と部屋へと彼を誘ったのは確かにぼくである。下心もないわけでなかった。だが、こいつがこんなに早く酔ってしまうなんて予想外だった。亜双義はお酒が気に入ったのかどんどんおかわりをして、ご覧の有様だ。まるで、林檎のように真っ赤に熟れた亜双義がぼくに絡みついてくる。
「成歩堂」
とろりとした瞳がぼくを見据える。隠す気もない確かな欲と熱がぼくに訴えかけてくるのだ。
杯をすぐそばに置く。そのまま、壁を背にしたぼくに亜双義が手を絡める。ぼくの指と指の間に亜双義の指がするりと触れてくる。それは少し汗ばんでいた。そのままぎゅっと手を握られて顔が近づく。亜双義は目を閉じていなかった。
じぃっと。
熱を帯びたその眼差しをぼくにぶつけてきた。
「ふ、ぁ」
口内は熱くて、お酒臭い。滑った、柔らかな舌。いったいどちらがどちらのものなのか。曖昧になっていきそうなそんな心地で、頭がぼうっとしてくる。
かたん、と酒を入れた杯が倒れた音がした。
「亜双義」
お酒、全部零れちゃうと交わす接吻の途中で訴えかけてみるも「キサマは俺より酒が気になるのか」と、亜双義がちくりと文句を言う。
「そ、ういうわけじゃ……ないけど……」
ふん、どうだかと亜双義はぼくに圧し掛かってくる。なんとか彼の下から抜け出して、ぼくは倒れた杯を元に戻す。そしてそれを手の届かない遠くのほうに避難させた。
「成歩堂」
不機嫌そうに頬を膨らませて亜双義がぼくを呼ぶ。積み上げた本やらを端に避けてやり、しきっぱなしの布団の上で待ち構える亜双義を、お待たせしましたとばかりに押し倒す。
あっさりと倒れた亜双義はさきほどまでの不機嫌そうな表情とは一転して、愉快そうにくすくすと笑う。
そして自ら、赤い鉢巻を外す。布団の上に亜双義の手触りのよい黒い髪がぱらりと散らばる。亜双義が手を伸ばし、ぼくの頬を撫ぜる。
「ふふふ、真っ赤だな」
「お前に言われたくないよ」
「期待してただろ?」
「それはお前のほうじゃないか」
「やめるか?」
「それは……困る」
「あっははは」
正直ものめ、と亜双義が豪快に笑う。もう一度口付けを、と思ったのにちっともできやしない。
「亜双義、お願いだからちょっと黙ってよ」
「黙らせてみろ」
耳元でそう囁かれたかと思うとそら、とこれから抱かれるであろう男が、男前過ぎる動作で自分のシャツのボタンを外す。覗いた肌はほんのり赤く、色づいていた。
「よし、言ったな」
覚悟しろ、亜双義一真。
ぼくはそう宣言すると、彼の肌へと唇を寄せた。
おしまい