どったんばったん夫婦だからと言って、必ずしも性行為を行う義務はない。そういったセクシャルマイノリティがあったように思える。結婚相手が、愛を囁いた事よりも暴言をぶつけていた幼馴染みだからそういう事を一度でも考えると何とも言えない気持ちになって、全部見ないふりしてきた。そのツケが、新婚生活3か月目にしてやってきたのも当然といえよう。
「伏見先輩、晩御飯にスッポンとか鰻を使った料理ばかり出してあからさまでしたね」
「いつの間にか寝室にそういう道具置いてあったしね」
キングサイズのベッドの中心にお互い座り込み、顔を見合わせる。何処ぞの執事は、早く坊っちゃまの子供見たいしお世話したいという欲望8割と跡取り問題のことで面倒が起きないのかと心配2割でこのようなお節介をしたのだろう。精力のつく料理のせいなのか、それとも雰囲気に当てられてか、桃李と司の頬は赤くなっている。
「まあ、私たちも夫婦ですしね。寧ろ、これまで事に及んでなかったのが不自然だったのでこれが正常です」
「…司は、ボクが相手でいいわけ?」
「桃李くんってば、結婚するときとまったく同じこと聞いてますね。まさか私がSEXすることも考えずに、いいだなんて口にしたと思ってますか?」
「セッ…! だ、だって…司と結婚したけどこんな…えっちとか想像したことないし…」
初な小娘のように、俯いてボソボソ話す戸籍上夫となっている相手に司は鼻で笑う。完全に馬鹿にしているときのそれだ。
「桃李くんは学院卒業しても、まだまだおこちゃまですね」
「おこちゃま言うな! お前が思ってるよりもボクはこういう知識あるからな! ああ、やろうやろう! 今すぐやろうボクがリードしてやる!」
「はいはい。楽しみですねあの純粋無垢な桃李くんが、情事での主導権を握るだなんて。成長しましたねぇ」
今に見てろ!と、四つん這いで移動しながらサイドテーブルに置かれた夜伽の道具を取りに行く。そんな桃李の姿はとてもこれから性に関わるようには見えない。司はからかうように笑いながら、熱い吐息を漏らす。二人とも普段のようにじゃれあってはいるが、体はすっかり期待しているのだろう。キャンキャン子犬のように吠えていた桃李でさえ、ずっと足を閉じてもじもじしているのだから。
「えっと…用意はできたけど…」
カラフルなローションや、様々なサイズのゴムなど手に持って気まずそうに目を逸らし口ごもる。司は、ここにきて怖じ気付いたのかと察して、今夜はお開きの流れになるのか、いや自分が持っていくのかと思いながら黙って見つめる。今夜の予定がなくなるなら、久しぶりにネット対戦のゲームでもして友達と遊ぼうと計画を立て始めた。
桃李はそんな司の思考など知らず、目線を上に下に、右に左と落ち着き無さそうにするが暫くすると覚悟を決めたようなキリッとした顔で口を開いた。
「司は、上と下、どっちがいい?」
「下でいいですよ」
「本当に?いいの?言ったな?後から変更できないけど後悔しない?」
「ええ…めんどくさ…いいから口にしたんですってば。もう、このくだりも何度目ですか」
「司も男だし抵抗あるのかと思ったボクの気遣いだよ! でも本当に、いいわけ? こういうのはさ、妥協とか嫌々したら駄目だと思うから…」
「桃李くん」
熱くなった手が、緊張で震えていた桃李の手に重なる。ただそれだけなのに、艶かしい動作のように思える。司は、落ち着かせるような声と安心させるような笑みをこちらに向ける。
「ぶっちゃけ、桃李くん抱くとか、自分が幼い子に手を出した犯罪者のように思えるでしょうからまだ抱かれる側の方がいいんですよね」
「台無し!」
扉の外で盗み聞きしていた執事は、幼い子に抱かれるのも犯罪になりますよと内心補足した。夜はまだ長い。