「新書一冊読めば判るだろ」「うるせぇ若造」『あのねぇ……。いい齢した、ちゃんとした教育を受けた人が、何で、そんな陰謀論を信じてしまうんですか?』
SNSで、絡んできた男はそうリプを付けていた。
『あんな話が嘘だって、新書一冊読めば判るでしょ』
そいつは……どこかの大学の文系の学部の教員だった。
私は……そいつが「陰謀論」と呼んでるモノを信じてしまった挙句……ある団体に百万円以上の金を寄付してしまい……そして、その団体は雲隠れした。
『うるせえ、若造』
私は、そう返信をした。
『若造って、私、もう40過ぎなんですが……』
『俺からすれば若造だよ。新書一冊読めだと? お前だって新書一冊読めなくなるまで、あっと言う間だぞ』
「先生。職場のPCを私用に使ってると、また事務から何か言われますよ」
部屋に入って来た若い麻酔医がそう言った。
「あ……あぁ、すまん」
齢なので、もうスマホの字さえ良く読めない。
もちろん、あのSNSで絡んできた文系クソ野郎の言うように「新書一冊読む」のも一苦労だ。
まだ……PCの字は何とか読めているが……。
「そろそろ、手術の予定時刻ですので、準備お願いします」
そうだ……もうすぐ、私が執刀予定の手術だった。
「あ……あぁ、判った。今、行くよ」