(黄川人)
「 ったく、無茶な事するもんだ。あの鬼頭を相手に.. 」
(コーちん)「 ! 黄川人様!」
(陸)「 ….、」
「 ( この人は..? ) 」
(黄川人)「 ….。」
三人の側に歩み寄ると
当主の首のアザが、頬まで色濃く達したとき
黄川人の表情が一瞬険しくなった。
ーー…ズズ。
(黄川人)
「 ……、(だいぶ寿命を縮めてしまったか.. ) 」
(黄川人)「 背中の出血が、一番まずいな…。」
(コーちん)「 !! 黄川人様っ、お願い!! 当主様達を助けてあげて!あっしがあの時、死にかけていた時だって黄川人様なら助けてあげられる!!」
しかしそんなコーちんの願いも黄川人は首を横に振った。
(黄川人)「 分かってるだろコーちん、死にかけの傷と呪いの寿命は違う。君らの当主はもう、これが限界なんだ。他の二人もかなりの負担を身体にかけ過ぎた 」
「 本当に命をすり減らしたように生気が弱まってる 」
(コーちん)「 そんな… 」
(陸)
「 僕の…せいだ… もう少し皆と、一緒に戦えてたら…… こんなに負担をかけずに済んだんだ。お兄ちゃんの腕も… 、万里姉ちゃんの傷の痛みだって僕を守るために……… 父さんだって…!」
(陸)「 ごめ・・ん … みんな、ごめんなさい……。
うぅっ 」
(黄川人)「……。」
ポゥッ.. (回復)
(黄川人)
「 この二人は、しばらく討伐は避けたほうがいい。それと、」
(陸の方を見る)
(陸)「 …。」
(黄川人)「 キミは次期当主になる者だろ?心の準備はしといたほうがいい。でないと、前に進めなくなる 」
(陸)「 ? あの … 、」
(黄川人)「 海岸に船を置いてある、そこまで送ってあげるよ。」
「 せめてもの力に、昔の罪滅ぼしさ。」
黄川人は三人の瀕死を【※平坂戻りノ印】(※瀕死の体力を最大の状態で蘇らせる)効果と同じ効力の術を使い、全員通常通り息を吹き返した。
そして【※剛健絶大旦】(※健康値を大きく回復)効果のある術まで施した。
(亜乱・万里)「 …。うっ… 」
(黄川人)「 とりあえずこの二人の健康値は最悪から免れたから心配しなくていい。当主さまも 」
(当主)「 ぐっ…!! がはっ!! 」
(意識が戻る)
(陸)「 父さんっ!」
(黄川人)「 少しは寿命も持つようにできるだけの回復はした。けど、意識が戻れば当然呪いの激痛も神経にくるだろう 」
「 早く帰還した方がいい、コーちんも分かってるよな。」
(コーちん)「 はい.. 」
(陸)「 みんな…。 ーー… 、」
(出航)
───・・ザザ… 。
あっし達はその二日後、ようやく屋敷に帰還した。
亜乱様や万里様もその頃にはだいぶ意識もはっきりと戻り大きな怪我を除いてはお二人とも通常通り歩ける状態にまで回復できた。
だけど、当主様は ……
(当主の部屋)「 ーー …ッ!、 ..!、ッ!、……!!」
(コーちん)「 …!? 当主様っっ!」
ガチャン..ッ !!
廊下からつきあたりの奥の部屋で当主様の咳き込む声が聞こえてきた。
(障子)パンッ。
(当主)「 !!..ッッ」
(咳き込む口を抑える)
(コーちん)「 !、ひどい咳… 当主様 しっかりして… 」
──────────── …。
(コーちん)「 大丈夫。 落ち着いたみたいだね、当主様… 」
(当主)
「 ……ありがとう..コーちん… 」
体を支え、
そのまま頭を枕へゆっくり寝かせると、
前よりあまり会話をすることが出来なくなり
当主様は、静かに眠りにつくことが多くなった。
………… けれど、
この数日間の内で
(コーちん)「 …。」
あんなにがっしりと鍛えた腕も今は…
体を支える度、触れる肩や背中も日に日に痩せてきてる…
(コーちん)「 …… 当主様…。」
スッ..。
ふと、誰かが障子を静かに開けた。
(陸)「 父さん、裏でお風呂のお湯持ってきたから体を拭こう….って、もう寝ちゃってるか 」
(コーちん)「陸様 」
カチャ.. 。
(陸)「 コーちん、新しい薬ここに置いとくから父上が起きたらお願いしていい? 」
(コーちん)「 うん、大丈夫だよ 」
陸は当主様の耳元で話しかけた。
(陸)
「 父さん後でまた食事持ってくるね、お腹空いてない? 」
………………、
すると、
(当主)「 ……自分の分はいい …… お前達がしっかり食べなさい…。」
(陸)「 ……、」
父上らしい皆を気遣う返事だった。
(陸)「 うん、皆ちゃんと食べてるよ 」
(コーちん)「 陸様… 」
(陸)「 それじゃコーちん、父さんの事頼むね 」
陸様は…
(障子)
カタッ「 … ーーー。」
次期当主としての心の準備もしなきゃいけない次期であっし以外、当主様の部屋に頻繁に出入りすることを禁じられている…。
他のみんなにも病で伏せっている自分のために余計な心の負担をかけてしまうことが何より当主様にとって一番辛かったのだと思う…。
だけど、
(当主)「 、陸… 」
(陸)「 … ん? なに、」
(当主) ……。
「 ーー.. ちゃんと、朝の修練 ..欠かさずに出来ているか…?術の練習もしなきゃダメだぞ…?」
「 …………。」
(陸)「 大丈夫だよ、この間 降流玉を習得したばかりだけどちゃんとやっているよ 」
「 ほらっ、この鍛えた弓の腕だって見える? 」
(当主)「 ーー…。そうか…、」
この時の当主様の顔は元気だったあの頃みたいに穏やかで嬉しそうな表情を見せてくれた。
(当主)
「 …もう、ここへはあまり来るんじゃない…。いいな..?」
(陸)「 うん、分かってる.. それじゃあね…… 。」
(障子)
パタン…。
(陸)「 ……。」(うつむく)
「…ッ!」
(陸)「 (晴明…っ) 」
(コーちん)「 陸様… 」
(陸)
「 コーちん、どうしたの 」
(コーちん)「 陸様 あの… 当主様のこと、前に一度聞いていたんだね、一族の呪いの事も…… …。」
(陸)「 うん、ちょっと前にね。まだ皆が帰ってくる前の日、父さんと一緒に過ごした最後の夜に聞かされたんだ。……ショックだった、僕らは普通の成人くらいの年で皆 命が終わってしまうんだね..。」
「 長い歴史の中でウチは鬼を討伐する一族だって事から普通じゃないってのは分かってた。尋常じゃない体の成長の早さも、」
(陸)「 いつかはその時期が来るって……… 信じたくないのに、でもそれって、ほんとうなんだね・・。」
(コーちん)「 ……。もう、戦いたくない…? あんな思い、このウチではみんな宿命も全部受け入れて戦っている。
「 当主様は、陸様が全てを背負う前に、自分がこれからどう生きていきたいか、いつか本心から話してくれるようなことがあったら 」
...........その時は・・
(当主)
” 陸が望めば何も言わず外の世界に開放してやってくれ… ”
“ すまない、コーちん。勝手な親バカなことを言ってるってほんとは分かってる ”
(当主)
” けど.. 当主になって生きていくのは、思った以上に辛い。”
” 俺は、自分の気持ちと向き合う間もなく父親が早くに逝ってしまったから何もかもが未熟なまま、当主として皆に支えられ、ようやく今が一人前になった気がして…
(当主) ” 何が本当の当主であるべきなのかを、陸が生まれてきて初めてその答えをようやく見つけられたんだ ”
(陸)「 ーーーー… 」
(コーちん)
「 当主様は1人ひとり、皆の生き方を決して当主だからって権限で一族の宿命を強要したりはしなかった…。いつもどんな時でもあっし達の声に耳を傾けて真摯に聞く姿勢を持っていてくれたから、今いるみんな初めて自分達の宿命とそれぞれ向き合う事が出来たんだって 」
「 陸様は、今がその時なんだよ。当主様が頻繁に部屋の出入りをあんな風に禁じたのは、少しの間、陸様には自分自身の気持ちと真剣に向き合う時間を大事にして欲しかったから。1人にならなきゃ望む気持ちが見えないことだってある、」
(コーちん)「 それがどんな生き方であれ、ここにいる一族の皆は辛い運命を抱えてるけど、」
” 誰一人違わないのは、みんなひとりの人間として生まれてきた平等な命 ”
(当主)
” 自分にとって自由に望む幸せを… 戦いから離れる人生は決して悪くない、それも立派な道だ。”
” せめてまだ俺が生きてる間は… 責任や義務をまだ背負う必要が無い内に ”
” 答えを見つけてほしい ”
(陸)
「 ──── …。父さんが、…そんなことを・・・ 」
コーちんは黙って頷いた。
(コーちん)「 短命自体はそれほど重要な一大事じゃない、人はどうあがいても生と死だけは皆いつかは避けて通れない自然の理だってこと。」
「 忘れちゃいけないのは、あっし達は…他の人達より少しだけ生きる意味を深く重んじる機会を与えられた運命の上を歩いてる、けど平等に与えられた命の生死は普通の家族達と何も変わらないんだよ 」
(コーちん)「 だから、みんな自分にとって誇りを持てる生き方を常に選んでこれたの 」
(眠る当主)「 ……。」
────当主様は、
ちゃんとした答えを自分なりに持った生き方がこれからも出来るように
(コーちん)
「 今までどんな時でも陸様の側にいてくれたのはそういうことなんだよ 」
「 だから… 」
(コーちん)
「 自分の気持ちに嘘つかないでいいんだよ。」
(陸)「 コーちん………、うん…。」
「 分かってる、父さんが言いたかった事も全部 」
(陸)「 それだけみんな、取り戻すものが大きい事も、…オレは、そんな父上を見てきたから 」
「 当主になる心の準備はいつだって出来てた。」
(陸)「 自分達の宿命は受け入れても、オレは晴明を許さない。人の命を悪戯に弄んだアイツだけはいつか、皆の苦しみを絶対にこの手で… 」
「 だから早く父さんを安心させたかったんだ。」
” 大丈夫。ちゃんと、自分の生き方を見つけられたから… ”
(陸)「 コーちん、あともう少しだけ待ってて。オレ強くなるから…。父上をお願い。」
(コーちん)「 陸様、」
(陸)「 行ってくるね、討伐。絶対無事に帰って来るから。 ーーーー…、」
「 ………………。」
(コーちん)「 ……。」
少し前まで子供だった陸様が、
何だかほんのわずかな間に大人になったようなそんな背中を見た。
(再び当主の部屋に戻る)
「 ………。」
(コーちん)「 当主様…、当主様が見ていない間にずいぶん大人になったよ陸様…。」
「 さっきもね… 早く当主様を安心させてあげなきゃって 皆と一緒に討伐に出掛けて…きっと当主様、泣いて喜ぶと思う ..陸様、凄く立派になられたんだよ…… だから…っ 」
(当主)「 …… 」
(コーちん)「 当主様 お願い…皆を置いてかないで……グスッ。また一緒に…元気になってよ…っ当主様ぁっ!! ……っ!うぅっ!!」
────────────────。
コーちんの悲しむ声も…
今は遠くでしか感じとることができない
誰かが自分のために泣いてる..
もう返答する元気さえ当主は失っていた。
……そして一週間が過ぎた。
(雨)
「ザァァァァァァァーーー…。」
(コーちん)「 すごい雨。」
「 ( 陸様達、大丈夫かな… ) 」
(陸) ” 無茶はしないからコーちんは父上の側にいてあげて ”
「 ” 行ってきます ” 」
(コーちん)「 ………。」
今までこんな事、あっしが討伐部隊の付き添いから外れることなんて一度も無かった。
(眠り続ける当主)「 ーーー..。」
けど、今は正直、当主様の事が心配で…
(コーちん)
「 陸様 気を遣ってくれたのかな… 」
「 ……………。」