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    2022/07/30 21:29:55

    厄病神のラブ・コール【花承・WEB再録】3

    3章 嫉妬の泥で世界が沈む   #ジョジョ-腐向け #花承

    2015年2月1日 GoldenBlood15発行

    以下、ピクシブ再録時コメントです
    原作沿い・シリアス
    ※原作程度の流血表現があります。

    次の章に、当時の全力を込めた。

    完売から一年経ったので、再録いたします。
    一度文庫本で出し、その後A5サイズで再録発行させて頂いた
    とても大切な作品です。
    今まで書いた全ての作品の中で、一番ラストが好きな作品です。
    全五章。今回は、六章目のR18部分も掲載します。

    数年前の作品なので、つたない部分も多々ございます。

    more...
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    厄病神のラブ・コール【花承・WEB再録】33章 嫉妬の泥で世界が沈む幕間3章 嫉妬の泥で世界が沈む
     これは、天罰なのだろう。仲間と別れたことを、とやかく言う気はないけれど。
    「……花京院、傷の具合は。」
    「大丈夫です、ジョースターさん。……現在、検査の結果待ちです。」
     花京院は、昨日砂漠でまぶたを切られ、エジプト・アスワンの病院に入院していた。
     包帯を巻いているため、目は見えておらず、ジョセフの声で彼を確認できただけである。
    「花京院、私も一緒に来た。」
    「アヴドゥル!君も昨日……。」
    「そんなに深くなかった。個室の外ぐらい、歩けるさ。」
     首を切られたアヴドゥルが動く度に、点滴が動くカラカラという音がした。
     他に音はしないことから、きっとこの2人だけがまずは来たのだろう。
    「承太郎とポルナレフは後で来る。治療費は、もう話がついた。」
    「す、すみません!後日必ず……。」
    「いやー、気にせんでよい。承太郎もポルナレフも、治療費をワシが全部出しているからな。今後、手術になろうとも、体全部を機械に取っ替えようとも、心配無用じゃ!」
     そして花京院の頭の上に、温かいジョセフの右手が乗った。ぽん、ぽん、と。
     一瞬、花京院は見えない位置からの攻撃と勘違いして身をすくませたが、すぐに安心し、身を任せた。
     ……あたたかい。
    「頑張っている子は、大人が応援してあげないとのぉ。」
    「……ありがとう、ございます。」
    「なあ、アヴドゥル。」
    「ジョースターさん、一応私も貴方より年下ですよ。」
    「えぇ!?」
    「本気で驚かれると、……傷つきます。」
    「ま、まああれじゃ。ポルナレフが……24歳で?承太郎と花京院が同い年だが、学年は花京院が一つ下なんじゃよな!……なんで?9月に入学式なら……。」
    「ああ。アメリカの9月入学制なら同学年なんでしょうけど、日本は4月入学制なので、ね。」
    「ああー!そういうことじゃったか!いや、どうにもお前さん達二人を見ていると、花京院の方がたまに年上にも見えてくるからのぉ!」
    「そうでしょうか?それはジョースターさんだけですよ、きっと。ですよね、アヴドゥル。」
    「そうだな。承太郎が自分の孫だから、小さい頃からのイメージがぬぐえないのでは?」
    「む……、そうかもしれん。むかぁーしは、天使じゃったからな。」
    「フフッ。見てみたいです。」
    「まあ、どちらにせよ、我々の中で一番精神年齢が幼いのは」
    「「「ポルナレフ」」」
     3人の意見が綺麗にハモり、花京院はまぶたの痛みも、失明の恐怖も忘れて笑った。
     2人が上手く怪我のことに触れないように気を使って話題を作るため、思い切り甘えていられる。
     ……そういえば、アヴドゥルにポルナレフを助けてもらったことのお礼をしていない。
     花京院は思い出した。だが、中々言い出すタイミングがつかめずにいた。
     できれば2人きりの時に言いたかったが、潜水艦でもそうはいかなかった。
     あまり、先延ばしにすべきではないだろう。
    「あ、あの。そういえば。」
    「ん?」
    「……帰ってきてくれて、ありがとう!アヴドゥル。」
    「……突然、どうした。」
    つ、伝わっただろうか?
    「……。」
    「……い、いや、言いたくなって。」
     多分、伝わってない。だが下手に言葉を付け加えて、時計のことやブライアンのことがバレてしまうのはマズイ。
     花京院は、静かに胸ポケットを触り、懐中時計の感触を確かめた。
     時計は、承太郎が『女教皇』のスタンドを倒したことで、今は2.5人分の運命エネルギーを貯めていた。
     ……あと、1人倒せればよかったのに。
    「花京院は、いい子じゃのぉ!ほんと、旅が終わったら我が家に来んか!?」
    「え!?」
     ジョセフが突如、大胆な提案をした。
    「いいぞ、ニューヨークは!メシは美味いし、街行くお姉ちゃんはキレーだし!」
    「……ジョースターさん。あまり、奥さんに言えないような言葉は慎んで。」
    「……うおッほン、オホーン!まあ、大学からでもこっちに来る気はないか?」
    「ええ?ええっと。」
    「花京院、……あまり真面目に考えなくていい。ジョースターさんは気にいった相手がいたら、面倒を見ようとする性質でな。わたしも昔、呼ばれたことがある。」
    「あ、なるほど……。」
     アヴドゥルにフォローされて、花京院は得心した。だが、まるっきりの社交辞令と言うわけでもないらしい。
    「アヴドゥル!ワシは結構本気じゃぞ!」
    「……あまり困らせるのもどうかと。花京院の御両親のこともありますし。」
    「そ、そうです!僕、家出同然でこの旅に参加していますし!」
    「問題ない!なんなら家族ごと面倒見る!」
    「……むちゃくちゃな。ご自宅もそこまで大きくないでしょう。」
     そして、あまり聞きたくなかった、しかし確実に聞くことになるはずだった言葉が、ジョセフの口から流れた。

    「大丈夫じゃ!承太郎の婚約者の女の子も、いずれ呼ぶ予定じゃからな!」
    「……。」
     ……え?
    「ジョースターさん、わたしはその話、初耳ですが。」
     ぽかん、としてしまった花京院の代わりに、アヴドゥルが聞いた。
    「ああ、まあそうじゃろうな。本人にもまだ話しとらんが、承太郎にはいずれ婚約者をつける予定なんじゃ。……ナイショじゃぞ。」
    「まだ、彼は17歳ですが……。」
    「ああ。だが、今の様子を見ていると、どうにも子どもができそうにない。というより、女の子とくっつきそうにないからのぉ。」
    「……ええ。まあ、確かに。」
    「モノは試し。とりあえず、伝手で知り合ったいいお嬢さんがいるんじゃが、その子が同い歳だというし、承太郎が留学したら会わせ……。」
    「……。」
     …………。
     ………。
     ……。
     もう、花京院の耳にはジョセフの声は届いていなかった。
     ブライアンの言葉が、再度思い出された。インド・ベナレスで受話器越しに聞こえた、あの言葉だ。

    『承太郎は、将来は女性と結婚して、娘が生まれる運命にある。』

     ああ、本当なんだ。
     ブライアンの予知を待つまでもなく、決まっていたんだ。
     目が見えない分、声は重く花京院に響いた。いずれ来るべき運命が、今追いついた。
    「……ょういん、花京院!」
    「ハッ!」
     気づけば、アヴドゥルが自分を呼ぶ声がした。
    「どうした、顔色が悪いぞ。」
    「……いえ、別に。」
    「すまない、見舞いにしては長居し過ぎたようだ。ジョースターさん、そろそろ。」
    「わかった。すまなかったな、花京院。」
    「いえ、お見舞いありがとうございます。」
     そして、アヴドゥルは自分の個室へ、ジョセフは病院の外へ行き、ポルナレフと承太郎を連れてくる、と言って出ていった。
    「……。」
     彼等が出ていった後で、いや彼等が出ていく前からだったか……。
     ――花京院の心の中に、次第に黒い物が降り積もってきた。
     それは、泥だった。
     べちゃべちゃとして、重く、不快な雰囲気を持つ。
     べちゃ、ぼた、べちゃ、ぼたぼた、……ぼたぼたぼたぼたと頭上から降り積もり、手を伸ばしても出てこられないほどの山を作る。
     これは、――なんだ。もがいてももがいても、心の中から出られない。
    「……。」
     泥に見えるが、違う。これは、なんなんだ。苦しい、辛い、耐えられない……っ!
    「……。」
     自分で自分の顔から、血の気が引いていることがわかった。
     これではダメだ。早く治して、皆と合流して運命エネルギーを集めなければならないのに。
     心の中の泥も、自分の顔も、冷たい。
     不快で不快で気持ち悪くて仕方が無い。こんなものが、自分の心の中にあるなんて、知りたくなかった。
     これは、なんなんだ!掻いても掻いても心から出ていかない。
     それどころか、泥のように積もって積り過ぎて、心がどんどん重くなる!
    「……ッ。」
     花京院は、頭を抱えた。
     こんなものにとらわれては、いけない。
     そうだ、僕には皆を生きたまま帰国させる、皆の命を守るという役目がある。
     そのために、今まであえてみんなを危険にさらすという、最低なことをしてきたじゃあないか!ここで止めたら、全てが台無しだ!耐えろ、耐えるんだ!
     あとひとり、あとひとりでいいんだ。
     僕の目の前で、承太郎が敵を倒しさえすれば!
     その後のことなんて、どうでもいいじゃないか!いっそ皆の目の前から消えてしまってもいい!
     だから、今だけでいいんだ!耐えて、耐えて平気な顔をするんだ!

     ――この2時間後に、承太郎とポルナレフがジョセフに連れられて見舞いに来た。
    「花京院。」
    「よっ、見舞いに来たぜ。」 
     だが、花京院は
    「ってあれ?寝てんのか?」
    「ああー……、どうやらさっき、ワシが色々疲れさせちまったみたいでのぉ。」
    「なんだよそれ、ジョースターさん!せっかく美味い酒持ってきたのに!」
     未成年飲酒の是非にとやかく言うことなく、花京院は寝たフリを続けていた。
     2人には申し訳ないが、このまま出ていってほしい。
    「……。」
    「承太郎!仕方ねえから、また明日な。」
    「……。」
    (オインゴ・ボインゴ兄弟の所為で)誰も知らないことだが、実は承太郎は1人で先に病院前に来ていた。そして、花京院に会うのをずっと待っていた。
     花京院が心配で、彼を少しでも元気づけたいと、承太郎は健気に考えていた。
    「……花京院。」
    「ほら、行くぞ!」
    「……。」
     ポルナレフに呼ばれて、承太郎が連れていかれる音が、タヌキ寝入りを続ける花京院の耳に届いた。
     それと同時に

    『早く治せ』

     という優しい声も、届いていた。
     ……ああ、彼の恋人に、なりたかったなあ。

      ☆

     夜中、花京院はナースコールを使った。
    「看護婦さん、すいませんが電話を使いたいのですが。」
    「かしこまりました。車いすに乗っていただければ、廊下にある電話までお連れします。」

     ジョセフの心付けが届いているのか、看護婦は丁寧に花京院を車いすに乗せた。
     個室を出て、車いすの車輪の音と、ナースサンダルの音がペタペタと院内の廊下に響く。
    「……ああ、あと会話中はプライベートな内容なので、席をはずしてくれませんか。通話が終わったら、また呼びます。」
    「わかりました。」
     面会時間はとっくに終わり、廊下には人が少ない。ナースセンターの看護婦達も、電話の近くを通りそうにない。
     最後にブライアンと会話したのは『恋人』戦後に承太郎のタンクトップを渡した時だった。先に彼はエジプトに宿泊しているとのことで、ホテルの電話番号も受け取っていた。
     ――とぅるるるるっるっるるん。
    『Hello.』
    「ブライアン、僕だ。緊急事態になってしまった。」
    『どうした、花京院。』
    「僕が、負傷した。しばらく旅に同行できそうにない。……目を、傷つけた。」
    『……そうか。』
    「……。」
    『どのぐらいで、復帰できそうなんだ?』
     承太郎達が来る前に、真っ暗な頭で医者から結果を聞いた。
    「1週間。だが、ホリィさんの容態もある。エジプト9栄神の追撃があるとはいえ、ジョースターさん達は、もっと早くカイロに到着すると思う。」
    『……。』
    「DIOの館に突入してしまったら、その時点で懐中時計にパワーが溜まっていなくてはならないはずだ。……このままでは、1人分のパワーが足りない。……誰かが、死んでしまう!」
    『落ち着け、花京院。』
    「まず聞きたいことがある。答えられなければそれでいいが、……このあとカイロまで進む際に、誰か重傷を負うことはあるのか?アヴドゥルさんや、僕のように!」
    『……いや、いない。途中脱落者は、いない。』
    「途中脱落者、は?」
    『……途中いくつか重い怪我、また……魂を抜き取られるような事態が待っている。』
    「……!」
    『残念だが、』
    「じゃあもっと早く復帰しなければ!」
    『落ち着け。』
    「落ち着いていられるか!僕以外が傷つくなんてことは、絶対に起こしては!」
    『いいから落ち着け!』
     ブライアンが大きい声を出し、花京院はやっと自分の声が廊下中に響き渡っていたことに気がついた。
    『……花京院。今は君の目を治し、万全の状態で復帰できるように努力すべきだと、私は考える。』
    「……。」
    『結果として、懐中時計は2人分しかメモリが溜まらなかった。だが、何とかできる方法を考える。私が、君に策を授ける』。
    「……手だてが。」
    『ああ。承太郎に君の復帰後にスタンド使いを手配し、そいつを承太郎に倒させればいい。』
     病院の廊下に靴音が響く。だが、花京院はそんなものを気にしていられない。
    「スタンド使いが、そんな簡単にみつかるのか!?」
    『スタンド使いは引かれあう。この世の引力なら、なんてことはない。』
    「……いや、もういざとなったら、……僕の代わりに誰かに時計を託してはダメなのか!?」
    『ダメだ。』
    「くッ……。」
    『時計はすでに、君を選んだんだ。……花京院。』
     そして、……ブライアンが「少し聞きづらいが」と前置きして、こう言った。
    『君、目を治すことに迷いはないかね?』
    「……どういうことだ?」
    『このまま旅を続けず、日本に帰りたいと思わないかね?』
     それを聞いて、花京院は即答できなかった。
     言えない、「いいえ、そんなことはありません。」なんて。
    「(……これだけ心をすり減らしても、結局僕は幸せになれない。)」
     心の中に泥がある。これは、ぬぐい去れない事実だった。
    「……ここで僕が帰れば、5人の命は助かりますか。」
    『……いや、それはなんとも。』
    「今度会う時に教えてください。」
     そして、病院の廊下に響く靴音が、止まった。
    「僕は、嘘はつけない。もうこのまま帰りたいと思ったことが、何度あったことか。」
     ……何年も心待ちにしていた『心から通じ合える相手』が、どんどん傷ついて行く姿なんて、出来れば見たくなかった。
     そして、……『心から通じ合えて、惚れこんだ相手が誰かに取られる事実』からも、目を背けたかった。
    「本当に、……辛くて、堪らない。」
    『……わかった。』
    「……っ。」
    『君がそこまで追い詰められているというなら、事は一刻を争う。至急、そちらの病院に向かおう。』
    「ありがとう、……ございます。」
     ――そして、花京院は病院の住所と個室番号を伝え、電話を切った。手を上げて、看護婦を呼ぶ。
    「看護婦さん。個室まで、お願いします。」
     呼ぶと、すぐに看護婦は車いすのレバーを持った。そのまま静かに花京院を運んでくれる。
     目の見えない花京院には、しばらく進んで、ドアを開ける音を聞くことでようやく「ここが個室だ」としか認識できなかった。
     ……?
    「(……おかしい。)」
     看護婦が、一言も喋らない。
     彼女達はナースサンダルを履いていたはずだが、この靴音はそれじゃあない。このまま個室に入っては……!花京院は警戒し、……ハイエロファントを出して個室中に結界を張った。
     それが!スタンドの手によって掴まれる。
    「!」
    「よしな、また俺と一戦交える気か。」
     その声は、承太郎のものだった。
     ハイエロファントの結界を掴んでいたのは、スタープラチナの手だった。

      ☆

     承太郎にベッドに運ばれ、花京院は大人しく座った。

    「……面会時間も終わっていたのに、どうして。」
    「酒、ポルナレフが持って行けとやかましかったんでな。忍び込んだ。」
    「……そうか。」
     どこまで聞いていたのだろう。
    「花京院。てめー、……電話の相手は誰なんだ。」
     ――承太郎は、回りくどいことは嫌いな性質だ。単刀直入に話しに入った。
    「……前にも言ったけど、両親だよ。」
    「おかしかねえか。ジジイ達には『家出同然で旅に参加している』と話したお前が、なぜ家族に電話していやがる。」
    「……!」
     昼間にそういう話をした覚えがある。まさか、こんな風に言われるとは……。
    「おかしな所はもう一つある。お前は両親に『スタンド』の話なんかしねえだろ。家出同然の息子が旅先から超能力の話なんざしたら、狂ったと思われてもおかしくねえ。」
    「……。」
    「花京院。俺にはお前が、そんなミスを犯す程要領の悪い男だと思えねえ。」
    「……。」
    「電話の相手は、誰だ。」
    「……。」
    「俺にも言えねえのか。」
    「……ッ。」
    「花京院ッ!」
    「わかった、言う!」
     そして、花京院は語り始めた。
    「……SPW財団職員だ。」
    「ほう……?」
    「今回の目のことで、スタンド能力が欠損していないか、あと仮に、仮にだが『スタンド能力が弱まっているようなら、足手まといになる前に帰りたい』とも伝えた。」
    「……そうか。」
    「ああ。」
     多分承太郎に『帰りたい』と電話で喋ったことも聞かれている。そのことを踏まえたうえでの嘘だった。
     そして、一拍置いて承太郎はこう言った。
    「お前は、天地天命に誓って、今の言葉が嘘じゃないと言えるな。」
     花京院は、包帯を巻かれた見えない目で承太郎の方を向いた。
    「……それは、どういう。」
    「そして、ここから先も嘘をつくな。『嘘の後の嘘は、本当のことを言っていると取られやすい』という法則があるが、ンなことしてみろ。頭を吹っ飛ばしてやる。」
    「……。」
     きっと、見えない承太郎の顔は凄く怖いのではないだろうか。花京院はそう察した。
     承太郎は、花京院の手の平をとり、そこに3本の指をあてた。
    「テメーに関して、聞きたいことが3つある。まず、シンガポールで会っていた男は誰だ。」
    「……!」
    「黒いスーツで黒シャツを着た野郎だ。お前の偽物が出て、そっちに構っていたから放っておいたが、……あれが電話の相手の財団職員か。」
    「……そうだ。」
    「ベナレスで、あとアラブ首長国連邦で電話しようとしていた相手も、そいつで間違いねえか。」
    「……ああ。」
    「おかしな話だ。連中は香港から俺達が乗っていた船が沈没したことで、その後処理に追われて、シンガポール現地の職員は誰も暇がなかったって話だぜ。」
    「……!」
    「財団職員の、ハズがねえんだ。……花京院。」
     カマをかけられていた。手の平の上の承太郎の指は、1本おられ、指は2本残った。
    「次に聞きたいことがある。インド、ベナレスで俺がアヴドゥルが生きていることをお前に話した時、お前はアヴドゥルが生きていたことを知っていたのか?」
    「……根拠は。」
    「俺がお前に生きていたことを告げた時、お前は相当喜んだ。それは別にいい。だが、その前に特に沈んだ様子がねえのが、個人的にひっかかっていた。……知っていたのか?」
    「……知って、いた。」
    「なぜ、俺たちに言わなかった。……ポルナレフの野郎と俺は別として、ジジイは昔からの友人だ。真っ先に、気づかいの出来るお前なら伝えていてもおかしくねえ。」
    「……。」
    「花京院、お前……。」
    「……。」
    「『俺たちに言えない秘密があって、それに関わるからアヴドゥルが生きていることを言えなかった。』そういうことか。」
    「……違う。」
    「何が違う、言ってみろ。」
     問い詰められ、逃げ場がなくなって行く。
    「……まだ君の、僕に対する聞きたいことが残っている。それを聞いてからにするよ。」
    「……そうか。」
     そして、承太郎は手の平の上の指を1本にした。
     花京院は頭をフル回転させた。
     目が見えないことを幸いに、幾分か冷静でいられる。とてもじゃないが、今の彼の目を見て喋っていたら、怖くて全て自白していただろう。
     今の内に承太郎に上手く言って誤魔化す方法を考えなくてはいけない。……どうすれば。
    「最後に、改めて聞く。花京院。」
    「……。」
     きっと承太郎は、ここで『一体どんな秘密をもっているか』について聞いてくる。花京院は推理した。
     ……アヴドゥルの生死を、承太郎やジョセフに黙らざるを得ない秘密。これを今、でっちあげなくてはならない。たとえば……、アヴドゥルの関係者に黙っているよう言われたとか……?
     だが、承太郎の問いかけは、違っていた。

    「――何か俺に、言いてえことはねえか。」
     YES/NOの質問ではない、オープンクエスチョンが承太郎の口から出た。
    「……それは、どういう意味だい。」
    「言葉通りだ。もし、何か言いたいことがあるなら、言ってくれ。」
    「……。」
    「正直なことを言えば、……俺個人としては、お前に今ここで『俺たちに何もやましいことはない』と言って欲しい。」
     承太郎が、こんなことを言うと花京院は予想していなかった。
    「……それは、」
    「今、この旅には俺のオフクロの命がかかっている。一歩間違えれば、ジジイやアヴドゥル、ポルナレフにイギーの命もだ。……こいつらが死んだり、怪我をすることは避けたい。」
    「……。」
    「本来なら、ここでお前の望み通り、目の怪我を理由に日本に帰ってもらった方がよっぽどいい。不穏分子なら、排除するに限る。」
     まるで、シンガポールからインドに向かう列車で、花京院がアヴドゥルに言ったセリフそのものであった。
     だが、それを承太郎の心は嫌がった。
    「花京院、頼む。何か言いたいことがあるなら、言ってくれ。……お前と、……こんな形で離れたくねえ。」
    「……ッ。」
     どうしよう、こんな風に承太郎が弱弱しく攻めてくると、思わなかった。花京院は迷った。
    「俺のわがままでしかない。本来なら、命がけの決死行だ、着いてこいなんて言う方がどうかしている。……だが、花京院、お前といると、俺は本当に楽しい。」
    「……!」
    「……俺を信じて、……頼ってくれ。」
     承太郎に、全てを打ち明けてしまいたい。花京院はこの瞬間、本気でそう思った。
     仲間達が死ぬと、自分もそうなると言われ、心から恐怖したこと。
     でも助ける道があるならと思い、恐怖を乗り越え、ギリギリの心で旅に着いてきたこと。
     承太郎、僕は君が好きでしょうがないんだ。愛している。君との、友情を裏切ってごめん。
     だが、次に承太郎の口から出たのは――、

    「お前は、他の奴等と同じように、大切な仲間なんだ。」
     この言葉が、花京院の心に決定的な亀裂を作った。泥まみれの心についた傷が、泥で埋まっていく。
     見えない目は大きく開かれ、……何故か傷口にしみる。口が渇き、……時が止まったように部屋の気温は冷たくなった。

     ……知っていたよ、承太郎。

     そんな感想しか出ないほど、花京院の心は泥で埋もれ切っていた。
    「嫉妬」の泥だった。一生僕は、彼の「大切」にはなれても、「特別」にはなれない。
     ……寂しいなんて、言ってやらない。
     承太郎の相手は、既に決まっている。アメリカ在住の可愛い女の子。
     苦労もせずに結婚できて、本当におめでとう。
     最初から決まっていたのだ。愛を告げても告げなくても同じ。
     厄病神は騎士にもなれず、愛を告げることすら叶わない。
    「……。」
    「花京院?」
     僕のものになって欲しいけど、一生この願いはかなわない。予言は絶対、既に決まっている運命だ。
    「……承太郎、言いたいこと、言うよ。」
     そして、花京院は盛大にブチまけた。
    「僕はね、君にカッコ悪い所を見られたくないし、そんな所を晒すのも一切ごめんなんだ。プライドが高いってよく言われるけど、本ッ当自分でも嫌になるくらい、その通りだと思うよ!」
    「な、……。」
    「まさか不確実な根拠で、しかも最後は泣き落としで、承太郎にスパイ容疑なんかかけられると思ってなかった。ああそうだよ!日本に帰りたいのは本当だ!」
    「……。」
    「DIOを倒すためだけに、ここまで着いてきたんだ。さっさとケリをつけて、僕は帰らせてもらう。他のことなんて、どうでもいいんだ。また一人ぼっちに戻るだけだ。人気者の君と違って、何の問題もない……!」
    「……。」
    「さあ、他に何が聞きたいって言うんだい?」
     まだ個室にいるなんて、何か言いたいことがあるのか?
     承太郎の出ていった足音が聞こえず、部屋に彼がいることは分かっていた。
    「……ハイエロファント・グリーン。」
     花京院は静かに自らの分身を呼びだした。
    「いざとなったら、力づくでも出て行ってもらう。」
     出て行かせる、……というより出て行ってほしかった。
    「(……承太郎と、明日で暫くお別れだ。)」
     ブライアンが承太郎をピンチにするために、どんなスタンド使いを連れてくるのかはわからない。
     だが、それまでに確実に目を治し、……旅が終わったら
    「(その時が、……承太郎と本当にお別れの時だ。他の仲間もいる。多分、そんなに話す余裕なんてないだろう。これ以上、彼の傍にいるのが……辛い。)」
     つまり、いまこの瞬間しか、承太郎に何かを伝えられる時間はない。
    「(ハイエロファント、……君だったら、どうする?)」
     昔からの花京院の親友は、出て来たまま、何もせず、何も言おうとしない。
     承太郎も、きっと戸惑っているだろう。
     最後ぐらい、承太郎に「好き」だと言おうか。
     でもわかる。そんなことを言っても、彼を戸惑わせるだけだ。
     ……どうか、僕の想いなど、永遠に伝わらないでくれ。

     ――ハイエロファントは、両手をまっすぐ伸ばした。
     ――そして、承太郎の頬に触れた。
    「(……濡れて、いる。)」
     花京院に感覚がフィードバックし、承太郎の両ほほが濡れていることを確認した。
     そして、ただ本当に本能からの行動を、ハイエロファントは行った。
     承太郎のまぶたに、マスク越しに口付け、離れる。
     泣かないでくれ、僕のお姫様。
     これが、最初で最後のラブ・コールだ。……本当に、ごめん。

    「……もう、そろそろ戻った方がいい。エジプトは治安も悪い。なんなら、ジョースターさんに迎えに来てもらうのを薦めるよ。」
    「ああ……。」
    「……。」
    「……長居して、すまなかった。」
     そして、承太郎が個室を出ていく音がして、花京院はベッドにもぐりこんだ。
     暗闇の中で、濡れた指先の感覚を思い出して、とてつもなく後悔した。
    「……。」
     ああ、そういえば自分で理解していたじゃないか。
     承太郎がキツいことを言う時には、必ず裏があるって。
     きっと彼は、……もっと他のことを言いたかったのだろう。
     ……僕だって、そうだったように。
    「少しだけ……、寂しい、かな。」

      ☆

    「46,350エジプトポンド!!高けーっ。」

     次の日、ジョセフ達が花京院の個室を訪れ、彼等は花京院を抜かして先にカイロに向かうことになった。
    「みんな、用心して旅を続けてくれ……。」
     そう言って、花京院はメンバーと別れた。
     医者からは、包帯が取れ、サングラスで外出できるようになればカイロに向かっていいと言われ、花京院は「完全にリタイアという訳ではないのか」と、安堵した。

     それから数日間、花京院は安静を続けた。
     逐一ジョセフから電話で連絡があり、アヌビス神、バステト女神、セト神……と、倒して行ったことを伝えられた。
    「……。」
     早く治して、旅に合流し、パワーを貯めねば。
     そう思っているのに、中々目が治らない。

     承太郎と口論してから数日すると、頭も冷静になった。
     ……彼に会えたら、謝ろう。そして、できれば許してもらいたい。
     本当に言い過ぎた、きっと承太郎は心配してくれていただけだというのに。
     ……もっとも、あくまで「できれば」だ。
     許しを期待すること自体、虫が良過ぎる。
     僕が彼に、嫉妬を理由に八つ当たりしたのは事実だ。それは、もう二度と消えない。
     だけど、今大事なものは他にもある。
     ホリィさんや、ジョースターさん達。彼等を助けて、日本に帰るんだ。
     日本に帰るまでの数日間、スタンド使いをもう1人倒して、アヴドゥルやジョースターさん、あまり相手をできなかったイギーや、ポルナレフ……、そして承太郎。
     ……もう一度、自分の承太郎への想いは胸にしまって、みんなが大切であり、みんなと同じように友人として過ごせばいい。
     そうすれば、なんて幸せだろう。
     ……誤魔化しなんてしていない、本当に幸せだ。

     ☆

     数日して、ブライアンが病院を訪れた。偶然、包帯を取る日のことだった。

    「じゃあ、外しますねー……。」
    「……うっ。」
     看護師からかけることを薦められたサングラス越しに、黒のスーツと黒のシャツのブライアンが見えた。
    「……久しぶり。」
    「ああ。」
     電話で話すばかりで、本人の姿を見たのは1カ月ぶりだ。看護師は部屋を出て行った。
    「花京院、本当に……怪我してしまったんだな。」
    「ああ。だが、これで復帰できる。」
    「……。」
    「承太郎達は?今どの辺りなんだい?」
    「今現在、承太郎達はカイロに入っている。オシリス神も倒し、現在DIOの館を捜索中だ。」
     飛行機で向かえばすぐにカイロに行ける。
     この入院期間中に、刺客は一切花京院のもとに来なかった。……なら、移動中も安心だろう。すでに航空券も、SPW財団に依頼して手配済みだ。
    「では、すぐに向かわないとね。」
    「……。」
    「時計も、ほら。一回海中を移動したけど、ビニールに入れて胸ポケットに入れていたんだ。」
    「……。」
    「ブライアン?どうしたんだい?……静かだね。」
     サングラス越しに、不安そうな彼の姿が見えた。
    「……花京院。正直に話そう。スタンド使いは、見つからなかった。」
    「な……。」
     それじゃあ……、今までの苦労は……。
    「もう、承太郎がDIOの館に入る前に彼を襲うスタンド使いはいない。残り一体、ホルス神はイギーを襲う。」
    「じ、じゃあ……。」
    「空路で今ここ、アスワンからカイロまで、1時間半。すぐにたどり着いたとしても、承太郎はスタンド使いと戦うことはない。」
    「な……。」
    「早く行っても、パワーを貯められる訳じゃあない。遅かった、もう少し早く目が治っていれば……。」
    「そんな……。」
     絶望する花京院に、黒服のブライアンは言った。
    「だが、一つだけ手がある。花京院。どんなことをしても仲間の命を助ける気はあるか?」
     ――もう、花京院には後が無かった。
    「ああ……。今まで仲間をみすみす危険な目にあわせて来たんだ。」
    「……。」
    「ここで、失敗したら全てが台無しだ。本来生き残るハズの承太郎やジョースターさん、ポルナレフまで命の危険があるなんて、耐えられない。」
    「……本当だね?」
     そして、ブライアンは花京院に策を預けた。
    「……!」
     花京院は、病院を出てカイロ行きの飛行機に乗った。
     ……承太郎、彼の名前を心で呼びながら。

      ☆

    カイロにて

    「……………………」。
    「どうした?承太郎。」
    「やはり、誰か尾けてくるのか?」
     承太郎には、聞こえていた。
    「いや…、何者かが我々を…、呼んだような声がした。」
     そして、満を持して再会する。
    「イギーは敵と遭遇したようです。……………死にかけて、少年に連れられているのを手当てしたのは、SPW財団の医師です……。ぼくの目と、同じように…。」
     仲間達は、彼を温かく出迎えた。
    「花京院ンンンンーーーッ!」
    「花京院じゃあねーかッ!おいッ!!」
    「会いたかったぞ!」
    「おい、おまえッ!もう、目はいいのかッ!」
     視力が戻ったことを伝え、最後に承太郎と握手を交わす。
    「承太郎………。」
    「………。」




     DIOの館に入る前に、花京院は覚悟を決めた

        メガンテを、使いますか

                        はい

                       ▽ いいえ






    「ジョースターさん、……今日の所は一度戻って、体勢を立て直しませんか。」
     DIOの館突入前、イギーに連れられたメンバーを目の前に、花京院は提案した。
    「……なぜじゃ、花京院。」
    「もちろん、ホリィさんの体のことは承知です。だが、イギーの怪我、そして今現在の時刻は昼。」
    「……。」
    「……明日、朝一番で奇襲をかけ、早くヤツの元に辿りつけた方が、苦手な太陽のもとにDIOを引きずり出せる可能性が高い。」
    「なるほど。」
    「門の中には入らないでください。入ったら、全て終わりです。DIOに感づかれて、夜中の内に襲撃を受けてしまう。」
    「……わかった。ポルナレフ、それ以上館に近寄るな。」
     そして、ジョセフが一行をまとめ、一度ホテルに戻ることになった。

     ホテルはそれぞれ個室であり、最後の合流となった花京院は承太郎の隣の部屋を割り当てられた。
    「……あとで、そっちの部屋に行っていいかい?承太郎。」
    「………ああ。」
     花京院は、承太郎の部屋に入った。
     中から鍵を閉め、ベッドに腰掛ける承太郎と、立ったまま目を合わせる。
    「……キズはいいのか、かきょ、」
    「承太郎、一つ確認したいことがある。」
    「……?」
     承太郎の心配を遮って、花京院はこんなことを聞いた。
    「僕が目を怪我した、水をあやつる男・ンドゥールと言ったか。」
    「……ああ、そう自分で言っていたな。」
    「僕が気を失った後、あのスタンドは音に反応したそうだね。それは、スタンド独自の能力だったのかい?それとも、本体のものだったのかい?」
     盲目の男ン・ドゥール。彼の聴力は視力を補うためにかなり発達しており、『音に反応する』という現象がスタンドのものか、本体のものか今いち判別がつかなかった。
     承太郎は、花京院の問いにこう答えた。
    「……スタンド『ゲブ神』のものだったようだ。お前とポルナレフの声に反応した後、腕時計のアラーム音に反応し、攻撃した。」
    「……。」
    「仮に、本体の耳で聞いた音を頼りに攻撃していたのなら(いや、そういう面も多々あったと思うが)、アラーム音より先に、俺達の声に向かって、口や喉を切りに来ていたはずだ。」
    「……。」
    「それが、何の、」
    「ありがとう、承太郎。これで僕のやるべきことは――決まった。」
     そしてッ!!いつの間にか、部屋にはハイエロファントの結界が!
    「!?」
    「承太郎、……すまないが。」
     ――君と、終に仲直りすることは叶わなかったが、仲良くなれて、よかった。

    「こうやって、何の疑いもなく部屋に入れてくれて、感謝する。」

    「か、花京院……!?」
    「気づかなかっただろう?ハイエロファントの気配を消して、部屋に入ると同時に張り巡らせた。」
    「……チッ!」
     承太郎を両腕の上から拘束し、スタープラチナも出させず、
    「一瞬で終わる。怖ければ、目をつぶっていればいい。」
    「な、何を……ッ!」

      ☆

    『スタンド使いなら、君もそうじゃないか。』
     ブライアンは、アスワンの病院で、花京院にこう言った。
    『……?言っていることの意味が、わからないんだが。』
    『つまりは花京院、君が承太郎を、DIOの館に入る前に、攻撃すればいい。』
    『……!?なッ、そんなこと!』
    『私のスタンドの例外だ。純然たる運命エネルギーを集めるためには、確かに①スタンドの遭遇と、②倒した瞬間の記録、この2つが必要だ。……だが私は言った。』
    『……ッ!』
    『万が一の場合は、『承太郎が襲われさえすればよい』(25ページ)、とね。……君が、彼を襲い、』
    『やめろ、』
    『時計の蓋を開け、矢の形をした時計の針で、承太郎を刺すんだ!そうすれば仲間全員が助かる!』
    『嫌だ!そんなことできない!』
     思わず、病院個室に大声が響き渡った。……そして、花京院が呟く。
    『……嘘だろう。』
    『だが、これ以上方法はない。他のメンバーに頼むか?だが、こんな突拍子もない話、信じる方がどうかしている。針で承太郎を刺せば、……運命エネルギーがすぐに溜まる。』
    『……。』
    『私も力になりたいが、……残念ながら戦闘のできるスタンドじゃない。スタンド能力『ラブ・コール』では、承太郎を襲うことができない。運命を操作する、これしかできないからだ。』
    『……。』
    『花京院、私がさっき言ったのはそういう意味だ。『どんなことをしても仲間の命を助ける気はあるか?』たとえ承太郎への想いを自ら断ちきり、彼を自分で傷つけるようなことになっても、』
    『……。』
     もし、花京院が突如豹変して承太郎を襲ったら、……承太郎はどう思うだろう。
     聡明な彼のことだ、……花京院はDIOに寝返ったのだと、そう判断する。
     喧嘩の仲直りもできないまま、……二度と、友人にすら戻れない。
    『それでも、……仲間の命を助けるつもりはあるかい?』
    『……ちょっと、待ってくれ。訳が、わからない。』
     ――昨日まで、承太郎と仲直りするための方法を考えていたというのに。
    『要するに、僕が承太郎をスタンドで襲い、時計の針で彼を刺すことに成功すれば、仲間の命は助かる。だが、僕が承太郎を傷つけることを拒めば、……誰かが死ぬ。』
    『ああ、もしかしたら花京院、キミかも知れないし、』
    『……。』
    『仲良くなれたポルナレフ、頼りがいのあるジョセフ、ポルナレフを何も言わず守ってくれたアヴドゥル、君の代わりに仲間に尽くしてくれたイギー、……このうち誰か、1人が死ぬ。』
    『……。』
    『もちろん、承太郎もそのおそれがある。』
     花京院は、思わずふらつき、病院個室のベッドに腰を置いた。
    『そ、……それじゃあ。』

     承太郎に奇襲を仕掛ければ、全員の命が助かる。
     だが、花京院は承太郎を裏切りDIO側についたと、確実に誤解される。
     二度と友として出会うことなど、叶わないだろう。
     仲間達は全員生きて帰れる。……アヴドゥルも、ジョセフもポルナレフも、イギーも……。

     承太郎に奇襲を仕掛けることなく、DIOの館に突入すれば、彼のために戦うことが出来る。
     仲直りまでの時間も得られる。……この前の喧嘩も、許してもらえるかもしれない。
     そしてもし、もし生き残れれば、長く承太郎と人生を過ごすことが出来るだろう。
     だが、必ず誰か3人が死ぬ。ポルナレフ、アヴドゥル、ジョセフ、イギー……!
     ……ずっとスタンド使いの仲間が欲しかった、その仲間を!自分の選択一つで殺せというのか!?

     ――承太郎への想いを取るか、仲間の命を取るか

    『……。』
    『花京院、この2択だ。選んでくれ。』
    『そんな……。』
    『この2つしかない。戦うんだ、花京院。……選んでくれ。』
    『仲間の命か、……承太郎への友情か……。』
    『後者をとれば、……君自身も死ぬおそれがある。』
    『……僕は。』
    『……承太郎が死んだ方が、いいかい?誰かのものに、……なってしまうよりも。』

      ☆

     ――もし、彼が誰かのものになってしまうくらいなら、今ここで。
     そんなことを考えながら、花京院はカイロのホテル個室で、ハイエロファントを動かしていた。
     終わった。花京院はボロボロの姿でホテルの窓から外に出た。
    「……。」
     自分自身が生きることを諦めたくなかった、誰かに承太郎を取られたくなかった。
     その結果が、これだ。DIOとの戦いで死ぬ運命にあったのは3人。

     ――なら、すでに1人再起不能になったなら、死ぬ運命は2人になる。

     ハイエロファントでカイロ市内を飛び回り、花京院は人を探していた。
     ――いた。ビルの屋上、手すりにもたれかかっている。
    「ブライアン。」
     ……結構ホテルの近くにいたな、予想と違う。
    「花京院……。承太郎とは、」
     花京院は、パサッ、とブライアンに布を投げて渡した。……濡れて、液体がしたたり落ちている。
    「承太郎の、帽子だ。戦闘中に、はぎとってきた。」
    「……。」
    「だが僕は、この有り様だ。これで、懐中時計の目盛は動くはずだな?」
     花京院は、胸ポケットから懐中時計を取りだした。
    「……おかしいと、思ったんだ。君の言う通りに、行動したよ。針を承太郎の、喉に突き刺した。」
     パワーは、貯まっていなかった。針は一周せず、5/6で止まっている。
    「……どういうことか、説明してくれなくても構わない。カイロの飛行機内で、僕は考えていた。お前を信じるべきか、どうか。」
    「……。」
    「そもそも、時計の針を戦闘終了時に敵に向けていることが必要だ、と説明されたが、この時点で矛盾がある。」
    「……。」
    「スタンドバトルでは、スタンドと本体がバラバラに動いていることなんて日常茶飯事だ。なのに、そのどちらに針を向けても良い、なんて条件が緩すぎる。」
    「……。」
    「お前の渡したメモには、全てのスタンド使いのスタンド能力が記載されていた。だが、肝心のンドゥールのスタンド『ゲブ神』。あれが音に反応すると、一切書かれていなかった。」
    「……。」
    「書いてあるはずが無いんだ。僕が目を怪我する運命が、変わってしまうからね。」
    「……。」
     花京院は、アスワンの空港で一度冷静になった。そして、この男の最大の矛盾を導き出した。
    「……僕がお前のことをおかしいと思ったのは、実はシンガポールでのファーストコンタクトの時だった。こう、言ったよな?」

    『インドで、私を信頼することを決めたら、私の電話に連絡をくれ(第一章より)。』

    「君の世界の通信事情はよく知らないが、ここは1988年だ。テレビは調子が悪ければ殴って直すし、電話は固定電話が主流だ。『私の自宅の電話』や、ホテルの電話番号ならともかく、まるで個人で一つ電話を常に携帯しているかのような物言いに、おかしいと感じたんだ。」
     花京院は、ブライアンの頭を両手で挟んだ。
    「もしかしたら。そう思って頭の中で考えをまとめると、辻褄があった。多分お前は、『何十年後かの未来で、僕達がどうなるかを知って、ここに来た人物』なんだろう?」
    「クッ……。」
     ブライアンの喉から、声が漏れた。
     花京院はなおも、追撃した。
    「お前は元々スタンドを持っていない。だから、名前をつけるなんてことも知らなかった。今この懐中時計が自動的に動いているのは、『お前が、機械を中から操作する』スタンドを、」
     おそろしい仮定を、導き出す。
    「誰かから奪った」                 「フッ」
    「んじゃあ」       「フッフッフフ」
    「ないか?」           「フヘハハハハ、ッハハハハハハハッハハッハッハハ!」
    花京院が喋る最中から、ブライアンが笑いだした。
    「アアアーーーーーーーーーーーーーーッハッハッハッハハハハハ、ハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッ、ハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッ、ハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハッハハッハッハハハハハハ、ハハハッハハッハッハハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハ、ハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハハハハッハハッハッハハハハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハッ、ハ、ハッ、ハッ、ハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハハハハハハハハッハハッハッハハ……。」
     そして、答え合わせが始まった。

    「よくわかったじゃあないか!ワタシが、2011年の未来からきたと!そうだ、理解も及ばないだろうから説明してやろう!」
    「……。」
    「この世界は、一巡したからできた世界なんだ!未来から、世界の運命を観測してワタシはここに来た!DIO様を死なせず、2011年の世界にお連れするためにイィィィ!」
    「……。」
     ブライアンの説明は、こうだった。
     2011年にDIOの親友である、プッチ神父という男がいる。
     彼は『天国へ行く方法』、すなわち世界を加速させ、一巡することで、最初から世界をやり直させる方法を実行した。
     それを止めようとしたのが、未来の承太郎と彼の娘・徐倫、その仲間達。だが、……彼等はプッチ神父のスタンド『メイド・イン・ヘブン』に敗れ去り、死に行く中でスタンドのDISCを抜き取られた。
     仲間のDISCのうち、アナスイのスタンド『ダイバー・ダウン』のDISCを頭に差し込んで、1987年に降り立ったのがブライアン。
     花京院にインド・ベナレスで渡す前に懐中時計を殴っておき、実は近くから承太郎が敵を倒すタイミングに合わせ、針を操作していた。
     些細なことだが、シンガポールでジョセフが念聴をした際に、DIOが画面に現れてテレビは爆発した。花京院はこれを「DIOのスタンドが、かなりの遠距離捜査が可能なため」と推理したが、事実は違う。
     ブライアンが事前にテレビを殴り、DIOの映像を放映した後で爆発させただけである。
     彼自身に、『運命を予知し、修正する能力』なんてものはなかった。 
     すでに未来の承太郎の記憶のDISCの内容も確認している。だから、ブライアンは旅がどうなるか細かいことまで知っていた。……花京院の想いも。
     ――そして、
    「DIO様の命で、お前と承太郎が最後に殺し合いをするように仕向けたッ!いいシナリオだっただろ?我ながらよく考えたものだ。仲間の命を人質に、しかもピンチになるのを知っていて見過ごしたという罪悪感があれば、お前は雁字搦めで選択肢はなくなる!」
    「……。」
    「苦労せずして、承太郎の体はこんなに傷ついた。これで、DIO様の勝利も近くなる!以前の1988年では承太郎は万全の状態でDIO様に勝負を挑んだが、この出血量!もう、DIO様の勝利は確定したようなものだ!」
    「……。」
    「『覚悟こそ幸福』ッ!これで、誰も恐怖なんて必要の無い世界が完成したのだ!DIO様は、さぞこの世界を見たかったことだろう!……なのに、あんな若造に、」
    「陶酔しかかっている所、申し訳ないが話はそれで終わりかい?」
     花京院がブライアンの頭を挟んでいる両掌から、ハイエロファントの手を発現させ、この指でとんとんと頭をたたく。
     ……スタンドで生み出され、頭に埋め込まれたDISCは、スタンドではないと抜き取れない。そう思ったからだ。
    「……。」
     ブライアンの頭から、『ダイバー・ダウン』のDISCが出た。時間旅行に耐えきれなかったのか、ハイエロファントの手の上で、サラサラと崩れ落ちて行った。
    「……。」
     スタンド主の心が、DISCに残っていた。
    「……。」
     愛する人を、守りたかった、と。
     こんな汚い人間だったが、この思いだけは本当だった、とも。
    「……。」
     まるで、自分のことのようだと花京院は感じた。
    「……許さん。」
     そのまま、両手で思い切りブライアンの頭を掴む!

    「ヒィッ!」
     ハイエロファントの手で掴んだまま、スタンド体が伸びる100M頭上まで高く高く登り、
    「やめろッ!こんな、恐い!嘘だ!こんなはずは……。」
     もう、断末魔も聞こえない高さになった。ハイエロファントの両手は、パワーを貯める。
     花京院は、静かに唱え、解き放つ。
    「エメラルド……スプラッシュ。」
     ――承太郎の、濡れた帽子が、暫くして落ちて来て、花京院の足元に転がった。
     そして花京院は、膝をついた。
     ……少しだけ、ブライアンが嘘をついていないと思いたかった。
     自分が今まで、スタンドの襲撃があることを知りながら、みすみす仲間を危険にさらしていた、本当の厄病神だったと、……真実に直面したくなかった。
    「承太郎……、みんな、……ごめん。」

     もし自分が、ブライアンを信じて、このままDIOの屋敷に入っていたら――。
     そして、アヴドゥルやイギーが死んで、残り1人が死ぬ運命にあると理解したら。
     彼等が死んだのは、自分の努力が足りなかったためと判断した僕は、どうするだろう。

     きっと自己犠牲の方法を選んで、僕はDIOと刺し違える覚悟で彼の能力を探っていた。

      ☆

     全ての、星屑十字軍の運命が分岐していった元凶を倒した。
     花京院は、だがホテルには戻らない。戻れない。サングラスを投げ捨て、向かう場所は別にある。
    「……。」
     承太郎の心を、信頼と絆を裏切ったからだ。
     彼は夜の町の空を、スタンドと共に駆けて行った。
     心を裏切った以上、命で返さなければ見せる顔が無い。
     カイロの一角にある、ある豪邸の屋根に花京院は降り立った。
     承太郎、せめてもの償いだ。これから、君に僕の出来ることで愛をささげよう。
     窓から様子をうかがおうとすると、

     ――おびえなくていい、入れ。

     室内から声がした。

     ……罠の可能性も考慮し、花京院は慎重に窓を開けた。
    「……。」
    「どうした?入らないのか。」
    「育ちはいいんでね。友人でもない相手の家に、ズカズカと侵入するようなことはしない。」
    「……。」
    「外から話をさせてもらうよ、……DIO。」
     花京院がそう言うと、DIOが本を閉じる音がした。
    「……ジョースター達は恐怖したのか?一度……、館前で引き返して行ったな。」
    「……。」
    「せっかく遠路はるばる来訪したというのに、残念なことだ。」
    「……。」
    「私に何の用だ、花京院。」
    「一つ、確認をしたかった。何故、承太郎と僕がこのカイロで殺し合うよう仕向けたか。」
    「……。」
     DIOは、フーッ、とため息をついた。
    「そんなこと……か。」
    「何の理由もなしに、お前が僕達の仲をひっかきまわすようなことはしない。現に、僕と承太郎以外の3人と1匹は、命を狙われるようなことはあっても、仲違いするよう仕向けられたことは、一切ない。」
    「……フン。」
    「だが、仮に承太郎と僕が仲違いして、承太郎の心がひどく傷ついたらどうだろう。……スタンドのパワーは精神のパワー。スタープラチナは、弱体化する。」
    「……。」
    「だが、それもお前の本当の狙いではない。」
    「……。」
    「そうだろう?だって僕が、承太郎の心の支えになるとは限らない。」
    「……。」
    「他の仲間、……特に祖父のジョースターさんの方が、彼にとって大事な存在であり得たはずだ。」
     承太郎と花京院の仲違いなんて、DIOには過程でしかない。
     ここから先、花京院は確信をもって言った。
    「あのブライアン、という男によれば、最終的にお前と戦うのは承太郎だった。」
     ンドゥールのスタンド能力について隠していたことはあったが、彼が伝えたことに一切の嘘はなかった。
    「ジョースター家の血の濃さならジョセフ・ジョースター氏の方が上だろう。だが、承太郎はお前を倒す運命を持った男だ。」
    「……。」
    「もし僕が承太郎に勝っていたら、……お前はそのまま承太郎を連れ去る計画だった。」
    「ほう……。」
    「……では、もし僕が負けていたら?ただ承太郎のことだ。僕を完膚なきまでに叩きのめすようなことはしない。油断した所を、この時計の針で刺されるくらいはされていただろう。」
    「……。」
     花京院は、懐から懐中時計を取りだした。
     この時計が、最初から最後まで花京院を苦しめた。
    「この、懐中時計の針……。まるで矢のような形状をしているのが、不思議だった。気になっていた。」
     花京院は、懐中時計のガラス蓋、盤面を外すと、……中から小さな試験管のような、ケースを取り出した。
     中身は肉だった。蠢き、特に夜は吸血鬼の細胞を持つため、恐ろしく興奮する……!
    「……そう、ブライアンの持っていたスタンド『ダイバー・ダウン』なら、承太郎の体内に潜って肉の芽を埋められる。」
    「……。」
    「承太郎に、お前の肉の芽を埋め、支配するつもりだったのか……!DIOッ!」
     花京院は、時計を勢いよく投げ捨てた。カン、カンと落ちて行く音がする。
     ――夜の冷たい風が吹いて、DIOが口を開く。彼の紅くて淫靡な舌が、唇からのぞき、
    「……承太郎の血がベッタリついて、乾燥したタンクトップだが、」
    「……」
     ちゅるりと弧を描いた。
    「最高に、美味だったぞ……。」
    「くっ……」
    「お陰で最高の気分だ。身体への馴染もいい。『世界』の力は益々進化した。……そして、御名答だ、花京院。」
     手をたたく、ぱちぱち、というマヌケな音が響く。
     それは、きっと開戦の合図だった。
    「69歳のジョセフの体躯と、承太郎の血液量。どちらが上かなど、わかりきっている。なら、多くて、食事の際に目で楽しませてくれるほうに限るよなあ?」
    「……下劣な。」
    「承太郎に欲情しているお前ほど、汚いことを考えている訳じゃあない。ただ、あのジョナサンと同じ目で、睨まれながら食事をするというのも一興だろう?」
    「……。」
    「仲間を殺され、しかしその前に仲間に裏切られ、しかも私を倒せず終わる。……あの緑眼がそんな悲しすぎる事態に、どこまで耐えきれるか、見物じゃあないか?」
    「……。」
    「いずれ自ら、身も心も私に差し出すようになる。自ら股を開き、垂涎、恍惚した目で私を求める。そのための、策略だった……楽しかった……ぞ。」
     DIOの、承太郎に対するラブ・コールであった。
    「……。」
    「いつまでもいつまでも、承太郎は私の元で幸せに過ごす。……これで、お前の嫌な『承太郎が結婚する』という結果は免れたなア?花京院。」
    「……。」
    「よく働いた、花京院。もう一度、私の友人になることを許してやる。」

     ――ふざけるな

     花京院は言い放った。
    「僕は今ここで、お前の命を断ちに来た。」
     ――刹那、館の最上階寝室が爆発した。

     さあ、おまちかね。お前と僕との、果たし合い。
     死んでも承太郎は渡さない。


    To Be Continued...
    幕間
     ――俺は、アイツの心の中がわからなかった。
     そう思って目を覚ました承太郎は、エジプト・カイロのホテル天井を見た。
     すでに陽は落ち、けたたましいサイレンの音が聞こえ、電気がついていない部屋では外から漏れる明かりだけが光源であった。
     ……承太郎は、何故自分が眠ってしまっていたのか、わからなかった。丁寧にかけられていた掛け布団をはがし、上半身を起こす。ベッドから降り、靴をつっかける。
     そして花京院のことを考えていた。わからない、……何故あんなことをした。
    「突然ハイエロファントがスタープラチナの動きを止めた、……と思ったら、当て身……か?」
     後頭部、首の付け根が痛い。自分を襲ったのが花京院なら、……気絶した自分をベッドに運んで、布団をかけたのも花京院だろう。……帽子が無い。
     濡れているが固く絞られているタオルが、枕の首の付け根が当たる位置に置かれていた。ここまでアフターフォローが手厚い敵は、……今まで出会ったことが無い。

    「……アイツが何を考えていたか、さっぱりわからねえ。」
     冷蔵庫からミネラルウォーターを出し、口に含む。

     ――カサッ

     自分の鞄から音がした。
     承太郎は久しぶりに聞く紙の擦れる音にひかれ、鞄を開けた。
     そこには、久しぶりに見るひらがなが、几帳面だがクセのある形で書かれていた。誰のものだか、直ぐにわかった。「ごめん」と一言、手紙に書いてある。
    「……花京院。」
     お前、益々わけが……わからねえ。
     なんで、今更なんでこんな、言って欲しくなかった言葉をこんな形で……。
    「――承太郎。」
     鍵のかかっていたドアはいつの間にか開けられ、ポルナレフが部屋に入っていた。
    「……すまねえ、スタンドの手で外から鍵を開けた。お前、……大丈夫か?」
    「ああ……。」
    「なあ、……花京院は、」
     手紙を、承太郎はグシャという音と共に握り潰した。上質な紙が、一瞬にしてゴミに変わる。
    「知らん。あの野郎のことなんざ、考えたくもねえ。」
    「じょうた……、」
    「言いたいことがあるなら言えと、俺を頼れと何度も言った。だが、これが結果だ。」
    「……。」
    「もうアイツを、ぶん殴ることも、」「待て」
     ポルナレフが、承太郎の手紙を握りつぶした手を、掴んだ。
    「俺達は、まだすべきことがある。それに、今なら間に合う。」
    「……。」
    「アヴドゥルは生きていた。花京院は多分いま戦っている。……お前は、」
    「……。」
    「俺みたいに、大事な相手が死んでから後悔するなんてこと、しないでくれ。」

     ――外のサイレンはけたたましく鳴り響いている。ホテルから遠く、昼間発見したDIOの館の方角から。
    【続く】
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