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    2024/04/21 17:15:38

    海風のはないちもんめ

    #sgmn

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    海風のはないちもんめ青空の下、うたたねする菅波の無防備さをめでつつも、ピクニックセットも届いたことだし、そろそろ起こさないと、と百音は菅波が抱っこしているサメ太朗をそっと引き抜いて自分の膝に乗せた。前かがみになって、菅波の右肩に手を乗せて小さくゆする。

    「せんせ、おべんと届きましたよ。おきてくださーい」
    百音の鈴のなるようなささやき声に、菅波の眉間が動き、目がうっすらと開く。菅波の焦点が百音に合い、表情筋がふわっと緩む。あ、起きた、と百音がふわりとほほ笑んだところで、菅波が右手を伸ばす。自分の左頬にその右手が添えられたことに百音が気づくのと、菅波が身を乗り出して桜唇にキスを贈るのが同時である。思ってもいなかった不意打ちに、百音は頬を染めつつも身動きもとれず、菅波からキスを贈られるまま、しばし。

    不埒な舌が口中を訪おうとしたところで、我に返った百音が意を決して体を起こすと、菅波のバランスが崩れて右手がレジャーシートに着地する。顔をあげた菅波が見たのは、膝の上のサメ太朗を抱き上げて口許を隠すようにして自分を見る百音。半覚醒から一気に目が覚めた菅波は、がばっと跳ね起きて、百音とサメ太朗をまじまじと見つめた。

    先ほどまで百音の頬を捉えていた右手で、口許を覆い、つるりと顔を撫で、また右手で口許を覆った菅波が、おずおずと百音を器用な上目遣いでみあげ、百音はサメ太朗ごしに菅波を見つめる。

    「あの…」
    「…」
    「おこってますか?」
    「おこってませんよ」
    「…」

    菅波があまりにしょんぼりしてみせるので、段々とそれが面白くなった百音が、サメ太朗を胸ビレをぱたぱたさせながら菅波に押し付けると、菅波がはにかみながらサメ太朗をうけとり、吻をもにゃりと撫でた。

    「寝ぼけて、外なの忘れてました」
    「だと思いました」
    菅波の言い訳に、百音が頷く。今度は菅波がサメ太朗をだっこしながら、その…青空の下のあなたを見上げて、あぁ、きれいだなって思って…自分が寝てる意識もなかったので…と、もごもご言い訳を続けるのに、百音の頬に履かれた朱はそのままで。

    しばし言い訳をしていたところで、菅波が、百音の傍らに広げられたピクニックセットに目をやった。
    「取りに行ってくれたんですね。寝ててすみません…」
    ぺこりと頭を下げる菅波に、百音はほほ笑んで首を横に振る。
    「すぐそこですし、先生、気持ちよさそうに寝てたから起こしたくなくて」

    百音の思いやりに、菅波は照らされている陽光とは別の温かさに包まれる心地である。
    「寝落ちるつもりはなかったんですが」
    「きっと昨日も先生、夜更かしだったんでしょう」
    「お見通しですね…」
    論文をちょっと読むだけのつもりだったんですが…と頬をかく仕草に、百音も、あぁ、先生だなぁ、とぽかぽかした心地。

    さ、せっかくのピクニックランチ、いただきましょう!と百音がぱちん、と手を合わせてみせ、菅波もそれに続く。サメ太朗を汚れないように少し離れたところに退避させて、のんびりとした昼ごはんである。ホットサンドにかぶりついた菅波が、うまい、と目を細め、同じくホットサンドをかじった百音も同意でこくこくと頷く。副菜のキャロットラペの酸味も程よくホットサンドのアボカドとマッチし、鶏のから揚げは自家製レモネードとの調和がよい。

    これは、自分で支度するお弁当ではできないラインナップですね、と百音がフム、という顔をすると、菅波もそうですねぇ、と同意する。家でつくる弁当には、別の良さがありますけどね、と菅波が言い、百音も菅波が今回これを使うことにした意図も汲んで、ケースバイケースですね、と頷く。

    午前中に水族園を歩き回った二人は、気持ちよくピクニックセットのメニューを食べきり、自家製レモネードの残りをすすりながら公園をぼんやりと眺める。三々五々広げられたレジャーシートの上で酒盛りを楽しむ人や、犬と散歩する人、シャボン玉遊びをする家族連れなど、週末のゆったりとした様子に自分たちのリラックスも深まる気がする。

    菅波が手許のカップを飲み干したところで、自分の右側の気配に気づく。見下ろすと、ボールを加えた人懐っこい顔をした犬の期待のこもった眼差しと目が合った。え、僕?!と菅波が戸惑い、百音がその様子をほほえましく見ていると、すみませーん、と飼い主の若い男性がやってきた。男性がリードをひいても、犬は菅波に熱いまなざしを注いだままで、菅波の横にボールを置く。菅波が男性に目顔でいいですか?と聞くと、男性も、むしろすみません、という顔で頷き、じゃあ、と菅波がボールを手に取る。

    菅波がボールを手に取ると、犬はちぎれんばかりに尻尾をふるので、百音はそれもおかしくてたまらず。菅波がえいっとボールを投げると、大した飛距離もなく10メートルも離れていないところに落ちる。ボールの行方を見ていた犬が、あ…という顔で菅波を見て、それから気を取り直したようにボールに走っていくのを、リードを持った男性が、ありがとうございました!と言いながら伴走する。

    その一連の流れがあまりに楽しく、百音が声をださずに笑い転げるので、菅波は同じくイヌ科のチベットスナギツネ顔になる。あまりに百音が静かに笑い転げるので、菅波は口を尖らせた。
    「僕に何かを投げろと言うあの犬の人選ミスですよ」

    その言い分に、くつくつと笑いながら、目じりの涙をぬぐった百音が、そうですね、と同意するもので、またその同意に菅波はチベスナ顔である。先生は投げられたものをとるのも苦手だけど、投げるのも得意じゃないんですね、と笑われ、僕がとれるのは、あなたが投げるものだけです、と菅波がふてくされると、百音が菅波の首元に抱き着いて、菅波はなんとかそれは体勢を崩さずに受け止めるのだった。菅波がぽんぽんと百音の背をなでて、百音も菅波を見上げて笑う。

    二人してしばし笑ったところで、菅波を見上げていた百音が何かを思い出した顔をする。
    「先生、この後どこか行く予定あります?」
    「特にどこで何時と決めた予定はないですが、どうして?」
    「そこのカフェで、カフェラテとかコーヒーも売ってたから買ってこようかなって」

    食後の一杯です、と言う百音の案に、菅波はもちろん否はなく。
    今度は僕が行きますよ、と菅波が立ち上がろうとするのを、百音がやんわりと止めて立ち上がる。
    「さっき、ピクニックセットをごちそうしてもらいましたから」
    先生はサメ太朗とお留守番しててください、という百音の言い分と気持ちを汲んで、菅波はそれ以上言い張ることはせずに、じゃあ、お願いします、とサメ太朗とともに頭をさげた。

    スニーカーをつっかけて歩いていく百音の後姿を見送った菅波は、膝に乗せたサメ太朗の背を撫でながら漫然と海を眺める。普段は山に囲まれた地域に暮らしているし、所属している大学病院は海に近いとはいえ出勤の際に海を眺める様な事も海風にふかれるようなこともなく。自分ひとりでここまで来ようとは思わないものなぁ、と自分が託したサメのぬいぐるみを連れて一緒にここまで来てくれる心の伴侶の存在がしみじみといとおしい。

    菅波がゆったりと思考を巡らせていると、レジャーシートの外側に何か複数の気配が近づいてくることに気づいて顔をあげる。またボールを投げてほしい犬でも来たか、と思うと、半分寝そべったようにしていた自分を見下ろしているのは、数名の小学校低学年とおぼしき女児だった。

    「こんにちはー!」
    元気よく挨拶されて、職業柄か、つい、はい、こんにちは、と挨拶を返す。登米専従からこちら、子供とのコミュニケーションの機会も増え、以前ほどには挙動不審にならずに済んでいる。

    「ハナイチモンメしよー!」
    「しよー!」

    なんだろう、と思っていると、唐突に伝承遊びに誘われ、菅波は目を白黒させる。
    「え?…なんで?」
    と菅波がつぶやくと、女児たちはいっせいに、ひとがたりなくてー、や、サメさんつれてるからあくにんじゃなさそう、など口々に話すので、さらに菅波にはついていけず。えっと…?と戸惑っているところに、百音が片手に蓋つきのカップ、片手にソフトクリームを持って戻ってきた。

    「あれ?どうしたんです?」
    戻ってきた百音を菅波がほっとして見上げ、百音はよく分からないが、と女児たちの前にしゃがみこんだ。

    「こんにちは」
    「こんにちは!あのね、はないちもんめにお誘い!」
    「そうなの」
    「おねーさん、おにーさんのカノジョ?」
    「え?うん、そうだよ」
    「じゃあ、でーとだ!」
    「うん、デート中」

    遠慮のない女児たちと百音の会話に、菅波ははらはらとしながらなすすべもなく。
    「そっかー!じゃあ、わたしたち、おじゃまむしだ!」
    「だねー!じゃあ、おにいさん、またね!」
    何やら納得した女児たちは、手を振りながら、広場の緩やかな勾配を下に元気に駆けていった。

    その様子を笑って見送った百音が、よっと、上手に手を使わずにスニーカーを脱いでレジャーシートに上がり、菅波の隣にすとんと腰を下ろして蓋つきのカップを差し出した。礼を言いつつそれを受け取った菅波が、複雑な顔をしているのに気づいた百音が小首をかしげる。

    「あなたが傘イルカくんとコサメちゃんのおねえさんと気づいた子もいるかもしれないのに、よかったですか?」
    「え?だって、先生とデート中なのはホントのことですし」

    ふむ、と頷いてみせる百音に、菅波がはにかむ。こうして、衒いなく二人の関係をはぐくむ百音に、どれほど菅波が救われてきたことか、本当にこの人はこれに関しては無自覚に最強だ、と、改めて心ひそかに惚れ直す。

    「それに」
    ソフトクリームを一口食べた百音が、目じりを染めて菅波を見上げる。
    「小学生の女の子とはいえ、私の先生がナンパされてくのは黙ってみてられません」

    一息で言いきられたその言葉に、菅波が硬直して。しばらく菅波が動かないので、改めて照れた百音が、はい!せんせもひとくち食べて!とソフトクリームを差し出すのがまたかわいらしく。差し出されたソフトクリームをかじってみせると、うん、と百音が頷き、菅波は、軽々についていかないようにします、と、普段見せない百音のかわいい嫉妬に触れた菅波は、今日一番、ここにピクニックに来てよかった、とかみしめるのであった。
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