far from DAWN「あなた宛の手紙ですよ」
亡きアイスマン・カザンスキー大将からの手紙が古いカセットテープと共にサイクロン・シンプソン中将に届いたのは件の任務の決行直前だった。
四散した極超音速試験機のブラックボックスが回収された。
本来爆散すると同時に通信記録は途切れるものだが、なぜか、ブラックアウトした後の時間の音声が残っていたと言う。
ありえない内容で。
機密だ。
君だけで聴いて、判断材料のひとつにして欲しい。
君なら愚かな使い方はしないだろうから。
そう締められた文章を三度読み返したシンプソンは、辛うじて再生できたそのテープと手紙を丁寧に封筒に入れ直して、引き出しの奥、鍵が掛かる小箱にしまった。まるで封印するかのように、厳かに。
「なんというものを、あなたは」
「サイクロン、今…」
「入ってくるな!」
鋭い一喝に怯むベイツ少将ではなかったが、ただならぬ気配を感じ、静かにドアを閉めた。しばらく近寄らぬよう周りの者に言い含めることも忘れずに。
「ハングマン! ああ、ええっと、大尉…」
「イエス、サー。何かご用で?」
「ああその、今回のメンバー選出のこと…」
「構いませんよ。上の決定には従います」
「……何かが起きた時のために、一番速くて一番上手い君にいて欲しいんだ。言い訳でなく、本心で」
「あなたが編隊長なのに?」
「必ず起こる。だから、頼む」
よくないことが起こると分かっているような言い方が、引っかかった。
ただ、長年の経験と天性の勘だろうとすぐに忘れた。
「もう空はいいの?」
「寂しくない…のは嘘だけど、次が見つかったからね」
「まあ」
私たちのことかしら。これでやっと地上暮らしよと彼女が笑う。
『旧式で第五世代2機とは俄には信じ難いが。実際体験した身として、君はどうだ。出来るかね?』
『正直に申し上げて不可能です』
『他に飛べそうな者の心当たりは?』
『ハングマン…セレシン大尉であれば、おそらくは』
「依願除隊とは正直意外だが」
「お世話になりました」
「これで一番大きな肩の荷が降りる」
「シンプソン中将……サイクロン」
「恨み言の言い忘れかね」
「あいつから何を聞きました?」
「…何?」
「"私" は空に居る。これからも、ずっとね」
『ダガー・スペア』
あれは
既に
選んでいたのだ
次の、翼を。