オーディナリーホリデーにゃあん、と鳴き声が聞こえた気がした。それくらいこの人はしなやかに、やわらかに、有無を言わせず私の腕の中に収まった。もぞもぞと微調整を繰り返し、彼の中で一番収まりの良い場所を見つける。ほら、ぴったり。二人の凹凸が上手に噛み合って、言う通りぴったりだ。預けた頭を肩に擦るように見上げて大きな目で私を捕らえる。んね。独特の柔らかい口調は耳に心地よい。私は自分の顔がだらしなくでれでれとしていないか、動かせるだけ動かしてほぐす。それが気に入ったのか腕の中の熱い体温は機嫌良く笑っている。でれでれしてる雄牛ちゃんもかっこいいよ、だなんて見透かされ過ぎではないだろうか。鈍い私と違って人の心の機微に大変聡いこの人だからなせるのだろうか。うまく言い返せなくてただ彼を抱きしめる両腕に力を込めた。気持ちよさそうに目を細め顎を上げるのもまた、猫のよう。猫のような甘え方だとこめかみに唇を当てれば、また目を細めて笑う。やはり、猫だ。にゃあん。腕の中の大きな猫が甘えた声を出す。笑いの形になる唇に吸い寄せられる。甘くて、柔らかくて、でも厚い舌を味わい、味わわれる。この先は、私が下でもどちらでも良いが、今のこの人の気分なら私が上かと判断し、ゆっくりとベッドに押し倒す。抵抗はなく、表情は愉快。正解を引いたご褒美はどれほどの快楽と充足感だろう。
こないだ二人で選んだソファに深く座ってふう、とひと息ついた。働きものの恋人は休日朝のお仕事を終えてやっと寛ぎモードに切り替えたらしい。隣の俺を見て微笑む顔、めちゃくちゃかっこいいね。朝日のキラキラに全然負けないハンサムさんは、笑みを深くしてから視線を外し、手元の新聞を読み始めた。終わるまではいたずらしたらダメなんだよな。朝刊をうちで読むようになった最初の頃はちょっかい出して、めっ、てされてたけどね。俺だって学習する。あったかい雄牛ちゃんの懐に収まって大人しくしてる。それにしても今日の朝ごはんも美味しかった。サラダもドレッシングも、トーストもお手製ジャムも目玉焼きもハッシュポテトも、ぜーんぶ。コーヒーは俺が淹れる方が美味しいって言ってくれるので上機嫌で用意しちゃったよね。俺は大きめのマグカップにいっぱい入れて飲むの好きなんだけど、恋人は普通のコーヒーカップに入るくらいの量でいいんだって覚えた。しかもブラック!甘くないコーヒーって美味しいの?て質問に、あなたが甘いからバランスです、なんて照れながら言った時はどっちが甘いんだよ、て飛びかかっちゃったなあ。
ねえねえ雄牛ちゃん。
読み終わった新聞を丁寧に畳む恋人を呼ぶ。
だいすきだよ。