陽だまりを想う 始まりはいつ、だったのだろうか。
伸ばされた小さなその手の柔らかさに、私が守らなくてはならない存在だということを強く認識した時だろうか。
「おにいさま」と、たどたどしく私を呼ぶ幼いその声が、耳に馴染むようになった頃。
私と話す時に恐れや嫌悪といったものを映したことのない、その瞳の優しさが心地良く感じた頃。
あるいは、その血を飲んだ時の温もりに、欠けていた何かが満ち足りたような安心感を覚えてしまった頃、だろうか。
いつの間にか、私の傍らにユノがいることが当たり前になっていた。
名を呼ばずとも、目が合うだけで駆け寄ってきてくれるその姿に、どれほど私の心が和らいだか。
私が屋敷に戻ったというただそれだけで、嬉しそうに出迎えてくれるその笑顔にいつも心癒されてきた。
戦で傷を負ってしまった時、まるで自分のことのように傷つき悲しむその涙に、何度私の心が救われてきたのか。
ただそこに在るだけで心安らぎ、温もりを分け与えてくれる存在。ユノと共に過ごしている時だけは、私が人を食わねばならない鬼であることを忘れられた。影の中でしか生きられぬ鬼でありながら、まるで人々のいう日だまりの中にいるような気がした。
ユノが居てくれたおかげで、私は陽光というもののあたたかさを知ることが出来た。
◇
何度か、屋敷の花壇に水をやるユノの姿を目にしたことがある。陽の光に透ける淡い紅藤の色をした髪や若葉色の瞳がやたらと眩しく感じたことをよく覚えている。それは、人が本来住むべき場所に居る『正しい』姿そのもの。ユノは陽の下に居るのがよく似合うと、私のような夜の者が気安く触れて良い存在ではないのだと、その度に気付かされた。
もし私が人だったのなら、ユノがいつもしてくれるように、何の躊躇いもなくその隣にまで近寄ることが出来たのだろうか。思わず腕を伸ばしたくなるような、焦がれるような想いを抱くこともなかったのだろうか。そんな、らしくもない考えが浮かんだこともあった。どれほど大切に思っていても、この手で守りたいと決意しても、それは影の中でしか叶わぬこと。私が鬼である以上、ユノを本当の意味で支えてやることなんて出来ない。
だから、せめて代わりに、ユノが生きる世界を守ろうとした。そこに私がいなくとも安心して過ごせるように、いつかユノと心を通わし、寄り添いあえる誰かが現れるその時まで、平穏に暮らせるように。ただ、それだけを願っていた。
それだけが、私の望みだった。
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ゆのおはなさん宅、ユノさん お借りしました。