[フク洞]お裾分けに関すること
「洞潔、あの、これお裾分けです」
作りすぎたので、とフクロウがはにかむのは見慣れた光景だ。ここ最近、フクロウは毎晩のように洞潔の元におかずを詰めた使い捨ての容器を持って来る。どれも味は良く、意外にもバリエーションも広い。独り身だとこうなるのか、と家族が多く一人暮らしをしたことのなかった洞潔は少し感心したくらいだ。しかし気になる。フクロウとはそれなりに長い付き合いになるが今まで「お裾分け」など貰った試しはなく、そしてそれを問い詰めようにもすぐに姿を消してしまう。酒吞童子様と食事を共にしていると手料理を味わう機会が少ないため助かってはいるのだが。
「そろそろ礼をしなくてはな……」
お礼なんていいんですよ!?と慌てる様子が目に浮かぶようだが、と洞潔は久しぶりに厨房に顔を出すことに決めた。
「…………」
「貰ってばかりは性に合わん、礼だ」
明くる日の昼、休みを取ろうとしているフクロウを捕まえて洞潔はおにぎりの入った包みを突き出した。他意はない。主を同じくする者同士の自然な態度であったつもりだ。けれどもフクロウは黙って視線をさ迷わせたまま受け取ろうとしない。
「他人から貰うのは嫌いなのか?」
自分はあげまくるのにか?と嫌味を言おうとして弁当を持って来ているのかもしれないと思い始めた洞潔を、あの、という切羽詰まったような声が遮る。
「あの、これは、これは私を受け入れてくださるってことですか?」
「は?」
護符のような目隠しの下が、赤く染まっている。両腕を驚きのリアクションにしたまま固まっている。
「いやっ、何でもないです!」
逃げたな。取り残されてしまったおにぎりは共に残った洞潔の昼飯に代わるのだった。
やけに鳥がうるさい。忘れてください!と逃げていった鳥のような名前の妖怪のことを洞潔は思い出してしまう。夜になって酒吞童子様がどこかへ行かれてしまったので洞潔も今夜は暇を貰うことにした。そうか、と洞潔は思う。あ奴も鳥なのか。繁殖期。オスの給餌衝動。そこまで考えて我に返った。私も男なのだからそんなはずは。鬼族は一般的に快楽に弱くて、それで失敗した例をいくつも見てきたし、酒吞童子様のように上手にやる自信も無いので色恋とは無縁の生活を送ってきた。経験不足でこういたことは苦手だ。勘違いだとしたら恥ずかしいが、それとは関係なく従者としてよぎった不安を解消するため、洞潔は本日のお悩みの原因妖怪の妖気を探ることにした。
夜遅く木の上でフライドチキンを頬張るフクロウを見つけて、洞潔は、普段はあまり作らないのかもしれないと思った。おい、と下から声をかける。
「洞潔……」
律儀に舞い降りて来たフクロウは先ほどと同じくもじもじしている。食べかけのチキンを着物にしまって、こんばんは、何か用ですか、と返す。
「これは酒吞童子様にもやっているのか?その……お裾分けは」
「え?いいえ」
それなら安心だ。他の者には、と聞くのをためらう洞潔にごめんなさい、と声がかかる。
「迷惑、でしたよね。もうしませんので……でも、」
こんなこと洞潔にしかしませんよ、とフクロウがか細い声を出した。沈黙の中でうつむいてカチャカチャとかぎ爪を擦り合わせる音が聞こえる。
「フクロウ」
私に発情しているのか?など聞けないがこの様子は。そんなこと言われたら気になってしまう。
「迷惑ではない……結構美味かった。本当に礼はいいのか?何か別のものを……」
フクロウが突然びくりと肩を震わせる。
「あっあの、お昼はごめんなさい!テンパってしまって、あの、洞潔みたいなカッコいい人から何かいただけるなんて初めてで、」
こういったストレートな好意も苦手だ。いつも気弱そうで実際弱くて他人の顔色ばかりを窺う気に食わない奴だったが。
「また作って貰えるのだろうか?」
「はい!」
地面を向きかけていたフクロウの顔が久々に正面を向いた。天むすが特に美味かった、と告げるとじゃあ明日はおむすびにしますね!と笑顔を見せる。何となく惚れやすそうな同僚を見ながら洞潔は主に迷惑がかからないように監視するだけだ、と自分に言い聞かせることにした。
「お礼は後でじっくりいただきますね」
「?」