【妖三土ガマ】その前夜 共にこの国を平定してほしい。
イカカモネ董卓との決戦に備えた束の間の休日、午後。さくらの湯のロビーでのんびり蜜水を楽しんでいた大ガマ袁術は、威風堂々突然現れた兄に至福の時間を邪魔された。吾輩について来るが良いと連れて来られた先はおおもり山の展望台。さくらの湯から短いとは言えない距離の場所にわざわざ足を運ばせておいて土蜘蛛袁紹が発したのはジバニャン劉備を交えて何度も話し合った目標である。
「まあ今のところはそのつもりだぜ」
大ガマ袁術は展望台の柵に肘を乗せさくら国を一望する。ことごとく意見の合わないこの兄弟を魅了してやまない統一という野望。お互い最強クラスの武将妖怪だという自覚もある。その二人が手を組み、さらに英雄までいるというこの軍団が達成できない目標ではないだろう。せいぜい足を引っ張らないでくれよと言おうとして大ガマ袁術は背中に兄の重みを感じた。続いて左手を絡め取られたので、見ると薬指にカラフルな色が何個もついた高価そうな指輪がはめられている。
「ん?なんだよこのリング」
土蜘蛛袁紹がそっと体を離す。再び大ガマ袁術の左手を取り、もう片方の手を重ねる。土蜘蛛袁紹の顔を見るといつにも増してお硬そうな表情を浮かべている。ごくりと息を飲む音が聞こえ、続いて真っ白な顔を汗が一筋走った。
「吾輩の伴侶となってほしいという意味だ」
とりあえず絶句。共にってそういう意味かよ。
「あんたの領地全部くれるなら考えてやるよ」
「……駄菓子屋なら喜んで贈ろう」
「一番ちっちぇーとこじゃねえか!せめて正天寺くらい貰わねえと割りに合わねえな」
「……」
手を振り払う。豪気そうに見えて意外と小心な男だ、決死の覚悟だったんだろう。触覚のような前髪がしょぼんと垂れている。こういうのはちゃんと断っとかないと後々厄介だからな。
「オレはあんたのものになる気は無いぜ」
「もちろんだだから共にと……」
土蜘蛛袁紹は食い下がるが先程のような余裕は無い。可哀想だから考えといてやるよ。とにかくオレの邪魔はしないこったな。