【再録】乱藤四郎短歌集『ひとふりのうた』【目次】
Ⅰ
おめかし
乱れ舞う
あるじさん
おまじない
みだれとうしろう
Ⅱ
春の虜
矜恃/エンチャント
ひとふりのうた
____________________
Ⅰ
おめかし
ミラーミラー一番かわいいボクを信じるための色今日はどれかな
ひらひらの服を選んだヒロイック何も諦めたくはないから
ねえ、フリルシャツのボタンを留めるとき無敵になるのわかってほしい
ご機嫌なボクを作り上げる朝の仕上げにはあの言葉をかけて
乱れ舞う
瞬きを禁じ闇夜に開花するスカート今がいちばんきれい
駆け付けるための脚です自慢です裾翻しいち早く斬る
慎重にかつ軽やかに だいじょうぶ怖いってこと知っているから
油断した?可愛い服に見惚れてもいいけど綺麗な刃文も見てね
深く突き刺した刃を引き抜いて乱れた息もアクセサリーだ
最後には勝つために行く道だもん返り血だって頬紅にする
スカートが裂けたとしても切先は背けないから覚悟してよね
月の下駆け乱れ舞う君の背ではたりと揺れるひかりのベール
あるじさん
繊細なレースみたいですてきでしょボクは花守うつくしい棘
きらきらの星をあげるよあるじさんボクらを照らす真っ白な星
いつだってあなたのための常春を 誉を上げるボクを見ててよ
花びらを両手で受け止めるみたいに笑ってそうそう、つかまえていて
泣く時はそばで泣いてねお人形みたいにぎゅっと寄り添うからね
甘えるの上手なボクは甘えさせ上手になれる 大丈夫だよ
抱きついて笑わせたいひとがいること抱きしめられる腕があること
髪が乱れたってリボンが解けたってあなたへと向くポインテッドトゥ
おまじない
花束をぐしゃり踏みつぶすみたいな悔しさを抱えても帰るよ
今日のボクかわいくないな、なんて嘘、心が動くのの何が悪い
浴室の鏡にかわいいこを映す抱きしめたくなるボクでいてよね
お手入れは涙によく効くおまじないボク(きみ)らしくある明日のために
みだれとうしろう
み 皆々様その目でとくとご覧あれ藤四郎たるボクの切れ味
だ 大好きな大好きな人のため流す汗は宝石みたいにひかる
れ 零時には解けない魔法 パーティーのドレスコードは戦装束
と 登場は華麗にそしてひそやかに拍手はいいよ首をちょうだい
う 運命じゃなくてもいいよはじまりの桜吹雪をまだ覚えてる
し 信じてもいいの 百にん百通りわたくしだけのばら色がある
ろ ロングヘアなびかせて踏むでたらめなステップだってすべて愛して
う 後ろ振り向かずに進むボクたちは許されているひかりの中で
__________________
Ⅱ
春の虜
咲き初めの花散り乱せ春嵐 美しさとは不可侵である
目を伏せてしまった君が連れてきた春があまりにまぶしいせいだ
まぶしさを魔法と言い換えてみるときまぶたの裏を彩るひかり
花吹雪、ターン、広がる裾ふわり、目が合うよりも前から君の
(静かさを隠すほど明るく)君の青はさんごの海のかがやき
矜持/エンチャント
いつだって宝石箱を開けるのと似たときめきをもって見つめて
ご注目!愛しい人にぜったいに脇目なんか振らせてやらない
迷わないように俯かないように一等星は空にきらめく
片時も離さないから うつくしいもののすべてにボクを宿して
砂糖菓子みたいに甘くてあどけないボクが好きでしょきっと、ごめんね
ひとふりのうた
歩きたい方へと歩く美しくフリルが揺れるこの道が好き
強さってそういうのでしょこの脚でここに立ったの きっとあなたも
花道をかかと鳴らしてゆくボクを誰もじゃますることはできない
偏見を振りきれボクのボクだけの喉を震わせ生まれる声よ
可愛さを自分を隠す嘘なんて必要ないよ持っていかない
胸躍る方がせいかい 羽ばたいた蝶結びから夢溢れ出せ
唯一の音色で響けお砂糖でできてはいないひとふりのうた