[ロナドラ]執着の所在その日は珍しく早朝から活動しており、かろうじて食事と風呂を済ませたものの意識が朦朧としていた。
「おいクソ砂、寝るからそこどけ」
「え?もう寝るの?いいけどセーブするまで待って〜」
「早くしないと殺す」
ソファにうつ伏せでゲームをやっている吸血鬼を見下ろして待つ。眠気から殺意を送っているにも関わらず、この雑魚吸血鬼は読経を口ずさみながら足を揺らしている。ムカつく。
ゆら、ゆら、と揺れる細い足を眺めているうちに、ふと吸血鬼は靴下を取られると衰弱するという話を思い出した。もし今この靴下を剥ぎ取ったら、こいつは衰弱するのだろうか。
ぼんやりとした頭でそのままドラルクの足へ近付き、爪先の辺りをつまむ。そしてしゅるしゅると靴下を剥ぎ取った。洗濯物として干す時の濡れた感触とは違い、柔らかく滑らかな手触りが心地良い。
ドラルクはというと、突然の奇行に足の揺れが止まった以外は特に変わりなく、その身は形を保ったまま崩れはしなかった。
「……何をしている?」
「死なないのか?」
「質問に答えろ5歳児。……一応聞くが、殺したいのか?」
「いやべつに」
「なんなんだ本当に……」
ドラルクもさすがにゲームを続けるどころではなくなったらしく、身体を起こしてソファへ座りなおす。うんざりとした顔をしているものの、あの変態に靴下を取られた時のような切羽詰まった危機感は感じられない。衰弱している様子もない。
「なぁ、本当になんで死なないの?」
「……知りたいか?」
「いいから教えろ」
ドスッ、スナァと崩れた砂山をこねながら答えを催促する。やめろ!再生できないだろ!と言われ渋々手を離し再生を待つ。靴下は依然として握りしめたまま。
「まったくゴリラは暴力しか知らんのか」
「殺すぞ」
「やめろ。……よく聞け、簡単な話だ。まずここをどこだと心得る?」
「俺の事務所」
「ドラルクキャッスルマークⅡ」
「殺した」
「だからやめろ!!話が進まん!!」
いいか殺すなよ、と前置きしてドラルクは答える。
「ここはドラルクキャッスルマークⅡ、そして君はそこに住む人間。私の城に住んでるんだからロナルド君は私の所有物。所有物に所有物を取られたところで精神的ダメージはゼロ!アンダースタン?(理解できましたか?)」
「ノー」
「スナァーッ!!」
体当たりでそのままソファへ寝転ぶ。誰が所有物じゃ、と言うと私を備品扱いしてるのはどこのどいつだ!と返された。あれは書類上仕方ないだろ。一緒にするなと砂にぐりぐり頭を埋める。
「じゃりじゃりする」
「当たり前だ!体重をかけるな!!」
さすがにもぞもぞ動く砂の感触が気になり、再生できる程度に身体を起こす。ナスナスと再生した砂がそのままソファを降りていくのを見届けて、また寝転ぶ。もう眠気が限界を迎えていた。
「ロナルドくーん?靴下返してくれない?」
「とったことにはならないんらろ……」
「取られても死なないだけでそうは言ってないが……マジで5歳児なのか?」
「あとでころす……」
「ワーふにゃふにゃじゃないか」
手の中にあるすべすべの靴下を握りしめ、ドラルクの呆れたような笑い声を子守唄に目を瞑る。
「……おやすみ、私のロナルド君」
まるで愛しいものに語りかけるような、こそばゆい声を聞いたような気がした。それについて考えを巡らせる間もなく、ロナルドは意識を夢の中へ落とした。