陛下を崇拝したら、化け物になった。[○月○日]
俺は、陛下の事が好きだ。これは単なる愛じゃなくて…恋だ。
でも、俺は兵士。陛下に手が届くわけが無い。
だから、陛下のお姿を拝めるだけで俺は幸せだ。
[○月○日]
俺は今日から、パラメキア皇帝陛下直属の近衛兵だ。
陛下に認められて傍らでお仕えする事を許されたのだ。
どうだ?お前ら。羨ましいだろ?悔しかったら、這い上がってみろ。まぁ、無理だろうがな。ハハハハハ!
[○月○日]
反乱軍の野良犬共をいつも通り追い払ってたら、陛下に褒められた。なんと、褒美も遣わそうと仰った。
本当は陛下とお付き合いしたい…とお願いしたかったが、いけねぇいけねぇ。俺はよりたくさんのボーナスとして路銀をお願いした。
俺の後についてくる兵士達にパーっと旨い飯を食わせてやる。
[○月○日]
帝国に知略が必要とされ、軍師が派遣された。
出生地は詳しく分からないが、かつて"とある異国を殺した"という経歴を持つらしい。
けっ、何が軍師だ。帝国は天下無敵だ。知略なんて必要ないってこと、知らしめてやる。
[○月○日]
軍師の案により、ダークナイトという男が陛下の右腕になった。
確か、落ちぶれたところを陛下が拾ったという…。んな事はどうでもいい!
つまり、俺の他に陛下の傍にいる奴がもう1人増えたって事だ!
マジで許せねぇ!あの軍師!!
[○月○日]
軍師が次々と戦果を上げ、とうとう陛下の側近にまで成り上がった。
ダークナイトの方も順調で、もう俺はすっかり蚊帳の外だ。
くそ!見返してやる!!
[○月○日]
最近、体調が優れない。体の節々が突き破るように痛い。
名誉挽回の為に動きたいのに、頭が回らない。何故だ…?
周りに追い抜かれていくストレスのせいと思ってるが、それにしてもこんな急に具合が悪くなるのか?
[○月○日]
俺は…見てしまった。陛下…の…お部屋…に、あのぐんし…が、はいって…いったの、を。
俺はまさかと思って気になって見たら、そのまさかだった。
扉の鍵は閉まっていたが、俺にははっきりと聞こえた。
ぐっちょりした音と一緒に、苦しそうな色っぽい声が聞こえた。
あの軍師が、陛下の…唇と、身体を重ねてた。
へや…に、は…いる前。ぐん…しのやろ…う、おれに…きづいて、にこ…ニコ笑いやが…った…。
[○月○日]
くそっ…じが、字が…ぅまく、かけねぇ。
いっぱい、ぐち、りてぇ…の、に。
それ、どころか…、につき…かく…きりょく…すら、なぃ。
[○月○日]
にんむ…しつぱぃ…。へいか、みはなす。
おれ、くび…やだ。
にくいぐんしに…たすけ、もとめた…。
ぐやじいぐやじいぐやじぃ。
ぐんじは…
わらっで…
ぢゃんす…もらっだ…
ぐんしさま…ばんざい。
…
グギャアアァァァァ!!!!
「あちゃあ…"やっぱり"駄目だったか」
それは通常通り自室に籠って仕事をしていた時に、焦燥感が溢れた伝令兵が部屋に入ってきたことだった。
報告を頂いた男は伝令兵に退室を命じた後、溜息を吐いた。
内容は、皇帝―マティウスが信頼していた兵士が、反乱軍に対して死力を尽くしたものの、哀れな最期を迎えたとのことだった。
それは、戦力が大幅に削れるということを意味する。しかし、この男は冷静だった。それどころか、微塵も兵士を悼む素振りすら見せなかった。
それもその筈。この男は、”やっぱり”という言葉を使用していた。即ち、男は期待は全くしていなかったのだ。
そう。この男こそ、帝国に派遣されし”異国殺し”の軍師である。
軍師は、有頂天になっていたあの兵士の前に突然現れ、着々と功績を上げていくのだった。それが徐々に皇帝に認められ、彼もまた同様に、傍で仕えることを許される身となったのだ。そして…どういう訳か、身体を捧げる関係にまで発展していったのだ。
更に軍師は、兵士は自分と皇帝の行為を覗いていた出歯亀だということは勿論、それ以前に自分に嫉妬していたことも全てお見通しだった。
最終的に兵士はプライドを捨ててまで憎い軍師に泣き縋ってきたので、折角策を与えたのにあの様である。
「嫉妬は…人を狂わせるというのに」
原因が自分自身にあるというのに、どの口が言うか。
兵士は、軍師に手玉を取られ、立場を失わせ、剰え愛する皇帝すら奪われたのだ。この軍師という存在そのものが無ければ、大出世…更に言うと、皇帝と恋人と不可能かもしれないが、それでも永遠に共にいられることも夢ではなかったのかもしれないのだ。
「まぁ、それは私も同じだったね。ふふふ」
彼も同じく、相手を疎ましく思っていたのだ。兵士の立場、性格。軍師はそれらを全て利用して、彼を失脚させた。
つまり、全ての元凶は…この軍師にあったのだ。
何故こんなことをしたのか。答えは簡単。
「陛下と一緒にいていいのは、私だけ」
軍師は机上に置かれていた、血塗れの本を手に取った。
軽く捲ると、一日一日の出来事が記されている。日記帳だ。
軍師はそれを…暖炉に投げつけ、再び机に戻って仕事に戻った。