hear that I say私の事はいい。それより聞いて。
そう言ってクレアは、カーティスがGウィルスが保管されているはずのレベル4から出てきた事を伝えた。
「Gウィルス……?」
嫌な予感がした。レオンの脳裏で燃えるカーティスの家が思い出される。
それを呆然と見つめる、アンジェラの横顔も。
「レオン、アンジェラは?」
クレアが奥の廊下に目を彷徨わせた。
「ロビーで二手に分かれた」
「今、カーティスに会うのは危険よ。早く彼女の元へ……つッ!」
立ち上がろうとしたクレアが顔をしかめる。負傷した左足から、血が滲んでいた。
「一度、止血しなおした方が良い」
レオンが左足に巻かれた包帯に手をかける。クレアは何かを言いかけたが、大人しく指示に従った。
「悪いわね」
「別にいいさ」
ここで拒む事は得策では無いと判断したのだろう。
賢い彼女は相手が立ち回り易いよう、常に配慮している。
包帯を解き、傷口にハンカチを当てがう。
痛むぞ。言って、キツく縛り上げた。
「ーーぁあっ」
歯を食い縛ばったクレアの口から声が漏れる。
強い女だ。
レオンは思った。クレアの強さは、樫の木が鋼鉄のような弾性さでしなる様に似ている。
アンジェラも気丈な女性だったが、クレアのそれとは性質が違う。
それに彼女はああ見えて、ひどく脆い。
河に飛び込み子供を助けた話が、いい例だ。
処置を終えると、レオンは左肩を貸してクレアを立ち上がらせた。
「君は、カーティスと面識があるのか?」
エレベーターへと廊下を歩きながら、クレアに問う。
「いいえ。出会ったのは今回が初めてよ。ただ、彼がラクーンシティで妻子を失ったのは知っている」
「……そうか」
クレアがアンジェラを気にかける理由を理解する。彼女にも、兄が居た。
兄は私が止める。
アンジェラは言ったが、血は水より濃い。情に厚い彼女が容易く、断ち切れるとは思えなかった。
エレベーターの呼び出しボタンを押し、再度レオンが問う。
「君ならどうする?」
「何?」
「自分の兄さんがテロリストと知った時、君なら止められるか?」
クレアは意図をはかりかねたようだったが、やがて思い当たると嘆息し、こう言った。
「私の意見を聞く必要があるの?」
エレベーターが到着の音を告げる。
二人は瞬間、身構えたが開いたドアは無人だった。
エレベーターに乗り込み階数ボタンを押すと、クレアがなおも言い募る。
「私が、では無くて。貴方がどうすべきか、よ。彼女、きっと迷う」
問題をすり替えるな。と、言いたいらしい。
アンジェラがカーティスを止める事より、彼女をレオンが守り抜けるかという事だ。
つべこべ言わず、さっさと彼女を奪い返して来い。
アーモンド型の瞳が、そう言っていた。
「生きて、連れ戻すよ」
レオンは答える。
good.
クレアがレオンのこめかみに口付ける。
声を発したのと、ほぼ同時に起こったそれはレオンの思考を遅らせ、追いついた時には目を見開いていた。
隣でクレアが噴き出す。
やられた。
レオンが苦笑すると、嬉しそうに「無表情が崩れた」と、笑う。
「貴方、会ってから眉間に皺を寄せてばかりなんだもの」
「そうか?」
「そうよ」
よく言う。易々と距離を詰めて、見透かしてきたクセに。
悪い気はしなかった。クレアの隣は心地が良い。
強い女だ。
もう一度、レオンは思う。
貸したはずの左肩に添えられた右腕が力強く、暖かかった。
手放すのは惜しい気がするが、エレベーターが着く頃だ。
察した様にクレアの右手が背中を撫で、肩を軽く叩く。
到着の合図が鳴り、ドアが開いた。