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    はつゆき見舞いふわふわとした白いかけらが曇天から舞い落ちてきたとき、クリスタリウムの人びとが、真っ先に不吉な記憶を呼び起こしてしまったのも無理はない。
    世界を満たしていた無尽光が闇の戦士たちによってはらわれ、夜のとばりが日に一度、天蓋を満たすようになってから、まだそれに「慣れた」とは到底言えず、夜ごと夢ではないことを喜び、そこかしこで星の海を見上げる人びとの暮らしであった。数多の命を食い荒らした罪喰いたちの記憶も傷も新しく、舞い落ちる白いものは、容易にその恐怖を連想させたのだ。
    しかして、エデンの一件から還元された環境エーテルを引き金に、昼夜の寒暖差が大きくなりはじめ、植物や動物がその息吹を眠りに傾かせはじめていた。世界がかつて”冬“とよばれた、一定期間ごとに巡り来る季節に入ろうとしているのではないか、と三学科の座の識者たちは予測を固めはじめていた折のできごとでもあったのだ。
    舞い落ちる白いかけらは「雪」であると間もなく推定され、それ自体は「雨」のように、または夜のように、世界がただ巡るその風のうちに抱かれた空模様であることが街中に伝えられた。
    とはいえ、「雪」が降りてきたことが意味する気温の急低下に、クリスタリウムは100年越しの「冬支度」を迫られることになる。
    そして、人びとが少しの高揚と共に、慣れぬ冬支度におおわらわとなっているとき、初雪を共に見上げ、彼方での2人の少女のがんばりを思い微笑む異邦の旅人の姿があった。

    ーーーーーーーーーーーーーー

    公へ
    お元気ですか。ライナです。
    クリスタリウムに初めて雪が降りました。
    突然のお手紙で、驚かれたことと思います。先日闇の戦士殿より、原初世界の一部地域では、「カンチュウミマイ」なる風習がある、季節の変わり目にお互いの近況を知らせあってはどうか、と、わざわざレイクランドまで足を運び、手紙を持って行き来する申し出までいただいてしまいまして...。
    公もご存じのとおり、都市間の交易が絶えて久しかったクリスタリウムには、貴重な紙を私信のやり取りに使う習いがありません。
    ただ、ユールモアや大森林の民との連携に、アマロ便を介して少しずつ文書のやり取りをするようにもなってまいりました。「手紙」に適した紙の開発のためにも、ぜひ実際におこなってみてほしい!と、どこからこの話を聞きつけたのか、ミーン工芸館の職人からも念押しされ、こうして慣れないペンを持った次第です。

    こうして書く間も、窓の外をひらひらと白いものが舞っています。
    初めての雪、冬を迎えるクリスタリウムを、おそらくご心配のことかと思い、街の様子をいくつか書き連ねたいと思います。
    まず、工芸館やムジカ・ユニバーサリスの倉庫奥にしまわれていたストーブはじめ暖房器具のおかげもあって、街がひどく傷んだり民が体を壊したりということはなく、不安はあれど、皆はじめての冬を不思議がりつつも喜んでおります。
    とはいえ、もっと寒さが厳しくなるようなら、水道管が凍りついてしまわないよう補強しなくてはなりません。また家の中がとても冷えこむので、窓の隙間を何か寒気を通しにくいものでふさいだり、壁に熱を保ってくれるしかけを施したりしなくてはいけないと、皆毎日何かしら相談したり作ったりと大忙しです。大忙しではありつつも、どこか高揚しているような、わくわくしたような雰囲気が街中に広がっているように思います。
    もちろん子どもたちは、はじめて見る「雪」に大はしゃぎです。口を大きく開けて、舞い込んでくる雪をなめてみたり、朝は大人たちよりも早くに街に飛び出して積もっていれば歓声をあげ、大の字に寝転んで跡をつけてみたり、また口に入れてみたりと、一向に飽きる様子もなく、粉砂糖のように髪も服もまっしろにして遊び回っています。
    当然ながらお腹をこわすやら熱を出すやら、医療館の者たちから雷を落とされていることもしばしばです。(おおむね、ひどく体調を崩している子はおりません旨、重ねて書き添えておきます。)
    衛兵団の業務にも、大きな支障は出ておりません。冬が来てはじめて広まったことですが、大きな獣たちは、冬になると長く眠るようになるようで、まるでレイクランドそのものが雪の中、静かにねむっているように見えます。
    旅人やアマロが迷わぬように、篝火を焚き、道が凍りついていないか見回る日々の中ふとクリスタリウムを振り返ると、しんしんと雪が蒼い天蓋に降りていく様子が、まるで絵本の中の景色のようで、ふしぎな気持ちになります。
    みな、会話の端々で、この雪景色を公にも見せたいと申しております。そちらでも地方により雪が見られる季節になってきたと、闇の戦士殿が仰っておられました。
    今、公はどのような土地の、どのような街で、どのような空を見ておいでなのでしょう。どうかお身体に気をつけて、睡眠と食事を忘れずに摂ってお過ごしください。
    突然のお便りにも関わらず、長々と失礼いたしました。どうかお元気で。
    ライナ

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    ライナへ
    お手紙をありがとう。その後、変わりなく元気にしているだろうか。と書くそばから、それはこちらの台詞です、お食事はちゃんととっておられますか、という君の声が聞こえてきそうなので、初めに答えておくけれど、私はとても元気だよ。食事も、その、大体は、きちんととっているとも。
    君と、クリスタリウムの皆の健やかさに大きな変わりがないこと、もはや罪喰いに脅かされない街と世界が良き変化を迎えはじめていること、どれも喜ばしく、君の手紙を何度も何度も読み返してはその度に嬉しく、それでも足りない気持ちでまた読み返してしまう。街の様子、みんなと子どもたちの様子を書き送ってくれて、本当にありがとう。
    「カンチュウミマイ(寒さの中と書いてカンチュウなのだそうだ)」を私たちにもたらした親愛なる闇の戦士殿の、特有の愛すべき強引さが発揮された原因の一端は私にあると思うので、このやり取りが君の負担になっていないか、少し心配でもある...。なにしろ会うたびに「ライナは元気だろうか、皆は変わりないか」とついつい訪ねてしまう私のせいで、最近あの人はあいさつより先に皆の様子を教えてくれるようになってしまったので。そんなに気になるなら手紙のやり取りなんかしてみてもいいんじゃないのといつか言っていたことを、あの人は雪を見ながら思い出したに違いない。
    手紙用の紙の件と合わせて伝え聞いたのだが、レイクランドの海藻を使った洗髪用のクリームが作られたらしいね。生き延びることだけを考えていた頃は思いつきもしなかったような、生活をあたためる品が次々に生まれていると聞いて、私がどんなに嬉しく安心したか、きっと君には伝わるのじゃないかと思う。長い防人の番から帰って、やっと身を清めては、水とせっけんできしきしになってしまった髪や耳を少し悲しそうに梳いていた君も、しっかり海藻クリームの恩恵に預かっていますように。まだ自分は贅沢できる立場にない、などと言ってはいけないよ。
    寒くなってきたそちらで、頑張り屋の君が無理をしていないか、いっそう心配している。
    ライナがまだほんの仔うさぎだったころ、水浴びのあとをそれはもう寒がって寒がって、私のローブの裾に耳をしまいにきていたことを思い出してしまう。どうかあたたかくして、夜もしっかり寝具にくるまって眠るようにね。
    これまで、私から便りのひとつも送らずに、すまなく思っている。しかし、いまや原初世界のひとりの冒険者にすぎない私が、こうやって間接的にであってもライナと、クリスタリウムの皆と関わることが、ほんとうによいことなのか、躊躇いを感じてしまう自分がいるのも確かなのだ。臆病な君の祖父を、どうか許してほしい。
    (数行、書き損じを消した跡が残っている)
    どうか君も身体に気をつけて、無理をせずに過ごしてほしい。よい眠りが君の夜を訪いますように。
    追伸 もう一度書くけれど、毛布をもう一枚足すこと!

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    おじいちゃんへ
    小さい頃のことをあまり掘り返して言わないでほしいと常々お伝えしていましたのに、すっかり向こうでお忘れになったようで、私は少々気分を損ねております。
    仮にも衛兵団を預かる身として背筋を正したまま詰め所でお手紙を開きましたら、できれば即刻忘れていただきたい子どものころのことがインクも黒々とかいてあったときの私の気持ちをわかってくれますか?まったく、おじいちゃんのそういうところはそちらで暮らしていても、ちっとも変わっていないようですね。その場にいた闇の戦士殿をひっつかまえてその旨伝えましたところ、「そうかも〜」と仰ってましたよ。
    さて、こちらの冬支度のその後を少しお伝えしたいと思います。
    さらにストーブの台数を増やそうと、ミーン工芸館での製造と合わせてさらに備蓄や倉庫をさらっておりましたら、古い古い書き付けが出てまいりました。油紙でくるまれて保存されたものは、おそらくクリスタリウムがまだ街の姿になる前の...博物陳列館が作られる前、光の氾濫によって季節を失った人々が暖房器具を保存する際に書いたものだということがわかりました。
    クリスタリウムを作った人々が、いつかこの大地が冬を取り戻すときのために残した書き付けは、ストーブの手入れや注意事項だけにとどまらず、冬を健やかに暮らすためのさまざまなことがリストになっていて、非常に役立っています。末尾に記されていたお名前、ハリーン、エクスウィル、ガズ、テギ・レイ、公にとっては、実際にご存じの方々なのではないでしょうか。
    かつて空と天候を失った人々が、後の時代の我々のため、また我々を信じて託してくれたことがわかる書き付けを皆で回し読むたび、何か腹の奥から力が湧いてくるような気持ちになります。
    そして、これが書かれた頃から、これが読まれている今まで、あなたは私たちと共にいてくださったのだと、改めて思います。
    先日のお手紙に書かれてあった、今のお立場からクリスタリウムに関わることへの複雑な思いについて、私も似たことを考えておりました。もちろん、公のそれとまったく同じではないと思うのですが。生まれ育った原初世界への帰還を果たされた公には、「公」ではない人生があり、クリスタリウムに属する私から関わりを持つことで、「水晶公」にあなたを縛ってしまうのではないかと...。おそらく、公もまた、確かに「水晶公」であった自分が私やクリスタリウムに関わることで、これからの変化を縛ってしまうのではないかとお考えなのではないですか。
    そのようなわだかまりが、やはり確かに胸の中にありつつも、その書き付けを見て、何かほぐれていくような気持ちがしたのです。
    あなたはずっとここにいてくださった。この場所で、私たちと共に考え、戦ってくださった。私たちもまた、あなたとずっと共におりました。喧嘩もいたしましたし、仲直りもたくさんしてきました。「ただ世界が分たれているというだけで」(これは闇の戦士殿のお言葉を借りています)それら全てが水に流れてしまうわけではないのです、きっと。
    あなたの関わりが、クリスタリウムの歩く道を縛ってしまいはしないかというご心配については、きっぱり申し上げておきましょう、私たちは大丈夫です。私たち自身の言葉で、頭で、話し合いぶつかりあいながら、進んでいくことができます。そのような街を、あなたと私たちで作ってきたのではないですか。
    冬はいっそう深くなってまいりました。書き付けにもなかったことなのですが、アマロは冬になるといっそうふかふかになるようなのです。ズン族の皆がいうには、羽毛をふくらませて空気の層を作ることで、寒さから身を守っているのではないかということでした。いつも以上にふっくらとしたアマロたちがくっつきあって暖をとる様子が愛らしく、「ふくらアマロ」と呼ばれはじめています。
    同梱した枕は、ふかふかの羽に備えて抜け落ちたアマロの羽毛と、大森林のピナータラベンダーを合わせて詰めた枕です。(医療館の患者用の布団を詰め替え、さらに余ったものですのでご心配なく!) 牧場の手伝いをしていた子どもたちが思いついたものだそうなので、どうか受け取ってくださいね。
    お身体を大切にお過ごしください。
    ライナより

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    ライナへ
    すてきな枕をありがとう。すばらしいもちもちの柔らかさと、ラベンダーの芳香は抗いがたく、ついつい子どもたちの「たくらみ」通り、夜更かしできずに眠ってしまうようになった。夜更けまで本を読んでいると、どこからともなく現れた闇の戦士殿が枕を顔面に押し付けてくるのだ。
    そして、あの...本当にすまなかった...君の怒る声が聞こえてくるようで、しばらく手紙の前は耳を伏せて通るようになってしまったよ。
    もう君が自立した大人であること、誇りを持って職務にあたっていることを、もし軽んじて伝えてしまったのだとしたら、何重にも申し訳ないと思う。私が悪かった。ただただ言い訳になってしまうけれど、君の背筋の伸びた頼もしい姿を見るたび、君の言葉に助けられるたび、あんなにも小さかったライナを思い出してしまうのだ。寒いのも暗いのも苦手で、怖いお話も大の苦手だった小さなライナが、こんなにも頼もしい人になった、その成長と君の努力をとても愛おしく、誇らしく思うがゆえなのだ。
    君にますます怒られそうなので、こちらの近況も少し。妖精王やあの人からも伝えてもらっているとは思うが、君たちの助けも大いにあって、原初世界の存亡をめぐる旅は無事終わった。あまりにもたくさんのことがあって、混み入った話もあって、中途半端に文章にすると君を心配で破裂させてしまいかねないので、とにかく、私も、あの人も、サンクレッドやウリエンジェ、ヤ・シュトラとルヴェユール兄妹も、みんな極めて元気にしていると伝えよう。
    君たちと共にクリスタリウムで過ごした100年、あまりにも多くを見て、失い、また得て……私は傲慢にも、もう世の中のだいたいの物事を見尽くした気になっていたのだが、この旅を通して一生懸命に走り回っているうち、とんでもない遠くまで足を運び、見たこともないものをたくさん見たよ。言葉にして書くと嘘のようだけど、私たちは天の暗き海のその先にまで旅をした。あの人は、はるか過去の世界へ時を超え、また帰ってきた。クリスタリウムに、時に(なつかしい)深慮の間に引きこもっては君を呆れさせていた私にとって、実に革命的な変化だと思わないか? 
    君が書いてくれたとおり、私にとっての第一世界の皆々も、クリスタリウムにとっての私も、お互いを縛るものではないのかもしれないね。だって、私は今、ものすごくわくわくしていて、何もかもを知りたくなっていて、どこへでも行きたくなってしまっているのだから。その歩みを、君たちと過ごした大切な時間が後押ししてくれたり、助けてくれることばかりなのだから。
    君たちにとっての私との思い出も、そのようであってくれれば、これ以上の喜びはない。
    今、海にほど近いリムサ・ロミンサという街の宿屋でこれを書いている。こちらにも初雪がちらつき、街のそこここに冬の祭りの飾りが出始めているようだ。荒っぽい船乗りたちの荷下ろしの掛け声もどこか浮かれていて、そう!こちらの騎乗鳥であるチョコボたちも、よくよく見るとすこしふっくらしてきているようだよ。
    こちらで何かおいしいものを食べるたび、君にも食べさせてあげたいと思う。つい、第一世界の食材であればどのように作れるか、考えだしている自分がいるのだ。
    大好きなライナ。君と同じ空を、いつかきっとまた見る日が来ると信じている。どうか身体を大切に、あたたかくしてよく眠っておくれ。
    また手紙を送ってくれたら、とても嬉しい。
    君のおじいちゃんより

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    初めての冬を迎えたクリスタリウム、ムジカ・ユニバーサリスの一際目立つ掲示板に、2枚の紙片が掲示されている。
    一枚は、光の氾濫を生き延びた百年前の人々が、いつかまた来る冬を願って書き記した暮らしの知識。
    もう一枚は、記名こそないものの、皆よくよく知る流麗で優しい筆跡で、大きく読みやすく、子どもたちに向け、さむい季節を楽しく元気に過ごすためのさまざまが書き連ねてあった。
    これらの書き付けは、時にどんな暖房器具よりもクリスタリウムの人々の、子どもたちの胸をあたためた。まるで温もりを求めるように、朝に夕に、その掲示板の前にはいつまでも人が絶えなかった。
    Hatake_ager Link Message Mute
    2023/12/16 17:35:17

    はつゆき見舞い

    パッチ6.0後&レイドシリーズエデン後。
    「冬」を経験するクリスタリウムと、ライナと公が文通するお話です。リクエストをいただいて書きました!素敵なお題をありがとうございました。
    表紙画像に使用しているゲーム内スクリーンショット:© SQUARE ENIX
    #FF14 #水晶公 #ライナ #クリスタリウム

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    • こうかんにっき #すずめの戸締まり  #宗像草太  #芹澤朋也
      草太と芹澤の大学生活でのできごといくつかの二次創作です。明確な関係性はありませんが、なんで泣いてるのと聞かれ答えれる涙なんかじゃ表せない出会いも、誰かの手に触れた時にだけ震える心も、異性間だけのものじゃないし、恋愛だけのものじゃないと思って書きました。
      Hatake_ager
    • 【WEB再録】陽だまりの竜詩2023年発行「FF14めしアンソロ アーテリスダイニングでいただきます。」に寄稿した小品です。
      竜詩戦争後、ドラヴァニア雲海での炊き出しのお話です。
      寒い季節に読んでいただくと野菜たっぷりのシチューが食べたくなる内容をめざして書いた記憶があります。
      ※大きな展開のネタバレ等はありませんが、時系列としてはパッチ3シリーズおよびモーグリ族友好部族クエスト進行中〜終了後をイメージしています。
      ©︎ SQUARE ENIX
      #FF14 #イシュガルド
      Hatake_ager
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