「私は此処を離れることは出来ません。」
娘は弥助の手をそっと離すと頭を下げた。
「弥助様、どうかこのことはお忘れ下さい。私は此処でしか生きられないのです。」
暗いくらい座敷牢の中、弥助はそれでも納得がいかなかった。
「そんなはずは無いだろう?さぁ、私と一緒に此処を出よう。私の里で生きればいい。」
「いいえ、出来ないのです。」
娘はもう一度そう言うと、何かを決心したかの様に顔を上げ、そっと両の手で重く目までかかっていた前髪を左右に分けた。弥助は不思議そうにそれを見ていたが、やがてその額に異様なモノがあるのに気付いた。
「私は鬼子なのです。失せモノ探しの才が無ければ殺されていた忌み子なのです。」
あったのは正しく人の目だった。人の顔についている両の目と同じように三つめの目が額の真ん中についていた。
「弥助様、どうかどうか私の事はお忘れ下さい。」
唖然とする弥助を前に娘は気丈に言った。