「行かないでくれよ・・・」
ベッドから出ようとして、後ろから抱きとめられた。
古いベッドがギィっと鳴る。
「水を取って来るだけ。飲むでしょ?」
本当はそのまま姿でも消そうかと思った。
毎度毎度、彼はぐずる。面倒臭い訳じゃないが予定が狂わされるのが好きじゃない。
特別重要な事でも、急ぐ用事でも無いのだが思い道理に事が進まないのがどうも慣れない。
「・・・」
彼はそのまま私の背中に顔を埋めた。腹に回された腕に一層力がかかる。
「煙草、危ないでしょ?」
煙を天井に吹きながら言う。それでも離してはくれない。布団から足を出しベッドに座り直す。多分、後数十分はこのままだろう。
「今日はね3人殺すわ。」
灰をそのまま床に落とす。灰皿はいつも無くなっている。
二本目の煙草は無い。丁度最後の一本だった。