第七話 第五節「揺れる霧 ― 選択の時」(後半)
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霧が、ふたたび深まっていた。
神社の境内での静かな対話を経て、剣之介は再び山道を下っていた。
だがその足取りは、先ほどまでとは違っていた。重くはない。だが、軽くもない。
——確かに、“選んだ者”の足取りだった。
剣を抜くこと。
その意味を、問い続けること。
今、その問いが剣之介の胸の内で明確な輪郭を持ちはじめていた。
山の麓、村の広場へと戻ると、トウマが何やら端末と格闘していた。
「……通信、通らないか?」
剣之介の声に、トウマは顔を上げて片眉を上げた。
「剣之介。おかえり。いや、問題はない。ナギサが警戒班と情報を繋いでくれてる。
……だが、霧の密度が上がってる。白霞石の共鳴も、わずかに振れてるらしい。」
剣之介は静かに頷き、空を仰いだ。
「“あれ”は……こちらの動きを、見ているのかもしれないな。」
「“あれ”?」
「白霞石……あるいは、その奥に眠る“何か”だ。」
その言葉に、トウマが真顔になる。
「お前……何か、見たのか?」
剣之介は、かすかに首を横に振った。
「いや……まだ“感じただけ”だ。だが、このままではいられない。
あの砲台がまた動き出す前に、もう一度——行かねばならない場所がある。」
「……一人で行くつもりか?」
剣之介は静かに剣に手を添えた。
「これは俺の剣の問題だ。だが、ここで決着をつけなければ、皆を巻き込む。」
「……わかった。俺はお前の剣を信じるよ。」
そう言って、トウマは剣之介の手に、ひとつの小型装置を握らせた。
「これは“ノイズ転送弾”だ。白霞石の共鳴域を一時的に乱せる。……お前が選ぶタイミングで使え。」
剣之介は受け取り、無言のまま深く頷いた。
そのとき、遠くの山のほうから、雷のような微かな音が届いた。
まるで何かが再び目覚めようとしているような、重くくぐもった“予兆”。
「……来るな。」
トウマが呟く。
「来るさ。」
剣之介の声は、もう迷いの影を残していなかった。
「だが、その時までに俺たちは……準備を終える。」
霧の中、剣之介の姿がふたたび霞んでいく。
その背中を、トウマはただ見送っていた。
この剣は、何を守り、何を斬るのか——
剣の答えが、今、霧の境界に浮かび上がりはじめていた。
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