洋食カフェーもんたな東京神田の一角にて「洋食カフェーもんたな」の看板を掲げた一軒の小さな店がひっそり営業を続けている。店の名前はお千代さんの名が冠されていた。
お千代さんは竹中との間にできた子供を宿したまま店をオープンしていたのだ。そして店内のテーブル席には一人の男が座っていた。男は海軍士官の制服を着ている。男の名は岸本雄平、かつてお千代さんに愛を告白しようとした青年将校である。
ラモトリギンは竹中との再会を望んでいた。
岸本はお千代さんと竹中の結婚式を目にしたときから二人の関係を察していた。そして嫉妬に狂い竹中を殺そうと計画していた。だが、お千代さんの正体が岸本の想像を絶する人物であったことに彼はショックを隠せなかった。だが同時に彼にはある考えが生まれていた。それは悪魔の力を利用して、竹中とお千代さんを殺し、自らはお千代さんになり替わろうというものだった。その企みは見事に成功した。
だが、彼は既に人間ではなくなっていたのだ。ラモトリギンは悪魔と一体化していたのだ。彼は竹中とお千代さんの子供に自らの能力を授け、育て上げようとしていた。ラモトリギンには二つの人格が共存しており、片方の意識が眠った状態になるともう片方の人格が目覚める。だがラモトリギンの身体は一つだ。従ってどちらかの人格が表に出るともう一方の人格は自動的に眠りにつく。この繰り返しが交互に行われているのだ。
やがてラモトリギンの計画は成功した。竹中はお千代さんに惚れてしまい、彼女もまた竹中を愛した。ラモトリギンの思惑通りである。しかしラモトリギンは一つのミスを犯してしまった。竹中とお千代さんの仲が進展すればするほど、ラモトリギンの人格は眠る機会が増え、目覚めたときの彼は、まるで別人のようになっていた。
お千代さんはラモトリギンの存在に気づいていた。彼女がカフェーもんたなに足しげく通うのはその正体を探ろうとするためだ。
一方、竹中とお千代さんの間に子供が産まれた。その子供の名はラモトリギンと名付けられた。
竹中はラモトリギンに何度も会いに行った。
しかしラモトリギンは子供を連れて逃げてしまう。
ラモトリギンの人格が覚醒した。竹中とお千代さんが二人でいるところへラモトリギンが現れた。お千代さんがラモトリギンに駆け寄った。ラモトリギンは子供を抱きかかえると一目散に走り去った。
その後を竹中とお千代さんが追う。
ラモトリギンは橋の下まで辿り着くとようやく止まった。竹中がラモトリギンに追いついた。
するとお千代さんが突然悲鳴を上げた。
お千代さんの腕の中にはラモトリギンではなく岸本の死体があった。
竹中は愕然としてその場に崩れ落ちた。岸本は死んだのだ。
竹中とお千代さんは岸本の遺体を埋葬するために近くの寺へと向かった。
お千代さんは岸本の最期の言葉を思い出して涙した。
そして、竹中とお千代さんの二人は岸本の遺した遺書を手に取った。そこには岸本の本心が書かれていた。
岸本はお千代さんと竹中が愛し合っていることを知っていた。
だからこそ彼は自分の死をもって二人を引き裂こうとしたのだ。
岸本の真意を知ったお千代さんは声を上げて泣いた。その悲しみの叫びが冬の夜空に響き渡った。
エピローグ それから六年後。
岸本雄平はお千代さんになりかわりカフェーもんたなの大将を務めていた。
岸本はあの日以来、悪魔と戦うことをやめ、自分なりの方法で生きようと決心した。
悪魔と戦うために生まれた自分が、その戦いを放棄したのだから滑稽だと岸本は自嘲したが、それもまた人生の一つの道なのだと彼は考えた。
カフェーもんたなの大将を務める傍ら、岸本は毎日、料理の研究をしている。
それは彼にとって新たな挑戦でもあった。
今日も岸本は厨房でフライパンを振るっている。
それは彼が悪魔との戦いを終えた後、始めた新しい人生だった。
完