おはようの話遠くで砂嵐が起きている様だ
それに良く乾燥した古い木同士を打ち付けた様な、軽くて繊細な音がする
「………………」
起き上がってみると砂がパラパラと落ちる。
ひんやりと芯に刺さるような冷気が身体に入ってきた。
どうやら夜の様だ。
ボクは、死んだ。
ミイラに加工され、長い間眠っていた。
でも、それを途中で妨げられた様で。
盗掘、という言葉が頭に浮かぶ。
だが、その盗掘団は砂嵐に鉢合わせてしまったらしい。
ボクの棺桶だったらしい瓦礫や埋葬品が、あちらこちらに散らばっている。
辺りを見回すと、木片や瓦礫に混じり、紅く反射する何かが見えた。
よく目を凝らしてみるとどこと無く見覚えがある杖が転がっている。
紅い反射は杖に付いている宝石によるものだった。
手に取ろうと腕を伸ばすが、右手が動かない。
砂嵐から投げ出された時に、折れてしまったのだろうか
「……ッ」
脳にモヤがかかっているかの様で、脚も上手く動かせない。
左手と体を使って杖に這い寄った。
杖は奇跡的に何処も折れては居なかった。
――よかった。
ミイラになる以前の記憶は墨に塗りたくられたかのように何も解らない。
ただ、これはボクが大事にしていた物だとは解る。
ボクの記憶の様に真っ黒に染まった杖を強く握りしめた。
「う゛ぅ……」
近場の砂からうめき声が上がった。
……人だ。
それも恐らく、ボクを盗んだ盗賊。
腕や脚は、嫌な方向に曲がり、呼吸音もおかしい。
可哀相だけども、この人は助からない。
どうせ魂は冥界にいってしまうのだ。
生きているうちに肉体はボクが貰おう。
地面に強く杖を突き刺す。
魔力を帯びて杖が怪しく紫色に光る。
「キュウウウウッ!!」
盗賊の身体から光りを帯びたエネルギーの粒子が引っ張り出され、ボクの身体の中に入っていく。
「………ッ」
盗賊は、ゆっくりと目を閉じた。
おやすみなさい。
右手を動かしてみる。動く。
立ち上がってみる。立てる。
頭がちょっとクラクラする気がするけど、多分暫くすれば落ち着く。
「…フゥ」
改めて辺りを見回す。
遠くの方は所々山になったり窪んだり、時折大きな骨が落ちてはいるが、基本的に砂しかない。
カコーン……とまた繊細な音がした。
金色の骨の竜が、頭上をゆっくりと飛んでゆく。
古い木の音に感じた物は彼の鳴き声だったようだ。
……何かが、足りない。
首の回りが、スースーする気がする。
砂嵐に奪われたのだろうか、それとも盗賊の誰かに既に取られてしまったのだろうか。
よく解らないけれども、とても大事なものだった気がする。
代わりに、ひらひらと余っていた包帯を首に巻き付けた。
大事なものだもの、見付けよう
こんな何も無い砂縛をあても無く生きるより、目標がある方がよっぽど良いだろうし。
何年ぶりだか解らない懐かしい世界。
ボクは今回はゆっくり歩こうと思った。