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    ジャリ妄想 殺気、前方の路地裏に一つ、左右の建物の上階に二つずつ。廃屋のような建物ばかりが雑然と並ぶ生気の少ないスラムの通りを歩きながら、気配を慎重に探った。
     俺を消すつもりなら随分と雑な連中だと思うが、ただの物取りにしては物騒だ。大方この辺りのゴロツキを陽動として雇い、本命は上手く隠れてこちらを仕留めようとしているのだろう。それらしい、隠された気配は背後にあった。こちらが気付いたことに気付かせないよう、すぐに他へと意識を散らす。まったく面倒なことだと肩をすくめつつも、相手の出方を伺った。
     前方の路地から影が飛び出してきたのを視認した瞬間、こちらも銃に手をかけた。飛び出て来た影は俺とあまり年の変わらないくらいの子供で、そんなことで動揺を誘うつもりだったのだろうかと、そこまで考えるのに一瞬もかからない。
     だが、俺が銃を構えるより先に、視線の先の子供が持つ銃と目が合った。照準はピタリと俺の眉間に合わされている。その構えが、あまりにも速い。死ぬ。それを覚悟しながら、しかしただで死んでやるものかと、銃口を向けるだけ向けて狙い定めることなく引き金を引いた。
     結果的に、俺は死ななかった。
     目の前の子供は倒れ、次いで左右の建物から何発もの弾丸が飛んできた。死の覚悟から速やかに頭を切り替えて対応する。はっきり言ってコイツらは大変な下手くそだ。俺が子供に目を奪われている間に撃てばいいものを、そのタイミングを計るのも下手だし、銃だってデタラメに数を撃って当たるのを待っているだけだ。相手にするだけ無駄だと思って、適当に逃げ回りながら背後にいた本物の刺客に注意を向けた。奴は恐らくタイミングを見誤ることなく、俺が左右の連中の相手をした瞬間を狙うだろう。銃をオモチャと持ち換えて建物に向け、本物の銃は裾で隠しつつ背後の本物へ向け、一発、二発。
     ようやく後ろを振り返り確認すれば、倒れて血を流す男の姿が見て取れた。そうなれば残りはゴミ掃除のようなものだ。喧しい銃声は五分と経たず静かになった。
     ふっ、と息を漏らして、震えそうになる身体を叱咤した。警戒を怠らず、前を見据えて歩いて約六十歩。目的である子供は仰向けに倒れ、何分か前まで俺に突き付けていた銃を手放して気絶していた。前髪が長いせいで顔はよく見えない。俺が撃った弾は肩を掠めたらしく、汚れた上着に血が滲んでいた。
     子供の手から離れ放り出された銃を拾いよく見ると、整備が悪いのか自動拳銃は弾が詰まっていた。このお陰で俺は命拾いした訳だ、と幾分つまらない気持ちで、命の恩人であるところの銃を放り捨てた。そうしてまた、倒れた子供に目を向けた。
     刺客にしては気配を殺すのが下手過ぎた。左右の建物に陣取ったゴロツキ連中に、捨て駒にされたのであろうことは容易に想像がつく。だが、ここらのスラムに捨てられただけの子供にしては、銃の扱い方が尋常でない。それなりに訓練した俺よりも、速い。死を覚悟したあの一瞬は、確実に俺の明暗を分けた。
     それは、才能と呼ばれるものだろう。
    「欲しいな……」
     聞く者のない通りの中で、素直にそう口にした。欲しい。マトモな銃を持たせて、俺の隣に立たせたら。俺の障害になるものを俺自身でわざわざ消してから進むより、コイツに俺の傍らを預けて俺の障害を消させながら進んだら、俺はその間にどんなことが出来るだろう。何でも出来る。そんな気がした。
     子供の横に座り込んでしばらく待ってみても、なかなか目を覚ますことはなかった。気の長い方ではない俺は痺れを切らして、弾がかすっていた肩を思い切り握ってやった。
    「ひぇ……!?」
     間抜けな声を上げて痛みに覚醒した子供は、前髪の隙間から覗く目をまん丸にしてさ迷わせた後、俺の手がもたらす痛覚から逃れようと身を捩った。どうやら俺を襲ったことについて罪悪感はあるらしく「ごめんなさい」と言いながら手足をバタつかせていた。あまり暴れるようなら絞め落とした方が早いかと思ったが、あまり力が入っていないようだったから肩を拘束するだけに留め、「動くな」と言えば抵抗も弱まった。
    「ご、ごめんなさい……」
     涙声で謝罪を言い募る子供は、このまま殺されるとでも思っているのかもしれない。殺さないでやるから付いて来いとでも言えば来るだろうが、スマートじゃない。
    「……とりあえずまだ殺しはしねぇよ。場合によるがな。ナァお前、俺を襲った理由は何だい? 金か? 脅されたか?」
     こんな弱っちい子供がコロシに関わりそうな、それらしい理由を幾つか並べてやれば、ひぃ、とまた情けない声を上げて俺を見上げてきた。そこでようやく目が合った。真っ黒な、澄んでいるのに底の見えない、海の底のような目をしていた。
    「あ、の、脅されて……」
     妹が人質に、と、段々小さくなる声で聞き取れたのはそこまでだった。ふぅん、と相槌を打ちながら、居心地悪そうに身動ぎする子供をじっと観察した。先程まで怯えるばかりだった彼は、今は不安そうな沈んだ顔をしている。妹のことを思い出してその身を案じているようだった。
     人質なんて取ってもさっさと見捨てる人間だっているし、当の人質も傷つけて殺してしまえば意味がなくなるから扱いが厄介だ。あまり有効な手段とは思っていなかったが、なるほどこの子供にとって、その妹とやらはかなり大きな存在であるらしい。自らの身を捨ててまで、その存在のために動こうとするのなら。
    「人質ねぇ……その妹、助けたいか?」
    「そりゃあ……もちろん……!」
     必死な顔で、声で、俺を見た。自分が殺されるかもしれないという時よりも、余程強い意識のある目をしていた。
    「そりゃ好都合だ」
    「えっ?」
    「助けたいなら、あんな連中に従うんじゃねぇよ。どうせ殺されるぜ、お前も、妹も」
     実際、コイツが本当に何の才能もないただの子供だったら死んでいたし、そのあと不要になった妹は殺されるか、どこかに売られでもして死ぬより酷い目に合うだろう。そういう可能性を想像できなかった子供は、俺の言葉を聞いて顔色を悪くした。
    「だからよ、どんな手を使っても取り返すんだ。俺流に言うなら、盗むんだ。ヤツらが手に入れたと思い込んでるモノをな」
    「盗む?」
     脅しは軽くでも十分だ。コイツの性質なら、その妹とやらを救ってやって、恩の一つも売っておけば手に入れることができるだろう。幸い、そういうことは俺の得意分野だ。他人のモノを盗むのは。
     丸っきりの打算で、俺は未だ倒れている子供の手を取って立ち上がらせた。
    「俺はルパン、由緒正しい泥棒の三代目だ。お前が望むなら、妹を盗み返す手伝いをしてやるよ」
     骨の浮いた細い腕を掴んで不敵に笑えば、目の前の顔からは不安は消えて、代わりに黒々と瞳を輝かせていた。
     子供は自分のことをダイスケと名乗った。ファミリーネームは覚えていないらしい。気が付いたらこの町に捨てられていて、だからこの町の地理はだいたい分かるという。そんな話を、ダイスケを使っていた連中が根城にしているという建物を目指しながら聞いた。俺は特に感想もなく、ふうん、と思っていた。
     連中の根城は、ここまで通ってきた道にいくらでもあるような古びた建物だった。元は店舗やアパートではなく会社の事務所でも入っていたと思われる、三階建てのビルディング。通りに面した小さい窓からちらりと中を覗くと、何人かが暇そうに駄弁っているのが見えた。ダイスケの妹は、というと恐らく捕まっているのは二階か三階だろうと、隣の建物に入って窓から様子を伺った。
    「……いた! こっち!」
     小声で叫んだダイスケは、窓から身を乗り出しそうなほど、向こうの建物の妹がいる部屋を凝視していた。それを落ち着かせて、俺もダイスケが指した部屋の様子を確認する。倒れた女の子の足下が見える。見張りは一人、こちらも大層暇そうだ。この程度ならすぐ片がつく。銃の弾を手早く入れ替えて、ダイスケに手渡した。
    「下の階のやつらに気付かれると面倒だから、音が小さいオモチャの銃を使う。中の弾は麻痺毒だ、当たったところから効いてくる。声と動きを封じるために、口か首周りと足を狙え。威力はないから割れてる窓ガラスの隙間からだ」
    「俺が、撃つのか……?」
    「そうだ、お前が撃ったら俺は窓から向こうに飛び移ってお前の妹を回収する。合図で撃て」
     幸いこちらの窓は開けっ放しだし、向こうの窓は割れている。建物の間は二メートルもないくらいだから、渡れなくはないだろう。割れたガラスで怪我などしたくないので手袋をはめながら、動きを考えた。
     全て予定通りになることなどまずない。予定通りとは、あらゆる可能性を吟味して全てに対策ができて初めてなるものだ。今も、こんな場当たりなところで思い付く限りの可能性に対策を考えている。それでも不思議と、ダイスケが外す可能性は考えなかった。
     ダイスケは、そうでもなかったようだったが。
    「何だヨ、俺を狙ったときはもっとシャンとしてたろ」
     小さく震えている肩を叩くと、彼は何とも言えない顔を俺に向けてきた。どうして俺が撃つのか、どうして俺を助けるのか、今さら色んな疑問を飲み込んで、やるしかないと決意で覆い隠した顔。
     合図と同時に、背後でプラスチックの軽い音が二回鳴った。目標である見張りの男の首と足の露出した部分に一発ずつ、こんな状況でなければ口笛で囃してやったかもしれない。男は呻きもがいて倒れ、辺りを見回した。窓を飛び越えて部屋に入った俺と目が合ったが、次の瞬間には頭を蹴り倒してやった。
     思ったより大きな音が立ってしまい、慌てて人質の回収に移った。その子はダイスケよりも身体が小さく、頭から上半身までズタ袋を被せられていた。気絶しているのか抵抗する気もないのか、抱え上げても身動ぎするだけで暴れることはなかった。もっと暴れるかと身構えていただけに、簡単に手にすることができて拍子抜けだった。それに、耳を澄ませてみても下階からこの部屋の異変に気付いて動く様子がないのも。案外つまらなかったなぁと思いながら、ダイスケの待つ建物の方に戻った。
     俺を出迎えたダイスケは、オモチャの銃を手に興奮したように顔が赤かった。目も少し潤んでいる。それを見て、思わず口角が上がった。簡単な仕事だったがダイスケの腕を確認するには良かったし、彼は期待通り、いやそれ以上の腕だった。それでいて素直に顔に出るところが可愛い。まぁ、実際のところ顔に出るのは稼業としてはいただけないが。
     ダイスケは俺が抱えて来た子供を受け取って抱え、被せられたズタ袋をほどいてやった。中から出てきたのは、ダイスケと同じようなボロボロの服を着た少女。目を引いたのは、そのくすんだ金色の髪だった。息はしているが血の気のない真っ白の顔は幼いながら彫りが深く、コーカソイドの血が強い容姿だった。ダイスケは黒髪黒目に黄色味がある肌のモンゴロイド系で、全くといっていいほど似ていなかった。まさか別人を連れて来たかとダイスケを見たが、少女を見て安心したようにだらしなく口の端を上げているのを見て、納得はいかないが、彼が妹と呼ぶ子供であることだけは分かった。
     さて、ダイスケ達を捕まえていた連中の根城の近場で、のんびりしているのも危険だ。いつ少女が捕らわれていた部屋の異変に気付かれるか知れない。盗み終えたら、速やかに逃げる。泥棒の基本だ。未だ目を覚まさない妹はダイスケが背負って、俺達は兄妹が住んでいた場所へ移動した。
     ダイスケが先導して辿り着いたのは、これまた古びた廃屋と呼んで差し支えないようなのアパートの一室だった。移動中に目を覚ました彼の妹は、兄に抱きついたまま、こちらを睨んで警戒を解かなかった。ダイスケが「この人が助けてくれたんだ」と言っても、さらに強い力でしがみついている。怯えているというよりは、兄を守っているといった雰囲気だ。
    「そもそも、その子は言葉が分かるのか?」
    「あ、えっと……実は……」
     彼ら兄妹の血は繋がっていないような気はした。あるとすればだが、戸籍上も兄妹などという関係ではないのだろう。こんな場所なら、孤児同士助け合って生きていくことにならざるをえないし、助け合うなら家族と呼ぶこともある。彼らの兄妹関係とは、そういうものだと理解した。言葉が分からず、身振り手振りで意思疎通をはからないといけない家族というのは、かなり非効率だが。
    「あー、俺の言葉は分かるか?」
     いくつかの言語で同じことを聞くと、フランス語で反応があった。それならと、フランス語でそのまま話を続けた。
    「俺はソイツを手伝って、お前を助けてやっただけだよ」
     ソイツ、とダイスケを指しながら、ゆっくりと噛んで含めるように言うと、彼女は少女らしい高い声で答えた。
    「……お兄ちゃんは、あいつらに子供を殺したら私を返すって言われてた。子供って貴方のことじゃないの? 殺そうとしたはずなのに、どうして私達を助けるの?」
     賢い子だ。冷静だし、情報と状況からの判断力は高い。少なくとも、妹を助けることに囚われて、俺のようなよく分からない子供の手を借りるダイスケよりは、余程しっかりしている。ダイスケは連れていくとして妹とやらはどうするか考えていたが、彼女も一緒に連れていく分には及第点だ。
     まるで小姑付きの嫁を貰うような気分で、気分のままそれを口にした。
    「なぁに、俺はお前の兄ちゃんに惚れちまったのサ」
    「なんですって?」
    「ダイスケには、俺と一緒に来てもらいたい、だから助けたんだ。せっかく助かったんだ、お前も一緒ならなおいい。ダイスケもその方が寂しくないだろうしな」
     少女はダイスケを抱きしめる腕にさらに力を込めて、ますます俺を睨んでくる。警戒されているのは面倒だが、せいぜい子犬が毛を逆立てている程度のもの、何とでもなる。この場で圧倒的に有利なのは二人の言葉が分かる俺だ。
    「何を話してんだ?」
     言葉が分からないダイスケは蚊帳の外、困った顔で俺と妹を交互に見た。彼には妹と違い、俺に対する警戒心がまるでない。妹を助けたことで義理を感じて警戒を解いた彼を懐柔するのはきっとそれほど難しくないし、兄が説得すれば頑なになっている妹もそれほど時間をかけずに落ちるだろう。無理ならダイスケだけ連れて行ってもいいが、こんな場所に妹一人残して行くことを良しとしないだろうから、もはや二人を連れて帰ることは俺の中で確定だ。
     そこまで考えてから、俺は笑顔でダイスケに向かって話しかけた。
    「ポチか。アイツの様子はどうだい?」
     振り返って呼びかけると、柱の影と同化していた男が顔を出した。黒いスーツに黒い髪の若い男は、帝国の中でも腕のいい、親父の猟犬だった。名前は知らない。聞いた気はするが覚えてないから、犬だしポチでいいかとそう呼んでいる。彼もそう呼ばれることに別段否はないようで、呼びかければちゃんと応えていた。
     そのポチが硬い声で呟くように俺に報告する。拳銃の腕は着実に上がっている、最近ではライフルやら大型の武器やらにも興味を示しているから、いずれやらせてやろうと思っている。そんな内容の報告を聞いて、俺は目を細めた。
    「フーン。まぁ好きなことやらせてやりゃいいさ。向かなかったら止めさせればいいし」
     これがいったい何の報告かというと、簡単に言えば俺が拾ってきた子犬の、躾の経過報告だ。
     俺が拾ってきた子犬の兄妹は、当然俺が育てるというわけがないから、コイツの家族に預けていた。書類上は彼の親の養子に入り、ポチと子犬二匹で三兄弟ということになる。そうやって引き入れた子犬の躾を、彼を中心として彼の家の人間に任せることになっていた。
     主に子犬の兄の方はコイツに狩りのやり方、銃器の扱いを教えさせている。俺が見ても分かった通り、彼には拳銃の扱いの才能があった。今は身体も手も小さく大した銃も扱えないが、成長すればその腕だけで食って行けるのは間違いないと報告されていた。そりゃあ、俺が俺の隣に欲しいと思ってわざわざ手に入れたのだ、世界一のガンマンくらいにはなってもらわなくては。
     妹は兄のオマケ程度にしか思っていなかったから積極的に何か仕込もうとは思っていなかったが、彼の母親が諜報の基礎なんかを仕込んでいると報告を受けていた。まぁ、そちらは最終的に俺の役に立つなら好きにすればいいと思っている。
     それにしても、あの子犬が銃の他にも興味を持つものがあるなら、色々と教えてやるのもいいだろう。何でもできるようになるなら、それに越したことはない。何せいずれ何でもできる『ルパン三世』の隣に立つことになるのだから。
     そうやって報告を聞いて考えを巡らせていると、ルパン、と呼ぶ少年の声が聞こえた。この国の中で俺を『ルパン』と呼ぶ人間はただ一人、先ほど報告に上がっていた子犬だけだ。声のした方に目を向けると、まさしく目一杯尻尾を振っている子犬のような少年が走ってきた。
    「あれ、兄貴もルパンに用事だったのか?」
     少年は一直線に俺に向かって来るものと思っていたが、そこに自分の兄の存在を認めると、兄の傍に立ち止まって見上げた。彼の兄であるポチは、もう報告は終わったからと言って少年の頭に触れる程度に撫でる。少年は、そんな微かに触れたものでも、頭を撫でられて嬉しそうに笑っていた。ポチの声もまた報告している間の硬質な感じとは違い、優しく柔らかいものだった。どうやら、ただ教えを乞い乞われ報告対象として見るだけでなく、兄弟間の仲は良好らしい。それ自体は悪いことではないが、何となく面白くない気もした。
     ポチが俺に頭を下げて去ると、その弟である子犬はようやく俺の傍までやってきた。目を輝かせて、今日は何して遊ぶ? と訴えている。やはり子犬のような素直さが見えて、思わず笑ってしまった。
    「次元」
     先ほど面白くないと感じたことと今笑ったのをごまかすために子犬のことを呼んで、量感のある頭を両手で掴んで乱暴に撫で回した。わぁ、と驚いて上げる声は、それでもこれが遊びの一環だと思っているのか、どこか嬉しそうだった。
     『次元』と呼んで欲しい、と言い出したのはこの子犬からだった。『次元大介』。それが今の彼の名だ。
     彼は犬や野生の狼と同じで、群れを大切にする気質があるらしかった。血の繋がりが全くない作られた家族でも、家族ができたことを喜んで、本当の家族のように敬い大事にする。そんな彼の家の名が、自分のものであることが嬉しいのだ。……それに、『大介』が本当は自分の名前ではないのだということも、聞いた。
     だからという訳でもないが、次元にも俺のことを『ルパン』と呼ばせている。彼にだけは最初にそう名乗り、そう呼ぶことを許した。俺はまだその名を継いではいないから大抵の人間は三世と呼ぶし、次元がそう呼ぶことであまりいい顔をしない連中も多いが、俺も次元もそんなものは気にしないタチだ。この子犬の神経は俺が考えているよりもかなり図太い。
     撫でていた髪は乱れてかなり絡まってしまったので、今度は手櫛で簡単に整え直してやった。それから前髪を後ろに撫で付け固定して、あらわになった黒い目と自分の目を合わせると、キョトンと丸っこい目は途端にへらりと細くなった。柔らかい餅のように簡単に表情を変えるヤツだ。
    「今日は……そうだな、俺の部屋で一緒に図鑑でも見ようか」
     色んなものを見せてやろう。お前は何に興味を持つだろうか。気になったものはやらせてやろう。好きなものは与えてやろう。これからもお前がずっと俺の傍にいるのなら、何だって。そう思うことが何を意味するのか、俺はまだよく分かっていなかった。
     行こうぜ、と言って手を引いてやれば、次元は満面の笑みで頷いて俺の後をついて歩きだした。
    くさか@418 Link Message Mute
    2019/01/09 22:39:39

    ジャリ妄想

    #腐向け #ル次 ##原作 #続きもの

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