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    聖夜に祝福を。 Re:plicareのゲリラライヴの発表は12月25日、クリスマスイブからクリスマスへと移り変わった瞬間、唐突に発表された。会場情報は告知映像内で法則性もなく記される文字列や記号。それらの暗号を解読できた者のみが会場を特定できて訪れることが可能となっており、参加費用は発生しないフリーライヴである。前々からもっと近距離でファンと共に過ごしてみたい、と。ぽつりとこぼしたイヴの願いを歌姫に対しては底なしに甘いアダムが叶えたという形である。とは云えども暗号の難易度は会場の収容定員を越えないために敢えて高難易度に設定されており、謎を解いて加えて現地まで赴こうと行動する人物は如何程であろうか。否、そんな心配は不要である。いつもより遥かに小さな会場、教会にて開催されるゲリラライヴとなれば謎を解いた者は好奇心を擽られて必ずやってくると確信があった。アダムは元々吸血鬼であると素性が明かされているものの、イヴは正体所か名前と姿のみの情報以外はすべて非公開ではあるけれど、その実は淫魔である。魔の者たちが聖夜に教会にて神の子の聖誕を祝福するということも一興であろう。仮想配信は勿論のこと、映像としても残されない夢幻のような一夜の限定ライヴ故にできる試みとして、兼ねてよりアダムの指導を受けてピアノの鍛錬を重ねていたイヴによる弾き語りという貴重な要素も含まれていた。

     謎を提示したアダムの目論見通り、会場や開催時刻について散りばめられた謎を解いた者は教会を程よく埋める人数であった。正解を導き出した者が承認欲求を満たすために情報を晒すという危惧もなかった訳ではないけれど、そこは人間の性である。正解を知る者は会場が小さな教会であることを知っている。迂闊に情報を流してしまうことにより折角得られた参加資格を易々と他人へ与えることなど誰一人としてしなかった。普段は何万人も収容できる巨大な会場でライヴを行っており、そうなると当然ファンとの距離は遠くなる。選ばれし者のみがRe:plicareと密会のようにひっそりと限られた時間を共に過ごせるという特別感は、聖夜の奇跡とでも呼称できるであろうか。

     煌々と光に溢れていた教会が薄闇に包まれると共にざわめきはぴたりと止んで静寂が訪れて教会という清廉な場所が持つ厳かな雰囲気が際立つ。
     「……こんばんは。Re:plicareのイヴです。シークレットライヴへようこそ」
     闇の中で自ら光を放つような純白のドレスを纏った歌姫が姿を現す。頭にも白いヴェールを被りその素顔を遮るものとなっているけれど、しっとりと艶を含んだ濡れ羽色の長い髪とドレスと長い手袋から僅かに覗く透き通るような素肌とのコントラストは眼を惹いた。しかし淫魔のイヴと視線が合ってしまえば、すべて彼女の思うがままの傀儡と化してしまう。それを避けるための配慮でイヴはずっと眼を伏せている。
     それだけに留まらず普段聴けるのは歌声のみで自ら感情を語ることのないイヴが発した僅かな言葉にすらも参加者は衝撃を受けた。マイクを通した声でもイヴの魅了効果は絶大で耳にする者の視線を一身に受けると、イヴは血塗られた月のように妖しく光るストロベリームーンの瞳をヴェール越しに覗かせて教会全体を、参加者たちをマーキングしていく。この光景に既視感を覚える者がいるならばそれはやはり必然的にここへ導かれてきたのであろう。ここはRe:plicareのデビュー曲の撮影に使用した教会であり、過去のイヴも同じように映像を見る者たちの眼を射抜くようにカメラを見据えていたのである。
    「今夜は聖誕祭。静かにお聞きいただける選曲をしてきました。どうぞ、ご着席の上ゆっくりとお過ごしください」
     参加者たちは無意識にイヴの言葉に操られて全員が着席をした。アダム側でも壇上へ侵入されることがないよう眼に見えない結界を張っているけれど、用心に越したことはないとイヴも淫魔としての能力を存分に利用した。その様子を見届けて振り返るとアダムへ眼線で合図を送る。心得たとアダムの指揮により奏者たちの間で合図を送り合い、それに合わせて演奏が始まる。音に身を委ねながらイヴは眼を伏せて心を込めて音色に合わせて言葉を紡ぐ。アダムたちの演奏にイヴが奏でる歌声という唯一無二の彼女の楽器。これらが調和を乱すことなく合わせられた音楽は聴く人々の心を掴んだ。イヴの言葉通り聖夜に限らず就寝前など身体を休めたい時に聞きたくなるようなクラシックのようにアレンジされた旋律に甘やかなイヴの歌声が続く。演奏が終わり静寂が訪れると割れんばかりの拍手が教会全体を揺らした。
    「それでは……、最後の曲は僭越ながら私がピアノを弾かせていただきます」
     長いドレスの裾を水の中を泳ぐベタの尾のようゆらゆらとたなびかせながら用意されたグランドピアノの元へ歩み寄って椅子に腰掛ける。その空間のみがスポットライトに照らされて、別世界を見ているような不思議な感覚に参加者たちは囚われた。筋がいいとアダムに認められているイヴの伴奏に重ねられる本人の歌声。それはあまりにも心地好く聴く者の脳を揺さぶり、演奏を終えて椅子から立ち上がりドレスの裾を持ち上げて令嬢のように美しく一礼をしたイヴの姿を見ても参加者たちは現実世界へ戻ってくることが困難であった。最初に正気に戻った様子の者の拍手を契機に次々と夢から醒めた人々が遅れて盛大な拍手を惜しみなく贈る。
    「メリークリスマス。……佳い夜を」
     壇上に戻りマイクスタンドの前に立ち囁くようにイヴは参加者たちの祝福を祈り、純白の手袋に包まれた人差し指と中指に唇を押し当てると軽いリップ音を含ませて祝福のキスを贈った。イヴを注視していたのだろうか何人か腰を抜かす所が視界に入り、やりすぎたかとイヴはヴェールの下で笑みを浮かべながら演者全員で礼をして、一夜限りの奇跡の時間は終わりを告げる。アダムに続いてイヴがステージを去っても未だに夢見心地の参加者たちからの拍手は鳴り止むことを知らなかった。

    「はあ……」
     アダムと共に暮らす邸宅へ帰宅するとイヴは気が抜けたように息を吐いて猫種に姿を変えると先ほどまでのライヴによる緊張と昂揚感によってかその尻尾は忙しなく揺れている。
    「お疲れ様。さすが私の歌姫だよ」
    「アダムさんは無茶振りが怖いですよ」
     二人でソファに腰を落ち着けるとイヴはアダムの肩へと頭を預けた。その意図を察したアダムはいつも通り『いい子』と幼子を褒めるようにゆっくりと手中に収まりそうなほどに小さな頭を撫でる。ご褒美を心地好さそうに眼を細めて受け取り穏やかな静寂に身を委ねる。純血種の吸血鬼であるアダムの心音はいつも同じ速度でゆっくりと刻まれている。幾年もの時を生きてきたこの吸血鬼は緊張を知らないのではないかという疑いがイヴの中で濃厚になった。
    「美しい旋律だったよ。私が保証しよう」
    「アダムさんに云われても」
     この世にある楽器という楽器をすべて器用に操り否応無しに鳥肌が立つほどの完成された音色を奏でるアダムに褒められるのは嬉しくないわけではないのだけれど、どうしても彼が演奏する完璧なオリジナルを知るイヴに取っては自分の音に物足りなさを覚えてしまうのである。
    「私が弾く音とイヴの音が違うのは当然のことだよ。イヴは私の曲を好んで弾いてくれているからね」
     ふっと旋毛にやわらかな感触が降ってくる。それがアダムの唇であることはすぐにわかった。
    「思わず自分の曲に嫉妬してしまいそうだよ」
    「アダムさん……」
     確かにアダムが紡ぐ曲はどれも好ましく、空っぽだった自分に歌唱することの楽しさを教えてくれた大切なものである。
    「……全部、アダムさんのためですよ」
    「ふふ、それは嬉しいね」
     イヴが顔を上げると存外近くにアダムの顔があったことに驚く間もなく唇が重ねられる。
    「今から、私のためだけに歌ってくれるかい」
    「……そういう云い方、何とかなりませんか」
     言葉の真意は続く口づけと首筋を撫でる指先がなくても理解できてしまう。気恥ずかしさに視線を彷徨わせるもののまったく抵抗らしい抵抗はせずに、アダムの首に腕を回して自ら唇を開いて積極的に口づけを深めていった。
    「そう云えば、随分とおいたをしたね」
     唇を離すと銀糸が二人の唇を繋ぎ、それをイヴが舐め取るとアダムは思い出したように互いの唾液で濡れて光る唇を指先でなぞるとイヴは撫でられたことに対してなのか『おいた』と云う言葉に反応したのか身を震わせた。
    「可哀想に……、まあ、愛し子は私だけの番いだから責任は取らせないけどね」
     先ほどのライヴで恐らくイヴが興奮していたことによりヴェールや眼を閉じることで魅了能力を極力封じ込めていたけれど、最後の祝福のキスは特定の誰かに向けたものではなかった。しかしイヴに注視していた者には軽く魅了効果が働いてしまったのであろう。
    「ふふ、イヴではなく湊として私に祝福のキスをくれないかい?」
    「レイさん……」
     ライヴでもちょっとした戯れでも熱を持った身体は自然と定位置のアダムの膝の上に座って両手で頬を包み込む。唇が重なる直前まで互いに視線を交えたままでちゅ、と小さく音を立てて唇同士が触れ合うと眼を閉じて滑らかな感触に意識を集中させた。そうしている間にさらりと濡れ羽色の髪は身体に纏わりつくほどに伸びて、身体も豊満な女体、淫魔の姿へと意図せず変わってしまった。
    「ふふ、本当に楽しかったんだね」
    「ん……、レイさんありがとう」
     何気なくこぼした一言を覚えていてくれて、今日のライヴを計画するにも骨が折れる苦労もあったであろうに、アダムはまったくそんな素振りは見せずに無償で小規模なライヴを、という願いを叶えてくれた。それはイヴにとっての最高の聖夜の贈りものであり、心が温まるひと時であった。参加者たちにとっても、アダムにとっても特別な時間になっていればとイヴは甘えるように身体を擦り寄せた。
     
     遥か昔から、神に背いたとされる魔物たちの夜は人々と変わらず甘やかに、ゆっくりと更けて熱に浮かされて溶けて混ざり合っていく。
    いろは🍼 Link Message Mute
    2022/12/25 0:00:00

    聖夜に祝福を。

    ##一次創作 #Re_incarnation #Re_plicare #アダイヴ #オリジナル #創作 #HL #小説 #SS

    本編未公開のとある音楽ユニットのゲリラライヴとその後のお話。

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    アダイヴ(レイみな)SS
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