たまには、自分から
一孝は、まるで手比べをするかのように寿史の掌へ、己の掌をそっと重ね合わせた。
細いかと思いきや、意外にもゴツゴツとした硬さを持つ、僅かに自分より大きな掌と。
これまた意外にも太い指は、温かくも逞しくて。
悔しさ半分、普段ならばどこか恥ずかしさが勝ってしまうが、こうして触れ合う行為を一孝は嫌っている訳ではない。
むしろ、離れたくないとは決して口にすることはないが、この時間が続けば良いとも思っていた。
無言のまま指を動かせば、重ね合わせた肌が徐々に熱を帯びていったが。
指を絡ませたら、彼は一体どんな反応を見せるだろうか。
まるで恋人繋ぎを逆さにしたような、硬く骨張った指と指の間に、自分の指を差し込むようにして。
ゆっくりと絡み付かせることにだけ神経を研ぎ澄ませて。
こんなことをしたところで、一孝は寿史の体に流れ巡る熱い血など感じることは叶わないというのに。
「か、一孝さん…?」
「敬語」
「う…、その、くすぐったいよ」
「我慢しろ」
「どうしたの」
「どうもしねぇよ」
触れてしまったら、こうなってしまったのが本音なのだから。
だが一孝の心音は何故か、怖いくらい穏やかだった。
彼から強引に仕掛けられたら、本当は心臓が張り裂けてしまいそうになるのだが。
このまま触れていれば、そのスイッチは入るのだろうか。
一孝は、珍しく己の前で苦笑を浮かべている寿史を見詰めた。
気付けば、繋いでいた手を引かれながら。
「は…?」
「気まぐれなんだろうけど…。俺は一孝に触れられるだけでこうなるってこと、覚えて欲しい」
「…ははっ、すげぇドキドキしてる」
長い腕の中で、寿史の紅潮した頬を見上げ、一孝は鼓動の大きく脈打つ胸元に緩んだ頬を寄せた。
思わず、絡める指に力を込めながら。
彼の空いている腕が、そっと背中へ回されるまで。
もうそろそろかと顔を上げた途端、何度目か分からない寿史からの口付けは、唇へ押し当てられるだけと若干物足りなかったが。
少々、からかいすぎたかも知れない。
「もっと」と、強請るように角度を変えた一孝の背中は、宥めるようにして撫でられた。
END
御武ド沼だった…。
もっと一孝に翻弄されて欲しいけど、もう少しスパダリな寿史を今後は目指したい…。