はじまり「二五六番街、七二番通り、九番目の辻まで」
そう告げて、ロティは古びた相乗り馬車に飛び乗った。錆びた歯車の廻る重たい音とともに、スモッグに揺れる薄暗い街を機械馬は走り出す。
ロティは背負っていた荷物を脇に置くと、窓枠にもたれるようにして、外に視線を向けた。
スモッグのなかを、淡く光を弾く機械魚が泳ぎ、機械馬のひく馬車が薄暗い道をすれ違う。ガタゴトという車輪の音に混じって、ギィギィと錆びた歯車の回る音が聞こえてくる。
流れて行く景色を列車の中から眺めながら、ロティはぼんやりとこの先のことを考えていた。
(……ロティ、ずっと、ひとりかな)
ふと、そんな考えが浮かぶ。
ロティは、嬢ちゃんでも坊やでもない。そんなロティを、それでも『あいして』くれるヒトに、ロティは会ってみたかった。