紙上のまぼろしある日、学校から帰るとポストの中に手紙が入っていた。封筒の裏側の名前を見たわたしは急いでそれを開封すると――――急いで差出人へ電話を掛けた。
「びっくりしたわ、いきなりの手紙だったから。メールも電話もあるのにどうして?」
「それがね、可愛い便箋を見つけて思わず買ってしまったのだけれど……今、手紙を出すことなんてそうないでしょう?どうしても使いたくって」
「もう、誰でも良かったの?……でもそうね、確かに可愛らしい便箋」
デフォルメしてある猫のあしらわれた便箋は確かに可愛らしく、その上に躍るなんてことない日常を綴った文章も相俟って、彼女の姿を思い起こさせた。
高校になってから学校が分かれてしまって、高い頻度でメールのやり取りはしているものの、細かくは窺い知れない、彼女の生活がそこにある。便箋を使いたかっただけなのだと知っても、思わず頬が綻ぶのは止められなかった。
数日後にわたしも返事を返して、そこから定期的な手紙のやり取りが始まった。漠然と、気に入ったという便箋がなくなるまでかと思っていたのだけれど、彼女から届くそれが新しくなっても、終わることはなかった。彼女の近況を細かく知ることで、まるで一緒に学生生活を送っているような気になれた。わたしはその事が嬉しくて、ポストを覗くことが楽しみになっていた。……あの日までは。
『聞いて、好きな人が出来たの!』
……背筋が凍る思いだった。大好きだった彼女の字も、言葉も。全部全部上滑りして入って来ない。なんて返事を書いたかも覚えていないけれど、その日から彼女の手紙の中身は、その“好きな人”が中心になっていった。
きっと彼女に悪気なんてない、楽しくてたまらないから、その話を“友達”に聞いて欲しいだけ――――。
分かっているのにわたしは、ポストを見るのも、手紙を開くのもすっかり怖くなってしまっていた。
何よりいつか遠くない未来、手紙を書いている時間がないから、或いは手紙を渡す相手を彼にするからこれを送るのを止めると、そう書かれているのを目にする日が来るのではないかと。
……届き続けたところで苦しいのは、変わらないのに。
それでも最後の繋がりにしがみつかずには居られなかった。
だから今日もわたしは、断頭台に立たされるような心持ちで、それでも封を切る。