岡村孝子さんとデートタカコとデートしたい!
前からそう思ってたんだ。
何故って?
だって歌上手いじゃん、曲も上手いじゃん、可愛いじゃん。
彼女はね、ちょっと病気だったんだ。
でももう大丈夫。
安心したまえ。
あの日、虹を追いかけて遠い空を見つめてた女性が
つづきの虹を追いかけて進んでいくのさ。
彼女はね、僕と同じ年さ。だからまだまだ若いんだ。
じゃあ、デートしよう!
おっと、ポンコツ車じゃ彼女は乗せられないよ。
うちには軽4しかない。
じゃあ、ベンツか?
いや、リッターカーが一番いいよ。
ドイツのスマートにしよう。
タカコは青い綿のドレスでやってきた。
とても可憐な雰囲気だ。
「初めまして、よろしく。」
あ、そうだった、タカコとは初対面だった。
「こちらこそ、よろしくです。」
カーステレオで何度も聞いてきているので、
聴きなれた声。
洗練された声とでもいうべきか?
さあ車に乗って出かける。
「僕のこと覚えてますか?」
タ「もう忘れたよと笑った、あなたのよう・・・♪」
「ええええ???僕ですよ。あなたの曲カ―ステで聴いてたじゃないですか?」
タ「タメ年なんだから、敬語は要らないわ。で、何の曲?」
「ラストシーンのライブバージョン」
タ「じゃあ、かけて。」
この曲はCDシングルだったな。
そこで早速聞いてみる。
迫力満点だ。ニューミュージックなんて生やさしいものじゃない。本物のロックさ。
「いいね~。タカコが欲しい、死ぬほど欲しい♪」
タ「多摩川沿いに行かない?」
「じゃあ、二子玉川から上流へと向かおうね。」
タ「もう夕暮れね、綺麗な景色だわ。」
「『秋の日の夕暮れ』みたいだな。」
タ「そうよねえ。」
「お、お、おっけーさ。」
何故だか僕はドモってしまった。
タ「きみは何の仕事してるの?」
「おいらかい?ミュージシャンだよ。」
タ「えええ?見えないわ。」
「見た目だけじゃないよ。タカコみたいな別嬪ばかりがミュージシャンをやってるわけじゃないよ。」
タ「えへへへ、おだてたって駄目よ。どんな音楽やってるの?」
「おいら、パンクロックさ。」
タ「パンクー??余計に見えない!!(笑)」
「本当に本当だよ!『レットイットビー・パンクバージョン』だってやったんだぜ。嘘だと思うんならYoutubeで聞いてごらんよ。」
タ「よっし、じゃあ音楽変えて早速聞かせて!」
「ほいきた」
おいらは、タカコに上記パンクバージョンを聞かせた。
タ「うん、いいじゃない。レルピー、レルピー、レルピー、レルピーー。次のアルバムに使おうかしら?」
「ホント?」
タ「でもまあ無理ね。私は私のイメージがあるから、そう簡単には変えられないのよ。」
「OKOK、そうやってシンガーソングライターの大御所に認めてもらえただけでも嬉しいよ。」
タ「ね、ここで停めて。」
「え?ここは信号がないから止められないよ。」
タ「いいから停めて!」
うーー、仕方ないね。タカコの注文通り、路側の砂地の空いてるとこに車を止めた。
よっしここでキスでも。。と思いきや。
タ「それはダメよ!」
「ええっ?」
タカコは、自分からドアを開けて外に出た。
そとは夕暮れの真っ赤な景色だ。タカコも西の空を見乍らそれに見とれている。新しい曲の発想が湧いてるのかもね。
おいらは駐禁もあるから、車のそばを離れられない。
「タカコさん、どう?」
タ「どうって?」
「気に入った?」
タ「こういう場所とても綺麗ね。あなた方パンクロッカーもこういうとこに来るの?」
「そらそうさ。ブルー・ハーツにも『青空』って曲があるんだ。知ってるかい?」
タ「FMで何度も聞いたわ。ああいう曲も好きなのよ。」
「流石はタカコ、素敵だねえ。でも普段はクラシックとか聞いてるんだろ、ハニー?」
タ「何がハニーよ(笑)」
「いやあ、ロックンロールでよく出てくるじゃん、最期にハニーをつける奴。ツイストアンドシャウトでも『ウェケノナウ、ハニー』て歌ってるよ。」
タ「そう言われれば、そうね。」
タカコはどんどん多摩川の河原の中ほどに行こうとした。こっちも制する事が出来ない。なぜそんなに歩いて行ったのか?
川のせせらぎを聴きたかったのさ。
夕陽の赤さ、川のせせらぎ、それらを見たり聞いたりして、新しい曲の着想を得てるのさ。アーティストは違うねえ。
そういえば、タカコは何か歌い出した。何の曲だろう?さっぱりわからない。うん、きっと新曲だよ。
あ、そろそろパトカーが来るかもしれない。
「ねえ、タカコー、そろそろ切り上げようよ。お巡りさんがくるかもしれないからさー。」
彼女はしばし空を見てたが、やがてこっちに戻ってきた。
「ねえ、何か新しい曲できそう?」
タ「ちょっと待って」と言って、しばらくメロディーを口ずさんでいる。するとすぐに、ペンと紙をボンネットに置いて、何か書き出した。歌詞のようだ。メロディーも同時に書いてる。すごいね。流石はシンガーソングライターだよ。
岡村孝子お舐め
僕はドアを閉めて車を発進させたんだ。
普通の道路を運転してるのに、何か違った道路に見える。タカコのイマジネーションがそうさせてるのかもしれない。
しかし、夕方だから、もうすぐ暗くなってくる。調布辺りから見える奥多摩の山々はもう見えなくなる。どうしようか?
すると、西の空に虹が架かった。
これはいい。
「一緒に『虹を追いかけて』を歌おうよ」
すかさずタカコが歌い出した。スタンバイしてたのさ。
「あの日、虹を追いかけて、遠い空を目指してた
いつかこの手につかめると、信じていけたー
素直なやさしさでー、本当の私を取り戻したいー」
うー、すんげえ美声!
うるうると涙が出そうだ。
こっちは「あーなたーのー、ゆーめをーー」
と歌いたいぐらいで感極まった。車を停める。
「タカコー、さあ」
そういってハグを試みたが、彼女はするりとその輪から逃れて、ドアを開けて外に出て行った。
彼女の心はイマジネーションでいっぱいだ。
こっちの相手なんかしてられないのさ。
そんな彼女の一挙手一投足をみて、
更なる感動を得たのであった。
嬉しい、嬉しすぎるほど。。
さあ、これでタカコとのデートはおしまいだ。
もうこんな体験は二度とないだろう。