月のこども推敲公開「悪い子!もうかばいきれない!」
――世界は美しいと思っていたころもあった。
「あなたが……こんな、こんなことをするなんてっ!」
――どうして人は、私から人権をとりあげようとするのだろう。
「でていって!あんたの家はピットでしょ!でていけ!!」
――世界は美しいと思っていたころ、街の観光名所を駆けまわって
「衛兵ーーっ!!」
金属が擦れ合うガチャガチャという音。
なぜ走ってるのかって訪ねる?
街の少年少女たちのなかには私を見つけると、まるでウサギを見つけたキツネのようになってしまう子がいるの。私のことを『浮浪児のネッフィー』と呼ばわりながら追いかけまわすのよ。
私の右足はまえ、左足はうしろ、そう、腕もそんな感じよ、おんなの子が地面を思いきり蹴って空に浮いた絵を想像してみて。
浮島にそびえる月宮殿は12の塔を乗せた、国のお城はサファイア海の外套を肩に引っ掛けているわ、それから、猫まみれの逆立ち猫のアーチを潜って抜けた先に、旧市街、そのど真ん中には真珠貝の螺旋階段。そういう絶景を見て楽しむために走ってると思うと気が楽になるもの。嫌いな子ほど駆けっこの飽きがはやかったのよね。
「どうなされましたか?マダム?」
でも、ある日、酔っ払った貴族に捕まった。放り棄てるように入れられた縦穴は、そのまま私の住みかになった。街のキツネたちも下りてこないウサギの巣穴。その縦穴はひとりの力ではとてもあがれなかった。
「この子、勝手に部屋にはいってきたの!信じられない!」
私のことを気にかけて毎日のように果物を投げ入れてくれる婦人がいたわ。今日、その人が縄を投げてくれた。
「自分に腹が立つ。あの子に言われたのよ。ほら、見てなさいよ。餌付けなんかしてると、きっといつか部屋のモノを盗りにくるわよって。月宮殿送りにしてあげて」
――お礼をいいに彼女の部屋を訪れただけだったのよ……私はちっとも悪くない。
「わかりました」
✒️月宮殿の存在についてどう思っているか。
✒️恐れているか、楽しみにしていそうか
「
✒️それで、地下迷宮とはなにか。迷宮送りにされるとわかったときの彼女の反応はどうだったか、感想を求める
✒️地下迷宮とは?
✒️おとぎ話をしよう。
(盗賊の建物と義賊の噂)
✒️わくわくするような土地を描け、視点、音、匂い、感触、それを通じて彼女が感じたことを書け
()
浮島の下はまるで夜の絵の具。太陽の運行にも影響されないの。
私は、衛兵に付き添われて月門へ続く大通りを歩いている。夜に突入した私の透き通った白い肌は銀色と黒色にむらなく染まった。
目が闇に慣れた頃には、槍先の刃を束ねたような屋根に目をとめていた。門衛のために建てられたのかもしれない家屋郡。
窓が真っ黒。見つめられているみたい。
闇酒場とかあるんじゃないかな?義賊とか盗賊たちが隠れていそう。魔法使いの魔法でネズミの姿に変えられた義賊さんがいるわ。
✒️門衛に洒落を言わせろ。キャッチコピー
門衛に私を預けると衛兵たちは踵を返して去った。門衛は一言も口を利かずに『空飛ぶ牛』を巻き上げるための支度をはじめた。
🤔ヘイ!ディドル・ディドル、フィドル・デ・ディー
「肉のジャンプ」と言った。
私はゴンドラの床に足を踏み入れる。ぎし。オーク製なら大丈夫、かな。
(✒️おとぎ話にわくわく)
「ランド オブ メイク ビリーブ」信じる国を描け
暗闇の向こうは明るい。
✒️お城はね、サファイア海の外套を肩に引っ掛けてるの。
「」この城の壁に螺鈿細工が施されているの。黒珠貝の虹色光沢をもった真珠層を切りだした板材料を彫刻が施された表面にはめ込んでるのよ。この街はね、螺鈿細工が有名なの。特に螺鈿細工が施された漆器や家具が有名よ。
「」
✒️五感。風を感じたとか。匂いとか。感触とか。
ゴンドラが浮きはじめた。どんどん上がる。どんどん。床が抜け落ちたら、あの屋根に突き刺さってしまうのね。また私は、まだ1時の明るいほうに目を向けた。駆け巡っていた街があんなにちっぽけに見える。
「う」
眉を潜めて、_その__浮島の影を見上げると、__が見えてきた。月の窓、月の牢獄。
✒️風景を詳しく
月宮殿の一番暗い側面、死の精霊が悪戯半分で牢獄に飾りつけたオーナメントの襤褸が鉄の帷に引っ掛かって落ちない。
牢獄の床を開けたまま。逆に閉じているということは収容者が収監されているということ。
✒️ランタンが埋め込まれた壁
「
「
」」」
「」
間もなくしてゴンドラは止まった。
✒️彼女は、目移りする。視線の先には誰がいる。
「
「」」
門衛に付き添われて出口へ向かって。月宮殿の門を守る
隙間の外の光は__に満ちていた。
巨大な扉が軋みながら内側に開いていく。体を通せるだけの隙間が開くと、彼女はするりと外に出た。
✒️光であふれている。眩しい。
「案内人は彼女に駆け寄った。彼女は初めて見る__を見た。「お待ちしておりました」
彼女は大きな__の真ん中に設けられた広場に入った。
✒️水
」巨大な__の水盤が広場の中央を支配している。そこには12月神の彫像が__姿で劇的に立ち、足元は水中に没している。
✒️特殊な環境だと思わせること。床やオブジェクトの特徴。空気を書こう。
水浸しの白い床に戸惑った。エントランス?中庭?ここはなに?
12柱の月神の姿を象った石像が扇状に設置されている。案内人に付き添われて中心の、まるで虹のように色づいた薄い光のプールに入った。12柱の月神のひとつ、狼月の石に同じ光があてられた。
案内人に付き添われて縦に置かれた水盤、でも水盤の底がなくって輪っかだけ。なのに水面が穏やかで……不思議な水盤から水を汲んで口に注いだ。ごくり。
それから、同じ案内人に付き添われて地下聖堂墓地へ続く長い階段を降りていく。
「 」オークの分厚い大扉を開けると、大規模な地下墓地が姿をあらわした。
✒️匂いはかなり独特だと思う。木材の匂い、蝋燭の匂い、修道子の匂い。清潔かもしれないし。匂いについて書くなら彼女は、それに目をむける。
うわあ、棺が100はあるかなあ。
✒️一番強い匂い。泥。
付添人は、私の足を泥の水槽の前へ運ばせるようす。
白い野良着を着た五人もの老若男女入り交じる修道子たちが二人を待っていた。彼ないし彼女のそばに行き__姿勢で立った。泥の浴槽でおとなしい無関心さで働き、__いる。
修道子たちは水槽から手に泥を取ると私の頬や肩、腕や足に泥を塗りはじめた。手足はもちろん、顔はもちろん、泥を掴んだ指で髪を掬い、乳房から股の間まで。待って、目玉はいいの?――いいみたい。
✒️無言劇?物知り?
仕上げに泥の水槽へ2つ折りの麻布が投じられた。
今度は修道子に付き添われて蓋の開いている棺の前に立ち止まる。
✒️彼女の視線を辿る。感情をだすこと。
布擦れの音をだしながら歩み寄る3人は黒のローブに包まれていてフードで顔を隠していた。性別なんてわからなかった。
ミステリアスな3人に促されるがまま棺に入ると蓋が閉じられた。
スルスルという布擦れを聞いた後で、呪文の詠唱がはじまった。
✒️武器を持つ男たちのことを考える。
呪文を聞いていると身体がとても熱くなった。でも、顎とか全身が震えているのはなぜだろう。
✒️彼女は麻布にくるまれていて身動きがとれないし、状況を把握しようにも目も見えない状況だ。心もとさを感じる。聴覚だけが頼り。
すごい剣戟の音……
そろそろ赤帽は
2人の赤帽は麻布にくるまれた私を石畳のグランドに放り投げる。手順は話に聞いているもの、わかってる。素早く毛布を剥いだら、落ちている武器を拾って、を警戒し――
✒️想像していた以上に戦場で面食らう。ベテランの剣捌きに、彼らの殺され方が無残すぎる。
✒️足に手を踏み潰されそうになる。血飛沫が降ってくる。
強い衝撃を感じたと思った、視界いっぱいに地面が迫って――ああ、ああッ、目が見えない!痛いっッ!!
意識を取り戻したとき、水の中にいるとわかっていても、なんかだめ。口から気泡が噴きあがる。両手を突きだし、両足をばたつかせてもがいた。やっと水槽の縁を掴んで体を引き上げると空気をむさぼった。3度ほど空嘔をした。
そうしていると、ぞっとする冷気が流れてくることに気づいた。あの鉄の柵を越えていく意思のないものは穴に飛び込めということらしい。その穴の底から血と腐臭と冷気があがってくる。水槽からでて、鉄の柵へと向かうために部屋を横切る。もちろん濡れすぼったまま、戦慄きながら。
グランドに足を踏み入れるまえに、柵から頭をひょっこり頭をだして外の様子をうかがった。ざっと50人くらいの訓練生。
オーソドックスな剣を好む者、赤毛の弓使い、斧を振りかざす者、黒い鞭を操る魔法使い。双剣使いに槍使い、一度も攻撃を繰り出さず相手の攻撃を交わす身交わしの上級者。メイスは僧兵希望者だろうか。痩せぎすだなぁ。戦闘意志がなくしたか情欲に励む者さえいた。
武器は落ちてない。誰かが倒れるのを待つしかない。あるいは盗む、か。空気を切り裂いて飛ぶ嫌な音を聞いた。矢飛かな?と思ったときに頭に刺さっても、私は矢羽根を見つめ「こんなものとても交わせない」と思うだけの時間的余裕はあった。
✒️彼女の成長点とは?
✒️無力、非力さを際立たせること。
ふたたび水中。この分では水中にいる時間のほうが長くなりそうだった。
グランドに出るまえに弓使いを探した。「赤髪のチビ!」すぐ隣で屈強な男がどうと倒れた。相手の男は斧を振りあげ――私は後ずさった。ハッとして、私は倒された男の懐から剣を引き抜いた。重い。とても扱えたものじゃない。男の首から斧を引抜きいた明るめの赤髪の男は私に丸っこい目を目配せをし、顎をしゃくった。「でかすぎる」と酒焼けした声でいい、懐から短刀を取り出すと「おう、そいつは俺みてえな雪月が使う。ほら、あんたにはこれだ。いいか、こいつをこう握って、この男を、こんな風に――グサッ――刺すといい」
「とにかく、刺せ、腕が上がらなくなるくらい、いっぱいな。よおぉうっく練習しておけよ」と言い血みどろの短刀を差し出してきた。
「ありがとう、親――」赤髪の斧使いは軽くかぶりを振り殺しに向かった。
✒️剣を見つめて、胸につける。いつか、刺さなきゃ。
壁際から嬌声(きょうせい)が聞こえる。
私は刺した。あばらに当たった。手が滑って返しにぶつけて痛かった。返しがついていない短刀だと、手が滑った場合、むしろ自分を傷つけるということも学んだ。
私がこの男を練習台にしているあいだは遺体は回収されないようだったし、わざわざ引き剥がして私を斬りつける人もいなさそうだった。
はやくも手が痺れてきている。刺して、刺して、刺した。
✒️柄がざらざらしているおかげで、掌が汗ばんでいても滑らなかった。いい刃
忌まわしい弓使いを視野の隅に捉えた。はっとして凝視すると、赤髪の小男は弓を背中に戻し、黒檀のダガーを手に持って構えの姿勢をとった。迫ってくる槍使いを迎えようという。
浅黒い肌の槍使いが有利に思える。槍先でちょいと叩いて牽制。ダンスが始まった。足元をすくう横払い、槍先は下を向いているため相手は槍をさばけない。だから小男は素早く距離を詰めたが槍使いがひらりと交わす。だが、小男は動きを読んでいた。下に滑り込むように潜りこんでアキレス腱を切り裂いた。小男が坂道を転がる樽のように素早く距離をとった。相手の男のアキレス腱の傷は深かった。十分距離をとった小男は弓矢を放った。
勝敗はついた。
嬌声はうるさい。うるさい。
私はまた刺した。グチャッ。刺した……。血があふれ、血の跳ねる音が聞こえる。
嬌声はうるさい。うるさい。
どうという音がしてそっちに向くと麻布にくるまれた新参者が麻布を蹴飛ばして剥がしたところだった。
✒️年長者の男は誰かを捜している様子
彼は素早く立ち上がる。
――泥。私たち、泥?
奴隷商人に捕まって親方に買われたが彼らに反抗したか、自らの意思でここに来たか、私みたいに来るしかなかったものたち。一攫千金と名誉を夢見て地下世界への旅の準備を調える者たちもいる。ここは訓練所なの。
なんて度胸なの!彼がどうやったのかなんて私にはわからないけど、彼がいま、剣を持った相手の腕を素手で捩じ伏せたのよ。それから頸骨を2本の腕を使って折って、相手の剣を奪った。
「」
と、ここで私の体は魔法使いの炎に包まれた。燃えてる!
地面に倒れる。砂で消そうと地面に転がる
消えない!消えない!
炎はこの世で最悪な凶器だと思った。私はあまりの苦痛に悲鳴をあげつづけた。この地獄の体験者だろうか、何人かこちらを振り返るのが見えた。
痛いっッ……水の冷たさを炎の熱と勘違いして危うく溺死するところだった。
✒️仕返しをしたい
しかし私は顔を水中に沈めた。練習台にしていた屈強な男が出てくるのが見えたから。
あのクソビッチは赦さない。
あの年長者の男性が運び込まれた。血塗れだ……。係は彼を水槽に投げ入れるとそそくさと足早に柵の外へ消えた。
――泥
✒️恐る恐るそっと近づく。怖いから。
年長者の水槽に近づいて中を覗き見た。
手のひら、腕、致命傷の腹と切傷だらけだった。
踵を返して鉄の柵へと向かう。眉尻は哀しみと失望に下がり、奥歯を噛み締めている。
今日、あと何回死ぬの?
後方で水を掻く音についで息つぎの音と勢いよくあがる水飛沫の音が聞こえたとき、不思議と口角が弛んだ。微かな喜び。
いつか、あのクソビッチを刺してやる。
私が__と、うさぎ顔の女は困った表情を浮かべて私を見上げた。「なに」とつぶやくように言いながら立ち上がって、拳を握ってグーをつくる。
――そう、身構えていてね。だって、私はいまから貴女を殴るの。
私の背後には__100人あまりの男女が__を磨いている。ここは闘技場ではないわ。迷宮潜りを育む訓練所なの。
拳を堅くするためにグーをつくった私は、思いきって困った顔に拳を叩きつけた。彼女はとっさに両手の平で顔をかばったものだから、彼女の手の平ごと殴った形になった。
黒髪の女は、反射的に平手打ちを返した。私の頬に引っ掻き傷がついた。
――私は拳で殴ったわよ。なのに貴女は一度きりの平手打ちでいいの?彼女は私の肩越しに嫌なものを見た顔をした。私は、そのときには反射的に往復ビンタを叩きつけていた。勢い余って横ざまに倒れこんだうさぎ顔は
✒️地面に両手をついて、信じられないものを見たと言いたげな目つきで地面を見つめる。
「いやだ」✒️全力で拒む。
なに者かが少女の肩に勢いよくぶつかってきた。視線が男を追うと誰かわかった。お気に入りの年長者だ。
「来ないで…!」
うさぎ顔の女は耳を塞いで小刻みに震えている。穴潜りの小さな動物のように。
「あなたは……人を、殺したの」
✒️年長者はどんな反応をする?
「謝るよ「どっか行って!」……わかった。いくよ」
✒️年長者の言動は公式から離れすぎてはいけないと思う。彼のセリフを考え直す必要がある
✒️少女に疑問がわく。
彼女は眉を寄せた。――なにを言ってるのかしら?殺しなんてここでは当たり前のことじゃない。
✒️うさぎ顔の女は彼女に苛ついている。
「なに?」
「あなたもよ、私のことは放っておいて!」
✒️彼女と唾があたりに飛び散る。目は血走っていて、本気で怒っている。
わたしは彼女に背を向け、歩きだした。ただじっとしていられずに。_を通りすぎ、__壁際に行き地べたに座った。ここで訓練所をざっくり眺めていました。
✒️うさぎ顔を殴ったわけを述べなさい。
「」
迷宮に入る時まで、この訓練が、私の日課になる。
✒️このあたりで狼月の獣の力について触れる。
✒️象の獣人とその相棒の鼠の獣人についても。
✒️空想する度に獣の姿を変えたら楽しいだろうね。
私は狼月よ、まだ獣の力を授かっていないの。
✒️人殺しを書こう
とにかく声の大きすぎる屈強な戦士がいた。トゲのついた丸盾で相手、私の練習台の頭を突いた。怪我をした戦士を僧兵が治療して、__、私の身体を焼いたばかりの魔術師が、今度は僧兵に向けて火球を放っていた。
僧兵は掌を前に突きだして、静かに波打っている大きなきらめく盾を作り、彼女の火球をやっとのことで逸らせた。
火球はそのまま飛んでいった、黒装束の綺麗な顔の男のすぐ背後と、小男の背中に当たった炎は勢いよく燃えひろがった。しかし炎が直撃した勢いで前のめりに傾ぎ、というのも踏んばれる状態ではなかったために相手の切っ先に我が身を突き刺すはめになった。
相手には、大きな赤い舌で舐めるような炎が顔に迫っていた。彼は剣を男の腹から引き抜き、小男を地面に転がした。小男は、体を震わせながら笑い始めた。笑いは悲鳴に変わった。
「ひひ、……あはは……痛いッ!」
✒️ミアのアイデア。彼の弓を奪ったらどうか?
✒️いつか彼女に仕返しをするとき、獣人の自分ならこうしてる。バターナイフでバターを裂くように柔らかい肌を爪で切り裂き、牙で突き破るのに。
✒️珍しい職業やその技を目にした感想は?
召喚者が、自身の頭髪で作り上げた槍で桃色月の身体を貫いた。召喚師なんて弱いと思ってた。
✒️街暮らしで仕入れた訓練生の情報は、
山のような大男が、重たくておっきな剣を振り回しているくらいのイメージしか。実際には多種多様な武器がある。
それに、もっと、空想のなかでは鎧はもっと綺麗だった。鎧も太陽の光を反射していて
実際には雪月と男鹿月、次いでに盗賊が8割を占めていた。
✒️先ほど見かけた男とは別の稀人らしい年長者を見つけて、こんな洗練されすぎた男もいるんだと思った。こんな男が戦えるのか?
✒️体術の描写を書く。対戦相手の顔が溶けていく。
錬金術師なんて戦闘で役にたたないんじゃ?
✒️アルケミストを小馬鹿にする。
手足がすらりと長く、やや面長だけどかなり上品な洗練された年長者という感じの男。またおじ様か。…若いのは、盗賊系に、ちら、ちら、としかいない。
もう少し、こうして眺めていよう。それにしても、あの女、何してるの?
✒️棺のなかにいる。真っ暗闇の空間。
私は息を吹き返した。大丈夫。大きく息を吸って吐いてを繰り返して呼吸を整えるの。2~3回繰り返す。やっと心臓が落ちついたところで。両手を棺の蓋にそえる。大丈夫。押し開けた。
✒️蓋の開かれた棺の中から、むくりと起きあがる訓練生たちを書く。とりわけ明るい赤毛の斧使いは目立つ。彼は棺から立ち上がってから出る。
✒️親切にしてくれた赤毛の斧使い、嫌いな相手赤毛の弓使いや魔術師を目が追いかける。
赤毛の小男は孤独らしいけど、その他大勢には話し相手、仲間や友達がいた。🤔仲間がテーマだということを忘れずに。
ぞろぞろと出口に向かう戦士系と盗賊ばかりの集団は、目覚めの一瞬前には、皆一様に血まみれで襤褸をまとっており、疲れていた。盗賊系のなかには心を殺されている者も少なからずいた。
訓練所のグランドにぞろぞろと集まる参加者たちは、呪文の詠唱を聞いて眠りについた。小男は服を焼かれていたからほぼ全裸だった。股間の前でハンカチを干してる。とても変な下衣だった。
でも、棺からでてくる人たちは綺麗よ。
✒️大勢の男たちの後ろを追って大広間へたどり着く。少女の目には色々な情報が流れてくる。好奇心が強いから。
お腹が空いたら向かう場所。地下聖堂から離れて
✒️ご馳走の匂いが鼻腔に充満。食欲を刺激する。
✒️様子を伺いながら適当な席へ。長い机はなんて表現すればいいのか。
✒️食卓の様子を眺める。
彼女は食に興味がないわけではないが、肉は食べようと思わなかった。ヴィーガンやベジタリアンというわけでもない。食の幅を持たなければいけないなぁと思いながらも、お菓子や果物ばかり食べている。
✒️食べているという以外の表現を使ったらどうか
「」
✒️飲め、食え、唄えは書きたい
バンッ、バンッ、バンッ、とジョッキでテーブルを叩く。
「でてこい!野郎共!エヘヘ…」
「」
「今日もよおぉうっく、頑張ったなあ!偉いぞ!」
✒️誰が誰をどうしたとか、功績を誉めそやしはじめた。
「あーい」と返事を返した。
「さあ、食え、飲め、歌おうじゃねえか!」
「トクトクトク…」✒️海狸月が、口楽器?
✒️みんな歌と躍りが大好き。盗賊系列は芸術家が多い。気の強そうな者もいる一方で自分を殺してる者、表情を読めないポーカーフェイスも、盗賊系はバラエティーに富んでいた。
「」
✒️寮について知っていることを少女に述べさせなさい。
✒️彼女の心情を不安を書くこと。友達ができるまで当分ひとりぼっち。だけどひとりぼっちに慣れっこ。
だけど、新しい環境に置かれたら、期待はする。
私は月宮殿のどの塔に入ることになるのかしら。ルームメートはいるかしら。段々と不安になり落ち着きをなくす。
飲み放題、食べ放題、歌い放題、口笛を吹いて曲を締めた。
稀人に『ヴァルハラ』と呼ばれる。
月の12神のお力添えがあってこその宴。
✒️12月神、各々の使者が席に着いて座る。
盛大に月の12神を讃える歌を合唱する。
どうやら、あの赤髪の斧使いは、ここのムードメーカーみたい。マンモスの牙の杯を持っていて、自分や仲間の自慢話を吹聴してる。
赤髪といえば、小男はどこだろう?壁に近い場所で刃の手入れをしていた。身交わしの達人と一緒にいる。
あん喘ぎの女は連れといて、私よりも小柄で華奢だった。
顔立ちが困り顔ということらしい。優しい甘さがふくまれていてとてもかわいらしいな、と思った。
✒️彼女の職に思考を巡らす。魔法使い?それとも僧侶?、錬金術師かもしれないし、まさかの召喚師かもしれないわ。
彼女の顔が覗ける絶妙な位置に度胸のある男が座っていた。
きっと彼は稀人ね。異次元から転生してきた人を、みんなはそう呼んでいるの。
✒️寮というか部屋について触れる。
✒️使者から紙が届く。一枚のカードと部屋の地図が同封されていた。
体が上下逆さまに吊る下げられていていながら、足を4の形に曲げている。手も足も出ないのは、今の私そのままじゃないのよ。頭は地面に近くて、でも、地面は割れてる。落ちたら穴に落っこちちゃう。
部屋が決まった。
フルーツパイを頬張る。
お酒を飲めないし、歌も歌えない。だから、早めに部屋に向かうことにした。が、これは目立つ行為だったようだ。
そっか、陽気な歌の下に隠されている事実に気づいた。ここに派閥がある。味方と敵がいる。
私が練習台にしていた男に耳打ちをしてる者がいる。痩せぎすの僧兵だった。練習台は口を一文字に引き結んでむっつりしている様子から根に持つ質らしい。
怖い。
彼らに気を取られて足下を見なかった。誰かの足に躓いて転んだ拍子にテーブルクロスを掴んで思い切り引いた。
皿はやかましく割れ、神様の恵みスープはこぼれた。言葉にならない声が口から溢れる。
割れた皿を片付け、急いで__からタオルを借り、片付けに戻った。
床を拭きながら、躓いた原因とやった足の持ち主に丁寧に謝罪した。高い綺麗な、しかしややダミ声で言った。「いいってことよ」長い脚を突きだしていたのはとても綺麗な顔立ちをしたドイツ系の男だった。天使の姿をした悪魔という風の。ダガーを腰に差してある。寒月、人殺しのプロだ。
やっと片付いた。でも、いまから、神様に謝罪しに行こう。🤔少女は常日頃、神を意識している。ここでいきなり出すのは駄目だった。もっと前に、知らせないと。
✒️歩きながら
派閥がある、か。仲間を見つけないと。でも、いますぐにはできないことを知ってる。
✒️
月の12神様の__ひとつひとつにお香を置き、青い炎を点してから謝罪の旨を述べた。後ろに数歩踵を返してから振り返ると、私をこんがりと焼いた妖艶な魔法使いが佇んでいた。しっかり気後れをしてから顔をうつむき部屋を出た。
✒️部屋を探さないといけない。
部屋へと続く階段は、二列の柱から吊るしたランタンで照らされていた。
『吊るされた男』の行き方がどうしてもわからない。
✒️地図には12柱の月神に因んで12ある塔のうち、ひとつの塔しか記されていなかった。
螺旋階段を登り続ける。わからない。また降りる。また登る。少女はちいさな呻き声をあげていた。
宴が終ったらしく、ぞろぞろと人が移動する気配がする。
小男で老齢の彼は、上下揃いの赤い地に黒い縞模様の道化の衣装に__。老齢の割には身体を__。落ち着いていて、自信にあふれている。
彼には確かに奇妙なところがある。
「おやおや、迷子かな?」赤髪の小男がぼそりとつぶやいて通りすぎた。
――この人、どうして私を射たのかしら?
観念して小男の後を追いかけて捕まえると道を訊ねた。ウォンバットを連想させるお茶目な男の眉があがる。驚いている。艶のある声が響いた。
「私よりも私の友人のほうが、君の助けになれるかも」
「君は私たちの部屋に向かわなければいけないよ?」
✒️まさに道化と
「こっちこっち」引き戸の前に立った。
「よっしょっと」軽々と体を引き上げた窓辺に立った。
うそ……うそ……。
「こっちにおいで」
✒️小男の表情。こんな__な少女を月宮殿へ送るなんてどんな罪人だろう?ひひひ…
✒️
✒️
逃げた猫を追いつめる飼い主みたい
「梯子が見えるかな?ちょっと顔を突きだして上を見てごらんよ」
高いよ……
彼が梯子をのぼりきって部屋に消えると
身を乗り出した。梯子を見上げる。小男は上の引き戸から顔を突きだして覗いている。黄色い髪の毛の男も覗いていた。ひょっとして?梯子を使い引き戸にたどり着いた。彼はそう言ってドアを開き、彼女が降りるのに手を貸そうというしぐさを見せた。
救出された猫よろしく引き下ろされた。部屋だった。
道化師の口元が歪み笑いを噴き出した。小男もおかしそうに笑い声を上げた。
「あなたは騙されたんだ。あんたは親切だね、これが無職でほんとうに良かったと思いはじめたところだよ。というのも……この先の話が聞きたいかい?そうすると、いくらか弾んでもらわなきゃ!」この男性に見覚えがある。はて?――私は銀貨3枚を手わたした。月男は唄った。
🤔なんか、昼間、小唄を口ずさむ小男に散歩に誘われた娘は、散歩の先で真っ暗な夜を見る。一方で小男は娘の喉をかき切る唄
月男は残酷な嘲りが得意らしい。
✒️月男は、彼女の身の危険を気にかける。
「はーっ、でも、調べてきてあげるから。待ってて」というと、とうもろこし色の道化師は普通に玄関から通路へ飛び出していった。
――あんたは騙されたんだよ!!
小男を見ると椅子に落ち着いて銀のカップで液体を飲んでいた。
「」
「おや?お手玉を探しているのかい?ちょうど、ここに2つあるよ」露骨に引き、眉を潜めた私の表情に目をとめて「私の悪い冗談だ」と言った。そうして、月男は身交わしの上級者であることを思いだした。冷たい染みがひろがった。
「
✒️月神の意思って?
「確かにそうだ。しかし、__ですら、__について知るべきことをすべて知っているわけではない。そんなことは誰にもできない。月神の意志がなんなのか、我々にはわからないのだよ。完全に理解することは、決してできない。月神は我々の限られた理解の域をはるかに超えたものだから、その神秘を認めるしかないのだ」
🤔シセロの独自の言い回しを意識して
部屋に戻ってきた月男が、彼女にはどうだろう?という困惑顔を浮かべて部屋に戻った。ランタンを持っている。案内してくれる人がいないとたどり着くのは難しい部屋だと言った。私は彼らに改めて感謝の気持ちを述べた。
「それじゃあ、それじゃあ!」とシセロが言った。
✒️そもそも塔違い。
『星』の部屋から男が出てきた。複数人の男が囲んでいる。
『あっ……やあぁ……あぁん……あぁん!』
✒️
月男が耳打ちした。彼女は『苺月』の者です。ご存じないでしょう、召喚師は自分の召喚獣を産み落とします。
「そのために子作りを?」
「誰でもいいのね」
ダークゾーンエリアであるゆえに人が寄りつかないという。一寸先闇の空間が広がっていた。
うそ……。ランタンの火が消えた。月男が言った「とまって」手に取った。そして明るい小唄を唄いながら歩を進めた。私は気づいた。この通路は掃除されないままだ。
小唄はやんだ。
キィ……キィ……
「ワっッ!!」びくっ「いま、驚かせようとしたの?」ばんばんっと私の背中を叩く。
キィ…ギィィ……音のほうへ。
音の下に来た。鉄の扉を押し開けると灯りがもれた。月男は手を離した。
「この先。もうひとりでも大丈夫だね。それじゃあ僕は帰るよ。失礼するよ」私は感謝の気持ちに二枚の銀貨を手わたした。彼は踵を返し闇に消えていった。闇のなかから小唄が聞こえた。足元をふと見ると、色褪せた髪の毛が落ちていた。急いで鉄の扉を閉じて空嘔した。
細い階段通路を登った先に部屋。
扉を開けた。誰もいない。窓は大きくプライバシーは守れそうにない。長年積もった塵をはきだすために窓を全開にした。6メートル向かいの塔はのっぽで狭い、こちらとおんなじ造りで丸見えだ。向かいにはふたりの男が窓辺に立っていた。あの年長者だ。片方は錬金術の、激しく言い争っているみたい。
あちこちはたいて、シーツを広げてはたいた。雑巾できれいに磨いた。
強くなって。仲間を見つけて。うーん。
後ろから足音が聞こえた。え?ルームメートがいたってこと?振り向いた。
おっ!?、わああっッ?!
いきなり背中を引き裂かれた。手をばたつかせて払い除けようとした。腕は強靭でびくともしない。
固く縛ったサラシをぐっと掴んで舌打ちをした。私は悲鳴をあげ続けた。布の裂ける音がした。男は言った。
玉ねぎの匂い「奴らが来る頃にゃ全部終わる」酷く乱暴にベッドにうつ伏せに押しつけれる。
「お前は狼月に引き抜かれたんだってな?くそっ、俺たちを散々な目に遇わせてえか!」
「お前には、あの穢れた毛皮たちがあのキタねえ牙やギラギラの爪で何をするか、お前なら想像に容易いんじゃねえか?俺たちの血の味はしたか?いいか、俺たちは玩具じゃねえ!今からたっぷり調教してなんねえと!」
🤔狼月を罵倒する。
男の掴んでいた手に力が消えた。布擦れの音。バサッという音。体に布があてがわれた。ややダミ声の、だが高く綺麗な声が言った。
「垂れ込みがあった。吊るされた男を見張れという。そいつは俺に銀貨5枚をくれた。見張るだけにしては多すぎた。なにかあると思えば。」
「お、お金は足ります?」
「さしあたり満足だ。まえから、このクズ野郎は消したかった」そう掃き捨てて死体を蹴りあげた。
梯子を使う音。窓辺に梯子がかけられていた。向かいの塔の住民が橋をわたってくる。窓を開けてあげる。床に降りた彼は心配顔だった。凛とした舞台俳優といった感じのイタリア系だった。バリトンの声が訊ねた。「なあ、無事か?」
「あんたが、やってくれたのか。助かった。私たちは来たばかりだから、……わからなかった。だから、私からも、礼を言わせてほしい。ありがとう」
「始末書を提出しなきゃいけねえ。俺は書かない。いいか、誰も、目撃しちゃいねえ」
凛とした男がうなずく。
「吊るされた男が休憩したいっつってる。起きろ、クズ野郎」歌うように言い__。
「ぅぅ……手を貸そう」
ふたりは死体を処理しに行った。
その男は蜂蜜の匂いをまとっている。
もうひとりのお気に入りの年長者が来ていて、窓から梯子を撤去している。
少女は男を手伝おうとしたが、男のあまりの手際のよさにしり込みしてしまう。男は畳んだ梯子を壁にかける。それから男は血で汚れた床に目をとめて、__に掛けられていた布を使って床の汚れを拭いはじめた。少女は桶に水を汲んできた。
「ありがとう……」
「君は着替え……そうか……替えがない、か」
ワードローブには服一枚も入っていないようだったし、少女自身のワードローブも気の毒に、着る服がなくなってしまったらしい。「服を作ろう」そう言ってベッドシーツを優雅な手さばきで剥いだ。少女は目を丸くして見守った。男が、とても正確に正方形を切り出した。まさに職人技、完璧の一言。
上端を折り返して体に巻きつける。両肩を留めて。腰に帯を締める。少女の肩のまわりに、そして体の下にゆっくりとドレープされたワンピース。
ドーレス式キートンというらしい。✒️お気に入りの男は博識。
少女にはもう十分綺麗になったと思える床に、男はしゃがみこんでまた床を拭きはじめた。
神経質……。
手伝いたくて桶の水を交換した。
「ありがとう」
舞台俳優風の男が戻っていた。ひとつ頷いて訊ねた。「君の守護神を知りたい。武器が必要だろう。剣か、杖か」
「狼月様です」
床磨きの男が手を止めた。「狼月……君は、__日後に、獣の力を授かるわけだ」雑巾を桶に入れる。
「ええ、はい。お二人は?」
「私は蝶鮫月……んぅ……この世界に来る前は、FBIに勤めていた。お前みたいな(友人を指して)悪党を捕まえる仕事をしていた……」影のある顔をのぞかせる。
「悪人…………善と悪は表裏一体だぞ」
「例えば、君たちはさっきの男を悪人とみる。だが、彼を雇った男からすれば、君のほうこそ悪人で、この男は手前の代わりに汚れ仕事を受けた善人だと言える。
一方でこういう見方もできる。
少女に玩具にされた、そんなことに気持ちを振りまわされた当人たちが一番の問題児だった、と。
練習台にされて気に食わないという気持ちは、わからないでもないが。実際どれだけ他人に刺されようとも、頭を悩まされるにしても、気にしないということを徹底するだけで無効にできる問題なのだから。
君の、その、正義感、過去を振り切れない心が、人を殺すことを、許し、友達だったら私を頼る。だとしたら……
なあ、気にしないことにしないか?」
「これから俺たちは人を殺すのだから」
「はは……まったく。面白いよ。お前、子供いないだろ」低いバリトンが唸る。
「面白いと言えば君、『吊るされた男のカード』の恩恵を知っているか?」
「神は部屋にも恩恵を能えてくださるのですね?」
「」🤔考えちゅう。彼女は『恋人のカード』の者と接触したから協力者を得た。
「月は君を見ている」
※蝶鮫月は諜報員気質の人間を好み、寒月、別名を死の月は暗殺者気質の人間を好む。狼月ははみ出し者を好み、獣の力を能える。
⚠️ここから最後の頁までの『月のこども』は、推敲を重ねていません。それゆえに粗野っぽです。
もとより『月のこども』は素材小説だもの。好きに使ってくれて構わないんです。
ふたりは私を心配して「吊るされた男」に一泊した。ソファーに座り、寝息をたてている。
私はといえばベッドの真ん中で横たわりながら、眠れずにいた。5月の満月であられる花月様を見上げながらアザラシが人間に変身を解く姿なんかを想像して時間を潰した。
花月様は変性の神であられる。でも、アルケミストが訓練生のなかにいたかしら?透明人間となった姿を思い描いて棺に入るところまで想像した。人目を避ける姿が身交わしのあの方を連想させる。
あの月の方は、また私を助けてくれた。何か御礼の品を持っていこう。感謝しきれない。
ふたりは道化師だった。という真実を思いだしてあの部屋の名前を知りたくなった。
名前といえば……私は目の前の御二人方の名前をまだ知らない。知らなくていいのかもしれない。
肩をそっと叩かれて目を開ける。
「これを」舞台俳優風の男が言った。少女のワードローブにまともな服が一着掛けられた。「扉の前にいるよ」言葉の意味することは、送ってくれる。もうひとりの姿はなかった。彼のあの目、子供を見る親の目よね。
着替えて通路に出た。
年長者が口を開いた。子供が親元を離れ寮で暮らすことを「非常に残酷なこと」だという。私に親は……
「私は、アレクサンダー……ああ、アレックスでいいよ」
「『月』に__」
「私は、その、名前を与えてもらえなくって」
ショックを受けた人間の顔だ。
「私の両親は大勢います。12人おられます。月神様です」アレックスは口元を引き伸ばした。笑みをつくってはなかった。苦しそうだ。幸せとは程遠い場所にいると悲観しているような。
「私はこう思う。寮生活をしながら成長するなんて、すごく残酷なことだとね」
「子供には親が必要だ。だから私は」
「ふっ……そうだな。――私は、面倒をみたいんだな。護りたい……」声がかすれている。
言葉を失った。
「その、おっしゃる通りです。私には、あなたの助けが必要なのかも。といいますのも――」
「ああ……彼から話は聞いている」
売店を眺めて月男に贈る感謝の品はなにか思いつかないか考えていた。どのみち、買えそうにない。本人に訊ねてみよう。
耳が彼の声を拾った。
「銀貨をガッツリ稼がせてもらったよ!」
「ねえ、ねえ、その子あたしよりかわいい?」
「ねえ、僕に彼女のことを悪く言わせないで?君より可愛いんだ!。人を卑下したところで君はそれ以上可愛くなりっこないよ!」
「あら、なに改心してんのよっ。__くせに。でも、いいの。彼女は狼月に選ばれたって知ってるの。__に聞いた。獣人って息がとぉうっても臭いのよ?__の口臭に空嘔するあんたがキスに我慢できる?耳から毛が生えてくるっていうし、あんたの服を毛繕いするのが今から楽しみなのよね!あはは!」彼は菓子の入った紙袋で娘のしりをバシッと叩いて逃げるように消えていった。
手を口元に持っていき、息を吐いて嗅いだ。
「気にすることじゃない」アレックス。
「そうね」なんだかんだいってふたりは仲良しなのだろうし。なぜだか、今日をダメにしてしまった気になった。
「その貴方の相棒の名前はご存知で?」
「いや、偽名かもしれない。わからないんだ……信用の問題、とだけ言っておこう」ふたりが抱える確執が見えた。
「……チャールズ」
「ありがとう。アレックス」
調子のよいでかい声が聞こえた。明るい赤毛の斧使いだ。「俺は毛むくじゃらの熊の__」熊の女獣人と寝たとかいう自慢話だった。
――護りたい。
視界の隅でアレックスが懐から小瓶を取りだして、錠剤を手の平に落として口に放り込んだ。飲み下す。アルケミストから買ったのだろうか?――と、アレックスの隣にチャールズが座った。彼の耳にやっと届くくらいの小さな囁きだった。私の耳にはこそこそと聞こえた。
12月神に使えるそれぞれの使者12名が呪文の歌を歌い訓練生を浄める。狼月の使者の顔立ちは獅子っぽい。顔の作りが変わってしまうのだろうか?アザラシっぽい顔とは?一番楽しい想像ということであって、私はアザラシになりたいわけではないよ。花月の使者は意外にも華やかとは無縁の寡黙な男性だった。
次は報告。
北部人の雪月の使者が前に出て鐘をけたたましく鳴らした。私の練習台の男に近づき、いきなり首を裂いた。
寒月の使者は冷たい目で事の成り行きを見守った。神様にはすべてお見通しということだ。雪月と寒月の間でやりとりがあったこと間違いなし。寒月『私の生徒は仕事を受けたまでです。__』
説明なし。月男の視線が背中に刺さった。そんな気がするだけなのだろう。料理が運ばれた。
先ずはフルーツを手に取り齧った。そしてアップルパイ、チーズパイ、そしてフルーツ。
先ず、アレックスとチャールズがなにかと振り向いた。濃いフェロモンをだしている眼鏡をかけた妖艶な女が口をきいた。
「お嬢さん、以前、闘牛希望の者がいました。牛になりたいはずのその者は、クルミのサラダ、クルミパイ、クルミばかりを食べた。やがて__の日がやってきて、狼月様がその者に能えた獣の力はリスだった」
「その者は戦闘に不利な長くて太い尾を胴体から切り離してしまったわ」
「貴女は何者になりたいのです」
「果物を好んで食べる生き物は何かご存知?」
「猿だなんて、貴女には不釣り合いではない?」
目が肉料理を探した。ミートパイを掴んで頬張った。上目遣いで女を見る。女は微笑んで去っていった。数メートルはあるかという髪の持ち主だ。わざわざ忠告を。
「猿だなんて……嫌」
「猿……猿の獣人は戦闘においては、頼もしい仲間になりえるね。彼らの強靭な腕力には、誰も人間である以上敵わないだろうから……。オランウータンの腕力は人の骨を砕く。噛む力だって相当だ」
「それに頭の天辺から尾の先までモフモフしていてキュートだろう?」どうやら、チャールズは猿所望らしい。彼にモフモフと可愛がられるのであれば猿になるのも悪くはないのかもしれない。
「可愛がってくれる?例え私がゴリラになっても?」彼はなんとも言えぬしかし曖昧な顔を浮かべている。
「ハルク……」ぼそりと言った。アレックスがチャールズを見た。
訓練所に行く前にお祈りをしに出かけた。アレックスは自室に武具を取りに戻った。アレックスに子守りを頼まれたチャールズが出入口で私を見まもっている。暇そうに柱を眺めていた。
「武器を持ってる?」私は斧使いからもらった短剣を手に取った。
「いいな、これ……」
「赤毛の斧使いからもらったの」
「アンテナというんだ」
「これをあんたに」
「キャンドルスティック」
「どうしたの?これ」
彼は渋面をつくってはにかんだ。
「盗んだの?誰から盗んだの?」
「寒月なんでしょう?海狸月じゃなくて」海狸月様はスリ人の月神様であられる。
「海狸月が守護神じゃないからという理由ひとつで、スリや窃盗といった行動を起こせなくなるわけじゃないよ。鍛練次第じゃぁ海狸月の上をいくことも可能だと俺は思ってる」
✒️チャールズの武器は盗品で間違いない。
「ほら」
「ありがとう!」私の顔は熱をおびて真っ赤だったに違いなかった。
✒️実のところは、自分で使う気だった。
「あ……、あの、貴方のお名前を教えていてだきたくて」
「チャールズ・ヴェスパシアン・ヘイル」
「ありがとう、チャールズさん」
顎をしゃくって訊ねた。「君の名前は?」
「あ――名前……。街の人たちは私のことをネッフィーと呼びました。意味はネームレス、フェイスレス――」次の呼び名がでかかり口をつぐんだ。
「彼らは私のことをネッフとかネッフィーと呼びました。言うまでもなくこのあだ名は大嫌いです」
チャールズは彼女の全身を値踏みするような目でじっくりと見た。
小柄で華奢な割には手足が長い。顔については細すぎるという印象はなく、ただ顎の先が細い。人の目を引く可愛い目は大きく、鼻のほうは小さい。背中から腰にかけカーブを描きしりは突きでている。そのしりはチャールズに蜂を連想させはしたが彼女に「メリッサ」という名前は似合わない。頭髪は長くて白い癖毛。肌は透き通る白さでピンク色。唇は赤い。白い睫毛が縁取る目はピンク。そう、彼女はアルビノだ。「ミア」は私のもの。「エフィ」は言葉遣いが丁寧ということだが退屈だった。「ミア」はどことなく気に入った。君しか持ち合わせていないもの。
「ミア?」チャールズが囁いた。
「……ミア?」私の口は三角に。目をしば叩かせた。チャールズが気恥ずかしそうにかぶりを振った。「なんでもないよ……」困惑顔を浮かべている。
私はキャンドルスティックを腰に下げた。と、アレックスの姿を目に止めた。腰になにか下げている。
チャールズはひとつ頷いて、歩いていった。振り返って私を見たあと足早に歩いて視界から消えた。
――ミア?
私は幸福を噛みしめていた。彼が立っていた空間を見て微笑んでいる。
「行こう。準備は――」アレックスは頷いた。
月宮殿の水瓶を浴び、地下聖堂墓地の棺に体を横たえた。蓋が石同士を擦る音をたて閉じられた。呪文を聞いてると意識がもうろうとしてきて、とても熱くなった。
訓練所のグラウンドに立っていた。隣人や周りを見ると、立ったままの状態で眠っているというよりは意識がないと言ったほうがたぶんにあってる。
キャンドルスティックと短剣の位置を触って確かめる。扱い方はまだ学んでない。それを言ったらアレックスもチャールズだって知らない。チャールズは体術こそ優れてはいたが剣術に関してはまるっきし素人に違いない。
ここは訓練所であってコロッセオじゃない。だから、みんなががみんなのための練習台になる。私はこのフレーズが気に入った。
でも、もし私が友達の胸に剣を突き立てたら、友達に嫌われる。
――派閥。友達の敵は、私の敵ね。年長者と道化者の敵ってどれ?よく観察しておかなきゃ。
ふと訓練所の外を見ると、売店の娘が来ていた。視線の先には思いびとでもいるんだろう。
私はチャールズに思いを寄せた。偽名じゃない。でも、思いを寄せた結果、彼が所望する猿の力を授かってしまったら?――私は新しい父親アレックスに思いを寄せた。
アレックスはどこにいる?ほとんどの者は目覚めていた。準備運動をしている者、空嘔する者、くっちゃべる者……他の者は熟練者の風格を漂わせていた。ただ、見かけに騙されてはいけない。
周りが動き始めた。赤髪の弓使いは壁際に寄りかかり物色している。苺月様の女はもう男の上に乗って腰をまわしている。
チャールズは無視を決め込んだみたいに背を向けていた。
――信用の問題、と言っておこう。
動かない者がふたりいた。私の練習台とその共謀者が立っている。痩せぎすの僧兵が背中に隠れながら呪文を唱えている。気味が悪かった。彼らに気をとられていると、背後に人の気配がした。振り向くと、アレックスが立っていた。
「真ん中は目立つ、こっちへ」
赤髪の弓使いのほうのやや端まで来た。目があった。彼は、何を考えているかわからない類いの人間だった。――人を欺く道化者。裏切らないという保証はない。
アレックスの息を呑む音を聞いた。
――ブオオオオオォォォォオオ!角笛が鳴らされた。鬨の声があがり剣が打ち鳴らされた。剣が盾や鎧にぶつかる音。呻き声。ガシャンッドダンッ私はキャンドルスティックを両手に握った。
弓矢の飛んでくる恐ろしい音。弓矢は私に刺さらなかった。私は過呼吸になっていた。呼吸を抑えることを意識しながら周りにまるで車輪のように目を配った。
遠くでチャールズが赤い花を咲かせて倒れた。足をばたつかせた後に、痙攣する姿を凝視した。共闘者が死ぬのを見るのは嫌だ。それは血の気が引く。ショックで体が硬直する。頬にたくさんの涙が転がって落ちた。
ところが、数秒もすると体の硬直が解けて、自分でもビックリすることをした。
私はアレックスを斬りつけた。アレックスは驚きはしたものの事態を飲み込んだ。5秒後に胸から鮮血が溢れてた。彼を驚かせただけ。致命傷ではないから、彼はしっかりと闘える。彼は口を開きかけた。
「素早く構えないと、刺す!」私はそう言って宣言通りのことをした。アレックスは身を交わした。ただ交わしただけではなかった。警棒の先は私の首に突きつけられていた。低いバリトンの声が言った。「私に剣を向けるな……」
このとき、アレックスは強者だと思った。私の推測はまもなく証明された。力任せに振り下ろされた剣を警棒で受け流し、相手の顎を素手で頭が反り返るほど打ちつけた。腕を取っていてはかば振り回すようにして倒して腕を折った。そして小瓶を取り出して中身を顔にかけた。嫌な音を立てて溶けていった。相手の体は指の先まで茹でられたみたいに真っ赤だった。
でも、それはアルケミストの業。
――海狸月が守護神ではないからという理由で、スリや窃盗といった行動を起こせなくなるわけじゃない。
私は彼を見上げて言った。「わかった。2度としない」警戒を怠らなかったはずのアレックスが呻き声をあげて倒れた。彼が倒れる前に呪文を聞いたような気がした。私は目まぐるしくあたりを見回して僧兵を探した。
こちらに向かって突進してくるふたりの屈強な男は見るからにゾンビだった。背後に痩せぎすの僧兵が歩いている。恐ろしい。私は赤髪の弓使いのほうに走って逃げた。「シセロ!!助けてっッ!!」彼は弓を引き死体を射た。頭を貫いた弓矢は脳に達しているはずだが、あれはゾンビだ。彼がまた弓を引く、今度は目を射ぬいた。一瞬だけ動きが鈍くなった。「ヘンッ」という赤髪の罵りを聞いた。私は壁にぶつかるようにして逃げ込んだ。ビシュンッ。弓が振動する音。そして死者の両目を潰した。
でも、まだ向こうから僧兵は歩いてくるし、ゾンビが迫ってきていて、__と距離を縮めてきいる。――と、私には別の壁が迫ってきた。魔法使いの炎だ。――なんて憎らしい!!
今度は炎に包まれなかった。キャンドルスティックが灯されて炎の剣に姿を変えた。赤髪の弓使いは弓を背中にしまい、黒檀のダガーを握って構えた。なんて頼りになる人なんだろう!
僧兵は呪文を唱えた。アレックスが倒れる前に聞いた呪文。命を奪う魔法。あればっかりは、防ぐ手段がない。どうにもならない。しかし、僧兵は頭を傾げている。同じ呪文を繰り返す。赤髪の弓使いは突然ぶちキレて僧兵に向かって突進していった。私は彼の戦いの成り行きを見守ることはできなかった。練習台のゾンビが目の前に迫っていた。
先ず突進を交わすこと。相手が前のめりに倒れ込んでくれたらよかった。そうしたら剣を突き刺せたのに。だが、そうしてくれずに剣を抜いてくれそうだったから、突進を交わしたあと相手に突進して男だった者の振り向き様にキャンドルスティックを突き立てた。硬い感触があったが、脇腹に深々と刺さった。傷口から炎が噴き出した。ゆっくりと膝をついてそのまま動かなくなった。
赤髪の弓使いの足元には鼻と口から血を流している、くずおれた僧兵がいた。見物だったに違いなかった。両目を潰されたゾンビはまだノロノロと歩いていた。気味悪く首を振り。
駆けつける音が聞こえた。アレックスだった。「何が起こった?」私はいま起こったことを説明した。アレックスは僧兵をひと睨みした。
ドイツ系の寒月の剣がゾンビの首を跳ねた。よほど嫌いらしい。きびきびした動きでどこか剣のあるところへ去った。
数メートルはあるかという髪の毛の持ち主は召喚師だった。自分の髪の毛を自在に召喚して戦う。いまは髪を相手の首に巻きつけて絞め殺すというところだ。妖艶な女の目がこちらに向けられた。ウィンクひとつして敵に向き合った。と、ここで魔法使いの炎が彼女の髪を焼いた。彼女は自分の髪を切り捨て延焼を防いだ。ばらばらと黒髪が流れた。女同士の戦い。
魔法使いの足元から髪の触手がのびて女の脚に絡みつくのを先駆けに、あっという間に体を太い触手がきつく締めげた。あまりに力が強いため、布は痛み、襤褸と化した。骨が砕ける音がした。巨人の手に掴まれたも同然だった。
女は血を吐きながらも口を動かしていた。召喚師の様子がおかしかった。電流が駆け巡っているみたいに体を仰け反らした。発火して、髪が焼ける臭いが充満した。
召喚師はとうに力尽きている。魔法使いが力尽きて倒れたが意識はまだあったがために、殺しの恐怖に興奮しきって、ぶっこみたくなっている男に犯される末路にあるようだ。大災害直後や戦場ではこういった醜い出来事が起きてしまう。私が倒れたとき、私は純潔さを守れただろうか?アレックスが私の向きを半ば強引に変えた。
私は月男を徹底して避けていた。視野にそれらしき者が映ると見ないよう努めた。
早くも召喚師が水槽からでてきたときには、魔法使いは餓えた男たちに囲まれていた。死んだほうがまし。
一体彼は何度死んだんだろう?また鉄の柵からチャールズか入ってきた。胸が締め付けられた。私はチャールズのほうへ走った。これは、アレックスの言った通り、かなり危険な行動だった。
後頭部に衝撃を受けて私の視界に笑う僧兵の顔が入ったのだから。あっという間に地面に叩きつけられていたの。歪んだ笑みを浮かべただろう僧兵がまたメイスを振り上げる気配がした、神さ――
チャールズを真似て水槽から勢いよく這いでた私は鉄の柵へ走った。チャールズはまだあの辺にいるかもしれない。アレックスが僧兵を凝らしめているかも。
手が掴まれた。力任せに引かれた。振り返えらされた僧兵だった。イヤだ!身投げの穴に突き落とされる!そう思った。
壁に叩きつけられた。死の恐怖に喘ぐばかりで、足に力がはいらない。
水槽に引き戻され、頭を水中に押し入れた。私は手足をばたつかせて必死に抵抗したわ。引き剥がそうともがいている間にも、肺に水が。ただだた辛くて。
遠くで鉄の柵を激しく揺らす音が聞こえる?アレックス……。
「忌々しいっッ!!」僧兵は首にボロ布が掛けられて絞められてもがいた。魔法使いだった。
あまりの勢いに首の骨がポキリと折れた。
そうして彼女は僧兵を身投げの穴に投げ棄てた。私を助け起こすと冷たい声で言った。「彼は死にました。もう二度と貴女を困らせることはありません」私に目をとめた。彼女は僧兵の呪文を唱えた。私は肺の傷は癒えたかもしれないけど、すべての水を嘔吐した。
感謝の言葉を述べた。
「いいえ、私は貴女を救えなかった。だから貴女は醜い男を見るはめになった……」そう言うと鉄の柵へ向かった。
鉄の柵の前でアレックスが待っていた。彼は私を抱き止めた。ふたりはしばらくそうしていた。また殺られたの!?チャールズの死体を運ぶ赤帽子をまた見た。チャールズが鉄の柵からでてきたところで私は彼に抱きついた。本当のところは寒月ではないんじゃないか?いつしかそう疑うようになっていた。私は彼の腕を離さなかったために3人は行動をともにした。
私は経緯をふたりに話した。アレックスは動揺していた。打ちのめされていた。チャールズは、石を見るようななんとも不気味な表情を浮かべていた。その顔を見て、私は再び裏切りに目覚めた。思いついたように短剣を手に持ちチャールズに斬りつけた。また、血を損なう。胸がちくりと痛んだ。短剣を構えて言った。「素早く武器を取らないと刺す!」短剣を突き出したはずの腕は彼に取られていた。私はなぜか地面に片膝をついて、腕を捻られている。彼は弱者なんかじゃなかった。「俺に剣を向けるな……」――デジャ・ビュ。
屈強な黒人の戦士がチャールズに迫っていた。盾でチャールズを押し退ける、剣を横に振るった。彼はふざけて水の中に入ったかのように体を下げて避けた。ただ避けただけじゃない。相手の脚を蹴り、自分の脚で相手を挟むと腕で脚をバキリと折った。素早く立ちあがり、思い切り膝を上げ首を狙って踏みつけた。
そうして死んだ相手から剣を奪った。私は咄嗟に叫んだ。「いますぐ剣を棄てて!」「マゾなの?!」
剣を突き立ててやろうと思っていた相手に命を救われるときもある。驚異は取り除かれた。
私には別の驚異。チャールズ・ヘイルポンコツ問題が残っている。彼の体術は素晴らしい。だけどいったん剣を持つと底辺のポンコツに成り下がる。私は続けて叫んだ。「だから、その剣をあきらめて!」
「素手で闘えって?」彼は眉を潜めた。
アレックスがため息をついた。「ここは訓練所だから、彼の好きにさせよう……」
「わかった」私はそう言ってキャンドルスティックを手にチャールズに斬りかかろうと構えた。彼は相手にする価値もないという風に、キャンドルスティックを糸も簡単に叩いて払いのけた。私の顔がよほどだったのだろう。笑いで口許がゆがんでいた。
――なぜ死んじゃうの?疑問は晴れなかった。
不満だった。剣戟の激しいあちらに行こうとする彼の腕を引いた。
「また死んだら許さない」
「お願いだから、死なないで!」悲願する。周囲の男が笑った。彼が困惑の表情を浮かべた。「うん……」ただそう言って、あちらに行った。どうせ死ぬくせに……。
売店の娘の悲鳴がつんざいた。私の血の気が引いた。意味することはひとつしかない。私は勢いよく彼女に振り返り、彼女の視線を追った。屈強なノルドが剣に月男を引っ掛けて「俺が仕留めたぞ」と怒鳴った。悦に入って首を捻り千切った。「お前を殺してやるっッ!」売店の娘が怒鳴るかと思ったが、彼女は膝を地面につけうちひしがれていた。失禁してる。
私の的は、あの男に定まった。アレックスが私の肩を掴んで引いた。「待て、気持ちはわかる。……だけど――」彼の声は聞こえない。
なぜなら、月男の頭をベルトに引っ掛けたから。私は怒りに任せて走った。ドワーフ風のノルドは横に張り出していて丸っこい。
結果なんて見えていないのは私ひとりだけだった。ドワマルは盾を構えて衝撃に備えた。――ドカンッ
彼の盾にはトゲがついていた。私は刺さって身動きがとれなくなっていた。キャンドルスティックは兜に叩きつけたかもしれないが。ドワマルは無事だ。ドワマルは盾をバーベルを持ってすることのように腕を上げて下ろしてを繰り返した。まだ周りが見える。手を止めた困惑する赤髪の弓使いと対戦相手の赤髪に敬意を払い成り行きを見守る槍使い(恒例の様子)、口を抑えるアレックス、チャールズは見つからなかった。
私を覗こうとした瞬間に隠し持っていた短剣で目を貫いた。2度。ドワマルは悲鳴をあげて盾を激しく振った。私の体はトゲから離れ地面に落ちた。まだ目が見える。アレックスがドワマルの首をシュッシュッと斬りつけた。月男の首を男の腰から切り離し、月男の遺体の切断面に合わせるように置いた。すぐさま__の者が二人を鉄の柵の中へ運んでいった。
私には、まだ意識があったし、目も見えた。アレックスが側についてくれた。ドワマルが鉄の柵から出てきて、剣戟激戦区へと足を運ばせる。月男がぼうっとした様子で首をさすりながらでてきた。こちらを凝視してる。
「なぁ、楽にしてやらねぇか……?」ドイツ系の寒月が近づいてきてそっと言った。アレックスは非難の目を向けた。寒月は顎をあげて口をしぃーと歪めて言った。「お優しいこった」
アレックスは私に背を向けて、寒月は素早く目配せをした。寒月は私の側にしゃがむと私の額をそっと撫でた。「俺を見ろ。俺の名前はカール・タナー――」
鉄の柵を閉めてその側で私はチャールズを探した。彼は剣戟の激戦区にいた。――なぜ?
私の目の前に毛布が投げ込まれた。中から転げ出たのは黒髪の私より小ぶりの女だった。
忍者。そんな職業が似合いそうな東洋人みたいな女はすかさず変わった足裁きでくるっと回転しながら周囲の状況を把握した。そして、迷うことなく剣戟の激戦区へ走った。――なぜ?一体どうして?凄腕なんだろうか。私はノルドの肩や頭を踏み台にして跳び跳ねながら手裏剣を繰り出す
彼女を想像した。だけど、彼女が身につけていたのは双剣と弓だった。チャールズがどきりとして勢いよく振り返った。第六感というやつかな?彼女はチャールズではなく相手の男の首を跳ねた。チャールズが後ずさる。彼女は彼を見た。チャールズは山で熊と鉢合わせしたひとみたいだった。目をあわせてゆっくり後ずさるひと。ただ相手は小熊サイズだ。彼女は構わず弓を構え射た。早業だった。弓矢はチャールズの後ろに迫った男の口を貫いた。
と、ここで角笛が鳴った。彼は私の願いを聞き入れた。
チャールズは、振り返って私たちのもとへ歩み寄った。私は彼に抱きついた。「よかった!」彼が切り返した。「まったくよろしくないだろう。私は、アレックスのアドバイスをしゃんと守るようにと言ったのに」「君は……」「君は私を困らせた」私はうつむいた。
大広間での宴の時間。今日は3人減って、1人増えた。
忍者は孤独を好む質らしい。チャールズは、例の女の子の表情を見ることのできる席へ腰をおろした。
私はシセロにお礼の旨を述べて銀貨を手わたした。そしてドイツ系寒月に感謝の言葉を述べて銀貨を手わたした。「だからあんたを気に入ってる」と彼は言った。
席に戻る途中で月男が前に躍りでた。話をしたいから一緒にどうかと誘ってきた。私ははいと答え、ミートパイや仔羊のステーキを自分の皿に取り分けて、周りから離れた席についた。
彼とはいろんなおしゃべりをした。
獣の力のことを、思いきって売店の娘のことを訊ねた。「つき合ってる女の子はいる?」
彼は言葉を濁した。「売店の子は?」
「昔馴染みだからちょっと、お互いに愛着があるってだけだよ」うつむいた。「僕は恋がしたいんだ。あれはムリ。あんなヤマネコ絶対」
「あなたのことを好きみたいだった。私を卑下してたもの」
「ああやって、相手のまわりにトゲを撒いて刺激してるんだ。あの子は君のことを悪く言うけど、悪気はなくって」肩をすくめた。
「僕たちは別に嫌われたっていいよ……その」
「目の前にいる女の子が好き。うーん、うーん、好きなんだけど」彼は酒をあおいだ。すると噎せた拍子に喉に酒が詰まった。ガプッ、酒で流そうと思って酒を飲んだ。すると、余計に詰まった。彼はあわてはじめた。私は桶代わりにスープの皿を置き、背中を叩いた。ゴプッ、コポッ――彼の喉から水が跳ね回る音が聞こえた。なぜでないのだろう?「吐いて!胃のなかのものを!」酒は出ない。いよいよ苦しい。
「丸顔の間抜け!」誰かが言った。確かに間抜けだわよ、これは。
「ねえ、ちょっと、いい?」忍者が背後につき彼の鳩尾に両手を置いて胃をくっと押した。
ブエエエェェーしばらくの嘔吐。空嘔。
「よし、オーケー」忍者は自分の席に戻った。「ありがとう!」彼は言って皿の桶を押し退けた。
「彼女、凄腕よ。だから次は掴まらないで」
「僕からも、言わせてもらえば、僕のために死なないで」噎せた。「先ず、君とデートしたい。キスをして。またキスをする」
誰も使っていないという部屋『塔』に入った。
絵柄は先端が壊れた塔。
「ミアよ。」
「ミア?かわいい。誰からもらったの?」
「友達」
「僕らのショートケーキ。きみも座って」
素敵!ベッドのことね。
私は唇を重ねた。より深く。息を弾ませながら見つめあう。彼は私の白い髪をかき撫でながら私の赤い唇に自分の唇を強く押しつけた。むさぼるように。「君の髪のほうが白いね……」
「ケーキみたいでしょう?」
「ね、痛くしないで?」彼の肌に手をすべらせて下腹部を探った。「痛くしないよ。決して」彼はサラシを捲っていた。サラシが床に落ちて豊満な胸が露になった。とってもやわらかさそう。手のひらが触れる、やわらかい。もっと押しこむと指がうもれた。
胸にぱくっとキスを落とす。彼のは温かくって気持ちいい。ぱくっ。
私は脚を彼の肩に乗せた。私の隠し持っているペロペロキャンディーを見せてあげた。彼の口はキャンディーをぺろぺろと。気持ちがいいから声をあげている。すると不思議でもっと気持ちよくなってきてカップに紅茶を注ぎたくなったティーポットよろしくお湯が、お湯が。彼は例えるなら、遠出好きなスプーンかな。――でちゃう。
彼のそれが中にはいったとき、私は「私のお月様」とささやいた。
私はハンマーガール。人の部屋で勝手に営むふたりの邪魔をして「ちょっと!あんたたち、そこでなにしてんの?ここは私の部屋よ?」と言ってやりたかった。そしてケツを叩くなり蹴るとかして
「ちょっと!!」「シーツを駄目にしないで!ソファーも駄目!!」と言ってシーツをひっぺ剥がしにかかりたかった。
それなのに、私は自分の部屋の外のドアに寄りかかってふたりをぶつのを待ってる。「あんたたち、よそでやんなさいよ?」と思いながら。かぶりを振った。私はいよいよ退屈に耐えられなくなって探索をはじめた。
見物やぐらまで階段を上がってみた。花月様の満月。私の守護神が街を照らしている。
ここからじゃ双子の塔が邪魔で端のほうしか見えないけど訓練所が見える。私のもうひとつの体は雨に打たれようが嵐に倒されようがきっとあそこに突っ立てるんだろうな。屋根くらいつけてくれたっていいじゃない。
街はラメをまぶしたようだった。機械とは無縁のおとぎの国。なんでもあり。魔法、妖精、獣人。神様。まったく、ふざけないで。
誰か私に銃と弾薬、爆弾を頂戴。こんな世界ぶち壊して夢だと証明してあげるから。そうよ。私がベッドから目覚める手助けをして頂戴。――だけど、私だけが迷子になっているわけじゃなさそう。あのふたりは違った。明らかにこっち側の人間だった。鉄と硝煙の。
まったく。私は一体なにをしているの?月なんか眺めちゃって。月神です?なんでよ?普通、太陽を崇めるんじゃないの?
私は地面に座った。目をつむり、眠った。厳密には眠ったふりをした、か。じっとなんかしていられない。
くそったれ。ドアを蹴破ってやる。爆竹でもあれば脅かしてあげるのに。
破壊力のあるあん喘ぎが聞こえてきた。まだまだやる気らしい。我慢ならない。今度は階段を降りた。決めた。こんばんはここに戻らない。どこかで爆竹を手にいれたら戻るかも。
双子の塔から窓を見えないかしら?
双子の塔の引き戸を開けた。見えた!あいつら!弓を
下から男の声がした。
「なにをしてる?」
「悩まなくたっていいことの自己処理。鳥がうるさいのよ」男は梯子を外した。「ちょっと!なにするの?」
「弓を」命令口調だ。仕方ない。弓を投げた。
「梯子を」
「時代は?」
「たぶんあんたと同じ」「ね、梯子!」もう1人の男が来ていた。「ちょっと、そこのあんた!借りを返してもらえない?この男をなんとかして。梯子をかけてもらえたらありがたいんだけど」
「こいつはゴーストだ」
「え?なにを言ってるのかわかんない」
男は頷いた。「__」「私はアレクザンダー・マホーン。元連邦捜査官だ。お前は第一級殺人を起こしたよな。こんな形でお前を捕まえる日がくるなんて」
「それ本気で言ってないわよね?オズの国ってアメリカにあったっけ?」
「それで?、あんたはなによ?国際警察?」
「リチャード・ローガン」
「ふん、嘘よね?」
「……へぇ、あんたがそう」
「いいわ。認める。私はゴースト。本名なんか言わないから」
アレックスは梯子を掛けた。「ひとつ忠告しておこう。訓練所の外では誰も殺すな。神の制裁を受ける」
「本当だ……」
ゴーストは勢いよく梯子を降りた。アレックスを勢いよく蹴飛ばした。アレックスの肩に跳び移り脚で締めて彼の首を人質に取った。
「リチャード、床に手をついて!、そう、頭をついて、いいわね、」いつの間にかアレックスの手を紐でくくった。リチャードの手も紐でくくる。「それで、あんたたちの部屋はどこ?」
アレックスとチャールズは目配せした。自分たちのシングルベッドを合わせて作ったダブルベッドの上でゴーストが大の字になって寝ている。キジのように鳴くけたたましい鳥によほど頭を悩まされていたのだろう。チャールズは紐を解いており、アレックスの紐を切っていた。「とんだ暴れ馬だ」
下の層物置部屋におりて__の部屋のベッドを借りる。あんな危険因子の側では眠れない。
「見たか、あの弓。錬金術師たる由縁だな」
「稀代の天才だ。武器、衣服、乗り物まで、身のまわりのものを自力で造るんだ」『錬金術師』とはあるゲームタイトルが由縁。
「窃盗からはじめるんだろ。彼女は、分解して勉強をして模範するだけじゃ__だから。鉄塊集めからはじめると」
「そうしてかき集めた道具を何に使ったか。知ってるか?」アレックス
「人助けか?」
「_州をまたいで連続殺人事件を起こした」
「使われた銃弾は__。たったひとつだけ_。彼女の部屋から押収した資料はすべて被害者の情報だった。ミリシアの幹部だったんだ。大量殺人を計画してた。大勢の人間、妻、子供が命を落としただろう」
「そういうやつらなんだ。白人__説うくせに多くの同胞を傷つける。犠牲は__につくものだと言ってね。過去に受け持ったクライアントの何人かが殺されたな」
「それから、まもなく新しい被害者がでた。次から次へと、名だたるミリシア代表者たちだった」
「わからなくなるときがある。躍起になっていたのに……そのときばかりは殺人者に感謝した」
「あんた、子供いないだろ」
「あんたの子供は、息子さんか?それとも娘さん?」
「息子が。名前は__。まだ__歳だった」
「お前みたいな人間に……殺された」強大な闇に振り回されて、幸せには程遠い場所にいると感じるときがある。そんなときに、寄り添ってくれる息子が、私が犯してしまった罪の慰めになったものだ。
「……言葉がでないよ。」
「ふん、わかりっこないさ……俺の気持ちなんかわからない」
チャールズの心は磨り減った。最寄りの教会の椅子に横たわり眠った。
私のお月様とお茶会を楽しんだあと別れた。最寄りの教会から聞き覚えのある寝息が聞こえた。チャールズだった。
自室に戻った後でふと窓を見るとふたりの部屋のベッドで忍者が横になっていた。ルームメイトかしら?
あのふたりって恋とかどうなんだろう?
ベッドにもぐって眠れぬ夜を過ごした。明日は獣の力を授かる日だった。――やっぱり猿は嫌だなあ。ミートパイも食べたし、仔羊のステーキも食べた。フルーツではないにしても、甘いものの食べ過ぎにはちがいない。
目が覚めたらアレックスがベッドの縁に座っていた。「おはよう、アレックス」
「まだ寝ていなさい。__」
「どうしてチャールズは教会で眠ってるの?」
「怪物に家を襲われて、逃げるようにでてきた……」
「明日には、私も怪物に……」
「……君は違う。人の子だ」
「ねちゃった」
「え?、メア……ああ……そうか」「誰と」
「彼を愛してるの」
「でもな、メア__」
「メア。やあ」
「私のお月様、おはよう!」
「おや。進展がはやすぎるんじゃないのか?」
「彼のことをどう思う?」
「人は、命を助けてくれた人に対して心を開くものだ……」チャールズ
血の盃を手に取って口に運んでき、中のものを喉に流し入れた。
ブオオオオオォォォォォォオオ!
四脚が音をあげて伸びる!全身の骨が太くなる!脚の骨が湾曲していくのがわかる――よかった。猿じゃない!頸骨から背骨が浮き上がるのも、あばらの間隔が開いて前にせりでる!皮膚は硬化し白い毛皮に変わった。
でかい。3メートル半はある。
鋭く生えた牙をガチッカチッと打ち鳴らし、咆哮をあげた。歯を打ち鳴らして、首を振るった。鉄のように硬く鋭い鉤爪は地面を引き裂いて土の塊を撒き散らした。鼻と、ピンクの目は獲物を探した。ドワマル。あいつから試そう。駆け足でたった5歩。かなりの大飛びだ。
「美しい……」チャールズ
空高く放り投げた。ドアマルは地面に叩きつけられた。ドアマンドが挑んできた。斧は弾かれた。彼は反動の力を使おうか迷ったがやめた。爪のなぎ払いがきて、地面に転がるようにして避けた。ドアマンドから注意を反らそうと仲間が脇腹を激しく叩き斬り、アゴの下を剣で激しく突き刺した。が、いずれも硬い皮膚に弾かれた。脇腹の者は頭を掴まれ潰された。顎の者は噛み千切られた。
忍者は弓を上空に向けていた。鳥でも射て暇を潰しているのだろうか?アレックスが上を見て、チャールズが叫んだ。「避けろ!動け!」
ビシュンッ地面に弓矢が勢いよく突き刺さった。彼の声がして咄嗟に避けた。忍者が弓を構えてる。ビシュンッ――横に交わした。小鳥を狙う猫のようだった。ビシュンッ――
ひとつ教えてあげるわよ。大狼さん。
鹿が欲しいときに幸運に恵まれて鹿の親子を見つけたら、仔鹿を狙えって。子供を護ろうと親鹿が飛びだしてくる。それを狙うの。
弓をリチャードにあからさまに向けた。ひとつ間をおいてから立て続けに離した。ビシュンッ、ビシュンッ、ビシュンッ――大狼はリチャードの盾になろうと駆け出した。ビシュンッ、ビシュンッ、ビシュンッ!皮を突き破った。何本も体を貫いた。犬はあの切ない鳴き声をあげた。キャインッ!ヒィ、ヒィッ!
くそッ、早くくたばれ、いぬがっッ!
横から男が突進してきた。黒いダガーを手に持って。ああ。わかった。銀貨めあてだ。
私は刃をかい潜って、かい潜るだけじゃだめ、掴むべきところを掴むの。例えば、_でもよかったけど、大切なところを捻り潰した。そうして男の腹を蹴りあげた。2度。
でも、大狼が来てた。
私は自分の首に黒檀の冷たい刃をあてた。
白い毛皮が血飛沫に真っ赤に汚れた。赤髪の弓使いが「血がどばーって!」と言ってから笑いをした。目は忍者の顔を凝視している。
__が来て、彼は彼女から目を反らして私を見た。艶のあるかなり急ぎ口調の声が耳をつんざいた。「あははーはははっッ、おまえ、毛皮をまとった姿は、聞こえし者にそっくりだね!」手は捻り潰された股間にあてられている。悶絶している。彼の頬を涙が転がった。
「おや」彼が顎をしゃくった先にはドアマルを先頭に__の戦士がいた。雪月のリベンジ。
忍者の弓矢がまた刺さる。口に突き刺さる。口が固定された。ドアマルが首の後ろを鈍器で殴り付けた。ぐらり。グサッグサッ、と刺される。また口に突き刺さる。
「あんた、リベンジしたいんでしょ?先ず、はっきりと言わせてもらえば、あんたには無理」
「彼奴の情報を教えてくれない?」やっぱりね。深いんだ。でも、今回は。チームプレーね。
仲間が大人の友達を足止めしてくれている。友情より銀貨がものを言うわよね。
こちらに向かってくる。私は月男の脚を射た。次も。あら、膝にあたった。
痺れるような衝撃が全身を貫いた。石が転がっている。痛いっッ。
「うそよね、なんてやつっッこの」
「バケモノっッ!」ビシュンッ!口をむなしく射ぬいた。
「やめてえぇっッ!!」忍者の体を掴んで口に放り込んだ。ガブッ。どこかから艶のある声が「ヒイッ!」と言った。
お月様は怯えていた。私は変身を解いて彼に近づいた。「大丈夫?」
月男はもともと丸い目を更にまんまるく開けていた。彼女の口から彼女の脳みそが引っ掛かっていた。彼は口に指を差して教えた。私は口の中に啜った。彼はぞっとした表情を顔に張りつかせて両腕を使って尻を引きずりながら数歩後ずさった。「ごめんなさい、僕にはムリ……」
「あっちに言って」
私はとぼとぼと歩いた。殺された。それから何度も殺された。水槽の縁に忍者がぽけっと座っていた。角笛が吹き鳴らされるまで。獣人が忌み嫌われる理由はこれだ。――恐怖
アレックスは執拗に雪月の嫌がらせを受けていた。見かねたチャールズに助けられたり助けたりしていた。私はただただ殺された。
半殺しにあい、襤褸のように地面に叩きつけられた。そのうち角笛が吹き鳴らされた。
助け起こされた。男の手。守護者の手。アレックスも傷まみれだった。チャールズは鉄の柵から出てきたところだった。
私は男に言った。「食べた……私を食べたのよ。怖かったのよ……」
「痛みとか、死ぬとか、そういう怖さとは別もの。人じゃないんだもの」
「あんたはどう?あの毛皮に惚れてるみたいだけど」「例えば自分を見失ったハルクがあんたの真ん前に飛び込んできたら、あんたは怖いと思うでしょ?」
「俺のほうは……あんたのことを怪物だと思ってたよ」
「どういう意味よ?」
「理由はともあれ、彼女に挑んだ。致命傷を負わせた。俺のクライアントを皆殺しにした」肩をすくませた。「それまだ引きずってんだ……」
「ねえ――」角笛が吹き鳴らされた。「また今度」男が鉄の柵の向こうに消えるのを見届けてから口ずさんだ。「ねえ、次は時計の話でもしましょう」
宴が始まり、牡鹿月どもが歌いだす。雪月どもが大狼に挑んだ者の名前を列ねて、そのひとりひとりがどんな風に闘って散ったかを話聞かせた。牡鹿月どもも交わり敗者を讃えはじめた。喝采。
食欲がない。全くない。月男が売店の娘とくっちゃべりる様子がまざまざと脳裏に浮かんだ。「口臭を気にするどころじゃないよ!口に脳みそが引っ掛かってたんだ。うえっ」娘が背中をバシッと叩く。「そういうことよ!」
――バケモノっッ!
――ヒイッ!
言うまでもなく皿はからのまんまだ。アレックスは食べなさいと言った。何か言ってたけれど聞きたくはなかった。
隣に椅子を引く気配がした。忍者が立っている。「私が__を食べてる最中に、あんたの口に私の脳みそがひっかかってたって話をアイツらから聞かされても、なにも感じない。私はね」そう言って椅子に腰かけた。
「でもあんたにはムリそう」
「お腹が空いたら私の部屋を訪ねてきて。私は材料をくすねるのも、料理を作るのも得意よ。昨日あんたたちがいた部屋だから」そう言いながら皿にいろいろ料理を乗せて「はうっ」とかぶりついた。口の中に食べ物が残っているうちからしゃべりはじめる。「それに、ひとりは退屈。ほかの女子とは、話が合わなさそうだし……」「はうっ」口をもぐもぐ動かしながら首を伸ばした。そうして男に訪ねた。
「ねえ、あんた。私にはリチャード・ローガンって名乗ったわよね?」
「もう一回聞くけど、あんた本当に名前はリチャード・ローガン?」「はうっ」
「……」
「ジェラルドって呼んでいい?あんたのこと、ジェリーって呼びたいのよ」もぐもぐ。頭の回転が早いアレックスはくすりと笑った。リチャードは顔を赤らめた。忍者は口をもぐもぐ動かしながら話を続けた。「もちろん。__じゃなくって、__のほうで」
あらら。だんまりしちゃった。いろいろあった嫌な出来事がこのときばかりは綺麗に吹き飛んでいた。「ジェラルド?本当の名前はジェラルドなの?」私は訪ねた。チャールズは顔を横に振っただけだった。
✒️主人公をヘイルに交替。
✒️ミアが抱える問題を解決させておくこと
「いい兆候ではないだろう……」そうチャールズが言った。アレックスが言った。「あんたに気がある」口角がくすりと動いた。
「まさか……私の知識__に興味があるだけだよ」
アレックスが納得して頷いた。
「……彼女を仲間に加えることを考えないのか?」
「おい、俺を餌にしてるな……」
「あんたと彼女の気持ちはともかく、いいコンビになると思う。それに――」
「賢明な判断とは言い難いね」
アレックスはひとつため息をついた。
チャールズの目が誰かを追いかけた。苺朱が前を通りすぎた。線の細い男と手を繋いでいた。横目で追っている。
アレックスも気づいたみたい。
私は狼月様に感謝の言葉を述べるために最寄りの教会に行きたいと二人に言った。アレックスも一緒に来ることなった。チャールズは先に自室へ向かったところでアレックスに訊ねた。
「彼女にはリチャード・ローガンって名乗って、私たちにはチャールズ・ヘイルと。じゃあ、ジェラルドは?一体、誰に名乗ったの?」
「世間に」
「彼には注目願望があるのね?」アレックスはくすりと笑った。
「どうして強いのに、たくさん死んじゃうのかわからない」アレックスが私の小さい手をとった。
「彼女に護ってもらえばいい」
ジェリーはきびきびと歩いて書個室にはいった。歴史を調べているらしい。
あっ見失った。私をまくためにはいったわけか。ふうぅん。尾行はいい暇潰しだったのに。
いまから眠りに落ちる瞬間までの長ったらしい退屈を満喫するってわけか。
本、か。鉱石の本はないかな?――見つけた。私はどうせファンタジー物質「ミスリル」、「オリハルコン」、「アダマンタイト」が載ってると思って馬鹿にしたけど、知らない鉱石ばかりじゃないの。そういえば……赤髪の持ってる黒檀のダガー。他の人間が持ってるとこなんて見たことないと思ったっけ。
お。琥珀の紹介ページね。あなたなら知ってるわよね?琥珀の色には二百種類以上のあるって。この『ネバーランド』には何種類あるのかしら?
見たこともない色の琥珀を惚れ惚れと眺めた。写真をさする。これが欲しい。ブレスレットリングの形を想像した。彼の腕にはまったブレスレットリング。それには時計を嵌め込めるの。戦闘で時計が傷つかないように外しておける。デザインは……――紙にざっとアイデアを描いた。時計の中身は……彼が考えればいい。
部品は私が造るから。必然的に機械時計になるわね。__は、私なら作れる。__を製作する機械だって。製図を描く。
何時間たったのか時計のない世界じゃわからない。部屋には蝋燭も線香もない。でも「とっても、有意義な時間だった……」私は満足して自室に戻った。実は背後にジェリーが居て逆に覗かれてたなんてこれっぽっちも気付きもしないで。
自室に戻ったとき、チャールズは明るい顔をしていた。何冊か本を手に持っていた。私を目にとめた。顎を引いてたしなめるような顔で言った。「寝る時間だぞ」
「貴方まで、パパみたい」
「そうしたいから、まだ起きてる」
「それは?」
「楽しい内容ではないよ……」
「寝る時間だ、メア……」彼はまた言って本と紙と式用具を抱えて部屋を出た。私はアレックスを見た。彼は涼しい顔をしていた。
「進展があった?」私の問いに、アレックスは「たぶん」と答えた。
1日で破局した事実は私の心に深い傷をつけた。月宮殿、月神様、月男を思いだすきっかけなんて山ほどある。しばらくは駄目。いちいち思いだして駄目。まぎらわすためにチャールズを使うのも駄目。でも、ポンコツ問題を真剣に考えるのはいいでしょう?あら、彼って恋愛偏差値が低そう。
私はパンのつまったバスケットを抱えてノックした。結局、料理しちゃった。ドアを開けたアレックスにバスケットを突きつけた。「これ。バーガーに似せたから。あの子に食べさせて。それじゃあ、おやすみ」
「ぅぁ、……ありがとう。おやすみ」私はひとつ頷いてドアを閉めた。来た道をたどる。壁を撫でながら。材質の触感を楽しみながら歩いた。料理はいい暇潰しになった。
双子の塔をでて夜風にあたる。あの子はフルーツバーガーにかぶりつく。アレックスは食べない。口にするとしても彼女のために毒味で噛る程度に。ジェリーは……わからない。バーガーなんて食べてくれるのかどうかすら。宴のときに彼の皿の中身を見たけど、食欲旺盛なほうじゃなかった。私が作る料理って美味しいのよ?ジェリー。
今日、彼に向けて弓矢を放ったとき、おぞましい電流が身体中を貫いた。どきりとした。
彼が頭脳で闘う人間なのはよく知ってる。2度めのときに、ふと彼の死に様に興味がわいて……だから彼を待って数えることにした。やつらは水槽に5回も放り投げいれてた。だから6回めのときは「ゴミを破棄するみたいに扱わないで!」と叫んだ。彼の腹から内蔵が飛びだしてた。――ウォッチメイカーの。
ウォッチメイカーは世間には最悪の悪だけど、私にとっては天使よ。私は彼が好きそうな腕時計を盗んだ。『アストロン腕時計』世界初のクォーツ腕時計。そして彼に届くように彼と強い繋がりを持つといわれるメキシコのとある人物に贈った。この私がファンレターを贈ったの!
――こいつはゴーストだ。
私を知っていたのはどうして?それは、彼のクライアントを殺して気を引いたからに違いないから。顔が割れたのは味方の誰かが寝返ったから。だからといって、私がファンレターの差出人だなんて知るはずがない。だから安心して。だって、バレたら恥ずかしいじゃないの。――だってゴーストは乙女だってバレたちゃうんだから。私の思考は停止した。もう帰る。
美味しい!ぱくぱくとフルーツバーガーに齧りついた。アレックスとこの食べ物は不釣り合いだけど、口をもぐもぐと動かしながら紅茶をいれてる。バーガーは5つあったけど、このフルーツバーガーで最後。私ってフルーツのまえでは意外と大食いなのよね。
更に時間はふけた。眠れない。アレックスはソファーで眠ってた。チャールズは部屋に戻らなかった。私は抜き足差し足で部屋を横切りそうっと廊下にでた。物置小屋のドアに耳を近づける。しゃっ、しゃっという音が聞こえた。ドアを開けて中にはいる。なにやら絵を描いてるみたい。チャールズが私を横目で見た。「そうか……」羽ペンを置いて、こめかみをグッと押した。
「紅茶を淹れてこよっか?」
「なにを描いているの?」
「わあ。スッゴ…………ッ」緻密に描かれたわっかのなかにたくさんの歯車。数えきれないほどの歯車がつまっていた。
「でも、一体どうしてこんなに歯車を描くの?風車の歯車を取って。余程好きなんだ?」(世界初の歯車は?)彼は含み笑いを浮かべた。
「そうだね。……君の言うとおり、余程好きなんだろうな」
「君の__に甘えることにして、ひとつ紅茶を頼むよ。砂糖ぬき」閉じられるドアの音を聞いたあと、彼は空気を深々と吸った。