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「小猿七之助」
談春師匠曰く「面白くない噺」。えーと、この日を大分楽しみにしていたのですが(笑)
話の大筋を読むと確かに陰鬱な展開が続いていき、金や恨みにまみれた七蔵一家の顛末を見届けるといった物語なのだが、「一人船頭一人芸者」の抜き読みである落語「小猿七之助」の部分だけ聴くと、その因果が七之助と芸者のお滝の悲恋物語にエッセンスを加えた程度に収まり、夏に聴きたくなる噺に仕立て上げられている。鳴り物も使って情感を際立たせているので、良い意味で雰囲気を楽しむ噺と受け取っている。
元は講談という事もあり、天気雨で星も見える中で屋根舟がまっ暗な大川(隅田川)を滑るように渡る時に、遠くから誰かの船唄が聴こえてくるという件や、幸吉を突き落とした後の七之助とお滝が二人舟の上、明かりは築地の方向、波除稲荷の灯明だけいう件と、演者自身がつぶさに情景描写に時間をかける部分が多い。
こういう場面を聴いて自分なりにイメージを膨らますと、ただただ「いいなあ」などと思ったりする。
六代目伯龍と談志さんのCD、神田"松之丞"の国立演芸場に今回の談春独演会。
自分なりのペースではあるが、様々な「小猿七之助」を今まで聴き続けている。
そういえば談春師匠がまくらで「お金がないから5000円(チケット代)取ってるんだよ」と言っていたが、あれだけの人気落語家でも窮状に瀕しているのか・・・、芸能の世界は厳しいなあ、なんて。
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TAMAMOTO AKITO
まくら③(上野講釈亭にて)
この間ふらふらと東京散策をしておりました。
つらつらとまとまりなくも喋ってみましょうか。
両国から、浅草、そしてこの上野と、時間をかけて歩いてみれば、頭の中には聴いた俗謡が浮かびます。
夏の涼みは 両国の 出船 入船 やかた舟 あがる流星 星くだり 玉やがとりもつ 縁かいな
根岸の兼業家、徳永里朝(とくながりちょう)のこしらえた俗謡で、講釈小猿七之助(こざるしちのすけ)で使われるものですが、聴いているとフラッと江戸時代に行きたくなります。
両国国技館を望みまして裏手に江戸東京博物館もあります。
高校生で300円。一日かけても全部見れるかわからないほど中は広いので、前座の時分は暇つぶしと勉強という矛盾する行動をやっていました。
英語でオクシモロン(oxymoron)とか言うそうですね、こういうの。
ちなみに今わたくし、踊りと唄を少々習っております。
雅(みやび)先生と言う、わたくしとそんなに歳の変わらない方に、
「千景どの!基本的な事を申し上げます、人には手と足が2本ずつあるんですよ!」とか、
「講釈師をやめて、田んぼの案山子になるおつもりですか!?」
とかいつも言われますが、お偉いさんの道楽ではありませんので、弟子の方で師匠に文句を言うわけにはいきません。
いつか見てろよ、と稽古に励んでおります。てやんでばろちきしょー。
両国から浅草を徒歩で、昼の隅田川の屋形船を眺めながら反対のアサヒビールのモニュメントを欠かさずチェックし、浅草寺へ。わたくしの足で30分くらいでしょうかね。
途中やたら大きな荷物を担いだオジサンや、郵便物のオートバイ、昔で言う飛脚です。2、3時間ほど江戸東京博物館にいましたから頭の中が江戸時代に変わっておりますので、道行く人を脳内で勝手に江戸の登場人物にして楽しんでおります。
平日の屋形船も満席なんですとか。
夏の恒例花火大会の日の予約はもう瞬殺という勢いだったみたいですね。
以前に、頭取、海遊亭ほん鮪(かいゆうてい ほんまぐろ)が娘の葵さんのお誕生日会を屋形船で行ないましたので、他の落語家さんや講釈師、葵さんのお友達としてわたくしも乗せて頂いた事があります。
落語家や講釈師は贔屓にしていただいてる実業家や、会社の社長さんのお座敷で呼ばれたりしますが、ああいう風な感じなんでしょうかね。
プライベートタイム、報酬はお金ではなく、舟盛りに敷き詰められたお刺身を好きなだけ食べろという、大変に素晴らしい時間でこざいました。
タッパを忘れたのが心残りですと後で頭取に申し上げましたら、呆れた顔をされました。波の上の失敗り(しくじり)というタイトルでドラマ化でもされませんかね。
ビンから移し替えました、ガラスコップのウーロン茶の氷をガリガリかじっておりましたら、せっかくだから聴いてやる、何か読めと頭取に言われましたので、両国ではありませんが、屋形船繋がりで小猿七之助の話の中から、網打ちの七蔵を抜き読みしようとしたら、娘の誕生日にグロいところを読むなと頭取に大変叱られました。
悪ふざけで演ったわけではなく、船に乗りながら「これが風情と言うやつだ」と葉巻を楽しむ頭取の横でつまらなそうにしている葵さん、つまらなそうという言い方は、頭取に失礼ですから良くありませんね。
「現状を打破する刺激を求めている葵さん」に変更させていただきます。
その葵さんが隅田川の波を眺めながら、「つまらん、死体でも流れてないかなあ」
と物騒な事を言っていたので、その時ピーン!と、七之助が田島の幸吉を船から突き落として殺す場面が浮かび、その動機になった七之助の親、七蔵が幸吉の財布を盗む場面(七之助が七蔵の息子と知らない幸吉に舟の上でそれを明かされて、親の罪を隠そうと七之助は幸吉を殺す)、ここからやろうとしたのを、頭取に叱られたのでございます。
片付けを手伝いまして、誕生会終わりに帰ろうとしたところをビニール袋を持っている葵さんに呼び止められました。
キッと、鋭い眼差しで見ておられましたので、「あ、切られるな、目の前に川もあるから始末も楽だろう」と思ってましたところ、
「誕生会の余興だからやったんだな?小猿七之助は神田派の売り物なのは知ってるはずだ。高座にはかけるなよ」
とビニール袋をわたくしに差し出して、目を輝かせながら帰っていかれました。
ビニールの中にはタッパが入ってまして、中にはお刺身。
それも無造作に入れられたわけではなく、底に大根のツマを敷き詰め、大葉と、飲み物に使用する氷の上にお刺身が沢山乗せられておりました。
葵さんを慕ってるのは、こういう振る舞いをわたくしなんぞにもして下さるからでございます。
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玉本秋人
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