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まくら⑤(上野講釈亭にて)
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パンパンッ!(張り扇の音)
まず、翔子さんは現在「お嬢様キャラ」なるものに挑戦中です。
いいですね、わたくしもやはりこうした生業をしていますと、男女問わず様々な人物を演じますから、何かになりたいと言う気持ちは良くわかります。
尾仲愛さんは唐揚げが大好きな方でございます。
「3食唐揚げでも飽きないんですか?」
と、以前に聞いたら
「さすがにご飯とマヨネーズが欲しいよー」
と、こちらの予想を超える答えをお持ちになっておりました。
ちなみに「舞波さん」と、わたくしの事を呼びますが、舞波は屋号、お店の名前みたいなものなので、千景か舞波(屋の)千景と呼んでくださいと、これが一応の芸人のルールとなっております。
再三、愛さんにも言っているのですが、それでもついつい舞波さんと言ってしまう、おっちょこちょいさんでございます。
もう一つ、説明しなければならない事がありますが、それは一度置いておきます。
浅草駅に降りた時に、
「とりあえず唐揚げだね☆」
の愛さんの言葉、めぐみはあいと書きますので、詰めて「愛言葉」を号令に、唐揚げ屋かあ・・・と、2人を案内しようとしたら、翔子さんが
「アタシはスイーツが食べたいですわ」
と異を唱えました。実を言うと、わたくしも気分はスイーツでございまして、心は生クリームを渇望しておりました。
わたくしの顔が唐揚げの気分ではない、その事を、普段バッターの表情を間近でうかがう、キャッチャーというポジションを任されている愛さんですから、鋭く読み取ったのでしょう。
プクッ!と頬を、まるで木の実を口一杯含んだリスのように膨らましました。
愛さん、普段は優しくて控えめな子なのですが、唐揚げが絡むと人が変わります。
忘れもしません、次の一言。
「唐揚げ屋さんへの1歩を、今踏んだよね!?舞波さん!!」
表情だけでなく、運んだ1歩目の足の向きまで見逃さない愛さん。
踏んだのは事実でございました。しかし、それは唐揚げ屋に行こう!という愛さんの要求に対する条件反射のようなもので、もう一度申し上げますように、わたくしは心はクリーム塗れ。
つまり、パッフェなのでございます。
仕方がない、チームの輪を乱したらもうすぐ始まる地区予選に支障をきたすと思い、それでは唐揚げ屋さんに行こうとしました。
忘れもしません。次の一言も。
「心を偽るな!本音をさらけ出せ、舞波!」
実を言いますと、翔子さんもわたくしの事を舞波と呼ぶのでございます。
芸人のルールなのでやめてって。
しかし流石は翔子さんです。翔子さんはチームの一番バッターで足がとても速い人です。鮮やかにセンター前を放ち出塁しますと、盗塁で軽やかに2塁ベースを落としいれます。
盗塁を狙う時には、相手バッテリーの仕草、呼吸、クセ。そして心理を巧みに読み取らなければなりません。
その人物観察で研ぎ澄まされた鋭い視線が、わたくしの心を射抜いたのでございます。
と、勝手知ったる間柄ではありますが、友達に往来で自分の体の動きと心の動きを全て暴かれ、何だか恥ずかしくなってしまいました。
そこで、
「最初に唐揚げを食べて、デザートにスイーツを・・・重たいですか?重たいですよね?」
言いながら同意を求めるという複雑な心境でございます。
すると愛さんが、
「さっすがだね!舞波さん、機転が効くね!」
翔子さんも、
「さすが芸人だな、舞波!」
その後、愛さんはモジモジして、
「実は甘いモノも食べたかったんだけど、何だか言いづらくて・・・」
翔子さんの方も笑いながら、
「食べたいのは自分だけって思われるのって何かイヤだね!舞波が言ってくれて助かったよ!アタシも今日はガッツリって気分なんだ!みんな同じで良かったー!」
褒められた瞬間は嬉しかったのですが、最後にもう一つの説明をここで言わせて頂きます。
わたくし、少食です。
豆腐半丁の冷や奴と白飯で「今日はよく食べたな、寝れるかしら?」と思うのです。
対する二人は、非常にご健啖。とっても良く食べるのです。
結局、人気のお店で唐揚げ定食を食べ、その次にパッフェを喰らうというハシゴを強行する事に相成りました。
檳榔(びろう)な表現ですが、
「オエップ」という感じになりました。
その時の浅草での油とクリーム塗れの思い出を胸に、いや腹に、
明くる日、ついにココ上野に回ってきます。
上野はご存知、上野広小路亭に、ココ上野講釈亭、上野演芸場(上野寄席)など、我々芸人達がひしめき合う、大変に愉快な街でございます。かつては上野本牧亭という、講釈師達のメッカとも言える場所もございましたね。
辻講釈をやりに、上野恩賜公園に良く行きます。
6月4日から、もう過ぎてしまいましたが、不忍池に佇む弁天堂では毎年「法華教」を読みます。講釈の長編物みたいに数日かけて読むようですね。
上野周辺を散策がてら、写真を撮ったりなんかしてみたり、後は古地図のアプリで歩いたりなんかも最近はありまして、江戸時代を歩く気分を1人味わっております。
見ながら歩いていたら以前、側溝に落ちましてね。半身が藻だらけになりましたが、バンザイをしてスマホは濡らさないように努めました。師匠の家にある貴重な古地図を借りていたら破門になる所でしたね。
パンパンッ!
上野公園の葉桜。江戸時代は桜の名所でございましたそうで、
一めんの花は碁盤の
上野山 黒門前に
かかるしら雲
昭和13年、寛永寺総門の黒門跡にて建てられた建碑に歌一首。
本日お話しをする方は、この方でございます。
(まくら 了)
玉本秋人
まくら④(上野講釈亭にて)
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空板(からいた)という、講釈師ならではの言葉があります。
寄席小屋で、講釈師がお客様がまだいらしていない時間に、机を貼り扇で叩き、声を出したりする行為でございます。
野天での寄席場が盛んだった時代にやっていた事なのだそうで、ホール芸能が中心の今はあまり見られないでしょうね。
張り扇を叩く音や発声を聴いた外の人達が、「やってるね」と言って、寄席に入って来る。
朝の稽古と、催し物の宣伝をいっぺんにできる、一石二鳥というやつでございます。
両国から浅草、田原町から上野までの浅草通りは別名仏壇通り。
浅草寺と上野寛永寺、仏と仏を繋ぐという事で、仏像屋さんが軒を連ね、今に至るという事ですね。
店で扱う仏壇は主に北側。
直射日光があまりささない北向きにしていて、商品が傷まないようにという配慮、ビジネスというものでございます。
「最近不景気でねえ」
と丸眼鏡の主の方が言ってましたね。仕事柄、勉強のつもりで伺うのですが、知識欲は働くものの、確かに学校帰りの遊び場や小洒落たデートスポットにはあまり向かないでしょうね。
空板の話ではありませんが、
「木魚でも鳴らして御経でも唱えたらどうです」
と聞いたのですが、
「坊さん呼ぶ金はないし、適当に唱えて宗派の方を刺激したら面倒だ」
とすぐに切り替えされました。
何か良い方法はありませんかね?
中国では老子が向いた方角という事で西。
昔の地図では西の方角が上に配置されています。
だから将軍家の先、西の大阪から来たものは「くだりもの」といって質の良い上品なものとして重宝されたわけでございます。
逆が、日常でもよく使います「くだらない」と、毎日くだらないという人がどれくらいいるかわかりませんが・・・。
このあたりの話は、以前ジョイジョイカムカムホールで話しました、浅草名物絵葉書クイズおじさんが教えてくださりまして。
本名非公開の方なんですが、浅草だったらおじさんに任せてね!とそう言って胸をトンと叩いて咳き込みながらそう言っておりました・・・。
パンパンッ(張り扇の音)
雷門通り、あのあたりについても話しましょうか。
かつては「浅草広小路」と言いましたそうで、ジョイジョイカムカムホールで読みました『浅草風土記』の著者、久保田万太郎氏の生まれたところです。
両国、上野とかつて3つの広小路がありましたが、今あるのは駅名上野広小路のみでございます。
広小路は元々江戸時代、江戸の大半を焼いたという振り袖火事の影響でできたものです。
昔は木造長屋、町の構造上一度火がついたら隣の民家へ次々に燃え移ってしまいまして、建物を壊すしか対処がなかったそうですね。だから広い小路を作ったわけでございますね。
雷門通りには食べ物屋が沢山ありますので、野球部のチームメイトを誘って食べ歩きをした事があります。
中でも猛威をふるったのが、
矢車翔子(やぐるま しょうこ)さんと、尾仲愛(おなか めぐみ)さんの二人でございます。
「お嬢様っぽいものが食べたいですわ!」
「浅草で一番美味しい唐揚げを食べさせて、舞波さん!」
えー、説明しなければならない事が沢山ございます。
玉本秋人
まくら③(上野講釈亭にて)
この間ふらふらと東京散策をしておりました。
つらつらとまとまりなくも喋ってみましょうか。
両国から、浅草、そしてこの上野と、時間をかけて歩いてみれば、頭の中には聴いた俗謡が浮かびます。
夏の涼みは 両国の 出船 入船 やかた舟 あがる流星 星くだり 玉やがとりもつ 縁かいな
根岸の兼業家、徳永里朝(とくながりちょう)のこしらえた俗謡で、講釈小猿七之助(こざるしちのすけ)で使われるものですが、聴いているとフラッと江戸時代に行きたくなります。
両国国技館を望みまして裏手に江戸東京博物館もあります。
高校生で300円。一日かけても全部見れるかわからないほど中は広いので、前座の時分は暇つぶしと勉強という矛盾する行動をやっていました。
英語でオクシモロン(oxymoron)とか言うそうですね、こういうの。
ちなみに今わたくし、踊りと唄を少々習っております。
雅(みやび)先生と言う、わたくしとそんなに歳の変わらない方に、
「千景どの!基本的な事を申し上げます、人には手と足が2本ずつあるんですよ!」とか、
「講釈師をやめて、田んぼの案山子になるおつもりですか!?」
とかいつも言われますが、お偉いさんの道楽ではありませんので、弟子の方で師匠に文句を言うわけにはいきません。
いつか見てろよ、と稽古に励んでおります。てやんでばろちきしょー。
両国から浅草を徒歩で、昼の隅田川の屋形船を眺めながら反対のアサヒビールのモニュメントを欠かさずチェックし、浅草寺へ。わたくしの足で30分くらいでしょうかね。
途中やたら大きな荷物を担いだオジサンや、郵便物のオートバイ、昔で言う飛脚です。2、3時間ほど江戸東京博物館にいましたから頭の中が江戸時代に変わっておりますので、道行く人を脳内で勝手に江戸の登場人物にして楽しんでおります。
平日の屋形船も満席なんですとか。
夏の恒例花火大会の日の予約はもう瞬殺という勢いだったみたいですね。
以前に、頭取、海遊亭ほん鮪(かいゆうてい ほんまぐろ)が娘の葵さんのお誕生日会を屋形船で行ないましたので、他の落語家さんや講釈師、葵さんのお友達としてわたくしも乗せて頂いた事があります。
落語家や講釈師は贔屓にしていただいてる実業家や、会社の社長さんのお座敷で呼ばれたりしますが、ああいう風な感じなんでしょうかね。
プライベートタイム、報酬はお金ではなく、舟盛りに敷き詰められたお刺身を好きなだけ食べろという、大変に素晴らしい時間でこざいました。
タッパを忘れたのが心残りですと後で頭取に申し上げましたら、呆れた顔をされました。波の上の失敗り(しくじり)というタイトルでドラマ化でもされませんかね。
ビンから移し替えました、ガラスコップのウーロン茶の氷をガリガリかじっておりましたら、せっかくだから聴いてやる、何か読めと頭取に言われましたので、両国ではありませんが、屋形船繋がりで小猿七之助の話の中から、網打ちの七蔵を抜き読みしようとしたら、娘の誕生日にグロいところを読むなと頭取に大変叱られました。
悪ふざけで演ったわけではなく、船に乗りながら「これが風情と言うやつだ」と葉巻を楽しむ頭取の横でつまらなそうにしている葵さん、つまらなそうという言い方は、頭取に失礼ですから良くありませんね。
「現状を打破する刺激を求めている葵さん」に変更させていただきます。
その葵さんが隅田川の波を眺めながら、「つまらん、死体でも流れてないかなあ」
と物騒な事を言っていたので、その時ピーン!と、七之助が田島の幸吉を船から突き落として殺す場面が浮かび、その動機になった七之助の親、七蔵が幸吉の財布を盗む場面(七之助が七蔵の息子と知らない幸吉に舟の上でそれを明かされて、親の罪を隠そうと七之助は幸吉を殺す)、ここからやろうとしたのを、頭取に叱られたのでございます。
片付けを手伝いまして、誕生会終わりに帰ろうとしたところをビニール袋を持っている葵さんに呼び止められました。
キッと、鋭い眼差しで見ておられましたので、「あ、切られるな、目の前に川もあるから始末も楽だろう」と思ってましたところ、
「誕生会の余興だからやったんだな?小猿七之助は神田派の売り物なのは知ってるはずだ。高座にはかけるなよ」
とビニール袋をわたくしに差し出して、目を輝かせながら帰っていかれました。
ビニールの中にはタッパが入ってまして、中にはお刺身。
それも無造作に入れられたわけではなく、底に大根のツマを敷き詰め、大葉と、飲み物に使用する氷の上にお刺身が沢山乗せられておりました。
葵さんを慕ってるのは、こういう振る舞いをわたくしなんぞにもして下さるからでございます。
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玉本秋人
まくら②(上野講釈亭にて)
怒りの原因は「揚げ玉カレンダー」とかいうヤツでございます。口汚いですが、とかいうヤツと今は言わせてくださいね。
6月は梅干しの季節という事でスーパーで
しこたま小梅、それと切らしていたので塩を買おうとしたのでございます。
季節ですから店頭入り口付近にコーナーができてましてね。
しかし、果実酒のコーナーがメインだったためか、塩の袋は同じところに置いておらず、それなら調味料のところだと、私はカゴに梅がいっぱい入った袋を入れて駆け出し、いえ駆けるのは危ないので、いきなり目当ての梅が手に入った喜びで「駆け出しそうになる衝動を抑えながら」歩いたのでございます。わたくしは講釈師、描写は精緻(せいち)にお伝えします。
塩を目指しておりましたら、ふと「すまほ」の保護フィルムとやら買おうかと思ったのでございます。
以前携帯ショップで、機種変更という難儀な事をしまして、その時透明なシートで、「耐衝撃性」と書かれているやつを見かけて、いたく興味を惹かれました。
いいですよね、耐衝撃性という言葉。安心感の塊ですよと宣伝しているかのようなあの文字。
恐らくは無理だと思うんですが、マシンガンの射撃ですら跳ね返しそうな頼もしさを文字から感じます。
お値段は1000円、わたくしには大枚でございましたが、安心の価格と思えば安く感じるのでございます。
見つけてホクホク顔でカゴに入れ、今度こそ塩を目指した時に、カップ麺の食品棚の脇で「揚げ玉カレンダー」というのを見たのでございます。
方眼紙みたいな、なんだかよくわからない目盛りのような線が書かれた紙、そこにテープで揚げ玉の袋が規則的に上から貼り付いてまして、一個100円だよと、紙のトップに、名前もわからないけったいなキャラクターの絵があってこちらに向かって笑いかけているものですから、「ほほう?」と手を伸ばしたのでございます。
コレが片手では取れない。テープの力、粘着力というものが予想以上に強く、何クソ!と引っ張っても方眼紙のようなものが一緒にひっついてくる。
この時に状況判断を間違えたのがわたくしの不徳の致す所と言いますか、揚げ玉カレンダーを引っ張っている間、よりによって梅の袋が入ったカゴを左手にさげていたのでございます。
下に置けば良いのに、こんな小童ごとき片手で充分だ、そんな驕りがそのときのわたくしにあったのでしょう。
これでも高校では女子野球部のレギュラーでございますから、少し下半身と腰の回転を利かそうと思い、片手の指のうち親指と人差し指で、揚げ玉の袋をつまみ、残りの三本は方眼紙の方へ押し当てまして、よろしいですか?皆さま方。もう少しでオチですからね。
「お前を引き留める親に今生の別れは告げたか?」などと、頭の中で揚げ玉に言葉をかけたりなんかして、
それでクイっと反転しましたところ、
カゴを店員さんの腰にぶつけてしまったのでございます。
謝りました、謝りました。揚げ玉は、方眼紙にくっついたままでした。
失敗った(しくじった)事で頭の中が冷静になりまして、良く考えたら今日は揚げ玉を買いに来たわけではない。
揚げ玉めっ、そんなに方眼紙お母さんと一緒にいたいのか?この甘えん坊さんめ!
無理に引き離すのもなんだかこちらが悪人みたいで・・・とかなんとか、捨て台詞のようなものを呟きながらわたくしは家路に着いたのであります。
保護フィルムの機種を間違えました。
そして、塩を忘れました。
フィルムが大きすぎて、すまほに合わないは塩がないから梅干しが作れない。
さらにホントにないのかと、台所に向かった際に・・・。
足のスネをちゃぶ台にぶつける。コレがトドメでございます。
我を忘れたわたくしは、怒りに任せてゴミの箱にフィルムの空き箱を放り込んで、
「おのれ〜!揚げ玉カレンダー!」と声を上げ、一人途方に暮れたのでございます。
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玉本秋人
まくら(上野講釈亭にて)
怒ってますよ、わたくしは。
ブー。
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玉本秋人
まくら④(浅草ジョイジョイカムカムホールにて)
浅草寺(せんそうじ)付近で、白髪でシワシワで杖をついた、羽根つき帽子の怪しげなおじいさんに出くわしまして。「ご存知!浅草名物、絵葉書クイズおじさんだよ!」
言葉の力は恐ろしいものですね、見たことも聞いた事も無くても、「ご存知!」とか「名物!」などと言われると、知らないこちらが悪いような気がしてきます。後で伺ったら町会の元役員だった人で、最近始めた趣味だそうですね。
浅草寺や五重塔、雷門などを自分で描いた絵葉書を作ってたが、浅草区域内の「ココどこだよ!」という所を描いて、それをクイズにしたら面白いんじゃないかという事で頂きましたのが、右側に桜の木、左に赤い門と「伝」の文字の絵葉書。初心者向けという事で、確かにこれは簡単でございましたね。
伝法院(でんぽういん)通りの入り口の門、右手に桜の木ですから浅草公会堂のある方ではなく、仲見世(なかみせ)がある方の門ですね。絵葉書片手に行って参りました。場所についたらおじさんが先回り、正直に言いますと、浅草寺から仲見世は目の前ですから、杖をつきながらフラフラと歩いて行ったおじさんが、遠くで待機しているのがスタート地点から見えてましたので、まああそこが正解の場所なんだろうなと思っておりました。
「ココが正解ですか?」「正解!簡単過ぎたかなあ、ご褒美にその絵葉書あげるよ!」「わからなかったら絵葉書はどうするつもりだったんですか?」「どうもしないよ?趣味でやってるだけだから!」「気前がいいんですね、おじいさん」「照れるなあ、おじさんね」あっ、ごめんなさい!と言ったら、「気にしないでいいよ!でも、おじいさんになるまでにはまだまだ先だからね!」
年齢を伺ったところ、「82歳」とおっしゃってました。おじさんからおじいさんになるまで、あと何年かかるんでしょうかね・・・。
・・・・・・久保田万太郎(くぼた まんたろう)『浅草風土記』の、抜き読みでございます。
「「古い浅草」とか「新しい浅草」とか、「いままでの浅草」とか「これからの浅草」とか、いままでわたしのいって来たそれらのいいかたは、畢竟(ひっきょう)この芥川氏の「第一および第三の浅草」と「第二の浅草」とにかえりつくのである。改めてわたしはいうだろう、花川戸、山の宿、瓦町から今戸、橋場・・・「隅田川」のながれに沿ったそれらの町々・・・。(了)
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玉本秋人
まくら③(浅草ジョイジョイカムカムホールにて)
昨日の上野講釈亭では紅しょうが姉さんと、とこぶし姉さんの3人で「天晴れ日本娘」の俥読み(くるまよみ)をやりまして。
俥読みというのは長編物を変わりばんこに読む講釈のリレーでございます。リレー講釈とか言う方もいれば、リレー読み、俥、交代読み、えー、他に何かありましたら芸談協会の事務所にでもお電話ください。時々時間を持て余した、夕月葵さんという方がお出になります。
私事ですが、先日高校の野球部の練習試合に出まして、手前味噌ですが1人で3打点を挙げ、チームに貢献する事が出来ました。先制点、追加点、そして勝ち越し点と、全てゲッツーで記録するという珍しい日でございました。
試合後によくチームみんなと喫茶店に行くのですが、こうして喋る仕事をしていても最近の女子高生とやらが食いつく話題がよくわかりませんね。一応女子高生の端くれなんですが、いつも何を話そうか考えてしまいます。服も着物の話はできますが、流行のファッションの話ですとか、野球の話もロッカールームで反省会はしたんだからもういいよ、などと言われますし、結局は勝手知ったる葵さんとばかり話をしてしまいます。
このままではイカンなあと思っていたら、漫画の話が始まりまして、漫画だったら時々買って読むぞと勢い勇んで、この前読んだ手塚治虫先生の「ブッダ」の話を持ちかけたんですね。あそこまで皆黙るとは思いませんでしたね。面白いんですよ、ブッダ。カピラヴァストゥの王子シッダルタ、のちのブッダが己の運命を悟り、僧の道を行く事を決意する話ですが、仲間と旅を乗り越え、苦行を重ねるにつれてやがてその苦行というものに疑問を持ち、人びとへの真の救済とは何かを探求していく所ですとか、襟を正しつつも夢中で読んでおりましたので、てっきりみんなも身を乗り出して聞いてくれて、なんだったらコミックス全巻9人で俥読みするくらいの気持ちでいたんですが、全く話に乗ってくれませんでしたね。
しまった、失敗(しくじ)った。と思ったら、瀬能久知子(せのう くちこ)さんという方が「アタシ読んだことあるよー!」って言って、助かったと思いました。
「何かタッタタッタ言ってる漫画でしょ!?タッタとかナラダッタとか、ダイバダッタとかタッタタッタタッタ!あはははは!ねえねえ、最後読んでないんだけどさあ、どうなった!?ブッダ、タッタにタタッ斬られたあ!?なーんつって!」
引っ叩いてやろうかと思いましたね。
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玉本秋人
まくら②(浅草ジョイジョイカムカムホールにて)
釈台は本来、我々講釈師を馬鹿にする意味で用いた呼び方で、見たまま「机」と呼ぶのが正しいのですが、このご時世、気にしている方はあまりいらっしゃいませんね。鶴々(つるつる)師匠くらいですね。古き良き形式にこだわる方ですから、入ってくるなり前座に「鉄瓶がねえ!」と怒ったというエピソードがございます。昔はこの横に鉄瓶があって、お茶を沸かし、それを飲みながら講釈師は語っていたそうですよ。
こうした講釈会では普段音曲(おんぎょく)は流しませんので、皆さまの拍手の後、この無音の空間で、前座の子は座布団を返し、釈台を手ぬぐいで拭いて、釈台がズレていたら直したりします。早くしなければ、と急いでしまったんでしょうね。私も前座の時分はそうでしたから、気持ちが良くわかります。寄席では落語家の方々を始め他の芸人さんもいますから、我々も出囃子を使うのですけれども、出囃子もなんだか急かされている気もしますが、無音の状態というのもあまり心地は良くない。皆様の、えーと、なんとも言えない視線と、袖に控える先輩の冷たい視線。私の事ではないですよ。私は皆様の向かって右側の、火災報知器を眺めていましたから。一回も鳴ったことがないが、果たして急を要する時に本当に鳴ってくれるのかしら?などと考えたりして。芸談協会一、何を考えているかわからない奴と言われていますが、一見すると冷たそうなこの両まなこ、しかし奥には芸に対する熱いものが込み上げ、気安く触ると凍傷という事態を招きます。それでいて、本の読みすぎか、カサカサ乾いてつい先ほど目薬をさしてきた。
・・・ドライEYES(アイス)と。こんな事を考えていつも待ってますからね、前座を見ている暇などありません。私もここで何を話そうかと必死でございました。さて今ので、皆様の、目の温度が、たいへんに・・・・・・暖かくなって来たのを感じます!春の陽気の如くポカポカと。しかしどういうわけか、鉄瓶に入れたお茶が飲みたいですねえ。
#オリジナル
#舞波千景
#講釈
#講談
玉本秋人
まくら(浅草ジョイジョイカムカムホールにて)
釈台(しゃくだい)が、すこーし曲がって・・・よいしょ。
#舞波千景
#講釈
#講談
玉本秋人
まくら(芸談劇場二階小ホールにて③)
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#夕月葵
(まくらより抜粋)
友達と一緒に帰った小学校時代、帰り道に外国人の牧師さんに会ったことがありましてね。
ペデストリアンデッキ、というんですか。広場と歩道が一緒になったもの。私は途中で曲がって家に帰るんですが、曲がらず歩いて行った先に教会がありましたので、そこの牧師さんだったかと思います。
夕月葵(ゆうづき あおい)さんという、今も一緒に野球に興じたりする人と一緒で、ご存知の方も多いと思いますが、我が芸談協会頭取(とうどり)、海遊亭ほん鮪(かいゆうてい ほんまぐろ)の娘様でございます。
お父様譲りでしょう、芸に対してもとても厳しい人で、時々私の講釈を聞きに最前列に陣取り、後で楽屋で私に、
「思ったより。最後まで寝なかったしな」
と、彼女にとってこれ以上のないお褒めの言葉をかけてくれます。
私も彼女の得意とする、野球の試合に一緒に出る時は
「同点タイムリー、さすがだね。やっぱり自分で打たれた分は取り返さなきゃね」
とエールを送ります。
その葵さん、当時覚えたばかりの英語、いや単語を声に出して面白がってましてね。授業中の男の子達もそうでした。日本語とは違う響きが面白かったのか、意味がわかってなくとも、とにかく英単語の連呼をする。
葵さん、ディクショナリー(dictionary)とパハップス(perhaps)の二つがお気に入りだったみたいで、口に出してはニヤリと笑い、また口出してはアハハと笑い、とても楽しそうでございました。そんな帰り道、葵さんと牧師さんは出会ってしまったんですね。
自分が発する英語を自在に操る外国人の方を目の前にして、好奇心が止められなかったんでしょう。ディクショナリーとパハップスを交互に叫びながら、牧師に突入する葵さん。恐れおののく牧師さん。イーライ・ロス監督のキャビンフィーバーという作品に、「パンケーキ!(pan cake)」と叫んで噛み付いてくる女の子が出てきますが、知っておられる方は思い出して頂けたら、当時の葵さんの怖さがわかってもらえると思います。葵さん、あそこまでは珍妙な動きはしてなかったんですけれども。
調べましたところ、エクソシスト、悪魔祓いは18世紀ごろにはすでに廃止されているとの事なので、現代の牧師さんが怖がるのも、悪魔祓いのノウハウがなかったからで、致し方ないのかなと思います。葵さんも今は悪魔が抜けたかのように、すっかり落ち着いた女性になって、女子野球部のエースとして、練習に試合に頑張っています。そろそろ葵さんに怒られるのでこれくらいで。
さて本日、皆様にお聞かせしたいのは、悪魔ではなく幽霊のお話。どう違うと申しますと、悪魔は人間ではない異形のもの、それに対し幽霊は元は生きていたものの魂と言われております。
いずれにしても目には見えないものの恐怖、 幽霊の正体見たり枯れ尾花、気の持ちようとは言いますが、目に見えないはずの幽霊は足のないものだと、初めて絵に表したのが江戸時代の画家、円山応挙(まるやま おうきょ)で・・・。(了)
玉本秋人
まくら(芸談劇場二階小ホールにて②)
#舞波千景
#オリジナル
#講釈師
#葛根湯
#講釈
#講談
(まくらから抜粋)
子供の頃、タンスの上の神棚に、葛根湯(かっこんとう)があったんですよね。
葛根湯は高いので、子供に触らせてはいけないようにと、親が手の届かない所に置いた。それがウチにとっては神棚だったというわけですね。
それを知らない私は、「ああ、あれは蛤貝姫(うむぎひめ)様が宿る、大変有り難い御神薬なんだなあ」
環境によって、子供は市販の薬にも手を合わせて拝む子に育ちます。
玉本秋人
まくら(芸談劇場二階小ホールにて①)
#舞波千景
#オリジナル
#講釈
#講談
(まくらから抜粋)
最近、水が高くなりましたね。
玉本秋人
夜てん辻講釈
#舞波千景
#講釈
#講談
#講釈師
夜天(やてん)に花火が上がる。
辻講釈(つじこうしゃく)は、講釈師である父も
昔は盛んにやっていて、昼夜問わずに道端で、夏祭りの日も語っていた。
「やてんの上にまた夜天!中空に八号玉が打ち上がった!」
どうも夜店(よみせ)を「やてん」と読んで、
聴衆に上手い事を言ったと思わせようとしたそうな。
実際、2人くらいは首を縦に振り、後でおひねりを
もらったという…。
「先生!やてんとも言うんですか?」
当時いた弟子が父に聞いた。
「明和9年の大火の時、火事場泥棒が盗んだもののうち、
古来中国よりその名を轟かせし仙人、藍采和(らんさいか)が
天に昇る際に落とした書物にそう記してあったのだ!」
講釈師、弟子に対しても、見てきたような嘘をつき。父のエピソードはこんなものばかりである。
腕と、首の後ろと、くるぶしをかく。
町の打ち上げ花火。真打は八号玉。夜天の高座に、今上がった。
待ってました!とばかりの人々の拍手。腹三分くらいの
ウチの招き猫も、それを見て口角がつり上がったように見える。
しかし、名残惜しいが私達はそろそろ引き上げるとしよう。
虫除けスプレーは、とうに切れている。
玉本秋人
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