授業参観 授業参観。
誰も来ないが、別段気にもしない。
朝からぎこちない挙動の同級生を眺めるのは面白い。
土井先生も心なしかふわふわした笑顔と足取りだ。やたらおれを見てくる。何だよ。
─ざわ。
誰かの親が遅れて来たみたいだ。
土井先生が教室の後方に視線を移して、少し微笑んだ。
ざわざわ。
何だよ、やけに騒つくなぁ、しんべヱの家が何か大袈裟な格好でもしてんのかな、と筆に墨を吸わせる。
別段書き取ることもないけど。
ざわつきは続く。
何故かそのざわつきがおれにも向かいつつある気がする。
何だよ。
きりちゃん。
乱太郎が後ろを見ながら驚きの混じった笑顔でおれを突く。何だよ。
観念して振り向く。
…何を観念して?
振り向く時に一瞬土井先生の笑顔が見えた。
─果たして教室の後方には、
─大家さんと隣のおばちゃんが他の親御さん方々から少し離れて戸から顔を覗かせていた。
隣のおばちゃんがおれを見付けて小さく手を振った。
大家さんはにこにこしていて、家賃を渡す時よりご機嫌だった。
おれは慌てて土井先生を振り返る。
……ねぇ、おれたち忍者なの、内緒だったよね?
土井先生が教科書を読み上げる。
「町のひとびとのなかに紛れて暮らす忍びのことをなんと言う?」
慌てて手を挙げた。
了