正装ティータイム【正装ティ―パーティ】
帝国図書館の最高責任者は館長であり、次はアルケミスト関係については館長補佐ということになっている。
とある場所にある帝国図書館は国定図書館であり、国が運営している図書館で、半分は研究施設だ。
ちなみに図書部分にも副責任者はいるが、館長も館長補佐も忙しく殆ど帝国図書館にはいないので何かあったときのための最高決定については、
副館長がそれなりにできるようになっている。
そんな帝国図書館だが珍しいことに館長と館長補佐が同時に帰ってきた。トラブルに会いつつも無事に用事を終わらせたらしい。
二人は高級抹茶を持ってきていた。貰ったらしい。
高級抹茶を受け取ったのは文豪たちを転生させた特務司書の少女であり、彼女は抹茶と丁度やっていたことであることを思いついた。
「……茶会だよな?」
「茶会だが……お前たち、その服装は」
スコット・フィッツジェラルドとアーネスト・ヘミングウェイのロストジェネレーションコンビは晴天の空の下、正装を着ていた。
花束とプレゼントを持ってきている。茶会をするし、日頃世話になっている特務司書の少女に贈り物でもしようとしていたのだ。
「……正装だろ?」
「正装だよねっ」
パーティ会場は茶室だった。茶室はフィッツジェラルドも知っている。なんか狭い部屋だ。畳が敷いてあるところである。
本日、正装で茶会があると聞いたのでフィッツジェラルドとヘミングウェイは正装を着てきたのだ。
そんな二人が出会ったのは鎧を着ていた島田清次郎とマントを付けどこかに旅に出そうな草野心平であった。
「しんペーの方は冬になったらどこかに旅立つ緑の帽子のやつみたいだな。カバが住んでる世界に居そうだ」
「スコット。あれはカバじゃなくて妖精だ」
「これは吟遊詩人の服だよっ。清次郎君のは暗黒騎士」
カバと言っているのは帝国図書館分館の方に会った物語だ。カバっぽいものとかにょろっとしたのとかカンガルーっぽい生き物とか
出ている話である。
「正装って、戦闘服のことやないんです?」
「他の可能性も考えたが、俺たちはタキシードは持っていないからな」
魔法使いの服装をした折口信夫と何処かの博士のような服装をしていた柳田国男が来ていた。服というのは転生した時に着ているものもあれば、
自分たちで買ったり特務司書の少女がアルケミストパワーで用意してくれるものもある。
折口と柳田はタキシードを持っていないようだ。洋装は持っているかもしれないがアレはタキシードではない。
「”茶会をするから正装を着てこい”とは聞いたんだが」
「そうだよな」
「俺たちもそうだから、正装を着てきた」
「戦闘服はおいらたちの正装だよ! 侵蝕者と戦うために衣裳は大事!」
ヘミングウェイが状況を確認していた。フィッツジェラルドはヘミングウェイに同意する。茶会をするから正装を着てきたのだ。
戦闘服が正装と聞いてむ……とヘミングウェイは同意しそうになるがフィッツジェラルドは肘で小突く。
「皆さん。この様子は」
「……仮装大会か?」
今度は別の声がして、彼等は声のする方を向くと着物を着たヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテとエドガー・アラン・ポーがいた。
和装である。
ゲーテは手に扇を持っていて黒と青を基調とした着物に白い羽織、ポーは赤を基調とした着物に黒い羽織を着ている。
「着物だと……貴様等、日本文化に慣れ親しんでいるとは」
「案外動き安いものですね。正月の時に着物は着てみたのですが、これは別の着物です」
「茶会の正装はこれだろうが」
清次郎が着こなしているゲーテとポーを見ていう。正月用の着物ならばフィッツジェラルドもヘミングウェイも持っていたが、
正月用である。普段着るものではないし、そもそも着物自体、アルケミストパワーを使って着た方が早いというものだ。
着物を一人出来ることは出来ない。
この場には正装という名のスーツ、着物、戦闘服の者たちが揃う。
「……茶会って、珈琲とかが出る奴ですよね。お茶でも飲む? でカモミールティーとか、ホットワインが出てくる」
「お茶ではないがこの図書館、お茶と言えば休憩中に飲むものでお茶じゃないが、珈琲や紅茶が出てくるな」
折口が呟いた。茶会と言うと飲み物を飲む会という認識であるが、この帝国図書館、お茶でも飲むか? となるとお茶ではなくて、
珈琲や紅茶が出てくるときがある。珈琲はお茶ではないが出てくるのだ。ホットワインもお茶ではないがたまにある。
「ん? 茶会だろ。紅茶じゃねえのか?」
「俺は飲めれば別に何でもいいが、茶会……中国茶の可能性もないか?」
フィッツジェラルドがイメージする茶会と言えば紅茶だ。紅茶は美味しいものは美味しい。珈琲の方が好きではあるが、
紅茶も飲めるのだ。柳田の方は飲めれば何でもいいとしているが、茶と言えば中国茶の可能性も浮上した。ウーロン茶とかだろうとなる。
「皆さん、今日は茶会……ですよね?」
「久米じゃねえか。お前はタキシードだな」
「茶会で正装ですから」
久米正雄がタキシード姿で現れる。これでタキシードや正装派が増えた。とはフィッツジェラルドは考えたのだがこれは対決をしているわけではない。
「……これは」
「どうやら、認識の違いが出たようですね」
ポーとゲーテはどうしてこんな状況になったのかを察した。着物、タキシードや正装にプレゼントと花束、戦闘服となってしまった理由は。
「トレビアン……」
「ボードレールが何か知らないけれど倒れた!?」
「瀕死事件発生です」
「くっ……こんな神々しいものを見られるとは……茶会にきてよかっ」
「兄貴。今日は抹茶を飲む会なんだけど。何でタキシード?」
「あれ……?」
理由が説明されようとする中、タキシード姿のシャルル・ボードレールがやってきて全員を一瞥してから特に和装姿の二人を視界に収めた途端に倒れた。
清次郎が驚く中、折口がボードレールに近づく。さらにやってきたのは和装姿のアルチュール・ランボーとルイス・キャロルであった。
”正装で茶会を開く”
この言葉が独り歩きしてしまったのだ。事の起こりは特務司書の少女が館長と館長補佐から高級抹茶を貰ったからである。菓子にでも使おうとしていたのだが、
たまには飲んでみようと思い、抹茶を入れられそうな相手を探しているとゲーテとポーと会い、彼女は抹茶のことを話して茶会の話になった。
「着物を着て茶会というのも、面白そうです」
「抹茶は美味いものが入れれば旨いらしいからな。飲んでみるか」
この二人が興味を示したので特務司書の少女は二人も一緒に抹茶を入れることにしたし、着物を着て茶会というのも賛成した。
「じゃあ正装で茶会を開くんだよ」
それを聞いていたのが、フィッツジェラルドであった。”じゃあ正装で茶会を開くんだよ”だけを聞いていた。
「司書には世話になってるし、茶会で正装した時にプレゼントを持っていこうぜ」
「確かにな……彼女には世話になっている」
フィッツジェラルドは異人組が茶会を正装で開くと言っていたので、紅茶でも飲むのかとなり、正装はタキシードや正装になった。
ヘミングウェイも同意した。
さらに茶会で正装を開くという言葉が独り歩きした。
「正装……ってなんだ? 何だというと意味は分かるのだが」
「改まった席で着る服だよね……そうか。それなら戦闘服だよ! この図書館なら正装になるよ。それ」
「確かに今の俺たちにとって服装は属性のための大事な要素……」
清次郎と心平は正装と聞いて戦闘服を思い浮かべた。現在の戦いにおいて衣装が属性を持っているがこれが重要なのである。侵蝕者も属性を持っているのだ。
ダメージが通りやすかったり、通りづらかったりとしてしまう。
「和装は想ったよりも動きやすかったですね。足元はブーツですが」
「歩きやすいものにすればいいだろう」
和装と聞いているゲーテとポーは和装を着てきた。正装だけ聞いていたフィッツジェラルドたちはスーツを戦闘服と解釈した者たちは戦闘できる服を着てきた。
「正装で茶会で、各々が違うものを思い浮かべたんですね。センセ」
「伝達ミスとも言えるが茶会が無事に開催されてよかった」
「僕は心のタンバリンを鳴らし続けよう」
「実際に鳴らしちゃだめだからね」
「面白そうなのに」
服装が混とんとしてきた中、アーチャー姿の徳田秋声が来たり、戦闘服で覚醒の指環を付けた芥川龍之介が来たりしていた。
混沌度は増していく。
そして茶会を企画した着物姿の特務司書の少女が来て、なにこれ……となっていたが、状況を話され、
ならばいっそのこと茶会とティ―パーティをしようかとなった。抹茶と紅茶を出すことにしたのだ。
急遽会場が整えられ茶室で抹茶を飲んだり、茶室の側ではアフタヌーンティ―パーティが行われたりしていた。
折口と柳田は紅茶を飲んでいる。ボードレールは恍惚としながらフレーバーティを飲んでいた。ランボーも同じだ。心平は棒ほうじ茶を飲んでいる。
「タンバリンを鳴らすのっていいと想うんだがな」
「……鳴らすな。茶室は静かにしているんだぞ」
「俺たちも抹茶のまねえか。アーネスト。この服でもいいとは言っていたし」
「そうだな。飲んでみるか。美味いとは聞いている」
プレゼントは無事に送れたし、茶会も行われた。服装はごちゃごちゃとしすぎているけれども、これがこの図書館だ。
茶会は、ティ―パーティは、とても賑やかである。
【Fin】