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    永遠(とわ)の矢事件「恋人と別れたいんです。でも言っても聞く耳を持ってくれずに、付きまとってくるんです。助けて下さい」
    最近そんな事件が増えた。
    「最初は幸せでした。でも、相手が自分を求めすぎて怖いんです。他の異性と口をきいただけで怒り、友達との遊びまで、どこに行っても付いてくる。人前でも頻繁にキスを求めてきたり、もう疲れたんです。あんなのもう、自分が好きだった相手じゃない!」
    友人や家族に付き添われて来た被害者はみんなそう言い、ワッと泣き出すと、私達、魔法騎士に護衛を頼む。先日、とうとうこの手の事件で、死者が出てしまったからだろう。
    容疑者は語る。「彼女だって僕の事が好きだった筈なのに、冷遇するからだよ。殺せば逃げない、ずっと一緒だ」
    容疑者である彼は、元々はおっとりしてる優しい人だったらしい。なのに恋人が出来たとたん、人が変わった様に彼女に執着し、事件の日は被害者が動かなくなっても、何度も鉄パイプで死体を殴っていたと、目撃者は言っていた。
    私はピンときた。もしかしてみんな…。

    「彼にはもう、近づく事は出来ません。あなたの恋はもう終わってます。フラれてるんですから、諦めて下さい」
    「うるせー!私以外の女が彼に近づくなよ泥棒猫!私の彼を返せーー!」
    襲いかかってきた女の子を、ひょいとかわして魔道書を開く。
    『想像と創造、彼女の彼への恋心を消去!…からの、急激に睡魔が襲う!』
    私はそう走り書きすると、うつ伏せに倒れてきた彼女を支えた。
    「目が覚めたら、あなたへの想いは皆無になってる筈だよ。今度はズルをせずに綺麗な恋してね」
    彼女を抱き抱え、私の後ろで様子を伺っていた彼に声を掛けると、呆然とこう返事をした。
    「…彼女は学校一のマドンナなんです。でも俺は見ての通りのダサ男で、何の取り柄もないから卑怯な手を使うしかなかったんです。まさかこんな事になるなんて…。天使に変な矢なんて、打ってもらわなきゃ良かった。あんなの、彼女じゃない」
    「君らはまだ14歳でしょ?若いんだから失敗なんていくらでも取り返せるよ。それに私は彼女の恋心を消したから、目覚めたら元の彼女に戻ってる筈だよ。まだ好きならさ、今度は自信を持って、自力で彼女にアタックしなよ。頑張って!」
    彼にそう言うと、私はスヤスヤ寝ている彼女を抱き抱えて歩き出した。このまま彼女を家に届ければ任務完了。その時だった。
    「お前か、永遠の矢の効果を無効化しているアホ魔法騎士は」
    そんな聞き覚えがない声と共に、ピュッと飛んできた矢が私の頬をかすった。軽く血が流れたその瞬間、大好きな人に対して嫌悪感がわいてきた。
    私は彼女を地面に下ろし、自分を殴って正気を保とうとした。
    「ちっ、ミスった。今度そこ…」
    「あんまり彼女を傷付けちゃダメだよ。僕の彼女になるんだから」
    声の方を向くと銀翼ローブを羽織った男性と、弓を構えた天使が居た。
    「いきなり何するのよ!てゆか誰が彼女よ!誰なのか知らないけど、私はゴードンさんじゃないと嫌!」
    確か恋の手助けしている天使は、恋愛に決着が付けば天界へと帰る筈。
    なのにその天使に帰還命令は出ず、構わずに私に矢を向けている。
    「悪いな、俺様はこいつと友達なだけで、主人ではないんだ。だからこいつをフッても意味はねーの。それに、俺様達には永遠の矢を無効化でき、自由に動けるお前が邪魔なんだよ。大人しくこいつの彼女になりな」
    永遠の矢?何を言ってるのか分からないけど、最近起こっている事件はきっとこいつらのせいだ。
    放たれた矢をかわし、文句の1つも言ってやろうと魔道書を開きながら彼らを睨み付けると、何故か胸がトクンとときめいた。嫌だ、私はゴードンさんの事を…。ゴードンさんへの想いが薄れていくのと同時に、知らない男への想いが高まっていく反比例。こんなの嫌だ!
    「かすっただけでも効果あるのか。でも、一応今度こそ決める」
    再び天使が弓を構えた瞬間、その天使の頬のすぐスレスレを矢が通り過ぎていき、近くにあった街路樹に当たった。
    「おい、リーフ!今のは威嚇だ。これ以上ナナに何かしたら次はわざと心臓に当てるぞ」
    「ナナちゃん、今治療を!」
    駆けつけてきたグリスとクラルスちゃんの姿を見て私はホッとしたが、グリスの頬に痣があるのに気付いて私は驚いた。
    「クラちゃん、グリスも!」
    かすり傷を治してもらい、恋心も正常に戻った私は、リーフ君と睨み合ってるグリスを指さした。
    「勿論よ!でも今は逃げるのが先よ!ナナちゃん、そこの寝てる子を抱き抱えててて!グーたん、行くよ!」
    クラルスちゃんはそう言って、何かの魔道具のボタンを押した。
    「…けっ、グリス先輩も落ちぶれたな。かつて主人に顔合わせの挨拶もせず、勝手に矢を射ちまくって、1日に何組もカップルを作っていた弓矢の天才が、今や1人の女子を見守るだけの腑抜けになっちまうとは」
    「彼女もバカだよ。恋敵を蹴散らす手段を持ってるのに使わないなんて。まあ、おかげで僕にもチャンスが出来たけどね」
    残された2人はそう呟いて、その場を後にした。

    寝ている彼女を自宅に送り届け、アジトの自室に帰ってきた私はグリス達に事情を聞くと、天界は私が思ってた以上に大変な事になっていた。
    最近起こっているストーカー事件は、永遠の矢という矢が原因で、グリスがかつて使っていた魔法の矢とは少し違うらしい。かつてゴードンさんが射たれた矢は、いずれは効果が切れてしまうし、恋心以外の人格は変わる事はない代物だったが、その矢は真逆。射たれたら一生効果が続くし、相手に必要以上に執着し、人格も少しずつ荒くなっていくらしい。でもそれを肯定している天使達にとって、予想外の邪魔者が現れた。それが私だ。まあ、私も何度も事件に関わるうちにやっと気付いた事で、事件初期の頃は普通に殴って正気に戻そうと頑張ってたんだけどね。無理だったけど。ああすれば綺麗に解決出来ると気付いたのは最近だし。その件については天界でも揺れていて、賛成派と否定派で揉めてるらしい。
    「オレはかつて賛成派だったよ。いずれは相手の恋心が消えてしまっても、少しの間だけでも主人を幸せに出来た事を誇りに思ってた。でもそれを続けていくうちに、本当にそれで良いのかと疑問がわいて使用を止めたんだ。でも、前の主人の件で暫く引きこもった後に復帰したら、上層部に再び弓矢を使う事を強要されて仕方なく射った…ら、お前が自力で正気に戻しちゃうんだもんな」
    「だって、あんなのゴードンさんじゃないもん」
    「でも、それが永遠の矢の誕生のきっかけになってしまった。それ以前から効果が切れる矢なんて射しても意味がないのでは?と意見はあったけど、突き飛ばしただけの衝撃で効果が切れる事も分かってしまったしな。突き飛ばされたくらいじゃ切れない…どころか死ぬまで効果が持続する、そして自分だけに強い愛を注いでくれる、そんな究極の矢を作った結果があれだ」
    「そんな矢のせいで、人が死んだの?」
    私は情けなくて泣けてきた。どんな手段を使ってでも好きな人を手に入れたい気持ちは、正直分からんでもない。でも、卑怯な方法で恋敵を蹴散らした結果がこれとは悲しいよ。
    「ああ、でももうこれ以上被害者は出さない。オレとクラルスはもう2度と魔法の矢を使わないし、こんな事件を全否定する」
    「私は元々弓矢が下手くそだし、主人にもほぼ見限られてる状態だったから、契約を解除して、恋を手助けする仕事を辞めてきたの。だからグーたんがあなたを守って、それでも怪我しちゃったら私が治すわ。さっきみたいに」
    「お前、肯定派に狙われてるしな。永遠の矢はまだ大量生産出来る代物ではなく、使ってる奴はまだ数人だけ。リーダーはリーフだ」
    私は鼻をかみながら聞く。
    「色々聞きたい事があるんだけど、永遠の矢って射たれると怪我するの?」
    「ちゃんと命中させれば、オレが使ってた普通の奴みたいに身体に溶け込むらしい。失敗してかすったりするとさっきのお前みたいになるらしいけど」
    「グリスは誰に殴られたの?」
    「母さん。多忙な奴だから、オレがもう何年もまともに仕事してない事を今日知ったらしく、怒られた」
    「前の主人と何があったの?」
    「ちょっと…な」
    「天使って主人以外の恋を勝手に叶えても良いの?契約もしてないのに」
    「お前が知らないだけで、オレも度々勝手に他の奴の恋の手助けしてるぞ。主人以外の恋を叶えちゃダメって決まりはないし。契約っていうのは、自分の魔法を半分主人に貸す契約の事だ。お前も半分オレの魔法持ってるだろ」
    「さっきの銀翼の人って、本当に私の事…」
    「本当にお前の事好きだよ」
    …情報過多で、私は頭を抱えた。
    色々と突っ込みたいが、まずは事件解決が最優先。まだ数人しか永遠の矢を使ってる天使が居ないのなら、まずはそいつらを探して潰そう。あんなのが大量生産される様になったら、取り返しがつかなくなってしまう。
    私はホウキを片手に部屋の窓を開けた。
    「グリス、パッと見て普通のと永遠の矢の見分けはつく?」
    「え?勿論」
    「じゃあ2人ともついてきて。今から街を一周するから、永遠の矢使いを見付けたら教えて。説得して止めさせるか、もしくは殴って分からせるから」
    「こえーよ。てゆかお前今日の分の任務終わってるだろ」
    「こうしてる間にも、被害者は増え続けてるかもしれないでしょ!」
    私は天使2人をつれて、窓から外に飛び出した。

    その日は2人の天使を分からせた。
    部屋から飛び出して数分後、頑張ってターゲットに矢を当てようとしている天使が居た。狙われている男性は市場の中を逃げ回り、外れた矢は建物の壁や商品に突き刺さっていた。矢を避けようとして躓いて転んで動けなくなってるお婆さんや、矢が刺さって怪我してる人も居た。
    とりあえず怪我人はクラルスちゃんに任せて、私は魔道書を開く。
    『想像と創造、天使と男性の間にデカイ壁が出現!』
    私は他の通行人が巻き込まれない様に気をつけながら、加害者と被害者を離すと、グリスに、もう大丈夫だからこのまま逃げる様に男性に言ってもらい、自分は壁に激突して痛みで悶えてる天使をつまみ上げた。
    「何だよお前!仕事の邪魔すんな!」
    「あんた達にとって仕事でも、人間には大迷惑行為なの!周囲を見なさいよ!」
    壁を解除し天使を叱りつけると、その天使は悪態しかつかなかったので、一度人間サイズになってもらい、拳で語り合った。結果、その天使はボコボコになり、降参したのでクラルスちゃんの治療を受けさせ、永遠の矢を没収して解放してあげた。
    2人目の天使は、ターゲットに射った直後だった為、すぐに私が正気に戻し、せっかく射ったのに何するのよ!と怒る彼女を説得しようと試みたが分かって貰えなかった為、結局人間サイズで殴り合い、私がうっかり顔面にパンチを入れてしまって気絶してしまい、クラルスちゃんの治療の後で永遠の矢没収の流れとなった。
    そんな感じで毎日任務とは別に事件解決の為に動いていたら、倒すべき相手はあの2人だけになった。

    「あと永遠の矢を持ってるのはリーフ君だけか」
    「でも全然姿を現さないんだよな、あいつ」
    「いっそ銀翼行って、あの時の人に聞くとか?」
    「止めとけ、変な誤解を生む。お前は自分が他の奴に好意持たれてるのを忘れんなよ」
    自室でグリスとそんな会話をしていると、窓からクラルスちゃんが慌てて飛び込んできた。
    「大変よ!永遠の矢を没収した筈の天使が、また街で暴れてるわ!」
    驚いて街へ向かうと、街中は放たれた矢でいっぱいになっていて、矢を射たれた人達が暴れていた。想い人の豹変ぶりに困惑して泣く人、逆に正気に戻そうと殴り合ってる人、思い通りにならない八つ当たりでその辺の物を壊す人、商品を傷物にされて怒っている人、事件の巻き添えで怪我をして動けない人、恋を叶えた事に鼻高々な天使達…現場はカオスだった。クラルスちゃんに怪我人の対処を、グリスに矢の回収と壊れた物の後片付けを頼み、私は魔道書を開く。
    『想像と創造、永遠の矢で起こっている恋心のバグを全消去!』
    もう1人1人正気に戻すのは無理だ。こう書けばこの周辺に居る矢を射された人全員正気に戻るでしょ!
    「あれ…?何で俺、こんな奴抱き締めてるんだ?寄るなブス!」
    「私、何してた?え、ごめん。気持ちは受け取れないわ」
    やがて、正気に戻った人達が次々と相手をフり始め、別の意味で悲惨な現場と化した。
    やっぱり没収するだけじゃダメか。作ってる場所を破壊しないといたちごっこになる…。
    大量に魔力を消費して、若干クラクラな頭で私は考える。グリスならちょっと調べただけで製造場所が判明するかも。そこを襲うしかない。
    「…全く、ナナちゃんは悪い子だね。どう足掻いても恋が叶わない人の気持ちが分からないんだね」
    振り向くと銀翼の人とリーフ君が居た。
    「銀翼の人さぁ…あなただって魔法騎士でしょ?街中のこの惨状を見ても、永遠の矢肯定派なのは何故です?ちなみに私は普通の恋の矢も否定しますけど」
    「僕はモルブス・コンタギオー。僕はさ、こんなナリだからずっと恋が叶わなかったんだよ。使う魔法も含めて気持ち悪い、鏡を見た事あるの?ってね。だから、簡単に好きな人を手に入れられるこの矢は良いと思ってるよ。例え君が暴力的になっても、僕は君を愛してあげられるし」
    「それは私が嫌です。モルブスさん、他人に大迷惑をかける様な恋が、相手に受け入れられると思いますか?私はこの事件に憤りを感じてますし、自力で来ないあなたの気持ちも受け入れられません」
    私はオカッパパーマでレンズが厚めの丸い黒渕眼鏡をかけ、マスクをしている銀翼の細身の男性を改めてフると、再び魔道書に文字を書き込んだ。
    『想像と創造、容疑者である天使達を拘束!』
    残りの魔力を絞り出し、リーフ君を含めて逃げようとしている天使達をパッと出した縄で縛りあげると、全員を一ヶ所に集めて私は説教をした。
    「こんなもんで人の恋愛かき回さないの!死者まで出てるんだよ!今度は解放しないであんた達全員連行するわ!」
    プンスコ怒ってる私に天使達は不服そうにしている。
    「もう矢の製造場所を叩くしかないわ。グリス、調べてくれない?」
    「オレもそう思って既に調査済みだよ。こいつら連行したら行こうぜ」
    「グーたん、私勝手に応援呼んじゃったから、その人達に任せてもう行こう」
    クラルスちゃんが呼んでくれた魔法騎士達に後を任せて、その場を立ち去ろうとすると、リーフ君が叫んだ。
    「俺様達は間違ってない!恋を叶えてやる事の何が問題なんだよ!恋愛に犠牲は付き物だろ!グリス先輩だってかつて俺様達と同じ事をしてたのに、裁かれないのはおかしいだろ!1日に何組ものカップル作ってた天才が、今や落ちぶれたヘタレかよ!」
    喧嘩を売られたグリスは、怒りを堪えてこう答えた。
    「オレだってかつてそれが正しいと思ってたよ。でも間違ってた。そんなやり方は、かえって主人を不幸にする。だから止めた」
    「へえ、グリス先輩はそうやって前主人を殺したくせに、自分のやり方を正当化するんですね」
    地雷を踏み抜かれたらしいグリスは、何度もリーフ君を殴った。こんなにもブチキレているグリスを初めて見て、私は暫く呆然としてしまったが、やがてハッとして止めに入った。身動きが取れずにされるがままになってたリーフ君は、顔面がパンパンに腫れていた。
    「リーフ君、今のは君が悪いよ。治療はしてあげるけど、2度とグーたんを殺人者扱いしないで!」
    クラルスちゃんが治療を終えるのを待って私達はその場を離れ、永遠の矢製造場所に向かった。
    「ねえ、グリス、さっきの…」
    「オレは殺してない。助けられなかっただけだ。いずれ話すから今は黙っててくれ」
    静かに泣いてるグリスに、これ以上何も言えず、クラルスちゃんもバツの悪い顔をしてるので、私はこれ以上詮索するのを止めた。

    永遠の矢の製造場所は、天界にあった。本来、人間が来れない場所なので、私は自分を天使化する必要があった。
    「お前の魔法なら、多分出来るだろ」
    「無理なら私達だけで戦ってくるわ」
    「えー、でも戦闘になったら不利じゃない?グリスは運動音痴だし、クラちゃんも喧嘩得意ではないんでしょ?」
    移動の間にだいぶ魔力が戻った私は、魔道書を開いて自分を天使化!と書き込む。その瞬間、身体が光に包まれて、私はグリス達と同じサイズになった。
    「ナナちゃん、成功してるよ!じゃあ行こうか」
    「うん、じゃあ今度こそ永遠の矢事件を解決しに行こう!」
    2人に案内されて、私は天界へと羽ばたき出した。
    天界は見慣れない綺麗な物が沢山あり、思わずキョロキョロしてしまい、グリスにたしなめられた。
    「気持ちは分かるけど、怪しまれるから大人しくしてくれ」
    「ごめん」
    2人に大人しくついていき、目的地らしい住宅の前で止まるとクラルスちゃんが小さく悲鳴を上げた。
    「グーたん、嘘でしょ?」
    「オレだって信じたくない。でもここなんだよ。永遠の矢の製造場所は」
    真っ青になったクラルスちゃんを見て、ただ事ではない事は分かった。でも何?どうしたの?
    「ナナ、今からとんでもない真実を言うけど、お前は何も気にせずに、戦闘になったら相手を倒してくれ。ここはな、オレの実家なんだ。そしておそらく永遠の矢を製造しているのは、オレの母さんだ」
    クラルスちゃんに続いて、私も真っ青になった。気にするなと言われても無理だよ!
    そんな私達の様子をよそに、グリスは普通に家に入っていく。
    「ただいま…と一応言っておくか」
    「お邪魔します」
    私とクラルスちゃんも挨拶し、家の中に入っていく。『ぐりす』と書かれたプレートが下げられたドアの前を通り過ぎた時、本当にグリスの実家なんだなと感じた。
    「ナナ、一応戦闘準備しといてくれ。母さんの部屋の前に着いた。じゃ、開けるぞ」
    ノックをし、グリスがドアを開いた瞬間、何故かモルブスさんと目が合った。は?と驚いてる間に、先制攻撃を許してしまい、私は攻撃を受けてしまった。
    「病魔法、インフルエンザの吐息」
    マスクを外したモルブスさんに息を吹き掛けられたとたんに、急に熱が上がり、寒気が身体を襲った。一気に体調不良になった私は立って居られなくなり、床に倒れてしまった。
    「僕の魔法は、息を吹き掛けた相手を自由に病気にさせる魔法。ナナちゃん、獣耳姿も可愛いね」
    にちゃあ…と笑うモルブスさんに、ゾッとする。
    「うわ、気持ち悪い!治療!治療!」
    すぐにクラルスちゃんが治療してくれたが、気持ち悪過ぎて鳥肌は止まらなかった。
    「おま、何でオレんち居るんだよ!母さんの部屋だぞここ!てゆか何で人間が?天使に擬態もしてねーのに」
    グリスの突っ込みに、部屋の奥から返事がした。
    「うるさい息子ね。私が呼んだのよ」
    そう言って私達の前に現れた女性は、永遠の矢を握っていた。
    「母さん…どういう事だよ」
    「彼は自分の魔法の影響で、時々仮死状態になるのよ。それで死にかけた魂がよく天界に来るの。で、面白い魔法を使うし、私のボディーガードに良いかなって」
    「永遠の矢を製造していたのは、やっぱり母さんなんだな?一体どうして…母さんのせいで、人間界は今、大変な事になってんだぞ!そんな物、作るの止めろ!」
    その瞬間、グリスは母親にビンタをくらった。
    「好きな人と永遠に一緒に居る事が、人間の幸せよ!私はその手伝いが出来る道具を作ってるだけよ。グリス、あんたもう恋の矢を使ってないらしいけど、そのせいで女の子を死なせた事を反省してないの?」
    「アリスを助けられなかったのはオレだけど、死に追い込んだのはオレじゃねえ!」
    「いいから言う事を聞きなさい!あんたは弓矢の才能だけはあるんだから、私達に従って恋の矢を射っていれば良いの!」
    「それは違います!」
    私は親子喧嘩に口を挟み、言葉を続けた。
    「息子さんは他にも良い所ありますよ!情報収集力とか。それに、息子さんの方が正しいですよ!だって、そんな矢大迷惑ですもん!自分の事を愛してくれても、人格が崩壊した好きな人との恋愛なんて嫌です。私達は、自分のペースで恋をします。恋敵に出し抜かれたり、逆に出し抜いたり。そういうのが楽しいんじゃないですか!例えフラれてしまったとしても、頑張った恋は良い思い出ですよ。あなたが作ってるその矢は、私達の恋愛に邪魔な代物なんです!だからもう、そんな矢を作らないで下さい」
    言い切って頭を下げる私に、非情な一言が振りかかる。
    「頭を下げられても、私達の考えは変わらないわ。今は相手の人格が変化してしまう代物だけれど、改良を重ねれば更に良い物を作れるかもしれないしね」
    「話を聞いてました?私達はそもそもそんな矢いらないって言ってるんです。グリ…息子さんみたく、矢を使わずに主人の恋愛をサポートさせれば良いじゃないですか。私はまだ恋の決着を付けてませんが、沢山助けられてますよ、息子さんに」
    「あなたも頑固ね。私達はずっと昔から恋の矢で人間の恋を手助けしてきたの。伝統なのよ。それを絶やすというなら、新しい風で、私達を倒してみなさい」
    グリスのママはそう言って、いきなり魔法を発動させた。
    「絶ち切り魔法、契約の断絶!」
    その瞬間、私の魔道書が桃色から元々の色である白に変わり、グリスが一瞬光った。
    「魔力が満タンに戻っちまった…」
    「…え?何をしたんですか!」
    「息子との契約を絶ち切ったのよ。私の魔法は絶ち切る魔法。契約や縁を自由に絶ち切れるの。私達に文句があるなら、自分の魔法だけで立ち向かって来なさい」
    「言われなくても!あ、私が勝ったら普通の恋の矢も永久に使用禁止で」
    「良いわよ、じゃああなたが負けたら大人しく永遠の矢を受け入れなさいよ」
    私は「もう一度獣耳見せて!」と襲いかかってきたモルブスさんをかわして、ババッと魔道書に走り書きをする。
    「想像と創造、モルブスさん蘇生する!」
    その瞬間、パッとモルブスさんが部屋から消えた。仮死状態だったなら、人間世界にある筈の身体に魂を戻せば良い。
    後はグリスのママだけだ。
    「想像と創造、グリスママが自ら永遠の矢製造の機械を壊す!」
    そう走り書きするとグリスママはゆっくり機械の前に向かっていったが、あと少しの所で抗がわれて失敗した。
    「絶ち切り魔法、あなたのかけた魔法を断絶!」
    私の魔法を自力で解いたグリスママは残念ねと笑ったが、その瞬間、背後で機械がボン!と爆発して驚いた後に困惑した。
    「残念でした。私の勝ちです」
    「何をしたの?あんた一体…どうしてくれるのよ!」
    「自力で魔法を解かれた瞬間、大急ぎで『永遠の矢製造の機械、小さく爆発』と書いただけです」
    「壊すなんてなんて事を!もう2度と、人間の恋を叶えてあげられないじゃない」
    ヘナヘナと床に座り込むグリスママに、グリスが口を挟んだ。
    「母さん、オレは過去に矢の力を使わずに何組かカップルにした実績があるし、そのうちのカップルで結婚した奴らも居る。矢に拘らなくても恋の手助けは出来るんだよ。そりゃ矢を使うより時間はかかるし、絶対成功するとは限らない。でも、さっきナナが言った通り、頑張った恋愛はどんな結果であれ良い思い出と化すんだ。それは矢を使われた恋愛より価値がある。オレはそう信じる」
    グリスママはため息をついた。
    「我が強いわね、あんた達。もう良いわ…。約束通りもう他の子達にも恋の矢使わせないわ。好きにしなさい」
    「やった!グリスママが私達の事認めた」
    「私はグリムよ。あとグリス、いつまでもそのワンピース姿は19歳男子としてどうかと思うわよ」
    「母さんが言ったんだろ!天使といえばワンピースだから男でも着てろって!」
    私達はグリムさんに頭を下げて、人間界へと戻っていった。帰りの道中、グリスは「近い内に服を買いに行くか…」とブツブツ言っていた。

    数日後、事件の報告を終えてアジトへ戻る途中、バッタリとモルブスさんに会った。会釈して立ち去ろうとすると、モルブスさんの髪の中からリーフ君が飛び出してきて、私に文句を言い出した。
    「おいコラ!てめーのせいで恋の矢を使えなくなっただろーが!矢を使わずにどうやって人間の恋を手助けすりゃ良いんだよ!責任とれバカ!」
    すると魔道書の中で寝ていたグリスがスッと出てきて、私の代わりに言い返した。
    「そんなの主人によって手助けの方法は違うだろうが。自分でやる事も考えられないバカなのかお前。つーかお前、自分の主人の所行けよ。何でモルブスとばっかり居るんだよ」
    「うるせえ!俺様はこいつが気にいったから一緒に居るんだよ!本当は主人こいつが良いけど、上が認めないんだよ!」
    「リーフ君、本当にモルブスさんが主人になったら、秒で天界に帰る事になるけど良いの?」
    私の突っ込みにモルブスさんが手厳しいなと呟いた。 
    「ナナちゃん、僕は諦めないからね。僕は君が食堂で働いてる時から好きなんだから」
    「そんな前から?!てゆかモルブスさんいくつですか」
    「まだ20だけど?」
    「2つしか離れてなかったんですか!30くらいかと思ってました。ごめんなさい」
    私達は暫く立ち話をし、「一緒の任務になる事があったら宜しくお願いします」と社交辞令を言って別れた。
    あれから、ストーカー事件は起こっていない。事件はスッキリ解決ってとこだろう。
    「ところでグリス、クラルスちゃんと寄りを戻せたんだって?おめでとう」
    私の一言にグリスは吹き出した。
    「何で知ってんだよ!」
    「クラちゃん本人から聞いた。ほら、事件の後クラちゃんも私がそのまま受け入れる事になったじゃん?だから更に仲良くなって色々話したんだよ。話題が恋バナになった時に言ってた」
    「何か悪いな。お前より先に恋人作っちゃって。出来るだけお前の前ではいちゃつき控えるわ」
    「別にいちゃついても良いよ。恋人同士なんだし。どうせ私も2年後にはゴードンさんと同じ事をしてるだろうし」
    「大きく出たなお前。でも、そうなってると良いな」
    私達は笑い合い、拳を合わせた。
    そしてグリスはまだ眠いからと、契約し直して再び桃色になった魔道書に戻っていった。
    さて、今度こそ帰りますか。
    その前に部屋で留守番してるクラルスちゃんに手土産でも買って帰るかな。彼女の喜ぶ顔を想像しながら、私の足はケーキ屋さんへと歩き出した。
    くーま🐻 Link Message Mute
    2023/03/13 22:50:30

    永遠(とわ)の矢事件

    #ブラクロオリキャラ
    ナナちゃん達がストーカー事件に挑むお話です。

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