【eggい話】男と卵【#0】魔法などのあるファンタジーな世界。そこにとある男がいた。
品行はあまりよろしくなく、鼻つまみ者の男が酒場で暇をつぶしていると、
ある有名な騎士団の制服を着た男が話しかけてきた。
騎士は、男の身体能力に興味があるといい、ここで話をするのも…と、酒場の隠し部屋に男を連れて行った。
思いもよらぬ来客に、これは金になるかもしれないと男は有頂天だった。
出された酒や料理をたらふく飲み食いしながら騎士の話をきいていたが、徐々に思考がまとまらなくなっていき──
気がつけば、元いた酒場の隅の席で目が覚めた。
酒場の女将に話を聞いても「騎士の男なんて来ていない」という。
きっと飲みすぎたんだと笑われ、腹を立てながら自室に戻り再度眠りにつこうとした男だったが、
突如今まで体験したことの無いような猛烈な腹痛に襲われる。
叫び、のたうち回りながら下半身に違和感を覚え、下着を脱ぎだすと…
コロン、と握りこぶし大の卵が転がり落ちてきた。
まだ生温かいそれを手に取りながら、男は驚愕した。
卵が、まさかこれは自分が産んだのか?いや、そんなわけはない。
鏡には真っ青な顔をした“人間の”男の姿が映っていた。だが確かに卵はそこにあった。
混乱する男の部屋に、知り合いの魔女が訪れてきた。魔女は、魔法や生物の知識に明るかった。
男はこれまでの事情を魔女に話した。
半信半疑ながらも魔女は卵を引き取って調べてみるという。
こうして手元から卵は無くなったわけだが、男の脳裏からは焼き付いて離れなかった。
常に心のどこかであの卵がいったい何だったのかを考える。
が、答えが出るはずも無い。忘れようとしても忘れられない。
夜寝つけなくなった。
酒を飲んでも味がしなくなった。
鏡を覗けば自分の顔が爬虫類そのものになってしまった幻覚まで見えた。
心身共に消費した頃、再び魔女が男を訪ねてきた。両手で、布にくるまった何かを抱えながら。
やつれた男の顔を見て眉をひそめながら、魔女は言う。
「卵がかえった。今日はそれだけ伝えに来たんだ」
一体何が産まれたんだと問いただしても、魔女は首を降って「知らないほうが良い」と繰り返すばかり。
頼む、教えてくれ!このままじゃ気が気じゃない。男が涙ながらに訴えると、魔女はため息をついた。
抱えていたそれの、布をゆっくりとめくりあげる。
そこに見えた“もの”は、どこか、見覚えがあって―
「産まれたのは、人間の男の子さ。…あんたにそっくりな顔の、ね」
_Next…?