札束ではたいてきたって、どんな成金だよ。
目の前を歩く男の背を、ペルメルはちらりと見た。森の中で迷ってしまった経緯を、この男に話していたのである。いやに小奇麗な服を着た男に絡まれて、うざったいから無視してぼうっと歩いていたら迷っていたのだ。それをありのまま話したうえでの、彼の笑い混じりの発言が「どんな成金だよ」との一言である。あてもなく歩いているのだというのに実に呑気な声で、彼は続けた。
「災難だったな」
「その森の中で出会った男も迷っているなんて、災難の二乗だ」
「言うね」
じき暗くなる。それなのに出口は見つからない。
「どうする。野宿になるかもしれない」
細いけもの道を歩きながら、前を歩く彼はペルメルに尋ねた。その声色にも心配の色は全く見えなかったし、逆にどこか楽しそうな様子にさえみえて、ペルメルは少しだけ目を細める。人生楽しいんだろうなあ、と根拠もなく思いながら。
「構わない。食料はまだある。ベッドが恋しいと思ったことすらない」
「良かった、女みたいに駄々をこねられたらどうしようかと」
「あほか」
ばたばたとペルメルの指に乗っていた小鳥が飛んでいく。その鳥は藍に染まり始めた空を悠々と飛んでいく。残念ながら人間は飛べないのだ。実に残念ながら。ペルメルが長い溜息をつくと、前方の彼が少し振り向いた。
「疲れたか」
「まさか。空が飛べないかと思って」
「似合わずロマンチストだな」
「死ね」
「初対面に死ねって。魔法使いなら飛べたかもしれないな」
「あんな得体のしれないもの」
薄暗くなってきた視界のなかで、老木が横たわっているのを見つける。ペルメルはそれに近寄って、こんこん、と指の節で叩き強度を確認してから、それに腰かけた。「やっぱり疲れてたんだろ」という男の発言には耳を貸さずに、腰にひっかけていた鞄も下ろす。
「火を焚くか。薪を拾ってこよう」
「もうこんなにまっくらだ。見つかるか」
「探せばあるもんさ。ほらここにも。ほら」
「ああ、そう、がんばれ」
「あんたも探してくれよ」
ペルメルといえば、薪を拾う彼を横目に鞄の中を漁り始める。「枯れ草みたいなのも探してくれ」と高い場所から指示を出し、彼が鞄から取り出したものはマッチであった。からからと薪を拾い上げる音を聞きながら、ふとペルメルは思い出す。
「そういえばお前、名前は」
「そういうのは自分がまず名乗るもんだろ。はいこれ」
いつの間にこんなに集めたのだろう、両腕が塞がるほどの薪をペルメルの目の前にがしゃんと置きながら、彼は快活に言った。まあそれもそうか、とペルメルはマッチを擦る。折れた。もう一本擦る。折れた。見かねた相手がマッチ箱を取り上げた。残り三本。
「買った方が良いぜ」
小さな摩擦音をたてて、マッチの先に火がつく。
あたりはもう暗闇で、その小さな火がかろうじての光源であった。その火を間に挟んで、「ペルメルだ」と名乗った。相手の助言には、やはり耳を貸さずにいた。
酢酸さん宅ドラクナちゃんお借りしました!
文章おかしいかもしれん。
そしてキャラおかしかったらごめんなさい!(´・ω・`)
旅!