【セーラームーン】とある日常。【はるみち】
「おはよう、はるか」
小鳥のさえずりと共に、柔らかい声が自分に落とされた。
まだ少し眠気残る頭で、その声が愛しい人の物だと気づく…。
「あぁ…。おはようみちる」
みちると呼ばれた彼女はニッコリと微笑み、自分の名を呼んでくれた人の髪にそっと触れる。
「もうお昼前よ?」
そんな時間になっていたのかと思いながら、はるかはゆっくりと体を起こした。
「もうそんな時間か…。今日はやけに静かだね」
「今日は朝からせつなとほたるが、○○水族館に出かけてるのよ。自由研究ですって」
「あぁ…それでか」
みちるの説明を聞いて、何故自分が昼過ぎまで寝てしまっていたのか理由が理解できた。
今日は『オヒメサマ』が居ないのだ。
いつもならば、そのオヒメサマが「遊んで」と毎朝起こしに来てくれるのだが、出かける用意で忙しかったらしい。
朝、起こされなかった自分は、モノの見事に、今みちるに起こされるまで寝てしまったと言うわけだ。
オヒメサマ…というのは、みちるが言った『ほたる』の事だ…。
無限学園での戦いの後、生まれ変わったほたるを、自分とみちる…そしてせつなと共に引き取り、一軒家で三人で育てていた。
「…もっと早くに起こしてくれても良かったのに」
「ふふっ。はるかがよく寝ていたから、起こすのが勿体なかったのよ」
そう言ってみちるは少し意地悪そうに微笑んだ。
「11時30分か…。本当にお昼前だな」
時計を見ながらそう言って、少し考える…。
たまには二人で少し遅めのランチを外で食べるのも良いのでは無いか?と。
「お昼は外で食べないか?久々に何処か二人で出かけよう」
『珍しい』そんな表情を見せてから、
「そうね。丁度お昼は何にしようか迷っていた所だったの。外で食べるのも良いわね」
と、答えが返ってきた。
「そうと決まれば支度をしようか」
「えぇ、少し待っていてね」
そう言って、みちるははるかの部屋を出て行った。
=
1時間くらい経った後、みちるはリビングに現れた。
「お待たせはるか」
白いワンピースに紺色のカーディガンを肩にかけたみちるが、既に用意を終えたはるかに声をかける。
「そのワンピース初めて見るね。良く似合ってる」
「有り難う。今年買ったのだけど、まだ着ていなかったのよ」
「なら、丁度良かったね。折角買ったのに、着ないままだなんて勿体ない。夏の季節にぴったりだ。…お昼は何処で食べようか?」
「そう…ね。夏休みに入る前に新しく出来たお店があったはずだわ…。まだ混んでるかも知れないけれど…」
少し声のトーンが下がる彼女に
「みちると一緒なら、待つ時間なんて関係ないさ。みちるが行ってみたいならそこにしよう」
そう答える。
時間も時間だ、多少は空いているだろう。
「あまり遅くならないうちに行こうか。折角のデートの時間が短くなってしまうからね」
「はるかったら」
はるかの台詞にみちるは笑いながら車に乗り込む。
ここから、40分もあればその店に着くだろう。
車を走らせるとレンガのお店が見えてきた。
「あのお店かな?」
「えぇ…多分あのお店だわ」
お店の名前を確認し、車を駐めて中に入る。
みちるが好みそうな、暖かくて何処か可愛らしい雰囲気のあるお店だ。
「みちるが『来たい』と行った理由が分かる気がするよ」
「そうかしら?でも、とても落ち着くお店ね」
「あぁ…」
そう言ってメニューを二人で選ぶ。
それぞれ別のランチメニューを選んで、味見のしあいっこをする事になった。
「このサラダ、美味しいわね。ドレッシングは何を使ってるのかしら?」
「家で再現するつもりかい?」
そんなたわいも無い事を話しながら、ランチタイムを楽しむ。
「これを食べ終わったら、次は何処へ行こうか?」
「そうね…ショッピングをして…それから、海までドライブ…なんて言うのも素敵だと思うわ」
「そうだね。そうしよう」
「また来たいわね。今度はせつなやほたるも一緒に」
「そうだな。今日の事を話したら、『行きたい』って言うだろうしね」
笑いながら、しっかりとデザートまで頂いて店を出る。
そして、みちるお気に入りのセレクトショップまで、車を走らせた。
=
目的のお店に入ると、みちるは早速気になるモノを手に取って見る。
「もう、秋物が入荷しているわ。今年のはやりはこう言った感じなのね」
そう言いながら、店内を隅々までチェックしてる。
今度やるコンサートのドレスでも選んでいるのだろうか?
そんな事を考えつつみちるを見ていると
「はるかはどっちが良いと思う?」
と声をかけられた。
「え?あぁ…どちらも似合っていて甲乙付けがたいね。試着させて貰ったら?実際来てみるとまたイメージが違うかもよ?」
そう言うとみちるは納得して
「そうね。そうしてみるわ。スミマセン。この2着、試着させて頂いても良いですか?」
と、店員に聞いてから試着室に入っていった。
「どうかしら?」
試着を終えたみちるが出てくる。
「そうだな…最初に試着した方が好みだったかな」
「あら、ありがとう。はるかがそう言うなら、最初に着た方にしようかしら」
「じゃぁ、決まり。次のコンサートで着るのかい?」
「えぇ。そのつもり。はるか、今日は付き合ってくれて有り難う」
みちるははるかに微笑む。
「いいや、久々に二人で出かけたかったのはこっちの方だよ」
そう言って、今度ははるかがみちるに微笑む。
静かだけれど楽しい時間は、直ぐに過ぎてしまうモノだ。
そろそろ夕暮れだ…。
今度は海へと車を走らせる。
=
海に着くと、今度は一転、みちるは海を『じっ』と見ていた…。
「綺麗ね」
「みちるの方が綺麗だけどね」
「あら、有り難いわね」
ふふっと笑ってから
「今日はとても楽しかったわ」
と、言葉を続けた。
「あぁ、私もだよ」
みちるの言葉に、はるかも同意する。
今日のような日は日常なのに、何処か夢の様な日に思えるのだ。
…夢だとしたら、何時か目が覚めてしまう日が来てしまう…。
それが例え変身が出来なくなっていたとしても。
いいや、もしかしたら、この不安は戦士としての力を失ってしまったからかも知れない…。
それとも、ほたるがあの日から成長を続けている事に、何かを感じているのだろうか?
長い長い沈黙がそこにあった…。
その沈黙の意味が手に取るように分かって、二人とも言葉を発するのをためらっている。
はるかはふいにみちるを抱きしめていた。
みちるははるかの腕に手を重ね
「いつまでも、こんな日が続けば良いわね…」
と、静かに言った…。
「…そうだな」
そう呟いて、夕日が海に沈むのを、二人はゆっくりと見ていた。
=
-後書き-
はるかとみちるのとある日常を書いてみたSSです。
初めてのSSと言う事と、勢いで書いたモノなので、読みにくい所などあるかも知れませんが、ご了承下さい。
ほたるちゃんが成長を始めてから、導かれるまでの日々の一日を切り取って書いてみました。
もう少し変身できない不安感などを書こうかな?とも思いましたが、長くなりすぎそうだったのでやめました(^^;)
本当に日常で、あまりラブラブもしておりませんが、楽しんで頂けたら幸いです。
初めてのSSなので、読みにくかったりしましたらスミマセン><
それでは、ここまで読んで下さった方、有り難う御座いました。