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    ベルッパ短文ログ■sugar supplement■sugar supplement MSが整然と並ぶ夜の静かな格納庫。ベルリは無の重力に身を任せそこをたゆたっていた。
     自分の勝手な行動により大きく傷ついたG-セルフは、今はもう十分に整備され修復している。その巨体をデッキから見下げてベルリは顔を曇らせる。
     ──アイーダ…姉の事、レイハントン家の事、母の事。そして今日この日までこのMSと共に歩んできた運命。

    (世界ってのはどこまでも勝手だって、分かってたはずなのに)

     例えG-セルフがこちらの勝手で動かされるだけの機械だとしても、全ての苛立ちをこの“遺産”にぶつけてしまいたくなる。それほどまでにベルリには己で歩んできた道が歩まされてきた道だという事実を受け入れ難かった。
     敵と一触即発になるというミステイクを犯せば流石に少しは冷静にもなるが、その心のもやまで水に流せるわけではないのだ。
     そのもやから逃れたいかのように、姉もあのレイハントンの人間達も誰もいない静かな一人になれる場所を求めて、無心でやってきたのがここだった。
     いつも整備士やパイロットの声で賑わう格納庫も今日はもううっすらと灯りが灯るのみだ。トワサンガのパイロットとの騒ぎの後、しばらく整備士達には徹夜の苦労をかけさせてしまったようだが作業は概ね終わったらしい。
     MSのみが並び、人の気配の無いこの場にベルリは少しの安堵を得る。
     そうしてたゆたいながら格納庫の下にまで降りれば、G-セルフの足元に強い光と人影が見えるのにベルリは気づいた。

    「よう、飛び級生が夜更かしか?」
    「ハッパさん」

     その人影──ハッパは手元の調整用の機械を置いてニッと笑いながらベルリに顔を向けた。
     今はとっくに深夜と呼べる時間。それすなわち──

    「もしかして……今日も御迷惑おかけしているのでしょーか……?」
    「いいや、貴様と一緒だよ」
    「僕と……あっ」
    「図星だろ?」

     ニヤニヤとこちらを見るハッパにベルリはいたたまれなくなる。この真っ直ぐな瞳はいつもすぐに自分の心を見透かしてしまうのだ。

    「ま、俺だって色々悩んで寝れなくなることもあるのさ」
    「ハッパさんも?」
    「あのなあ、俺だって人間なの」

     ハッパが周りに積まれていた工具や紙の束をどけて工具箱の上に座れという仕草をするのでベルリも素直に従う。確かに人と会いたくない気分だったのに、ハッパの存在を無意識にベルリは許容していた。

    「こんなとこまで来れば悩みもするさ」
    「宇宙どころか月ですもんね」
    「地球はもうあんなに遠いんだぜ?」

     ハッパは適当な方向をスッと指さす。

    (地球。母さんのいる地球。学校のある地球。姉さんと出会った地球)

     全ての始まりの地に想いを馳せてぼうっとその指の先をベルリは見つめる。

    (あそこにいれば、僕は幸せだった?)

     近くて遠くなってしまった日々。運命など何も知らなかったあの頃。

    「遠くまで、来ちゃいましたね」
    「本当にな」

     俯いて静かにその声を出すベルリを横目に見たハッパは、そっと手を伸ばしその頭をぐしゃぐしゃに撫で回した。

    「僕……ってうわっ!?何するんですやめてください!」
    「まあ待ってな」

     そこにいろ、と手で指示だけしてハッパはどこかに行ってしまう。その背中を見つめながらベルリはぐしゃぐしゃになった頭に手を置いて髪を整える。

    (なんでか悪い気がしないんだもんなあ)

     出会った時から変わらない、例えるのなら兄のような優しさでいて、かつちゃんと対等な仲間として見ていてくれるようなその絶妙な接し方。
     彼のくれる言葉一つ一つが胸に不思議と染み込むのをベルリは感じていた。

    『一撃離脱!45秒間なら跳べる!!』
    『君なら使える、船を守ってくれ!』
    『貴様に守ってもらいたいんだよ!』

     ハッパの言葉を思い出すとまあ、敵の国の人間に対して何とも勝手な発言だなあと思う。しかしベルリの顔に浮かぶのは怒りでなく笑いだ。
     やらせようとしてる事は勝手過ぎるけど、あの願いは、言葉は真摯なものだったとベルリは思う。ハッパの言葉の信用性はこれまでの戦いで十分感じている。
     彼に頼られる事が、ベルリを誇らしくさせるのだ。

    「何変な顔してるんだ貴様?気持ち悪いぞ」
    「あれハッパさんそれ」

     帰ってきたハッパの手にあるのは二つのマグカップだ。湯気と甘い香りがたちこめる。差し出されたそれをベルリが覗くとトロリとした白色の波が息で揺れた。

    「ホットミルクですか」
    「アダムさん特製レシピだぞ。砂糖入れただけだけどな」
    「夜に飲むにはカロリー高めですね?」
    「覚えとけよ、体に悪いもんは大抵心に良いんだ」

     なんじゃそりゃと笑いながらベルリはマグカップにそうっと口をつけ、ゆっくりそれを傾ける。 甘い味が口にほんのりと広がる。
     そういえば昔寒い日に母がこういうのを作ってくれたような気がするな、なんてことをベルリは思った。

    「心がポッカリして気持ち悪い時は、甘いもんで埋めるのがいいって俺は思うんだ」

     その言葉にハッとなってベルリはハッパに顔を向ける。
     その顔は優しいような困ってるような曖昧な笑みを浮かべて壁の向こうの宇宙を見ていた。

    「なあベルリ」
    「はい、ハッパさん」
    「お前も、さ、色々思うことあるんだと思う。分かってやれるなんて、簡単には言えない」

     珍しくハッキリしない口調で、悩みながら少しずつ重ねられるハッパの言葉をベルリは口を挟まず受け取る。時に手元をもたつかせながら、それでもハッパは言葉を進める。

    「でも、知っててほしいんだ。きっとお前の歩んできた道がお前の思うとおりの道で無かったとしても」

     一度俯き、そっと顔を上げハッパの視線はベルリに向かう。

    「お前がここにいてくれた事に俺は救われてる。感謝してる、きっと船の皆も」

     だからお前のやりたいことがあるのならなるべく支えるから、恥ずかしくなったのか顔を赤くして少し目をそらしながらハッパはそれを伝える。
     ベルリは目を見開き、心のダムが決壊する音を確かに聞いた。

    「ハッパさん、ぼく」
    「な、泣くなよお」

     今のベルリに何時ものように毅然と振る舞う余裕は無かった。暖かいものがベルリの心の壁を軟らかくさせて、今まで堪えてきた物が一気に溢れる感覚を感じさせた。
     崩れる自分の体を支えてくれるハッパの胸に全てを任せて、その感情の雫を瞳からいっぱいにベルリは溢れさせた。

    「ぼくは!アイーダさんが好きだった!」
    「うん」
    「だからずっとずっと頑張って!」
    「うん」
    「でも姉さんだなんて!じゃあ僕、何だったのかって!苦しくて!!今ここにいる意味が分からなくなって!!でも!!」
    「うん」

     ハッパは泣きじゃくり喚くベルリに相槌を打ちながらそっと肩をさする。

    (ずっとずっと背負わせてきたんだな)

     どんなに気丈に振る舞っても、仕舞込めないものがある。守ってほしいと頼むことで背負わなくていいものを沢山背負わせてしまった。
     例えそれがレイハントンの血を引く彼の運命だったとしても、重い罪悪感をハッパは感じていた。

    「でも、でもねハッパさん」
    「どうした?」
    「嬉しかったんです、守ってほしいって言ってもらえた事」

     目を赤く腫らしながら少年の瞳はハッパを真っ直ぐに捉える。

    「凄く誇らしかったんです。アイーダさんとの気持ちとは別に、ここにいたい理由、あった」

     ベルリはくしゃりと顔を歪めて笑う。

    「今の僕の帰る場所、ここなんですねハッパさん。どんだけ遠くに来ても、訳が分からない事言われても、メガファウナがベルリ・ゼナムの帰れる場所なんですよね」
    「ああ、待ってる。ベルリ、貴様がちゃんと帰ってくるのをここは待ってるよ」
    「へへ、ハッパさんも?」
    「当たり前の事言わせんな」
    「じゃあ、帰れる場所これからも守らなきゃですね。守ってほしいんでしょ?」

     悪戯っ子のような笑みを浮かべてベルリは期待の眼差しを向ける。年相応と言った、しかし彼らしい表情にハッパはクスリと笑ってその期待に答えるしかない。

    「何度も言わせるなよ。貴様に守ってほしいんだ」
    「天才さんよりも?」
    「俺はお前がいーの。ベルリ、貴様に守ってもらいたいんだ」
    「へへへ、了解しました。任されます」
    「貴様に守ってほしいんだから……簡単に死ぬんじゃないぞ」
    「当然です。今の帰れる場所はここですけど死ぬ義理はありませんもん」
    「貴様なあ」
    「あっははははは!!」

     おかしくなってお互い笑いがこみ上げる。ベルリの胸のもやは、いつの間にか暖かい言葉で気にならなくなっていた。

    「ねえハッパさん、今日だけここに一緒に寝ていいですか?部屋まで戻るの億劫で」
    「いいけど、簡単な毛布しかないし体痛くなっても知らないぞ」
    「いいんですよ」

     G-セルフの足にもたれ床に座り込んで持ってきてくれた毛布を体に巻き、ハッパが自分にとびきり甘い事を自覚しているベルリは彼の肩に頭を預けた。

    「ねえハッパさん」
    「なんだ?」
    「ハッパさん、失恋したことあります?」
    「……」

     突拍子も無いベルリの質問にハッパは眉を寄せる。

    (………寝ぼけてんなコイツ)

    「教えてくださいよう、僕ばっかり情けないの嫌だ」
    「あるよ、失恋くらい」
    「へえ…どんな人に?」
    「いい奴。憧れるくらいにさ」
    「ふぅん……」

     聞くだけ聞いてから深い眠りにつこうとするベルリに何て奴だとハッパはじろりと非難の目を向ける。

    (勝手な奴で、でも尽くしてやりたくなる。結局俺もコイツも惚れた弱みでとことん振り回されるのさ)

     肩から伝わる子供体温にハッパは降参のため息をついて目を閉じる。
     優秀なパイロットでも守ってやりたい子供でもない、愛しい彼にハッパは肩を貸すのだ。

    「おやすみ、ベルリ」
    かげにん Link Message Mute
    2019/07/23 23:41:44

    ベルッパ短文ログ

    ##CP系

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