プロアイ(TFA)短文ログ■ヤキモチ・天然・彼の思う先 ここ最近、一時的に発掘作業メンバーに入った新入り・プロールに関してちょっとした騒ぎがおきている。いや…騒ぎというか一人が勝手に騒いでいるだけなのだが……。
「アイアンハイドはどこだぁーっ!!!」
船内を黄色い閃光が駆け巡る。大声の主のバンブルビーだ。
「なんだバンブルビー!うっさかよ!」
「…アイアンハイドならプロールの部屋に行ってるぞ」
「なんだよまたかよー!」
ありがとうお二人さん!っと声だけ残しバンブルビーは一瞬にして消える。あっという間の出来事にラチェットとオプティマスは溜め息をつかざるをえない。
今回が初めてのことじゃないのだ、アイアンハイドがプロールの元に行き、そのアイアンハイドを探してバンブルビーが騒ぎ立てるのは。オプティマスはどう対処すべきかと困り顔だがラチェットはもうほっておくべきだという姿勢である。
(なんだよなんだよ!アイアンハイドのやつ!最近プロールのことばっかかまっちゃって!!)
真っ直ぐプロールの部屋に走るバンブルビーの心中は穏やかではない。原因はここ最近のアイアンハイドの行動にある。
プロールがオプティマス部隊に一時入隊した後、アイアンハイドは頻繁にプロールのところに通っているのだ。馬鹿がつくぐらいお人好しな彼のことだから、どこか自分達と距離を置こうとしているプロールを心配しての行動かもしれない。
(だからって!親友の僕をほったらかしってどういうことなのさ!!)
そう、バンブルビーがアイアンハイドを休み時間に遊びに誘おうとすると決まってアイアンハイドはプロールの部屋に行っているのだ。
(だいたい僕はあのプロールってやつはいけすかないんだよね!)
バンブルビーはどうしてもあの新入りが気に入らない。からかったら本気で怒るし、自分はお前たちとは違うんだって態度も気に入らない。
それにアイアンハイドがプロールに色々仲良くなろうと行動しても、プロールはいっつもそっけない態度だ。それにも腹が立つ。なんでアイアンハイドはあんなやつに構い続けるのかがさっぱり分からない。
そうこう考えてるうちに目的地に到着していた。
「アイアンハイドはいるかーっ!!ハンズアーップ!」
「へ、バンブルビー?えっとお…武器は持ってませ……あ、レッキングボールがあったや」
プロールの部屋には律儀に手をあげるアイアンハイドとまたかといった呆れ顔でこちらを見ているプロールがいた。
「何やってるのさアイアンハイド!」
「何ってえっとお、プロールの部屋に遊びに来てるだけだよ?」
アイアンハイドは此処まできてもまだ事態をイマイチ把握していない。なんで最近バンブルビーはイライラしてるのかなー?くらいの認識である。かたやプロールはバンブルビーのイライラがだいたい自分に対してのものだと察していた。
「アイアンハイドに用があるのだろう?さっさと言うである」
「む、ムッカーッ!だいたい僕はチミのそういう態度が……むぐっ!?」
バンブルビーは口に茶菓子を詰め込まれていた。犯人は横でニコニコしているアイアンハイドである。
「まあまあバンブルビー落ち着きなよお。用があるなら茶菓子でも食べながらゆっくり話せばいいじゃない」
これ、すっごく美味しいんだよおと話す彼に特に悪意は感じられない。
「…まったく、チミにはほとほと呆れさせられるよ…」
肩透かしをくらってしまったバンブルビーはろくに言いたかったことも言えぬまま茶菓子を頂いた後部屋を出て行くのであった。
数日後、その日の仕事が終わったあとバンブルビーはある計画の為にプロールの部屋に向かっていた。
(純粋でちょーっとお馬鹿のアイアンハイドにアイツがちーっともいいやつじゃないことを教えるためには、これぐらいのこと仕方ないよねーっ)
計画とは、プロールの部屋をこっそり覗き見してプロールの嫌な行動を掴み、それをアイアンハイドに教え愛想をつかせるというものだ。あんな嫌みなやつだから部屋でアイアンハイドに対しての愚痴を一つぐらいこぼしてるだろうという考えである。
バンブルビーはしっかり録音機をかまえてそろーっとプロールの部屋を覗き見る。プロールは何か……手の中の小さな物体を明かりに透かし眺めていた。その手の中のものにバンブルビーは見覚えがあった。
(あれ……アイアンハイドがプロールにあげるって言ってたやつじゃん)
何日か前の仕事中、アイアンハイドが何か鉱物を拾っていた。それを何に使うのかと聞いたら磨いてプロールにあげるのだとにこやかに答える。またアイツかと腹が立ってどうせ受け取ってくれないよと嫌みを言っておいたのたが、アイアンハイドはやっぱり渡して、しかもプロールはしっかり受け取ったのだ。バンブルビーにとっては意外な行動であった。
プロールの顔に目を向けてみる。石を見つめる彼の顔は今まで見たことないような優しい笑顔をしていて……
「なーんだ、そういう顔も出来るんじゃーん!」
「んなっ!お前は!バンブルビー!!」
部屋のドアからニヤニヤとこちらを覗くバンブルビーにようやくプロールは気づく。驚き慌てて手の中のそれを隠すが既に手遅れだ。
「全然僕に気づいてなかったけど上機嫌そうだったね~、そんなにソレ気に入ったのー?」
「んなっ、違っ!」
「じゃあアイアンハイドからの贈り物が嬉しかったとかー?」
「な、あっ、ば、馬鹿言うなである!!さっさと部屋から出ていけっ!!」
顔を青くしたり赤くしたりしたあと、本気で手裏剣を投げつけてくるプロールに対してこれはちょっとからかいすぎたとバンブルビーは潔く部屋をおいとまする。
(そんなに否定するって、逆に図星だって言ってるようなもんだってプロールさん知らないのかねー)
バンブルビーはニヤニヤをこらえることが出来ない。なんだ、思ってたより分かりやすいやつじゃないか。
「アイアンハイドにプロールが喜んでたって伝えとくよーっ!」
ガタッと大きな音がしたと思ったら、プロールが禍々しい殺気と共にバンブルビーを追っかけてきている。しかし部隊一の早足だと自負するバンブルビーは余裕だ。新しいからかいネタが出来たと上機嫌な彼は本来の目的を忘れアイアンハイドの元に向かうのであった。
「アイアンハイドー!」
「まてっ!バンブルビー!!」
「あれ、バンブルビーにプロール、どしたの?」
「プロールがね、君があげたプレゼントをもんのすごーく気に入ってニヤニヤ眺めてたから報告しようと思って!」
「あっ、アイアンハイド!そのっであるな……!」
「気に入ってもらえたならよかったあ~」
「う、うむ…」
「プロールゥ、アイアンハイド凄くニブチンだから積極的に行かないと気づいてもらえないゾ?」
「へ、それってどういうことお?何の話?」
「バンブルビー、後で表に出ろである 」
「遠慮しときまーす!」
~おまけ~
「プロールー、喉かわかないー?」
最近、私、プロールの部屋に頻繁にアイアンハイドが訪れる。大量のお菓子を両手に。
「──でねー、そんときのバンブルビーは凄く格好良かったんだよお!」
アイアンハイドは親友の活躍を楽しそうに語る。学生時代の話をしてたんだったか――正直自分にはあまり興味がない。むしろ全然相槌すらうたない自分に対してここまで生き生きと喋り続けていることのほうに感心する。
どうしてアイアンハイドはここまで投げやりな態度をとっている自分に愛想がつかないのだろうか。師を失った悲しみがまだ胸に残り続ける身としては、正直ほっておいてほしかった。
しかし、何故か、自分はこの空気の読めない来訪者を拒めずにいた。
(何なのであろうな、この気持ちは)
アイアンハイドと一緒にいると得られる安心感。嫌いになれない理由はそこにあるのか。
ヨケトロン先生の元へと行くため400万年も雑念を捨てる修行を積んできたのに、まだまだ自分は半人前だと心の内で自嘲する。いつになったら自分は先生にまた会えるのか。
「…そうそう!オレ、プロールにプレゼント持ってきたんだった!」
そう言ってアイアンハイドは腹部にある収納ケースを漁りだす。彼が大きな手で器用に取り出したのは、小さな丸い鉱物だった。
「これはねえ、オンファサイトって石なんだあ」
「…ほう、意外と物知りなんであるな」
「えへへー……ってあれ?馬鹿にされてる?」
頭を捻るアイアンハイドを尻目にその石を眺める。深い黒色は死んでしまった師を連想させた。
「あれ、プロールさん気に入らなかったかな…?」
「い、いや、気にするな」
どうやら無意識の内に暗い顔をしてしまっていたらしい。アイアンハイドが心配そうに自分を見つめている。また自分の修行の至らなさを感じ、恥じる。
「その石さ、プロールに似てると思ったんだ。だから気に入るかなーって」
丸い形はオレが頑張って磨いたんだよーとアイアンハイドは笑う。そういえば自分の体も黒色だった。すぐ考えれば気づくことか。それほど師のことから離れられぬのか。
「プロールさ、なんだかずっと落ち込んでるみたいだったからさ、元気になってくれればいいなって思って」
「落ち込んでるように見えたか、拙者が」
「うん……違ったらごめんね?」
落ち込むどころか怒りや反発の態度でオプティマス部隊の面々には接してきたつもりだったし、落ち込んでいる素振りはまったく見せてこなかったと言い切れる。事実あのお節介気味のリーダーにそのような件で声をかけられたことはなかった。
アイアンハイドに対しての評価を変えるべきなのかもしれない。意外と彼は人の感情に聡いのか。
ああ、そんな彼であったからこそ自分は安心感を得ていたのか。嫌悪にではなく、むしろ心の奥底では好意に感じていたのか。来訪を、嬉しく思っていたのか。
「……大事にするである。ありがとうな、アイアンハイド」
「へ!?え、あ、うん、どういたしまして!!」
礼の言葉に対してアイアンハイドは目を見開き驚いた後、満面の笑みを浮かべ喜ぶ。自分が礼を言うのがそんなに驚きに値すると言うのか。失礼なと言いたいところだが、今までの接し方を思い出すと反論が出来ない。
お互いに何か照れ臭い雰囲気になったその時、船内に大きな声が響き渡る。
「アイアンハイドはどこだぁーっ!!!」
オプティマス部隊の一員、バンブルビーだ。ここ最近、アイアンハイドがプロールの部屋を訪れるのと同じくらい、日課となりつつある彼の叫び声。まあ、原因はだいたい自分とアイアンハイドにあるのだが。
「最近バンブルビーよくオレを探してるよねえ?どうしてかな?」
「…本当に理由が思いあたらぬか?」
「へ?ちっとも?」
ううむ、この緑の大男は本当に聡いのだろうか?少なくとも今この状況に不思議でたまらないといった顔をしているあたり、やはり空気が読めないという評価のままでいいのかもしれない。だが、そんなところも含めてきっと自分は彼が好きなのだ。
ふと手の中の石を光に透かしてみる。その色は一見確かに黒色なのだが、よく見てみるとそれは深く濃い緑色をしていた。
それは、目の前の男を連想させるような。
そんなことに気づいてしまい、ずっとへの字に結び続けてきた口を少し緩めてしまう。
──ヨケトロン先生、まだ私はあなたへと続く長い道を歩いている途中ですが、少し寄り道をさせてください。
一緒にいてみたいと思った、ほってはおけない人に出会ってしまいました。
■■■「わーいっ!バンブルビー!」
「ちょっと!苦しいってばアイアンハイドッ!」
何か嬉しいことがあったのだろうか、アイアンハイドはバンブルビーをぎゅうっと抱きしめる。そんな彼らから少し離れた場所にいるプロールはそれをジッと見ていた。
プロールは地球に来てから随分アイアンハイドと仲良くなったと思っている。しかしまだ彼からの抱擁をもらったことがない。だからプロールはバンブルビーが羨ましいのである。しかし堅物な自分がアイアンハイドに抱擁を強請ることを許さない。
「ぼ、僕このままじゃ窒息死す……あーっ!アイアンハイド!プロールが君に抱きしめてほしそうな目でこちらを見ているっ!!」
へっ。
バンブルビーの突然の叫びにプロールとアイアンハイド両者から戸惑いの声が出る。一瞬の緩みを逃さずバンブルビーは光の速さでアイアンハイドから逃げていった。
「プロール、抱きしめてほしいの?」
「えっ、いや私はだなっ……」
「じゃあ俺を抱きしめてよ!」
これはどういう展開か。バンブルビーの口から出任せが図星となってしまい動揺しているプロールは、言われるままにアイアンハイドに抱きつく。するとアイアンハイドもプロールの体に腕を回した。
「俺さ、体大きいから人から抱きしめてもらったことあんまりないんだよね。抱きしめあいっこだ!」
「うむ……、そうであるな」
えへへっとアイアンハイドは嬉しそうに笑う。
プロールはずっとこのままでいたいような、体の熱が相手に伝わる前に離れてしまいたいような、そんなもどかしい気持ちになるのであった。
■■■ある日バンブルビーから言われた一言。
「アイアンハイド、君はプロールのこと好きなの?」
うん、好きだよ!その時は何も意識せずそう答えた。プロールは大好きな仲間の一人だ。嫌いなわけなんてない。
でもよく考えたら何故バンブルビーはそんな分かりきったことを聞いた?というか、あの質問はもしかして、その、likeじゃないほうだったりするんだろうか?
とまで考えて自分のその変な思考に焦りを覚える。プロールに対してlikeじゃない好きってなんだろう。確かにプロールは格好いいし尊敬出来るし格好いいし……。頭の中に浮かぶのはいつも優しくしてくれる声、手のひら、笑顔。頬に熱が籠もるのを感じ、息の仕方が分からなくなってくる。
惚れた腫れたに無縁だった少年がその感情の正体にすぐ気づけるわけもなく。
「そうだ!こういうせーしん的なのはプロールに聞くのが一番だあっ!」
そう言ってアイアンハイドはプロールの元へと走り出す。
恋の花が開くのはもう少し。