馬キリン短文ログ■■■ 自分はマッハキックが好きかもしれない。
気づきたくなかったし、気味悪い。ロングラックは自分の恋心を自覚した際まずこう思った。でもそんな考えとは裏腹にマッハキックに会う度に胸は高鳴るばかり。もはや無視出来ぬ状況になっていた。こうなっては諦めて向き合うしかないだろう。
ロングラックは目を瞑りシミュレーションしてみる。もし告白したらどうなるであろうか。
『マ、マッハキック…実は僕はあなたのことがそのう、す、好きなんです』
『…なんか悪いもん食べたか?』
「食べてませんよっ!!」
瞼の上にありありと浮かぶ腹立つ顔に思わず怒りを口に出してしまう。いけないいけない、冷静にシミュレーションを続けよう。
『僕はあなたが好きです!正気です!』
「あ、あのーロングラック。なんか悩み事でもあんのか?相談のるぞ?」
「うるさいですよ!今あなたと話してんですから声掛けないでください!」
黙々とシミュレーションを続けるロングラックと、一人しかいないはずの彼の部屋から怒鳴り声が聞こえたものだから心配になり訪れたマッハキックご本人。意味の分からない理由でいきなり怒られて唖然とするしかない。
目の前の愛しい人を蔑ろにして行われるシミュレーションに、成功する日はくるのやら。
■ライン 生真面目で嫌みな癖にわりと素直で憎めない、我が後輩ロングラック。
他の新兵と同じく何かとトラブルを起こすコイツが、今日も俺、マッハキックをある一つの問題で悩ましていた。
(どこまで手を出していいものかねえ……)
可愛がっていた後輩にうっかり恋愛感情を持ってしまったなど、優秀な先輩失格であるとは自覚してはいる。
しかし、一々突っかかってくるあの生意気な態度や打ち解けた後に見せるガキらしい無邪気な笑顔。後者は他の新兵どもでも拝めることは稀であろう、自分ぐらいしか引き出せぬと自負できる表情。
ああ、ズルい。
あんな笑顔を見せられ続けたら可愛い後輩なんて目では見られなくなってしまう。出来ることならもっと色々な一面を引き出してやりたい、自分だけの特権をもっと増やしたい。自分のモノにしてしまいたいと強く思う。
だが、自分の中の理性が少し落ち着けと語りかける。アイツは生真面目で、きっと優秀な士官になるであろう未来ある後輩だ。俺みたいなのと生きる道を容易に選択肢に与えていいのだろうか。
いや、ダメだろう。
ここは先輩である自分が線を引き、よき兄貴分としてこのままのよき関係を続けていくべきだろう。そう思っているというのに!!
「マッハキック!ちょっと聞いてくださいよ!」
ああ今日もコイツはその悪意なきたちの悪い笑みで俺を翻弄するわけだ。エネルギーの効率がどーとか目を輝かせながらくっちゃべっているが、俺はそれどころじゃない。近い、近すぎるんだっつーの!もう、色々と限界なんだよ俺は!
「あんなあ、ちょっと黙れ」
ロングラックは目を丸くして俺を見つめる。その頬に触れているのは紛れもなく俺の手であって。
いや、むしろ今までよく頑張ったほうだよ自分。こんぐらい、許しておくれよ神様よ。
「あんなあ…お前さ、いつも思ってたんだけどよ……」
「え、あの、マッハキック、その………テイルダガー!」
「え………ぐほあっ!」
油断していた自分に華麗にヒットする鉄拳。床に倒れる俺と、走り去るロングラック。
……ああ、一体どこまで近づいていいのですか神様よ。