グルウォレ短文ログ■年明けはチーズの味 年も暮れ暮れ12月31日。
ウォレスとグルミットは自宅でゆっくりとした時を過ごしていた。
騒がしいのも大好きなのだが、たまには静かにチーズを食べながら過ごすのもいいかもしれないという気まぐれだ。グルミットとしてはそちらのほうが変な問題も起きず嬉しいのだが。
ウォレスはもうすぐ明日になろうとしている時計の針を一心不乱に見つめている。その傍らテーブルに置いてあるクラッカーにチーズをつけ口に運ぶのだからなんと器用な。
グルミットも先程まで編み物をしていた手を休め時計を見る。
そして、2つの針が12を指す。
「ハッピーニューイヤー!グルミット!!」
ウォレスががばちょとグルミットを抱き上げくるくる回る。毎年の恒例行事。
そして、グルミットがウォレスの頬にキスをする。
これも毎年の恒例行事。
ウォレスがキスをしてくるのなんてよくあることだが、この日だけはグルミットの番なのだ。
「へへへ、君がキスしてくれるのなんて一年でもこの日ぐらいだよなあ」
イギリスでは年が明けた瞬間だけは、誰にでもキスしていいという習慣がある。
普段は恥ずかしくてとてもできないけど、この日は習慣のせいにして。
愛しいあなたに口づけを。この一年もずっとあなたといられるようにと願いをこめて。
■■■ 斜めになってる壁の額縁。散乱する本。大量の羊達のせいで散らかり放題の愛しの我が家。これでもだいぶ掃除をしたほうだ。よくもまあ我が御主人様はあの綿毛だらけの部屋で平気でいられたものだ。
部屋の片付けも手伝わず我が御主人──ウォレスはチーズを食べて優雅なもんだ。
「僕は君がいなくて3日しか我慢出来なかったや。なあグルミット、君ならどのくらいもつかい?」
ねえウォレス、あなたが足を乗っけてるそれが牧場に帰りそびれた羊って気づいてる?
そんなことはどうでもいいとして質問を考えよう。ウォレスが今回の僕のように突然牢獄行きになったら、僕はまずそれを信じれないだろう。何かトラブルに巻き込まれて濡れ衣を被る羽目になったと考え、必死に真犯人を探すだろう。
──だってあなたはどんなに馬鹿でも本当に愚かなことはしないと知っているから。
それでももしも本当に罪に問われるようなことを犯してしまったのなら、僕は釈放される日をひたすら待ち続けるのだろう。
──だってあなたが悪いことをしてしまったら素直に認め反省出来る人だと知っているから。
僕は誰よりもあなたのことを分かっているから、信じられる。
(でもね、あなたが僕を脱獄させに現れるのは正直予想外だったんだ。馬鹿だとも思うし、とっても嬉しかった)
質問の答えを楽しそうに待つウォレスにくだらないといった視線を送る。
掃除をサボってるからちょっとした意地悪だ。
──ねえ愛しい我が御主人。あなたが僕抜きでは駄目だと言ってくれたように、僕もきっと──。