ゆめうつつ優しい彼女は夢を見る。
誰が言った言葉だったか。
いつ、どこで聞いたのだろう。
そもそもその言葉の意味がわからない。
しかし、ふと思う。
夢を見ない彼女は冷たいのだろうか。
【ゆめうつつ】
今朝方、彼女と会った。
会いたい会いたいと思っていたら、彼女が会いに来てくれた。
でも、今は隣にいない。
どこに行ったのかも知らない。
ツーツーと終話を知らせる無機質な音だけが耳元でする。
切なさとやるせなさに、思わずスマホを向こうのソファーにぶん投げた。
そう。彼女はあたしの夢に出てきた。
でもあたしは夢の内容を全く覚えていない。
何か話した気もするし、何も話さなかった気もする。
ただ彼女はいつものようにすました顔をしていたとだけ覚えている。
『わたくし、夢は見ませんわ。』
「Why?ゆっくり眠れてないの?大丈夫?」
『そういうわけではなくて……もういいですわ。』
呆れたような声で、出掛けるからじゃあと一方的に電話を切られてしまった。
いつもならばこんな冷たい切り方はされない。
目が覚めたときに、さっきまで一緒にいた筈の彼女は隣にいなくて。
夢だったのだと気付いて、無性に寂しくなって。
気付いたらスマホを耳に当てていた。
寂しいから声が聞きたくなったと、恋人だからこそ言えるワガママな理由は通用しないのだろうか。
今までそんな理由で自分から掛けたことはないからよくわからない。
「ダージリン……冷たいのね……」
自室に一人なのだから答えが返ってくるわけもなく。
虚しく散った恨みの言葉。
夢を見ない。どういう意味だろうか。
彼女は別にあたしに会いたくないと言いたかったのか。
恋人に執着して、女々しいな……
あたし、こんなだったかな……
せっかく本州のどこだったかに帰港したけれど、学園艦から出る気にはならない。
昨日クラスメイトとみんなで観光に行こうと話していたが、行くのはやめよう。
大勢で出掛けるときは時間までに来なければ欠席、そういう暗黙のルールがあるから煩わしくなくていい。
なぜ長崎に帰港しなかったのか。
そうしたら実家にでも帰って気分転換できたのに……
あたしはまた夢を見ているらしい。
遠くで彼女のよく飲んでいるお茶の匂いがするみたい。
ほんのり甘くて、優しい匂い。
「ダージリン……会いたい……」
「ここにいますわ。」
大好きな声がする。
姿も見えたら、抱き締められたらいいのに……
「寝言…?ふふ、可愛い人……」
彼女に頭を撫でられるのは好き……
優しくて温かくていい気持ちだから。
このまま目が覚めないで、ずっと撫でていてもらいたい……
「ケイさん。好きよ……」
待って?
これ、夢…?
勢いよく起き上がってみれば、目の前には会いたくてしかたのなかった彼女がいて。
「ダ……え?」
次の瞬間には思いきり抱き締められていた。
背中に回された手が温かく、不意に涙が零れた。
彼女は誰よりもあたしを想ってくれている。
「会いたかった……」
「わたくしも。だから、会いに来ましたわ。」
「冷たいって思ってごめん……」
ああ、こんなにも自分は愛されてる……
そう思い知らされた。
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「ねえ、ダージリン。どうしてここにいるの?
どうやってここに来たの?」
「帰港中の学園艦には、中にいる生徒の招待があれば入れることを、あなたご存じないのかしら?」
「え?」
「横浜の実家に帰省中とお伝えしたはずですわ。」
「あ!今回の帰港は横浜港だったの忘れてたわ!」
「デートのお誘いがなくて、わたくし拗ねていますの。
それに冷たいだなんて……」
「あー。ソーリー……あたしが悪かったわ……
デート、行く?」
「どうしようかしら。」
「デートしてください。横浜デートしよ?
お願い、ダージリン。」
「しょうがないわね。横浜を案内して差し上げますわ。」
「やったぁ!そうと決まれば、レッツゴー!」
「あなた、その格好で出掛けるおつもり?」
「Oh……用意するの、待ってて……」