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    残花の残火「向日葵はな、太陽に恋をしているんだ。だから太陽の方を向いて咲いているし、陽の光を一身に浴びる。そしてその陽の光と、自身の恋の炎で燃え尽きてしまう。」

    兄の黒い髪が、向日葵畑に溶けるほど鮮やかな黄色へと変わっていく。
    前髪から後ろ髪へ、何かに乗り移られていくように。

    『恋をしないで、綺麗に咲き続けることは出来ないの?』

    今まで見たことのない寂し気な笑み。
    視線は僕に向いているのに、見ているのはどこか遠く。

    「相手が遥か遠く、手の届かない場所にいても、想わずにはいられない。
     恋ってものはそれほど厄介なんだよ。」

    目の前の景色を、兄の真っ赤な眼が燃やしていく。
    そんな錯覚を覚え、陽炎になる前にと手を伸ばしたところで、目が覚めた。



    【残花の残火】


    酷い目覚めだ。汗が流れる、脈打つ鼓動は速い。
    最後の手が届く前に目が覚めてしまった。夢だとは分かっていても、どうにも落ち着くことができない。
    兄の姿を確認するまでは、心は逸るばかりだ。

    早々に支度を済ませ、足音を響かせて階段を下る、廊下を走る。
    途中「どうしたー?」とか「転ぶぞ」とか聞こえた気もするが答える余裕も無い。
    居間の戸を勢い良く開くと、その音と、余程だったのだろうオレの形相で先客に驚かれた。

    「ははっ、朝から元気だね、そんな突っ込んで来たら蝶番壊れちゃうよ~」
    「……おはよう、どうした」

    けらけらと笑うちかさんと、危うくコーヒーをこぼしかけていたゆうさん、その他に人影は見当たらない。

    「あの、兄ちゃん……月波兄ちゃん見てない?」
    「月波さん?今日はまだ見てないぞ」
    「いつもこれくらいの時間には起きてくるし、そう焦る事でもないんじゃ───」
    「夢を見たんです、兄ちゃんがどっか行っちゃう夢。だからオレ、居ても立っても居られなくて」

    捲し立てて喋るオレの肩に、ぽんとゆうさんが手を置く。

    「話聞いてやるから、兎に角落ち着け。」
    「夢は経験が作り出す幻、なんて言うし。まあ夢見はその限りではないけど」
    「太陽は黄泉狐だろ?夢見の力は無い筈だ」
    「言い切れはしないよ、ある程度霊感があれば予知夢は簡単に見られる。個人差はあるよ」
    「お前はコイツを落ち着けたいのか混乱させたいのかどっちなんだ」
    「話を聞きたいだけだからどちらでも」
    「そうやって俺以外に興味を示さない態度を表に出すなっていつも言って」
    月波かれはこの世界の脅威になり得る、それを防げるのは僕と君だ」

    オレのことを完全にそっちのけで話していたのに、急にこっちを向かれて肩が跳ねる。
    無機質な表情で射抜かれ、背筋に冷たい感覚が走る。と思ったら人懐こい笑みを向けて

    「太陽くん、"転生"というものに興味はないかい?」

    そう、聞いた。


    ***


    目が覚める、窓から射す光が朝を告げていた。
    もう一度寝てしまいたいと思う気持ちを毎朝必死に押し止め、布団からずるずると這い出し、軽く伸びをしながら洗面台に向かう。

    鏡を見ていつも思い出すのは、僕と同じ髪と目の色をしていたあの人のこと。
    光を受けて輝く金にも近い髪、紅玉を写し取ったような美しい瞳。
    決して真似の出来ない魅力に僕は取り憑かれていた。

    影を自身に重ねて見ても意味がないと首を振り、顔を洗う。
    頭に飾った彼岸花に想いを乗せながら部屋を出た。

    「戻れないんだ、あの世界には。此処に来てしまったのが動かぬ証拠。でも僕が生きているならあの人も生きているだろう、僕はその希望に賭けたいだけ。一人の人を想い続けるのがそんなに悪い事かな?」
    「僕が君を責めたいのはそこじゃないよ月波くん。誰かを愛するのは素晴らしい事だ、僕も身をもって感じているからね、そこは理解してあげられる。だがそうまでして影を追いかけて何になる?」

    2人とも表情こそ穏やかだが、空気が重い。
    ゆうさんも眉間にしわを寄せてこの光景を見守っている。何故こうなった、とでも言いたげだ。
    話は少し前に遡る。


    「て、転生?」
    「そう、いわゆる生まれ変わり。僕ならぽーんと次の世に送り出してあげられるよ」
    「ちゃんと順序立てて話せ、そんな軽い話じゃねえんだから」
    「えっ」
    「難しい話でもないから硬くならず聞いてくれていいよ。えっとね───」

    それからちかさんは転生を薦める訳を話してくれた。

    僕等のいた世界では、生前やり残したことをやり遂げるために、その世界の主と契約をし姿を変え、力を得た。
    僕は先に逝ってしまった両親と兄に会いたいがために黄泉狐になったが、そこまで力のある妖狐ではない。
    対して家に火をつけた犯人を捜すために千里眼が必要だった兄は、天狐になった。
    普通天狐になるには、妖狐となってから更に1000年もの時間を生きなければならない。
    その1000年を契約により一瞬にまで捻じ曲げた結果、本来過ごすはずだった幾度もの生と消化されない業が絡まっている状態になってしまったらしい。
    その業がこの世界に影響を及ぼす前に、1000年分を転生した事にするそうだ。

    「1000年分はちゃんと消化するんだよ、何度も此岸と彼岸を行き来することにはなる。ただその体感時間を短くすることができるだけ。事実がそこにあればいい」
    「オレに話を持ち掛けたのは何でだったの?」
    「正直、太陽くんは月波くんへの交渉材料。弟の君がいてくれれば彼もすんなり話を聞いてくれそうだし。それと、君の元の世界がなくなってしまった以上、契約の履行も何も出来ない。君も次の生へ歩める保証はないんだ」
    「此岸でも彼岸でもない場所で死人のまま生き、目的が達成されて初めて彼岸へと至る。そういう所だったんだぞお前の世界」
    「そうだったんだ……」
    「会いたいだけで突っ走ったんだろ、契約書は隅から隅まで読まないとダメだ」
    「問題は月波くんなんだけど……やっぱり素直に頷いてくれるとは思えないんだよね。ここは話し合いしかないね!」

    兄が部屋を出たところで鉢合わせたらしい、兄の悲鳴が聞こえた。そして現在。
    いつもは気持ちのいい風が通る中庭には、冷たい空気だけが漂っていた。


    「自己満足だとは分かってるんだ。でもきっとあの人も自分の世界で生きてる、だから僕は探すし、追いかける」
    「憶測で話すのは良くないね、千里眼もまともに使えない癖に」

    兄の表情が崩れる。僕しか見たことがない、月波としては・・・・・・絶対にしない顔。
    ちりちりと、微かに青い火が散っていた。

    「君の千里眼は何の為にあった?君たちを殺した犯人を見つける為じゃなかったか?仇討ちの為ではなかったか?……君は元の世界で何をしていたんだい、本来の目的を放棄してまでしたかったのがそれ?」
    「…………あそこはただ目的を果たすためだけの場所じゃない、そこで僕等も"生きて"いたんだよ。それに仇討ちを果たしてしまえば必然的に別れが来る。僕はそれが怖かっただけ、世界の終わりが先なんて考えていなかった」
    「次の世でも会う約束が出来れば復讐なんてさっさと済ませていたと、なるほど中々の言い訳だ。となると君は仇を見つけていたにも関わらずそれを放置していたことになるのだが」

    人の悪い笑みを浮かべて兄を責め立てていくちかさん、隣から「あれが神のする顔かよ」と呟く声が聞こえた。

    「そこを追及しても仕方がない、僕には関係無いからね。そろそろ本題に入ろうと思う。

    月波くん、僕と恋バナをしよう!」

    ただ困惑するしかなかった。
    話をしようと呼ばれ、実際には中々の切れ味で煽られ、その流れで突然恋バナに行きついたのだから。
    さっきまで抑えていた腹の煮えは何処へやら。
    事情を知っているであろう2人にも把握が出来ていないみたいだった。

    「皆揃って何言ってんだコイツって顔しないでくれる!?僕真剣に話してるんだから~!……うん、本当に真剣な話、君に現実を見て貰わないといけないからね。ねえ月波くん、君の愛していた人はどんな人だったの?」
    「えっ、ええと……僕が到底敵わないくらい綺麗な人で、いつも輝いていて、金髪と赤眼の、それから……」

    それから?

    「──────え、」

    あの人はどんな声で僕を呼んでくれただろう

    「それから、それから……!」

    あの人はどんな顔で笑っていただろう

    「なんで」

    心臓が早鐘を打つ
    愛しかった手の大きさも、抱きしめた体の温かさも
    あんなに大事にしていたのに、どうして


    「どうして、なにもおもいだせないの」


    視界が歪み、頬が濡れていく。
    追いかけた背は影になり、その影さえも光に消えかけている。

    「余程の奇跡や特別な出来事でも無い限り、他の世界に干渉することは不可能だ。よって君と君の愛した人との縁は薄れ、君はその人を忘れていく、世界がその整合性を保つために。だから僕は君に提案する。君がこれ以上苦しまないように、いち神様として手を差し伸べてあげる。月波くん、転生に興味はないかい?」

    それから天狐になった代償に僕に何が起きているかを説明してくれたが、僕は素直に頷けなかった。
    勝手に僕を引きずり込んで規律に従えと言ったのは世界だ。
    ここに来てから、この眼は犯人もあの人も、この世界以外のものは何も視せてくれなかった。
    折角お揃いだったのに、あの人に見つけてもらえなければこの姿のままでいる意味もない。

    転生すれば僕は元の姿に戻れるだろうか。
    名前も捨てて、喋り方も変えて、徹底的に自分を消した。
    家族を守れなかった自分を戒めるために。力に見合う自分になる為に。
    弱い自分に戻るのは嫌だ、ああでも、今の姿でも何かを守れた試しがあっただろうか?
    力があっても無くても同じじゃないか、それなら

    あれ?

    僕は、俺は・・、どんな姿だったっけ。


    「──────────っあ、あぁ、俺は、おれ、ぼくは」

    ふらつく足元、揺れる視界。頭がぐちゃぐちゃして、力の制御ができない。
    青い炎が、嘲笑うように燃えている。

    「脅威になり得るなら消せばいいってか、にしても自壊させるとはいい趣味してるな!」
    「何かがトリガーになるように最初から仕掛けられていたんでしょ、大概許してくれるくせにこういうとこ堅いんだから!今から術式組んで間に合うかな……って太陽くん!?」

    後ろからぶつかられた衝撃があって、そのまま抱きしめられる。ああ、覚えがある感触。
    守りたいと思った、最期までその身を案じていた、小さな温もり。

    「奇跡でも起きない限り、この世界は大切な人に会う事さえ許してくれない。でも奇跡が起きれば、兄ちゃんが信じていれば、逢えるかもしれない。でも今度は本当の自分も見せないとね、本当の兄ちゃんも好きでいてくれる人じゃないと、ボク・・は認めないから」

    弟が自らを責めて後を追ってきたのは知っていた。その時に彼も隠したのだ、弱い自分を。
    少しずつ、シャツの背が湿っていく。

    「兄ちゃんの大事な人は、兄ちゃんがちゃんと覚えてて。それで精一杯だったら、兄ちゃんの事はボクが覚えてるから。だから、もうどこにも行かないで……」

    泣きじゃくる弟を、振り返ってそっと抱きしめる。
    いつも振り回してごめん、お前がいるから、俺は俺でいられる。

    それから1週間は空いただろうか、3日前くらいに戻ってきたボクは、帰ってきた兄に思い切り抱き着いた。
    1000年分の諸々だけでなく、世界からの認識を修正するごまかすのに時間がかかったらしい。
    記憶をそのままに、転生したら生前の姿に戻るトンデモ術式を展開したちかさんは5kg痩せ、神の依り代として力を貸したゆうさんは2日寝込んだとか。
    皆からはカラーリングが兄弟で逆転したと笑われたり、もふもふ成分が減ったと残念がられたりもしたが、本当の性格等に関してはあっさり受け入れてくれた。


    妖力を使わなくても歩けるようになった兄と散歩に出る。
    いつかの日に見たような、燦々と咲き誇る向日葵畑の前を通る時、ふと聞いてみた。

    「ねえ兄ちゃん、向日葵って夏になると咲くけどさ、すぐ枯れちゃってる気がする。他の花はそうでもないのに何でだろ?」

    兄に質問をすると、8割くらい冗談が返ってくる。でもその冗談が詩みたいで、つい何でも聞いてしまう。
    桜も風が吹けばすぐ散っちゃうぞなんて言いながら、答えてくれた。

    「そうだなぁ……向日葵はな、太陽に恋をしているんだ。だから太陽の方を向いて咲いているし、陽の光を一身に浴びる。そしてその陽の光と、自身の恋の炎で燃え尽きてしまう。」

    聞き覚えのある返答、夢の続きか、はたまた兄も忘れるほど昔に既に聞いたか。
    でも今度はきっと大丈夫、そう思ってもう一度聞いてみる。

    「恋をしないで、綺麗に咲き続けることは出来ないの?」

    すると兄はこちらを真っ直ぐ見て、明るく微笑んだ。

    「品種改良でもすれば、ずっと一緒に居られるかもな」

    最初のロマンチックな返答は何だったのか、妙に現実的な答えに二人で大笑いする。
    後日、シェアハウス研究者班の技術の結晶により【対象の次元を超えたあらゆる可能性を探り能力を手に入れることができるバッジ】が開発され兄の眉間にしわが刻まれたのはまた別の話。

    あとがき

    ここまで読んでくださってありがとうございます。
    久しぶりにこんな長文書いたので最後まで矛盾たっぷりかと思いますが、見逃してくださるとまたありがたいです。
    このギャレリアのリプライ、ついった、ましゅまろ、どこでも良いので感想頂けると泣いて喜んで他の誰かの小話が出るかも。


    ここで話すべきは月波くんの本当の姿についてでしょうかね。
    彼の本名は月城 深波つきしろみなみ、本文に記述の通り太陽とカラーリング逆転してるので黒髪に橙の目です。
    太陽くんはそのまま月城 太陽つきしろたいよう、栗色の毛に深めの赤い目をしています。
    兄が20、弟が10くらいの年齢だったはず。

    深波くんですが昔ちょっとやんちゃしてた頃がありまして、ああそうです、捨てられた子犬に傘さして毎日お昼のパン分けてあげるタイプのやんちゃさんです。後で太陽くんに見つかって一緒に飼ってもいいか交渉するタイプの、成績が良い恰好だけやんちゃ。
    なので結構な明朗快活、月波さんとは本当に全然タイプの違う性格してました。共通点があるとすれば面倒見がいい所と笑顔が可愛い所です。
    カラーリングは月波さんが向日葵、深波くんが彼岸花。イメージがその逆というような気持ちで本文を書いていましたが多分全然出ていない。これを見た後に読み返して頂けば情景が少しだけ変わるかも知れません。

    月波さんが深波くんとして帰ってきてからシェアハウスの皆に改めて自己紹介をしましたが、月波を愛称として再定着する流れになりました。皆の頼れるお母さんポジが頼れるお兄ちゃんおかんポジに変わっただけで何も変わりません。
    バッジを使うとカラーリングと耳と尻尾だけ月波さんに戻ります、もふり勢大歓喜。


    本文に出てくる「あの世界」というのは某DSのメモ帳時代に企画に参加していたので、その世界を指しています。
    そして「あの人」というのは、CPを……組んでいたのかな?私的にはお付き合いをさせて頂いていた月波さんのかつての恋人です。
    某メモ帳からついったに交流を移行できた友人もいるのですが、その子の親御さんを私が見失いました、ごめんね月波さん。なので一部を除いて徹底的に情報をぼかして書いています、ただ言えるのはイケメンってことです。
    この場を借りて、月波さんを愛してくれたあの子とその親御さんに多大なる感謝を。

    あとがきを最後まで見てくださったあなたにも、最大限の感謝を。
    またお会いする日まで。

    2018/08 樹雨 槐
    樹雨槐 Link Message Mute
    2018/08/26 3:42:35

    残花の残火

    いつか書きたい本編の、そのまた別の小話。
    願いの為に姿を変えた、兄弟の話。
    #創作

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    深海の大樹
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    • 3急ピッチで仕上げた探索者アイコンシリーズ
      1,2枚目は秋坂小雀(あきさか こがら)
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      です、KPCとして悲惨な目に遭いがち(アイコンの時どっちもKPCやってた)
      #槐宅探索者 #創作
      樹雨槐
    • 君が君であることアンドロイドの彼と、A.R.K.Sの彼の話。
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      アンドロイドの彼が一方的に喋るだけの小話。

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