鬱日記 「跡部の部屋にゴキブリホイホイをしかける忍足」忍足や。
今日は跡部の家に遊びにいく日なんや。
ごきぶりホイホイ持参で行くねん……。
そろそろ出るころやん?ゴッキー……。季節的に。
あ~、なんでって?
前に言うたと思うんやけどね、跡部の部屋にごきぶり居るか居らんかで前にジローと言い合いしたんやんか、俺。
ほんであいつ、千円賭けたんやんか。
俺は100円ね。
慈郎は居らん方に賭けて、俺は居る方に賭けた。
跡部の部屋に首尾よく設置したこのゴキブリホイホイの中で、
数日後、跡部んとこでええもん食ってドえらい太ってそうなゴキが死んでる予定なんや。
うわ~~嫌やな......。俺多分それ見たら白目剥きそうや…...。
跡部の部屋広いやろから、ホイホイ3つくらい用意したんやけどな。
なんと俺の実費やで。
皆。ここ、めっちゃ驚くとこね。
あ~~くそ~。痛いわ……。
っていうか、ホイホイ設置作業が問題や。
インサイト持ちのアイツにバレずにせなアカンのや、俺。
これすごいミッション・イン・ポッシブルやろ。
しかしこの賭けに勝ったら、俺はジローから千円もらえんねや。
頑張るしかないやろ。
まあホイホイ代そっからひいて、実質何百円の収入やねんけどな。しょぼいけどな。
俺はミッションがポッシブルになる綿密な計画を立てた。
名付けて「ミッションはポッシブル」計画や。
ぶっちゃけ言えば、あいつにばれんように、あの部屋にホイホイ設置するんは、まあ、不可能に近い。
跡部の部屋どんな構造か知らんし、あんな金持ちの部屋で俺が変にごそごそしてたら、すっごいドロボーっぽいやんね。
不審者そのものやん?
SPか樺地呼ばれそうや。
ここはもう堂々と跡部に許可を得て、ホイホイ設置する方向でね、行こうと思うんよ。
ええ考えあるんよ。うん、氷帝の天才って伊達にいわれてないよ。俺。
このミッションには、このアイテムが重要や。
これ、跡部の部屋のテレビかモニターかなんかで見るんよ。
「となりのトトロ」。
跡部ああいう、大事なことを少年少女に教えてくれる作品、見てそうにないからな。
あいつの為にも、ええことやしね。
そんで、多分、あいつ、まっくろくろすけに反応すると思う。なんとなく。
トトロが何者かとか、いつの時代やとか、ネコバスきもいとかより、多分、まっくろくろすけに反応するはずや。
うん、俺のカンでは絶対反応する。根拠ないけど。
そんで多分俺に聞いてくるねん。ちょっとアホやから。跡部。
『おい、忍足、まっくろくろすけって何だ。ほんとに居るのか』
その時、俺は微笑んで、あいつに夢を与えてやんねん。
『うん、きっと居てるよ、跡部。お前が子供の心のままやったら、お前にも見えるはずや』
『ア-ン?俺様はこう見えてサンタ信じてんだよ、くそ』
照れくさそうに目をそらす跡部に俺は微笑んで、あいつのタンスの後ろとか、天蓋ベッドの下とか、勉強机の下とかに、ホイホイを置く。
『なんだ、それは』
『跡部、これはまっくろくろすけの家やねん。これ、おいていくからな』
『なんだと!まっくろくろすけの家?!』
『3日たったら覗いてみ。きっとお前には見えるはずや…… おったらええな、跡部』
『忍足……』
そんで跡部は3日間、俺のおいていったホイホイをそわそわしながら観察しつづけるわけや。
俺思うに、あれ、トトロのまっくろくろすけって、実はゴキやったんちゃうかなって思うんよ。
サツキとメイは騙されてんのや。あのメガネおやじさんに。
まあ、身も心もオトナの俺には、そういう合理的な考え方しかできんのや、残念ながら。
でも跡部はちょっとアホやから、きっと信じるんよ。
見た事ないゴキブリを、まっくろくろすけやって信じるんよ。
3日目の朝、俺の携帯が鳴る。
俺は寝起きの眼をこすりながら、跡部の番号が表示される携帯の通話ボタンを押す。
『忍足!いたぜ……! まっくろくろすけが……!! 俺様には見えるんだ。本当にいたんだな、あいつら』
『良かったな、ほんま良かった。跡部』
『ありがとうよ、忍足……』
『なに言うてんねん、跡部。俺、何もしてへん』
『今度、またこいよ。忍足。俺に少年の夢を見せてくれた礼だ……メシでも食わせてやるからよ……』
涙声を隠そうとしている跡部に俺はフッとクールに笑いながら、
『喜んで御馳走になるよ、ほんまおおきに、跡部』
って答えて、週末はゴージャス跡部家ディナーお呼ばれされんねん。
あ~、ステーキなんかひさしぶりや。
ジローには、多分、うれしがる跡部が直々に、まっくろくろすけの家を自慢するやろう。
そこでジローは俺との賭けに負けたことを思い知る。
残念やったな、ジロー。フッ。
悪いけど、お前の千円はいただきや。
どないしよう、めっちゃ完璧や……。この計画……。
自分が恐いわ……。
俺ってやっぱりクラフティやで 忍足侑士