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    【TF:WFC】Float Down There オルトフォーム訓練所の初学年の生徒たちは、一部屋に十名ずつ集められて、同じ部屋で生活をすることになっている。集団生活の営み方を学ぶためだと、こう言えば聞こえはいいが、実際はほんの少しのスペースも惜しまなければならないという理由が主たるものであった。
     サイバトロニアンたちは、次々と生まれては『オールスパークの泉』と呼ばれる場所から姿を見せる。そこ以外からは生まれない。他の生物とは違い、サイバトロニアンは生殖による繁殖をしないのだ。それゆえ、新生のサイバトロニアンたちが特定の一箇所へ極度に集中してしまうという事態に繋がった。よちよち歩きの大量のサイバトロニアンたちを、よそに送って教育するとなると、非常に大きな手間がかかるだろう。それを避けるべく、彼らは可能な限り泉のそばの訓練所で基礎教育を受けることになっていた。そのため訓練所の生徒たちは限界まで居住スペースを削られ、さして広くもない部屋のなか集団で雑魚寝をせざるを得ないのだった。
     サンダークラッカー達の寝泊まりしていた部屋も無論例外ではなく、スカイワープとスタースクリームの他にもルームメイトが七名いた。床全体にマットが敷いてあるので、うまく散らばればこの数でもそれなりに快適に寝られるのだけが救いだ。ブロック分けして各自に場所を割り振るとかえって狭くなるので、寝るときには、各々好きな場所に身を横たえて眠ることになっていた。
     だから、誰かに命令されたわけではないのだ。それでもサンダークラッカーとスカイワープとスタースクリームは、いつでも近くで固まってスリープモードに入っていた。別に一緒に寝ようなんて誘った記憶はいくら探しても出てこないが、何故か三体ともそうするのが当たり前だと思っていたのだ。その夜も絵本を表示した携帯グリッドを真ん中にして三体で集まって消灯時間を待っていた。
    「こうして13のプライム達は悪のクインテッサ星人をサイバトロン星から追い出すことができたのでした。めでたしめでたし」
    「えーそれで終わり? 続きねえの?」
    「ない。知りたかったら図書室で伝記でも借りてこいよ」
     暇つぶしに音読していた絵本も読み終わり、サンダークラッカーは携帯グリッドに表示していた絵本を閉じて、元の場所に置きに行った。まだスパークを受けてそれほど時間の経っていないサンダークラッカーにはその棚は高く、背伸びしないと届かない。
    「やだめんどくさいもん。字がいっぱいだし」
    「そりゃ本だから字がなきゃおかしいだろ……」
    「だーからお前は馬鹿なんだよ、スカイワープ」
     スタースクリームがからかうような笑いを浮かべて言うと、毎回のことなのに飽きずにスカイワープはその喧嘩をきっちり買うのだった。
    「なんだよっそんなん関係ねーだろ!」
    「大有りだろ。悔しかったら次のテストで俺より良い点取れば?」
    「くっそーむかつくぅ!」
     スカイワープがスタースクリームに飛びかかると、スタースクリームは楽しそうに笑ってそのまま取っ組み合いを始める。スタースクリームはスカイワープをからかうのが好きなのだ。
    「おいおい暴れんなよ、また先生に怒られるだろ」
     ため息をついて二体に注意すると、他の既に眠そうなルームメイト達も抗議の声を上げる。
    「そうだそうだ。この前なんか俺達まで怒られたんだぞ」
    「っていうかうるさい、寝られねーんだけど」
    「だってスタースクリームが先に喧嘩売ったんだぜ!」
    「お前が馬鹿なこと言うからだろ」
    「あーっまた馬鹿って言ったな!」
     そろそろスカイワープが本気で腹を立ててしまいそうなので、サンダークラッカーはスカイワープをスタースクリームからひっぺがしてフォローを入れた。
    「まあ落ち着けよ。ほら、今度俺が教えてやるから、13プライムのその後」
    「お、ほんとか?」
    「ああ。テスト勉強がてらに」
    「……えー」
     すごく嫌そうな声を出されたので今度はサンダークラッカーが堪えきれずに笑ってしまった。
    「どのみち勉強しないと進級できないぜ?」
    「だって嫌いだもん……勉強……」
     スカイワープはそう言って、打って変わってしょんぼりする。けれどある程度の成績を取らなければ進級できないのは事実なのだ。この訓練所はオルトフォームの練習だけが目的ではなく、サイバトロン星の基礎的な知識や生活習慣も身に付けることを要求する。それができなければ何時まで経ってもこの狭い部屋で雑魚寝を続けなければならない。
    「このままだと俺とサンダークラッカーがお前より先に訓練所卒業ってことになるかもな」
    「ひでぇ! 俺を置いてく気かよ、薄情者め!」
    「だったらちっとは頑張れっての」
     スタースクリームがそう言った時、ふっと照明が消えた。一気に部屋が暗くなって、ルームメイト達が黒い輪郭にしか見えなくなる。
    「消灯時間だ」
    「みんなちゃんとスリープモードに入れよー」
     部屋長が言うと、各々返事をして思い思いの場所に横になる。サンダークラッカーもスタースクリームとスカイワープの傍で横になってアイセンサーの感度を落とした。そうしてうとうとと夢の中に入りそうになった頃、小さな声でスタースクリームがささやいた。
    「お前らもう寝ちゃった?」
    「……まだ起きてる」
     先に返事をしたのはスカイワープだった。スリープモードに入った他のルームメイトを起こさないように、彼も小声だ。
    「サンダークラッカーは?」
    「おれも起きてる」
     もそもそと姿勢を変えてスタースクリームを睨む。
    「なんだよ。おれ眠いんだけど」
    「寝るのはもうちょっと待てよ。お前ら知ってる? 今夜は北西の空で超新星爆発する星が見られるんだぜ」
    「へー。で?」
    「見に行こう。俺達だけで」
     サンダークラッカーはじっと暗闇に目を凝らしてスタースクリームを見つめた。スタースクリームは誰かにいたずらするときと同じ種類の笑みを浮かべて、頬杖をついている。
    「夜中にこっそり抜け出すなんて、面白いな」
     くすりと笑ってスカイワープがささやく。ということは彼は賛成らしい。けれどサンダークラッカーにはそれはあまりいい考えであるとは思えなかった。
    「無理だろ。だって外につながるドアにはロックが掛かってるはずだ、外に出るにはアクセスコードかカードキーがいるぜ」
    「ばーか、俺だってそれくらいわかってるさ」
     スタースクリームは笑って、隠し持っていたカードキーをふたりに見せた。サンダークラッカーは驚いてそれを凝視する。
    「……どこでそれを?」
    「秘密」
    「とか言って、どーせ守衛室からくすねてきたんだろ?」
     スカイワープが言うと、スタースクリームは否定せずにただ「さあな」とだけ返した。
    「で、お前はくるのか? サンダークラッカー」
    「……」
     実を言うと、そんなに行きたいとは思えなかった。夜は勝手に出歩いてはいけない規則になっている。見つかった時のことを考えると不安だし、規則は守らなくてはいけないものだ。だけど、それ以上にサンダークラッカーはひとりだけ部屋に残されるのは嫌だと感じた。サンダークラッカーはため息をついた。
    「お前らだけじゃ心配だし、ついてくよ」
     ふたりとも調子に乗ったらどこまでも突き進んでしまう性分の持ち主なのだ、まずいことになる前に止めてやれるのは自分しかいない。そんな言い訳を心のなかでしつつ、サンダークラッカーは規則を破ることを決めた。そう考えることによって、置いていかれることなど、考慮に入れていないふりをした。
     サンダークラッカーの言葉を聞いたスカイワープとスタースクリームは、顔を見合わせてにっと笑った。
    「よし、じゃあ決まりだ」
     他のルームメイト達が皆スリープモードに入っていることを確認してから、スタースクリームとスカイワープとサンダークラッカーはそろそろと扉の方に歩いて行き、音を立てないようにそっとドアを開いて廊下に出た。




     必要最小限の明かりしかない廊下はとても暗い。アイセンサーの感度を最大限まで上げてみても、少し先までしか見えなかった。まだスパークを受けて誕生したばかりのサンダークラッカー達の機能は制限されているものが多く、スキャン機能は使えないのだ。
    「なあお前達、知ってるか?」
     3つ目の非常口のかすかな灯りの下を通り過ぎた時に、先頭を歩いていたスタースクリームがささやいた。
    「このへんの第三セクターのあたりってな、出るんだとよ」
    「出るって何がだよ?」
     スカイワープは、いかにもどうでもよさそうな様子を装っていたが、その声にはどこか不安そうな響きがあった。スタースクリームは二人をちょっと振り返って、面白がるような顔で笑って言った。
    「もちろん、幽霊」
    「え……」
     サンダークラッカーとスカイワープは綺麗に同時に歩みを一瞬止めて、怖々と辺りを見渡した。だがもちろん何も見えるはずもなく、どこを見渡しても闇ばかりだ。
    「けっ、おめーら怖がってんのか?」
    「ば、バカ言ってんじゃねーよッ!」
    「声が大きい!」
     サンダークラッカーは咄嗟にスカイワープに飛びついて口をふさいだ。そして急いで聴覚センサーを研ぎ澄まし辺りの様子を窺うが、幸い誰かが聞きつけて様子を見に来る気配はなかった。それを確認してからサンダークラッカーはゆっくりとスカイワープから離れる。
    「ったく、状況考えろよな。今どこで何をしてるかわかってんだろ?」
     サンダークラッカーが睨むと、スカイワープは若干きまり悪そうに「悪かったよ」とぼそりと言った。
    「とにかく行こうぜ、さっさと進まないとマジでそのうち夜警に捕まりそうだ」
     もっともな意見だと全員が思ったので、まずはなんでもいいので進むことになった。
     また非常灯の下を何個か通ったとき、またスタースクリームが小さな声で後ろの二人に向かって言った。
    「幽霊っていいよなぁ」
    「はあ? お前マジ何言ってんの?」
     スカイワープはスタースクリームに向かっておもいっきり顔をしかめてみせる。まだ、スタースクリームが自分のことをからかっていると思っているのだ。けれどもスタースクリームはどこか夢見がちな表情を浮かべ、将来の夢でも語るような調子で続けた。
    「ユーレーなら、いつでもどこでも好きなところに行って、好きなだけ好きなことできるんだぜ。こんなコソコソしなくたってさ。最高じゃないか?」
     スカイワープはそれには答えずに、渋面をサンダークラッカーの方に向けた。スカイワープは、少しでも面倒なことがあるといつもサンダークラッカーに何とかするように求めてくる。サンダークラッカーは肩をすくめて、仕方なく言った。
    「幽霊になるには死ななきゃいけないぞ、スタースクリーム。お前はまだ生まれたばかりなのにもう死にたいってわけか」
    「そんな話はしてねーだろ」
    「そういう話だろう。だいたい幽霊なんて憧れるようなもんじゃない。体もなしにスパークだけあっても何もできっこないんだから」
    「お前って本当つまんねえやつだよな、サンダークラッカー。今からそんな現実主義者じゃ将来どんな退屈な大人になってることやら。末恐ろしいぜ」
     サンダークラッカーは思わずカッとなって言った。
    「お前に言われたくねえよ、この超弩級のトラブルメーカー」
     サンダークラッカーがスタースクリームを睨むと、スタースクリームは押し殺した声でくくくと笑った。スタースクリームはいつもこうだ。話が退屈とよく言われるのをサンダークラッカーが気にしていること、それを見ぬいて、わざとそこをつついてくる。そして彼は誰に対してもそういうことをする。スカイワープのことは馬鹿だとからかうし、あるルームメイトのことはのろまだと囃し立てる。スタースクリームは、相手が懸命に隠そうとしているコンプレックスを難なく見つけ出しては、それをおもちゃにして笑うのだ。いつでもだれにでもそんなことをしていては、スタースクリームが周りから嫌われがちなのも当然の結果と言わざるをえない。
    「はいここでサンダークラッカー様からありがたい予言。スタースクリームくんはいつか後ろから刺されて死にます」
    「お、サンダークラッカーからありがたいご神託が下ったぞスタースクリーム。早く刺されて死んでこいよ」
    「死んでくるわけねえだろ!」
    「あ、ここ」
     スカイワープに食ってかかろうとしたスタースクリームが、サンダークラッカーの呟きにつられて目の前の扉を見上げた。E-15、という文字が扉の上で煌々と光を放っている。
    「ここから行くと屋上が近いはず」
    「よく知ってるな、サンダークラッカー」
     スタースクリームがそう言うと、スカイワープが笑った。
    「サンダークラッカーは暇さえあれば空ばかり見てるからな。変なとこでロマンチストなんだろ」
    「うるせえ。お前だってひとのこと言えんのか」
    「俺はいいんだよ、なんたってスカイワープだぜ。空を飛ぶために生まれてきたようなもんだ」
    「まだ飛べないくせに」
    「お前だってそうだろ、サンダークラッカー」
     スカイワープとサンダークラッカーがそんなことを言い合っている間に、スタースクリームは扉のロックを調べ始める。施設職員たちはアクセスコードを直にもらっているので、ただ扉のレセプタクルに腕をトランスフォームさせてアクセスすればロックを解除できる仕組みになっている。だが、外部から派遣されてきている警備員たちはずっとここで働くわけではないので、テンポラリーキーとしてカードを渡されている。別の場所に異動になったらそれを返還させて、用もないのに勝手に入り込んだりできないようにするためである。スタースクリームは、カードの読み取り口を探すと、そこにカードキーを差し込んだ。その瞬間ロックの上にすっと文字が現れる。
    "ACCESS GRANTED"
     カチャ……と音がして、扉が小さく動いた。隙間からは、夜の乾いた冷たい空気がそろりと流れ込んできた。
    「開いた」
     目を丸くするスカイワープとサンダークラッカーの前で、スタースクリームだけがどうだと言わんばかりの得意満面の表情を見せる。
    「おら、行くぞお前ら」
     スタースクリームはそう言って返事も待たずにさっさと扉の向こうに身を滑り込ませる。
    「ま、待てよスタースクリーム」
     慌ててスカイワープがその背中を追って外へと飛び出し、最後にサンダークラッカーだけがなんだか不安を拭い切れないまま、そっとふたりの後をたどるのだった。
     非常階段をそろそろと登り、曲がりくねった通路を抜ける。サンダークラッカーはいつも非常階段より先には行かないので、このあたりまで足を運んだのは初めてだった。おそらくスタースクリームも初めて来たはずなのだが、スタースクリームの足取りは、見知らぬ場所を歩いているのだとは思えないほどに確かで素早く、自信に満ちていた。きっとそのせいなのだろう、サンダークラッカーとスカイワープが、いつもスタースクリームの後をついて回ってしまうのは。そんなことを考えているうちに、見回りの夜警にも出会うことなく彼らは目的の場所までたどり着くことができた。
     そこは貯水槽のある屋上エリアだった。水は彼らにとっても、生活する上で欠かせないものである。機体を洗浄したり高温になりやすい機関を冷やしたりと、その用途は多岐にわたり、また消費する量も格別に多い。だから、貯水槽は広い屋上の空間いっぱいにずらりと並んでいた。
     そして金属生命体である彼らにとって、水とは十分に扱いに注意しなければ予期せぬ結果を招くものだ。特に、まだ年端もいかないサイバトロニアンであるスタースクリームたちにとっては、危険であるとさえいえるかもしれない。
     だから彼らが、おとなの付き添いなしでこんなところにやってくるのは初めてのことだった。
    「おれ、この前聞いたんだけど」
     貯水槽の間をいくつもすり抜けて、超新星爆発が見えるという北西の方角まで来ると、スタースクリームが手すりの上に腕を組んで寄りかかった。
    「むかーし、ここで行方不明になったガキがいるらしい。ある日、ふっと目を離した一瞬のすきにいなくなっちまったんだって」
    「先に部屋に戻っただけじゃねえの?」
     スカイワープが口の端を上げながら混ぜっ返す。けれども意外にもスタースクリームは神妙な顔を保ったまま言った。
    「その場にいた誰もがそう思ったらしい。けど、どこを探してもそいつは見つからなかったんだとよ。何週間も」
    「……その話、知ってる」
     サンダークラッカーがスタースクリームの隣に並びながら、ふと思い出したように言った。
    「最後にそいつを見たやつは、そいつの親友だった……って話だろ?」
     スタースクリームは否定しなかったので、サンダークラッカーが話の先を引き取って続けた。
    「季節が一巡りした頃に、ガキどもから苦情が出た。あるブロックの洗浄水だけが妙な赤茶色をしている。錆び水が出てくるんだ。変だと思って貯水槽を片っ端から調べたら……」
    「……うげえ。やめろよその話」
     スカイワープが本当に心底嫌そうな声でいうので、今回はサンダークラッカーも少し笑った。
    「馬鹿だな。そんな話つくり話に決まってるだろ。いなくなった場所が明確にわかっているのに貯水槽を全部調べないで一年も放置するなんて、現実味がない話だ。そもそもそんな事態になったら、座標をコミュリンクで緊急信号に乗せて発信するだろう。俺達だってそれくらい出来るんだから」
     サンダークラッカーはその話のほころびをすらすらと上げて矛盾を指摘する。そのうちにスカイワープは見る見るばつの悪そうな表情になり、ぷいっと横を向いて屋上の縁の方に顔を向けた。
    「べ、別に信じてたわけじゃねえし! 俺だってそれくらいわかってた!」
    「ほんとかよ。ビビッてたのに」
    「ビビってなんかねえよ!」
    「俺は実際あったんじゃねえかと睨んでるけどな」
     サンダークラッカーとスカイワープが口喧嘩を始めようとした矢先、スタースクリームがそんなことを言い出したので二機はきょとんとして彼に目を向けた。
    「俺たち訓練生が所属してるのはこのオルトフォーム訓練所だけだ。大人たちのように、働いてるギルドとか、住んでる場所の管理者とか、複数の場所や機関に個体識別番号が登録されてるわけじゃないだろ? そして俺達はまだ訓練生だから、できることも限られている上に、交友関係もすごく狭い。せいぜい同じ部屋の奴らしか存在を認識してないし、そいつらだって突然誰かひとりがいなくなったところでどこに行ったかなんてわかんないだろ。訓練所が伏せておこうと思えば、都合の悪い事件を隠すこともできなくはないんじゃねーかな。ひとりくらいいなくなっても、わからないということはありえると思うぜ」
     けれども、サンダークラッカーはスタースクリームの言葉には納得しなかった。自分の考えの方に、確信を持っていたからだった。
    「いーや、それはありえない。毎年何人がオールスパークから生まれでて、何人が進級して、何人が留年して、最終的に卒業するかなんて、全部きちんと記録してあるはずだし、その累計数はアイアコンに常に送信されているはずだ。いきなり数をいじったりなんてできるはずない」
    「減らさなければいいだろう。いつまでも卒業しない、幽霊訓練生として、形だけ残せばいい」
     幽霊、という言葉にサンダークラッカーはたじろぐ。ここまで来るさなかにスタースクリームがぽそりと口にした言葉がメモリーユニットをさっとかすめる。第三ブロックにいるという幽霊の話。スタースクリームは、あれを、どういうつもりで口にしたのだろう?
    「……俺、カードキーを掠め取るついでにな、詰所にあったデータログを漁ってみたんだ。それでいろいろと面白いログを見つけたんだよな。かれこれ15年ほどスクラップ場から動かない識別番号シグナルとか。そういうの、結構あるんだ。それこそそこら中に。で、俺、見つけたぜ。ここの貯水タンクの群の中に、昼でも夜でもずっと動かない識別シグナルがあるんだ。そいつの正体は一体何なんだろうな、サンダークラッカー」
    「…………」
     サンダークラッカーはしばし返す言葉もなく黙り込んでいたが、勝ち誇ったように笑うスタースクリームを見ているうちに再び対抗心を取り戻して、腕を組んで彼を見据えた。
    「俺を怖がらせようったってそうはいかねえ。第一に、噂の中ではそいつの死体はもう発見されてるはずだ。それなのにまだ貯水タンクに入ってるのはおかしい。第二に、外からシグナルを拾えるんだったら、そもそもそいつは行方不明になんかならなかった。だから、スタースクリーム、お前の仮説は成り立たない。スカイワープ、お前だってそう思うだろ?」
     サンダークラッカーが同意を求めると、スタースクリームもまた「お前は俺を信じるだろ?」とスカイワープに問いかける。スカイワープはいきなりふたりから意見を求められてきょとんと二機の同型機を交互に見た。
     それから、肩をすくめる。
    「俺が知るかよ、そんなこと。そんなに気になるなら、実際に確かめてみりゃあいい話だろ?」
     確かめる。その言葉にサンダークラッカーはたじろいでしまう。もちろん、それが一番手っ取り早く確実な方法なのはサンダークラッカーにもわかる。
     けれども、もし、スタースクリームのほうが正しかったら? もし、自分が間違っていたら、そこには一体何がある? サンダークラッカーは、黒い鏡のような、静かな水面の奥に、朽ち果てた死体を見ることになるのかもしれない。腐食し、おぞましい茶色い錆に侵されボロボロに崩れている小さな塊が、暗い水の中で揺らめいている……そんな想像をしてしまい、サンダークラッカーは慌ててそれを振り払った。
    「まったくそのとおりだな、スカイワープ。お前にしちゃ冴えてる」
     スタースクリームはそんなサンダークラッカーの内心を見透かしているような笑みを浮かべてサンダークラッカーの顔を覗き込んだ。
    「まさか怖いわけじゃねえだろ、サンダークラッカー?」
     そんなふうに言われてしまえば、見に行かないわけにはいかなかった。ここで引き下がれば、負けを認めたも同然だ。そうなれば、スタースクリームはいつものように、それをいつまでもつついてサンダークラッカーが嫌がるのを喜ぶだろう。それだけは避けねばならない。だから、サンダークラッカーは気の進まない思いをひた隠しにして、なんでもないような顔でうなずいてみせた。
     こっちだ、と道を示すスタースクリームについていき、サンダークラッカーはそろそろと夜闇の屋上を歩いて行く。隣りにいるスカイワープをちらりと見ると、やはり彼も少し緊張した顔で黙って下を見て歩いていた。この中で一番怖がりなのは、スカイワープなのだ。少なくとも、こういうオカルトや怪談の類に関してはそうだった。ひょっとしたら戦場での恐怖とか、物理的な暴力への恐れとか、そういうものとなるとまた話は変わるのかもしれない。今でこそスタースクリームはこうして平然と死体があるかもしれない場所に向かっているけれども、力の強い相手に立ち向かうとき最初に臆病風を吹かすのはスタースクリームだったし、そういう時に無謀なほど迷いなく跳びかかっていくのがスカイワープだった。サンダークラッカーはそういうときには手出しはせずに眺めているだけだ。それでも知恵を絞らなければならない時には、前に立って彼らを引っ張る役目はサンダークラッカーのものだった。状況によって、彼らの力関係はくるくると入れ替わった。まるで車輪のように。
    「こいつが例のやつだ」
     スタースクリームの声にはっとして顔を上げると、目の前には大きくそびえる円柱型の黒いシルエットがぼんやりと闇の中に浮かび上がっていた。
    「そこのハシゴの先に、上蓋がある。そこを開けば中が覗けるってわけだ。さ、見てみようぜ」
    「……」
     サンダークラッカーは思わずスカイワープの方を見る。スカイワープはその気配を察してサンダークラッカーに顔を向けた。それから顎で貯水タンクを指し示して言った。
    「お前らの問題だろ、これは。お前がいけよ、サンダークラッカー」
     要するに、自分はそんなところを覗きこむのは御免だ、ということだろう。それも仕方ない。そもそも、スタースクリームの言葉に異議を唱えたのだって、サンダークラッカーなのだから。
     まるで巨大な化け物のようにそびえる黒い円柱に、サンダークラッカーはそろそろと近寄っていく。気が進まないのに、足は止まらない。中を覗くのが嫌だと思うのと同じくらい、ふたりに臆病者だと思われるのがたまらなく嫌だった。
     梯子を登る。足を降ろすたびに、かん、かん、と硬質な音がする。てっぺんまで着くと、サンダークラッカーは貯水タンク上部に取り付けられたマンホールを眺める。サンダークラッカーから見て斜めに上向いたそれは縦に長い楕円形をしていて、右側にハンドルを備えている。そこを回せば貯水槽の蓋が開くのだ。セーフティロックはない。誰でも開くことができる。だから、あんな怪談が生まれて、訓練所の子供達の中に広がっていったのだろうか。少し遅れて、スタースクリームが梯子を登ってきた。サンダークラッカーは、スカイワープにも登ってくるよう声をかけようとしたが、その前にスタースクリームが上蓋の横を指差した。
    「それを回せ」
    「……いちいち指図すんなよ」
     やはり、本当は気が進まないのを、彼は見抜いているのだろうか? サンダークラッカーは小さくため息をつきながら、スカイワープを呼ぶのを諦めてハンドルを握り、グッと力を込めた。
     キイ、キイ、と、回すたびに油の切れた金属のこすれる不快な音がする。何度も響くその音と共に、金属製の分厚い上蓋は、少しずつ内側に向かって開いていく。中が見えるほど上蓋が動いた時には、サンダークラッカーはヘトヘトになってしまっていた。
    「よしよし、ごくろう。さぁ、やっとお楽しみの時間だ」
     スタースクリームが、先を譲ってやるとでも言うようにサンダークラッカーをまっすぐ見つめている。ある種挑戦的な色を含んだその目つきに、サンダークラッカーは逆らえなかった。ぽっかりと開いた楕円形の穴。光の差さないそこを見つめていると、中に隠された何かを想像して足がすくみそうになる。しかし、サンダークラッカーはぎゅっと手を握って、いや、正しいのは自分なのだ、ここには何もありはしないんだと力を込めて自分に言い聞かせる。闇はパラノイアを誘発する。それに惑わされているだけだ。サンダークラッカーは冷静さを取り戻すと、そっと身を乗り出して上蓋の縁に手をかけながら中を覗き込んだ。
     思ったより中には水が入っていなかった。全長の五分の一程度しか内部は満たされていない。多分、中に立つことだって可能だろう。その場合、サンダークラッカーなら顔を出すのが精々だろうが。サンダークラッカーが機体に内蔵されたライトを使うと、その光を受けて内壁は鈍い光を照り返す。その反射光には湿った感じはしないので、この水量になってから長い時間が経過していることを示唆していた。全体を軽く見渡してから、サンダークラッカーは内心ホッとする。ざっと見た感じ、何も無い。やはり正しかったのは自分なのだ。例えようもない安堵感に、サンダークラッカーは少し肩の力が抜けるのを感じる。一応もう一度底を丁寧に眺めたが、やはり何も無いように見えた。そうなのだ。こんなところに、閉じ込められたまま死んだ亡骸などありはしないのだ。
     そのとき、スタースクリームがサンダークラッカーの背後に立って、身をかがめる気配がした。彼もまた中を覗き込んでいるのだろう。
    「ほら、やっぱり何も無いじゃないか」
     サンダークラッカーはスタースクリームに向かってそう言った。けれども、スタースクリームが口にしたのは、どういうわけか全然別の話題だった。
    「ここの貯水タンクって、一年に一度掃除する決まりになってるらしい。だが、今年の清掃って、もう昨日終わったんだよな。だからあと一年はこの中を覗き込もうなんて考える奴は誰もいないわけだ」
    「……何の話だ?」
     サンダークラッカーは振り返ろうとしたが、その時スタースクリームがサンダークラッカーの肩にそっと手を置いてその動きを妨げた。
    「さっきのセキュリティログの話、少しばかり嘘があってな。別に何年も行方不明のままのやつなんていない。ちゃんと死んだら事故死って報告がアイアコンに送られてたよ。スクラップ場に一五年も輝くシグナルなんてないし、この貯水タンクにも日がな一日張り付いてるシグナルもないのさ。そもそも、このタンクって構造上あらゆる信号を遮断してしまうみたいでな、中に誰か入ったとしても気付きようがないだろうな」
    「スタースクリーム……?」
     何かが変だ。
     サンダークラッカーは薄々そう感じ始めていた。目の前では闇を湛える黒い水面がサンダークラッカーの光を照り返している。そして後ろには、妙に穏やかな声で変な話をするスタースクリーム。その間に挟まれて、サンダークラッカーはスパークにさざ波がたつように胸騒ぎを覚え始めた。
    「ログによると、どうもガキが貯水タンクに閉じ込められたこと自体は本当にあったみたいだったが。その時は一週間で見つかったって、ログにあった。でも、見つけ出されたあと、そいつはしばらく幻覚や幻聴に苦しんだそうだ。システムを再起動してもダメ。ブレインサーキットの回路パーツを変えてもダメ。心の問題だったからな。暗闇にずっと閉じ込められてて、イかれちまったんだ。一ヶ月もかかったらしいぜ、そいつが元に戻るまで」
    「……なぜ今その話をするんだ?」
     循環オイルを機体に送る中枢機関がどきどきと動きを早めて、サンダークラッカーはどんどん不安な気持ちになっていった。なぜ、スタースクリームは、この瞬間、サンダークラッカーが貯水槽の入り口でかがみこんでいるこのタイミングで、こんな話を始めたのだろうか。それにはどんな意図があるのだろう。背後でスタースクリームがくすっと笑う気配がした。サンダークラッカーは動けなかった。肩に感じるスタースクリームの手のひらの重みを感じながら、じっと彼の話に聞き入る他何もできなかった。
    「感覚遮断、っていうらしい。そういうの。不幸なことに、その感覚遮断を行うにはこの貯水タンクの中ってのは正に理想的な環境だったわけだ。閉鎖された闇の中ぷかぷかと水の中に浮かぶことで、視覚も聴覚も触覚も平衡感覚も、何もかも切り離されちまう。何もない感覚、ってどういうものなんだろうな。想像もできねえが……ま、気が狂うくらい耐え難いってことだけは確かだな」
     スタースクリームの声は平穏そのもので、何かを強要したり脅すような含意など全く感じられない。なのに、サンダークラッカーは動けなかった。すぐ目の前の闇から目をそらすことすらできない。肩には相変わらずスタースクリームの腕が置かれたままだった。
     スタースクリームがその気になれば、ほんの少し腕に力を入れて前に押し出すだけで、サンダークラッカーを落とせるだろう。闇の中へ。もしそうなれば、まだ飛ぶことのできないサンダークラッカーでは抜け出すことができない。貯水タンクの底から上がってこられない。
    「なあ、サンダークラッカー……そういう状況に置かれたやつが、どういう過程をたどって少しずつ壊れていくのか気にならないか? 俺はすごく、興味、あるんだよなぁ」
    「……ッ」
     ぐい、と肩を押された。声も出なかった。体が傾ぐ。落ちる、と思った。ゆっくりと、重心がずれていくのを感じた。落ちる。闇。ゆらりと揺らめく液状の闇が、腕を広げて待っている……。
     が、そのとき腰のあたりに素早く腕が回されて、サンダークラッカーの体が支えられた。
    「……なーんて、びっくりしたか?」
     落ちかけた一瞬と同じくらいのわずかな時間であっさりとサンダークラッカーはスタースクリームによって貯水タンクの上蓋から引き戻された。ぐいっと力強く引かれたせいで、サンダークラッカーはがしゃんと尻餅をつく。そう、決して怖くて腰が抜けたとかそういうわけではない。サンダークラッカーは混乱と驚きと安堵と怒りとでぐちゃぐちゃになって、何を言うべきかわからないままスタースクリームを見上げる。
     スタースクリームは笑っていた。いつもと同じ、何か面白いものを探して、そしてそれを壊すのを楽しんでいる時の笑い方で。スタースクリームはそっとサンダークラッカーのほうに屈み、聴覚センサーのそばで囁く。
    「冗談だよ」
    「…………」
    「おいお前ら、そこでいつまで遊んでるんだよ? 何か面白いものは見つかったのか?」
     ちょうどそのとき、下で待機していたはずのスカイワープが、ハシゴのところからひょこりと顔を出した。むすっとした表情で、仲間外れにしやがってと言わんばかりに二機を睨んでいる。スタースクリームはまるで何事もなかったように、すぐに立ち上がってスカイワープに手を差し伸べた。スカイワープがその手を取って、ハシゴを登り切り足場へと降り立つ。
    「何も。ただの水しかない」
    「それにしちゃ随分時間かかってなかったか? 何か隠してるんじゃないだろーな」
     フン、と不機嫌に腕を組んでスカイワープは言う。するとスタースクリームはちらりとサンダークラッカーに視線をよこす。口の端に、相変わらず微笑みを乗せて。サンダークラッカーは無言でそれを見返してから、ゆっくりと立ち上がり、静かな声で言った。
    「……本当だ。何もなかった」
    「ふーん……」
     スカイワープは口をへの字に曲げて、サンダークラッカーの顔をじいっと睨む。胡乱げに細められたオプティックは、サンダークラッカーの表情から何かの手掛かりを拾い上げようとしている。サンダークラッカーは表情を消したままその疑いの目をただ受け止めている。
     そして不意に、ふっとスカイワープの纏っている刺々しい雰囲気が消える。
    「……ま、お前がそう言うんなら、そうだったんだろうな」
     そう言って、スカイワープは片腕を上げて伸びをしながら欠伸をした。それから眠そうに目をこすり、空を指差して言った。
    「ここ、ちょうどよく見えるんじゃね? 超新星爆発」
    「ああ、そだな」
     星が死ぬひとときのきらめき。最も安定する元素を合成し終えたとき、星は自らの重力に耐えきれず内に向かって崩壊し、爆発する。その過程で本来ならば生み出せなかったさらなる重元素を誕生させながら、星の欠片は宇宙の彼方へ飛び去っていく。やがてばらばらに散ったその欠片はそのわずかな重力によって少しずつ引かれあい、途方もない年月をかけてもう一度星を形作るのだ。
    「アイアコンの詩人が言ってた」
     サンダークラッカーは静かに手すりに腕を載せ、ガンマ線を放出し燃えるように輝きを増し始めた死にゆく星を眺めてささやく。
    「俺たちは皆死んだ星の欠片だって」
    「なんだそりゃ。俺たちは死骸のなれの果てだってことか? きもちわりいな」
     スカイワープが顔をしかめるのを見て、彼の隣に並んだスタースクリームがくくっと笑った。
    「情緒もクソもねえこと言うなよスカイワープ」
    「だってほんとに気持ち悪いじゃん」
    「はは。そういうとこ、お前らしいけど」
     スタースクリームはまだくすくすと笑っている。スカイワープはそんなスタースクリームを不可解そうにじっと見つめてから、ふふっとつられるようにして笑い出した。今の笑いが、スカイワープを馬鹿にしてこみ上げているものではないとわかったからだろう。それから、たわいもないことを言い合いながら空を見上げてあれこれと星の死について話すのだった。
     サンダークラッカーはそんな二機の横顔に目をやりながらぼんやりと考えていた。
     もし、さっき、スカイワープが登ってきていなかったら。
     スタースクリームは、自分のことを本当に突き落としただろうか。
    「……なあ、サンダークラッカーはどう思う? サイバトロン星もああやってバラバラになって跡形もなく消えちまう日って来るのかな」
     不意にスカイワープがこちらを向いてそんなことを聞いてきたので、サンダークラッカーは思考をその場に戻すと、彼に向かって微笑んだ。
    「少なくとも俺たちが生きてる内にはそんなこと起こりっこねえよ」
    「ほらそう言っただろ? お前が先のことを心配しすぎなんだよ」
    「だってよお」
    「わざわざ自分の星をぶっ壊すようなマネでもしないかぎり、サイバトロン星は滅びねえよ」
     スタースクリームが子供扱いするようにスカイワープのヘッドパーツをなでると、スカイワープは迷惑そうにそれを振り払う。その反応にスタースクリームはまた愉快そうに笑い声をこぼした。
     しばらくそうして天体観測を続けていたが、やがてスカイワープが大きな欠伸をしてオプティックをのろのろとこすった。もう帰ろうぜ、と眠そうな声で言われれば、眠気は瞬く間に他の二機にも伝染し、たいした反論もなく彼らは部屋に戻ることにした。
     行きと同じようにそろそろと三機で非常灯の光を何個も通り過ぎ、時々スカイワープが大きな声を出してサンダークラッカーが注意する。幸い、今度も誰にも出くわすことなく無事に彼らの暮らす部屋まで戻ってくることができた。静かな駆動音を立ててぐっすりと眠りこけているルームメイトたちを慎重にまたいで、スタースクリームたちはそっといつもの空きスペースに機体を滑り込ませて横たわる。
    「じゃ、おやすみ」
    「おー」
    「おやすみ」
     寄り添って小さな声で挨拶を交わし、三機はアイセンサーの感度を落としていく。真っ先に寝息を立て始めたのはスカイワープだ。それほど間を置かずスタースクリームもすうすうと眠りの世界に入っていった。最後まで起きているのはサンダークラッカーだったが、その彼も、うとうととまどろみ始めていた。
     消灯された部屋の中はとても暗いが、感度を鈍らせていてもアイセンサーは同じ顔をした同型機たちの姿をうっすらと捉えている。あのタンクの中の闇はこんなものではないのだろうなとサンダークラッカーは思った。自分の身体さえ見ることのできない真の闇に閉ざされ、ゆらめく液体に囲まれて、ただただ一筋の光が差すのを待ち続ける。たった一人闇の中で。それはいったいどんな気持ちがするのだろう。考えている内に、サンダークラッカーは夢を見始めていた。センサーが意味をなさない虚無の中にサンダークラッカーはいる。見渡すかぎりの永遠の闇が、サンダークラッカーを取り巻きゆらゆらと波立っていた。そしてサンダークラッカーは、少しずつ自分が壊れていくのを感じながら、彼が現れるのを待っている。遙か頭上で重い金属の蓋がゆっくりとスライドし、白く光の差す楕円の枠の中、ほほえみを浮かべたスタースクリームの影が見えるそのときを、いつまでもいつまでも待ち望んでいる。そんな夢だった。
    小雨 Link Message Mute
    2018/07/10 11:44:09

    【TF:WFC】Float Down There

    #トランスフォーマー #WFC #小説 #二次創作
    子供の頃のスタスク、サンクラ、スカワのちょっとした肝試しのはなし。
    Exodusにオルトフォーム訓練所が名前だけ出てきて、どんなところなのかな~って妄想した結果生まれました。捏造設定の塊なので苦手な方はご注意を!

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