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    君の罠君の罠

    週末お互い用事のない時は、冷越酒店の配達や御用聞きがてらに零の家を訪ねる。居候先の手伝いを終えた後なので、ほぼムダ話や遊びに行っているようなものだ。

    「おめえ、周囲から、薄情もんだと思われてるぞ」
    「えー。せっかく、組の中で、はみ出し者が出ないようにって気を使ったのになー」

     日も暮れ月明かりを浴びながら、縁側でジュースを飲みながら、零は口を尖せた。ジュースは俺の居候先のおじさんが、遊びに行くなら持っていけと、いつも渡してくれるやつだ。
     話は体育の時間のことだった。いつもの準備運動の時に二人組を組むとき、零は毎度ひとりで、真っ先に奇面組から抜け出しては、他のクラスメイトや真実達や事代に、自分と組まないか?と持ちかけに行く。そんな零を見て、大が、リーダーは奇面組の中では絶対に二人組を組みたがらないと、言い出したからだ。零のいない奇面組の中でのやり取りを伝えたが、誰も零のことを薄情もんとは言っていない。思っていたのが、俺だっただけだ。
     零は、とほほ、と口に出し、がっくりとうなだれている。

    「まぁ、諦めろ。リーダーとは誤解されるもんだ」
    「せめて大くんは、私をわかってくれると思ったのになー」

     次は大くんと組もうかな。と口を尖らせたまま、零が呟いた。そのジュース、誰ん家のジュースだと思ってるんだ。

    「あのよ・・・」
    「豪くんは嫌だな、乱暴だから」
    「おめえ、忠告してもらって、夕飯まで作らせた人間に対して言う言葉かよ」

     いつもだったら、夕食の前に、俺はおいとまする。今日に限って、霧ちゃんは、潔の妹、清ちゃんのところにお泊りに行き、零の親父さんは町内会の旅行に行っている。
     つまり、こいつの面倒を見る人間が誰もいない夜ってことだ。

    「とても助かった。霧からはお兄ちゃんは台所に近づくなと常日頃から言われて、勝手がわからなかったから」
    「おめえ、どんだけ妹から信用がないんだよ。作り置きの飯は親父さんに食われているし、ひでぇ家族だな」
    「ガスが無くても、火は起こせるんだぞ。デオドラントスプレーにライターを近づけて火炎放射器みたいにすることもできるのだよ」
    「普通に使えよ、ガスくらいよ」

     ボヤ起こすぞ。こいつは危険なことでも目新しい事なら、試さずにはいられない性分だ。奇面組の中で二人組を作らないところも、本当はこういうところから来てるんじゃないのか。

    「豪くんはお料理上手だな。私がカレーを作ろうと思ったら、あんなに上手く出来ないよ」
    「カレーをまずく作る方が、才能がいるんじゃねえのか」
    「お兄ちゃんのカレーの隠し味は、隠れてないと褒められたことならあるぞ」

     失礼な、と零は付け加えた。月明かりのせいかもしれないが、姿勢が組の中で誰よりも良い、この男が、こちらに目線を向けると、元からある目の印象の強さも相まって、こちらの方が目線を外せないことがある。薄い唇の端だけで、笑みを浮かべられた時なんか、なおのことだ。そして零の家の至る所に飾られている、死んだ零のお袋さんの写真と気持ち悪いくらいに瓜二つだった。

    「仲いいんだな、おめえら家族はよ」

     俺はいつもの皮肉に近い口調で言った。零は親父さんや霧ちゃんに似ていない。この突拍子もなく掴みどころもなく放っておけない性格も、お袋さんに似たのだろう。・・・だとすると、結構、あざとい女だ。

    「ふふふ。奇面組のようだろう。文句言ったり言われたりだけど、みんな私に付き合ってくれるしね。」

     世間から外れて世をすねる俺たちを、世間を味付けする、調味料となれ!と発破かけたのは、零だ。中学校を出るのに俺たちは遠回りをしたが、なんとか高校まで進学し、留年もせずに暮らしている。唯ちゃんや千絵ちゃんも俺たちのそばにいるようになり、俺たちも尖ったところが少しずつなくなっていった。零の言葉を借りるとしたら、世間が俺たちに馴染み出したんだ。

    「あれ?帰るのかい。豪くん、カレーライス食べていかないのか?」
    「ほとんど俺が作ったけど、夕飯まで貰うわけにはいかないしな」
    「それは残念。泡の出る麦茶があるんだけどな。君が好きな苦いやつ」

     中学校を出るのに遠回りした俺たちは、二十歳を過ぎている。学校から離れたら、飲酒自体は何も咎められることはない。結局、零に乗せられるまま、一堂家で、俺の作ったカレーライスを食べ、風呂まで貰うことになった。夕食だけで豪くんが帰るなんて、ユー、ショックだよ。などと、わけのわからない引き留め方をされた日には、俺はその魂(ハート)に卍固めで答えるしかない。何より、零が、霧ちゃんのデオドラントスプレーを使って火炎放射器で風呂釜を沸かすと、どこまで本気か冗談かわからないことを言い出したからだ。そんなもん、いつの時代の風呂釜だ。
     自分が作った、そこそこ上出来ではあるカレーを食べ、結局俺が沸かした風呂に入る。俺は零のペースにまんまと慣らされている。
     零の顔と零のお袋さんの顔がちらついた時、気づいた。お袋さんが亡くなったのは8歳くらいだと聞いた。その頃は霧ちゃんも目の離せないチビの頃だろうし、零のあの親父さんが零に何も手伝わせなかったとは思えない。ある程度の家事手伝いは零もしてきているだろう。その気になれば、火炎放射器なんてわけのわからないこともせず、普通に風呂くらい沸かせたはずだ。

    「結局、あいつの手の内か」

     一堂家の湯船に浸かりながら、俺は天井を眺めて独り呟いた。・・・本音を言えば悪くはない。零がいなければ、残り四人の俺たちは、自分の持って生まれた個性を、どう世に味付けしていいかわからなかったからだ。遠回りをした俺たちが世間に馴れ、人並みというものに自分も近づけるようになるという希望。食い扶持を稼いで、嫁さんができて、子供もできて。あぁ自分に似なきゃいい、いやそうとも限らない、その子供を産んでくれるのが、ポニーテールのあの子だったらどんなに嬉しいだろうと考えられるようになった。

    「豪くん、背中を流そうか」
    「おめえも風呂に入るのかよ。この狭い風呂釜にどうやって入るんだ」
    「それもそうだな。がんばりまっし湯に行けば、ぎゅうぎゅうの風呂釜に二人で入らなくて、すんだのだ」
    「まぁ、たまには二人だけもいいんじゃないか」

     毛むくじゃらの俺の体に比べ、この男の体毛はほとんどない。肩と胸のあたりは筋肉が付いているが、姿勢の良さを裏付けるように背中から腰が締まっていて細い。武骨な俺の体と少し違う。
     無邪気な子供そのままに、零は風呂釜から洗面器で湯を組むと、頭から豪快に流し出した。

    「目を開けてお湯を被ると沁みるよねー」

     当たり前だ、バカ。邪魔するよ、と零は言うとするりと風呂釜に二人並ぶように潜り込んだ。

    「いけるもんだな、ほら、私は細いから」

     自分で言うか。湯舟に浮かぶ俺の体毛が、零の体に少し纏わりつく。近いぞ、お前。

    「もともと、父ちゃんも母ちゃんも節約のために二人で入ってたってさ」
    「そりゃ、片方が女だったらそんなに狭くもないだろうがよ」
    「だろうね。やっぱり私は出るかな」
    「・・・入ったばかりだ。もう少し居ておけよ」

     ふふふ。と俺に皮肉を言われて笑いかえした時の表情をする。

    「豪くんは優しい。私と違って薄情もんではないからな」
    「まだ気にしてたのかよ」

     薄情もんと思っていたのは俺だ。零の節操のない周囲への働きかけが、呆れられながらも、結局周囲に受け入れられる。他のクラスメイトや真実達が、たまには事代が、何かと零に話しかけにいく。自分の個性を持て余し、世を拗ねていた俺たちと零は根本の気質が違うのかもしれない。零を遠くに感じることが、たびたびだ。

    「薄情なんて言われたら気にもなるさ。奇面組の皆に見捨てられたくない」
    「おめえは、無節操で落ち着きがないんだよ」
    「あれ、豪くん、もう風呂から出るのか?」
    「男二人は狭いし、もう俺は洗ったからな」
    「私も出ようかな。ひとりじゃつまらない」
    「おめえは、ろくに体を洗ってないだろう」

     何が、背中を流そうか、だ。結局俺が零の背中を流す羽目になった。豪くんは素っ気ないけど、気が効いてて優しい、君といると安心して任せられるなあ。などと古女房を口説く亭主みたいなことをいう。体育の時間は、放っておかれ、夕飯を作らされ、風呂の用意をさせられ、正直、俺が零をここまで気にかける義理はない。

    「豪くんなら結婚してもいいかな」

     シャンプーハットを被った頭で、零は呟いた。

    「なんてね。君が好きなのは、ポニーテールで元気が良くて、根は優しい女の子なのだ」
    「ち、千絵ちゃんは関係ねえだろう!」
    「私、千絵ちゃんなんて言ったっけ?」

     零は、誰かと誰かが仲良くしている所を見るのが好きだ。たまに独りで、嬉しそうに俺たちを見ることがある。

    「高校卒業したらそれぞれバラバラだし、奇面組以外に、みんなかげかえのない人や場所を見つけるんだろうな。特に豪くんは結婚が早そうだ。私が女の子だったら、君のことをすごく頼りそうだし」

    「うるせえ」

     おめえこそ、唯ちゃんとはどうなんだと言おうとしたが、その言葉を飲み込んだ。零が続ける。

    「みんないいこたちだからさ、これからさきも楽しいことがいっぱいだと、私は嬉しいな」
    「おめえにかかると、みんないいこだな」

     零の目線はもともと強い。そうなることを信じて疑わない目だ。零がお袋さんに似ているのは、こういうところだろう。零が、誰かと誰かが仲良くしているところを見ている目は、家族を見ているようだった。

    「君も、家のこといろいろあるだろうけど、こうして遊びに来てくれて、楽しんでくれるといいのだ」

     その期間が、そんなに長くないということを、二人とも知っている。

    「もう来ねえよ、こんな人使いの荒いとこ」
    「君は繊細だからな。人の気持ちを先読みして動いてしまうところがある。どうせなら、素直になればいいのにな。ポニーテールのあの子にとか」

     け!と呟いて、俺は浴室のドアに手をかけた。

    「体育の時間のとき、私と組みたいのなら、そう言ってくれたら良かったのに」

     ドアの方に目を向けていたので、この時の零の表情がわからなかった。

    「うるせえ、ナルシスト!」

     俺は浴室を出て、扉をピシャリとしめた。
     扉ごしに零の声が聞こえる。

    「そうそう。君の服、手が滑って洗濯機にまわしてしまったのだ。風邪ひかれると困るから、君、私のパジャマを着てくれないか」

     パンツは新品だからね、といらんお節介までされた。
     洗濯物を干している間、いい気分になれる麦茶はどうだい、と零の親父さんの秘蔵の蒸留酒を零の自室で頂いている。零は、何があっても俺を帰さないつもりだ。

    「やはり豪くんはお酒が強いな。私はすぐ眠くなる。」
    「そんなに帰りたいなら早く乾かそうかと、おめえが火炎放射器を構えだした時は、目が醒めるどころじゃなかったからな」
    「スプレーとライターだって。君も乗るね。」

     いっぺん試してみたいなら言ってくれたらいいのに。火遊びすると寝小便するぞ、とお互い軽口を叩く。
     零が洗濯物を干している間中に、俺は零の自室を何気なく眺めていた。怪獣のフィギュアが飾られている他に、怪獣関連の本や小学生男児が好きそうな趣味の図鑑が本棚にある。8歳で、零は何かを止めてしまっているんだろうか。薄気味悪く思っていると、本棚の中に少女漫画が数冊混じっているのを見つけた。洗濯物を干し終えて、私も貰おうかな、と、いい気分になる麦茶を飲んでいる零に、俺は声をかける。

    「霧ちゃんのか?お前少女漫画なんか読むのかよ」
    「いや、人から借りた」

     およそ俺の興味の持てない漫画の題名をふたつあげた。貸主の一人は零の幼馴染で、もう一人は唯ちゃんだった。

    「唯ちゃんも漫画とか見るんだな」

     俺以上に実直で地に足ついている女の子だ。零が好きな、誰かと誰かが仲良くしているところを見て、大きな声で一緒に笑うのが千絵ちゃんなら、その横でそろそろ次の授業が始まるよというのが唯ちゃんだ。

    「彼女も家のことがあるからね、息抜きに読むって言ってた」

     君も読みたいなら読めばいいのに、と零は言ったが、俺はこたえず、いい気分になる麦茶を飲んだ。

    「唯ちゃん、偉いよな。家のこともして、たいして裕福でもないのに、賢くてよ」
    「おまけに、隙がない」

     零もいい気分になる麦茶を飲んで、酔いが早くもきたらしい。零と唯ちゃんの間柄は、零の掴みどころのない性格と唯ちゃんの実直で地に足ついている性格のせいか、進展しているのかどうかもわからず、他人からは、からかいづらい。さっきまでの強い目線とは打って変わって、少し溶けたような目線をしてきた。

    「そりゃ、おめえの方も大概だぜ」
    「何でだよ。私はみんながいないと、何もできないぞ」

     いつもと違って少し口調が砕けている。零の存在に引っ張られるようにして奇面組は今までやってきたけれど、この男も俺たちがいたから、世間に一太刀も二太刀も浴びせようと気を吐くことが出来たはずだ。

    「唯ちゃんも豪くんもさー、もっと私を頼っていいんだよ?」
    「今日のおめえが言うと、まるで説得力がないがな」

     世の調味料となれ、と気を吐いた男は、誰かと誰かが仲良くしているのを見るのが好きなくせに、自分に好意を向けられるとどうしていいか分からないのだろう。8歳で止めてしまっている。零はその年齢で母を亡くして、俺は何歳かわからない頃に実の両親から見捨てられた。
     悪戯や、軽い暴力や、無節操な働きかけや、労働で、自分からの行為で相手に何かを残そうとするけれど、その相手から好意を向けられると、怖くなるのだろう。少女漫画を貸した唯ちゃんの気持ちは、どうだったのか、甘ったるい恋の話の中に、零に何かを語りかけようとしたのだろうか。こいつはどこまでそれを受け止めきれるのだろうか。怪獣のフィギュアが、8歳のままを守っているようにも見えた。

    「唯ちゃんは、賢いから漫画もその他も息抜きなんだろうな。おめえみたいにふわふわしてねえや」
    「・・・否定しないけどね。恋愛もの読むよりは怪獣のフィギュアを見てる方がピンとくるあたり、私はおもちゃ屋の息子なんだろうな」
    「少女漫画の何が面白いか、俺にはさっぱりわからねえけどよ。こういう夢のある世界に自分を置かなきゃ、やってけねえ時もあったんだろうな、唯ちゃんにはな」

     隙がない。零と唯ちゃんの間柄にはお互い役割を通して動いているように見える。一人は、世に一太刀も二太刀も浴びせる奇面組のリーダーとして。一人は、その幼さで一家の太陽とならざるを得なかった、利口な少女として。そのまま、身動きが取れないままでいるのだろう。

    「まぁ、何かに酔っ払ってねぇと、人間って、やっていけねぇや」

     俺はそう言って、いい気分になれる麦茶を飲み干した。
     居候先のおじさんはどう思っているかわからないけれど、俺は酒屋の息子だ。いずれ大笑いの似合うあの子を嫁さんに貰って、生きていく。そういう未来を信じないと、やっていけない。

    「豪くん」
    「何だよ」
    「話が湿っぽくなった。相撲でも取らないか?」

     身動きが取れない自分を時々なんとかしたいのは、零も俺も、年齢のせいだけではなかった。
     その晩、俺たちはむちゃくちゃ相撲を取った。
     
    「明日、父ちゃんに怒られるなぁ、近所から苦情が出てしまったのだ」
    「おめえ、細っこい体の癖して、結構タフだなぁ」

     何度、がっぷり四つになったんだか。風呂場で見た体毛が少なくて、腰のあたりがきゅうっとしまった零の身体を思い出した。大とはまた違った、妙な色気がこいつにはある。真実やその他のクラスメート、事代が、話しかけに行くことが多いといい、事あるごとに名物集団が絡みに行く事が多いといい。

    「逆に目が醒めちまったな。寝付けそうにねぇよ。」
    「そうかい?私は酔いが回って眠くなってきた。お酒代わりにこの本でも読むといい」
    「・・・太宰治の人間失格?」
    「中学校の卒業記念に伊狩先生から中古でもらったのだ。読むと3ページで眠くなる」
    「パンチの効いた女教師だな、おい」

     こいつに本を見せたがる、女たち。零の周りには人が群がる。零が風呂場で言っていた、高校を卒業してそれぞれの居場所や相手を見つけていくとき、そのときには、零から俺はどんな風に見えているんだろうか。

    「今日はいろんな話ができて面白かったな。なんだっけ、何かに酔っ払わないと人間ってやっていけねぇって」

     俺は読みさしの人間失格を、床に落とした。

    「実に名言だったのだ、週明け、潔くんたちに披露していいかい?」
    「ぶっ殺す!」
    「ほらほらー、夜遅いから騒いじゃダメなのだ。布団敷いたから、電気消すよ」

     零は俺に許可を取ることもなく、勝手に客用の布団を敷いて、勝手に電気を消した。
     零の自室には、月明かりがほんのりと差し込んで、目が慣れると寝間着姿の零が見えた。そして、聞こえるのは二人の息遣いだけだ。
     
    「言いふらされたくなかったら、またうちにおいで。楽しい場所と時間なら、お金はないけど用意できる」
    「今日はおめえの罠にまんまとかかっちまったようだけどよ」
    「特に、あの浴室は、父ちゃんと母ちゃんが私を作ったメモリアルな場所なのだ」
    「・・・おめえ、この状況でそれを言うか」
    「おや、本気にするとは思わなかったなぁ」

     おやすみー、といつもの間延びした声で言うと零はすぐに眠りについた。だが俺は、相撲の興奮といい、酔いが今頃回ったのか、がっぷり四つになった時の零の感触といい、風呂場のことといい、なかなか寝付けそうにない。さっきの太宰治は、主人公にしっかりせえよと言いたくなる内容でさらに寝付けそうになかった。

    「何が、3ページで眠くなる、だ。おめえは、本にしおりまで入れてしっかり読んでるじゃねぇか」

     夕飯を作らされ、風呂の用意をさせられ、お互い伝えるつもりのない心情を伝え、気づかされて。こんな夜はもうこりごりだ。
     まんじりとしたまま、布団の中で俺は、半刻を過ごした。のん気そうな零の寝息が聞こえる。誰の夢を見ているのだろうか。人の好意の受け方を教えてくれなかった母親の夢だろうか。俺に説教垂れたくせに、自分ではからっきしな素直な気持ちを、唯ちゃんに夢の中ではきちんと伝えているのだろうか。それとも、世を拗ねた俺たちに、世の調味料になれと、奇面組リーダーとして、発破をかけているのだろうか。

    「こんなに、子供こどもした男なのにな」

     姿勢と佇まいが綺麗なくせに、零は寝相が悪い。布団を蹴飛ばし、だらしなく伸びた肢体。根は几帳面な俺は、ほって置けなくなり、布団を掛け直した。ご丁寧にも、伸びた四肢を布団の中にしまい、母親のように額を軽く撫でて。

    「・・・たく、世話の焼ける・・・」

     俺が布団に寝なおそうとした瞬間、零の腕が強い力で俺の腕を引っ張って、自分の元に引寄せた。
     力自慢の俺が面食らい、気づけば、俺の頭は、零の心音に近いところにいた。
     驚いて、言葉が出ない俺に、零はこういった。


    「どうせならさ、ちゃんと触ってくれたらいいのに」



                                                                
    こまつ Link Message Mute
    2018/12/09 22:11:29

    君の罠

    #奇面組 #豪零 #小説 #BL

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