物語の始まりこの世界には最初、【シナリオ】とその書き手という要素しか存在しなかった
やがて書き手は自らの性質を“幸福(ヒュプネ)”と、“苦悩(ルマーナ)”と、そして“拒絶(ルフス)”の三つに分け、書き手が人間であったことから、その三つの要素はそれぞれの性質を持ちつつも人として三人きり生活を始めた
【シナリオ】の司格は書き手が一番に望みその【シナリオ】に託したがった幸福(ヒュプネ)が担っていた
他の二人もその事実に関して不満や反発の心は抱かなかった
書き手の一部である二人も、幸福な結末を望んでいたからである
しかしヒュプネは愛情の強さ故に物語の終わりを恐れた
何故なら、物語の終わりは自分たちの存在の終わりをも意味していたからだ
その拒絶の心にルフスが手を貸すこととなった
「ならば終わりの来ない物語を作れば良い」と
二人は終わりが来ぬようにと必要とあらば世界観を歪めながら物語を進めていった
そしてついに、終わりの無い世界として揺るがぬ状態を作り出すことに成功した
ルフスはこれによってヒュプネから終わりの無い愛情を受け、幸福を得られると確信した
しかしその様子を見ていたルマーナはヒュプネを諭す
「それではお前の愛する【キャスト】達がお前の望まぬ不幸を背負うことになる」と
初めはルマーナを疎ましく思っていたヒュプネだったが、自らの目でその事実を視認し己の過ちに気付く
無為な物語では誰も幸福にはできないのだと
拒絶だけでは真の幸福は得られないのだと
苦悩の先にこそ幸福があるということを
ヒュプネはルマーナを愛するようになった
そしてルフスを拒絶するようになった
ルフスはその事実に悲嘆し、ついにヒュプネを殺めてしまう
殺められるということは、最早その場には居られないということ
その場での認識の方法では触れることができないということ
ヒュプネは最早その空間には居られず、ルフスは幸福を失った
ルフスは奪い取った【シナリオ】の司格を拒み、更には自分の存在すら拒み
「叶うならばもう二度と、彼女を愛する立ち位置には立ちたくない」と願った
ルマーナはヒュプネと愛し合っていた
その事実から二人は不可視な部分で繋がり続けた
そして二人はそれぞれの居る空間を表と裏とし、揺るがぬ関係を築き出した
それでも、最早二人は交わることはできず永久に触れ合うことはできない
三人は絶望に暮れた
しかし、動きださなければ現状を変えることはできない
ヒュプネはそう思い立ち、自ら物語を始めることを決心する
自分の身勝手によって不幸にしてきたモノ全てを幸福に導こうと
例えそれが終わりに繋がることだとしても…
その覚悟を聞いたルマーナは、「筋書きを辿る者として同じ世界の者を愛せ」と告げた
ヒュプネは酷く悲しんだが動き始めた物語を止める術は無く、やがて筋書きを歩み始めた
全ての物語が終わった先で、ルマーナと再会できる可能性を信じて